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見られたくない時ほど見られてしまうものなのです。
しおりを挟む侯爵令嬢になりたてのリリーは、白いブラウスにサスペンダー付きのズボン、ベストという出で立ちで、混乱のまっただ中にいた。
姿見を覗くと、育ちの良い少年といった風情のリリーが映り、悔しいことに結構似合ってしまっている。
私って、つくづく凹凸のない体型してるわよね・・・
16にもなって、こんなに違和感なく着こなせるなんて。
日焼けもしてるから、健康的な少年にしか見えないわ。
髪に編み込んだラベンダー色のリボンだけが、かろうじて女の子っぽさを残してるけど。
実際は可愛らしい顔付きと、丸みを帯びた身体から、ボーイッシュな女の子といった雰囲気である。
ただ、普通の令嬢は16歳でこんな格好をする機会はないに等しいのだが。
「ははっ、リリーお兄ちゃんだね!」
はしゃいだハリーの声を聞いて、リリーも段々楽しくなってきた。
領地ではズボンを履くことも多かったから、随分久しぶりだけど、やっぱりズボンは楽でいいわ。
さっきまでのドレスよりずっとしっくりくるもの。
それに、ハルト様が身に付けていた服なんて、恥ずかしいけどちょっと嬉しい・・・
近くにハルト様が居るみたい。
肩を回してみると、いい感じだ。
準備が終わったと思ったのか、ハリーが「行くよー!」と走り出す。
「私はゆっくり向かうから、ハリーに付いててあげて?」
王妃に頼まれ、リリーも駆け出す。
向かうは木登りをしたあの庭園である。
少年の格好で王宮を走っているリリーに、すれ違う者は驚いた顔をしているが、前を走るハリーを見て納得してくれる。
しかし、今まさに王宮から帰ろうとしていたウィリアムだけは、たまたま走り抜けていく少年姿の愛娘を見て、卒倒しそうになっていた。
『王妃様に、リリーは後で王家の馬車で送ると言われたが、なんであんな格好を?もしや、第3王子の婚約者ではなくて、側近にしたかったのか!?」
盛大な勘違いで忙しい父を、兄がかついで帰っていったのだった。
ハリーに追い付いたのは、リリーが登った木のふもとだった。
「ハリー君は足が速いですね。」
息を切らせながらリリーが言うと、ハリーがエヘンと胸を反らす。
野イチゴの方角を見ると、美しく調えられた生け垣が続いていた。
「うーん、野イチゴはこの向こう側ですね。簡単には入れなさそうです。」
ウロウロと生け垣を見て回っていると、何かがサッと横切るのが見えた。
「あ、マイク!!」
ハリーと一緒に確認すると、生け垣の下の方に隙間が出来ている。
どうやらここから猫のマイクは通り抜けていったようだ。
マイクがいなければ見落としていたかもしれない。
子猫なら余裕で通れるけれど、私も頑張ればいけるかしら?
しかし小柄とはいえ、リリーももう子供の大きさではない。
生け垣を壊してしまいそうだ。
「僕が行くよ。」
今にもチャレンジしそうなハリーを、護衛と一緒に引き止める。
この先に何があるかまだわからないのに、危険過ぎる。
「生け垣、壊してもいいわよ。庭師を呼んできてちょうだい。」
追ってきた王妃の鶴の一声が聞こえ、庭師によってあっという間に穴が広げられていく。
「私、先に様子を見てきますね!」
穴が広がるにつれ、好奇心が抑えきれなくなってきたリリーが、通れそうな大きさのところで宣言する。
『いやいや、自分らが!』と止める護衛達をなだめ、器用に穴を這いつくばってくぐり抜けると、生け垣の向こうに姿を消した。
皆が心配そうに様子を伺っていると、
「すごいです!!こんなたくさんの野イチゴ、初めて見ました!!」
興奮で顔を輝かせたリリーが、手のひらに野イチゴを乗せ、穴から顔を出した。
再びリリーが這いつくばってくぐっていると、
「リリー!?何してるの?その格好、どうしたの?」
ラインハルトが目を丸くしながら駆け寄り、手を差し出した。
ひぇぇー、なんでハルト様が?
今日は公務だと思って、油断していました!
よりによってこんな体勢の時に!!
一気に情けない表情になったリリーは、うつぶせ状態で下から見上げることしか出来なかった。
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