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恋する乙女はジャムの香り。
しおりを挟むリリーの誕生パーティーからはや数日。
リリーはいつも通りの平和な毎日を取り戻していたが、それは世間に疎いリリーだけであった。
第3王子ラインハルトがリリーのパーティーに現れたという事実は瞬く間に噂好きの貴族社会に広まり、今まで浮いた話のなかったラインハルトであったが、とうとうリリーが婚約者に内定したらしいと世間は大騒ぎであった。
そんな噂の中心でありながら、何も知らないリリーは今日も呑気にラズベリーのジャムを煮ている。
あら、お砂糖入れ過ぎちゃった?
「ねえ、レオ。このジャム、ちょっと甘くし過ぎたかしら?」
「甘い方が日持ちしますからねぇ。ヨーグルトにかけるなら甘いのが合いますよ。」
コックのレオに相談しながら、ジャムを煮詰めていく。
日持ちは大事よね。
またハルト様に渡せる機会があればいいのだけれど。
最近のリリーはジャム作りに余念がない。
それもこれも、パーティーでラインハルトに渡したお土産の中に、リリー特製のジャムの瓶も入れたら、とっても美味しかったとラインハルトから手紙が届いたからである。
それからリリーは、毎日せっせと様々な種類のジャムを作っているのだ。
それはどう見ても健気な乙女であった。
貴族令嬢としては珍しい行動パターンではあるが。
周りのコック達はそんなリリーを微笑ましそうに見ていた。
そんな長閑な厨房とうってかわり、スペンサー家に更なる重大な出来事が襲いかかろうとしていた。
「大変だーーーー!!!」
父のウィリアムが叫びながら帰ってきた。
厨房にいて気付かないリリー以外、母、兄、使用人達がウィリアムに駆け寄った。
「あなた、何があったのですか?そんな慌てて。」
「今日は城での仕事でしたよね?随分早かったですね。」
アンとアーサーが問いかけると、息を切らせながらウィリアムが答えた。
「さきほど国王に呼ばれた。昇爵が決まった!!」
「え?」
「しょうしゃく?」
意味がよくわからず首を傾げる母子に、苛立ったようにウィリアムが説明を足す。
「だから、伯爵から侯爵になるんだよ!!私がスペンサー侯爵に!!」
・・・・・
・・・
「「ええええええぇぇぇ!!!!!」」
二人の絶叫が玄関に響く。
「以前からの私の外交の成果の結果だと国王はおっしゃっていたが・・・」
「どうみても、リリーを婚約者にする為に爵位を釣り合わせようとしていますね。」
「あら、そんな身も蓋もないことを言っては駄目よ。少しはお仕事の成果も入ってますよ。」
ウィリアムだって、この昇爵が自分の力だとは思ってはいない。
思ってはいないが、こうもあからさまにリリー絡みだと家族に言われると少し傷付く。
しかもリリーを勝手に婚約者にしようなどと、全く面白くない。
「どうせ私の頑張りなんて・・・」
ぶつぶつと呟き、拗ねたウィリアムの手をアンが引き、とりあえず居間へ向かう。
お茶の準備をしていると、リリーが居間にやって来た。
ジャム作りが終わったらしく、相変わらず甘ったるい匂いを漂わせている。
「お父様!今日は早いのですね。お疲れさまでした。」
ウィリアムはリリーの笑顔に荒んだ心を癒されつつ、侯爵になることを伝えた。
「すごいですお父様!お父様がお仕事を頑張った結果ですね!!お父様が評価されて私も嬉しいです!!」
裏の事情など考えもしないリリーは、父の偉業に喜び、父を称えた。
勢いよくリリーに抱きつかれ、抱き締め返しながらもウィリアムの心は複雑だ。
『こんな素直な可愛い娘を手放すくらいなら、侯爵の位なんていらん!!』
と言いたいが、今もウィリアムの腕の中で、ラインハルトの為にジャムの香りをさせているリリーのことを考えるとそんなことはとても言えない。
「儀式には家族で参加するようにとのことだ。リリーも準備を頼んだよ。」
思いがけず王宮に行けることになり喜ぶリリーの頭を、ウィリアムは優しく撫でた。
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