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なぜか王子様の服を着せられています。
しおりを挟む父、ウィリアムの昇爵の日。
侯爵令嬢になるのだからと、侍女のアイラが気合いを入れてリリーを飾り立てていたが、リボンや飾りボタンが多用してあるドレスはリリーには窮屈で気が滅入ってしまう。
今日は父が主役である為、紺色のドレスが選ばれたが、素材とデザインがとても凝っていて、高価なドレスだと一目でわかる。
ハルト様は他の公務があるのよね。
少しでも姿を拝見出来たらって思ったけれど、難しそうね。
あー、それにしてもこのドレスってば動きづらいわ。
リリーの思考はどんどんマイナスの方へと向かっていたが、
あ、でもこのボタンは金色なのね。
ハルト様から贈られたドレスみたい。
リリーが金色のボタンに気付き、顔を綻ばせたところにすかさずアイラが尋ねる。
「お嬢様、髪にお付けするリボンは何色になさいますか?」
何でもいいと言われる前に、さりげなくラベンダー色のリボンを差し出す。
出来た侍女である。
「まぁ、ラベンダー色のリボンがあるのね!!アイラ、この色でお願い。」
すっかりご機嫌なリリーに、「かしこまりました。」と言いながら、アイラは笑みを浮かべた。
こういう扱いやすい素直なところが、リリーの美点なのだ。
王宮での式典は、こじんまりとした規模で、粛々と進んでいく。
リリーは父の後方に、母、兄と共に並んで立っていたが、中盤あたりからは飽きてしまい、豪華な部屋や、初めて目にした大臣達を観察したりしていた。
すると、途中で国王と目が合ってしまい、慌ててしまうリリーだったが、なんと国王が戯けた表情を見せたので、つい笑ってしまった。
いけない、思わず笑ってしまったわ。
国王様って思ったより親しみやすい方なのね。
あ、王太子のオリバー様とやっぱり似ていらっしゃるわ。
ハルト様のお顔は王妃様に似ていらっしゃるものね。
とうとう王家の人間全員と面識を持ったリリーだったが、それが特別なことだとまだ気付いていなかった。
リリーが考え事をしている内に無事に受爵は終わったようで、部屋を出ていく人も現れた。
父が側に来たので、『お疲れ様でした』と労った時だった。
「リリーお姉ちゃん!!」
可愛い声が会場に響き、リリーが目をやると王太子の息子のハリーが入口から覗いていた。
「ハリー君!!」
リリーが駆け寄ると、ハリーの傍らには王妃が立っていて、眉をハの字にしている。
「ごめんなさいね。ハリーがどうしてもリリーちゃんに会いたいってきかなくて。連れて来ちゃったわ。」
と申し訳なさげに言った。
「だって、またジャム作ってねって言いたかったんだもん。」
ジャム?
もしかしてハルト様にお渡ししたのを召し上がったのかしら?
「ジャムでしたら、今日もラズベリーの物をお持ちしていますが。」
リリーは、ラインハルトに会えなくても渡してもらおうと、ジャムを持参していたのである。
「やったー!!ラズベリーも好き!あ、お姉ちゃん、野イチゴって食べたことある?僕、食べてみたいんだ。」
「野イチゴ?領地ではよく・・・あ、ここのお庭にも群生してますよね?この前、木の上から見えたような・・・」
言ってからリリーはハッと気付いた。
また自分から木登りの話を!
クスクス笑う王妃に苦笑を返しつつ、野イチゴが見えた方角について説明する。
「なるほどね。ではリリーちゃんは私に着いてきてちょうだい。」
返事も聞かずに、王妃に引きずられるように連れて行かれた15分後。
何故かリリーは少年の格好をさせられていた。
えーと?
この格好は一体なんなのかしら?
まるでハリー君を大きくしたような。
意味がわからないリリーに、王妃が追い打ちをかけた。
「ラインハルトの昔の服だけど、よく似合ってるわよー。」
ハルト様の服?
なんで侯爵令嬢になった日に、私は王子様の服を着せられているのでしょうか。
ハリーだけが『おそろいー!』と嬉しそうに跳ねていた。
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