【完結】田舎育ち令嬢、都会で愛される

櫻野くるみ

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田舎育ち令嬢、田舎でも都会でも愛される。

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「うわぁ、すごい人ですね!」

リリーは傍らに立つラインハルトに思わず話しかけた。
ここまでの道も渋滞がひどかったが、今日のオープンセレモニーを一目見ようと、各地から人が集まって来ており、バーキン領は祭りのような騒ぎであった。
もはや王都が引っ越しをしてきたような喧騒で、リリーが携わった街を見に、スペンサー領からも多くの人がやって来ていた。

バーキン領は生まれ変わった。
元々あった花畑に手を入れ、一年中楽しめる公園をいくつか作った。
公園や街には屋台の店が並び、ご当地メニューが開発された。
何故かイザベラが率先してスペアリブ屋を出店したりして、若い男性が喜びそうなお店も増えつつある。

一番大きな公園、通称『恋人の庭』には『恋人の鐘』が設置され、これから恋人達のデートスポットになる予定だ。

今日は『恋人の庭』にて、オープンセレモニーと、『恋人の鐘』の除幕式が行われる。
来賓はもちろん第3王子ラインハルトと、その婚約者リリーである。
二人は最初に鐘を鳴らすカップルになるのだ。

「リリーお嬢様!!」

スペンサー領の屋敷で執事をしているスチュアートだった。

「スチュアート!来てくれたの?」

スチュアートはラインハルトに恭しく頭を下げると、リリーに笑いかけた。

「もちろんでございます。お嬢様の晴れ舞台を見逃すわけには参りません。」

「スチュアートったら。」

リリーはクスクスと笑っていたが、ふいにスチュアートが真面目な顔で言った。

「お嬢様、お嬢様が変わらずにいて下さって、私共は嬉しく思っております。ラインハルト王子、どうかこのままのお嬢様をよろしくお願い致します。」

丁寧にラインハルトに頭を下げるスチュアートに、リリーはスペンサー領を離れた日のことを思い出していた。

『リリーお嬢様、お嬢様はそのままでよろしいのです。どうか変わらずに。辛いことがありましたら、こちらにお帰りください。私共はいつでもお嬢様のお帰りをお待ち申しております。』

そうよ、スチュアートの言葉で、私はこのままの私でいいんだって。
私は私らしく王都で過ごそうって。
そう思えたんだったわ。

「ありがとう、スチュアート。私、今とっても幸せよ。」

リリーの溢れる涙を拭った後、ラインハルトがスチュアートを真っ直ぐ見据えた。

「もちろんだ。リリーがリリーらしくいられるよう、ずっと守るよ。だって今のリリーを愛しているからね。」

自信を持って答えたラインハルトに、スチュアートも涙を浮かべながら礼を言うと、ゆっくりと去っていった。

「ありがとうございます、ハルト様。」

「当然のことだよ。さぁ、セレモニーが始まるから涙を止めて。」

チュッとリリーの目頭に、ラインハルトの唇が落ちた。


「まったく、始まる前からイチャイチャイチャイチャ・・・」

ジェシーが呆れている。
もちろんジェシーもアーサーと一緒に、セレモニーの場にやって来ていた。
セイラの計らいで、リリー達の次に鐘を鳴らすことになっている。

「まぁまぁ、そろそろ諦めたら?ジェシー、なんだかんだ言って、王子と気が合うでしょ?」

アーサーに突っ込まれ、ジェシーは必死で否定する。

「アーサーお兄様、そんなはずないでしょう!あんな腹黒と気が合うなんて!!」

「えーそうかな?時々妬けるんだよね。お兄様呼びも改善されないし。」

え、ヤキモチ?
お兄様って呼ばないということは・・・
アーサー様?

・・・
ムリムリムリ!!

顔を手で隠して恥ずかしがるジェシーに、アーサーがねだる。

「鐘を鳴らした後は、僕達も恋人だよね?『お兄様』も、もう終わり。いいよね?」

顔を隠していた手を少し下げ、潤んだ瞳でジェシーが頷いた。
アーサーは包み込むようにジェシーを抱き締めた。


セレモニーは華やかに始まった。
来賓として紹介され、笑顔で手を振ると大きな歓声に包まれた。
リリーの人気はいまや鰻登りである。

『恋人の鐘』の除幕式が始まり、リリーはラインハルトと並んで大きな鐘の下に立った。
二人で紐を握り、司会者の合図と共に鐘を鳴らす。

カーン カーン カーン・・・

青空のもと、美しい鐘の音があたりに響き渡る。
どこまでも届きそうな鐘の音だった。

「リリー」

紐を握っているリリーの手を包み込むと、紐から手を外しながら、ラインハルトがそっとリリーを呼んだ。
リリーがラインハルトの方を向くと、ラインハルトは幸せそうに微笑んでいた。

「リリー、君を愛している。この世の誰よりも。生涯僕の隣にいてください。」

いつの間にか指輪をはめられ、気付けばラインハルトの顔がリリーの目の前にある。

え?え?

チュッ

リリーの理解が追い付かないうちに、リリーの唇はラインハルトに奪われていた。

キャアーーーッ
ウァアアアーーー

轟く喜びの声の中、遅れて状況を理解したリリーが、涙目でラインハルトに訴えていた。

「もうもう、ハルト様!人前ですよ?結婚もしてないのに!!」

「じゃあ、結婚しちゃう?今日泊まっていく?」

「何言ってるんですか!よくわかりませんけど、まだダメです!!」

いまだ口付けの先は謎のままだったが、危険を察知したリリーはお預けをくらわせた。
そんなリリーに吹き出すと、ラインハルトはぎゅっとリリーを胸に抱いたのだった。

鐘を鳴らしてプロポーズをし、口付けるという流れは、実は『王子様との秘密の恋愛』の小説に出てくるシーンで、ラインハルトはリリーの為にわざと真似て見せたのだ。
本物の王子様による小説の再現に、小説のファンが歓喜し、この場所はあっという間に聖地と呼ばれるようになった。


三年後・・・

「リリー、ただいま。」

ラインハルトは公爵の位を賜り、以前ナムール伯爵らから返上させた領地を与えられ、日々経営に精を出していた。

「おかえりなさい、ハルト様。」

ラインハルトと結婚したリリーは、公爵婦人としてラインハルトを支えている。
気候がスペンサー領と似ている為、こちらでも酪農を広めようと奮闘している最中だ。

「調子はどう?まさかまた無理してないよね?」

リリーはお腹に初めての子を身籠もっているのだが、いまいち自覚が足りない。
その為、ラインハルトは益々過保護になっていた。

「大丈夫ですよ。お父様は心配性ですねー?」

お腹に向かってリリーが話しかけると、ラインハルトも負けじと話しかけだした。

「母がお転婆だと困るよねー?」

そんな夫婦を、スチュアートやアイラが温かく見守っていた。
リリーが心配で、二人ともここまで付いてきたのだ。

リリーは出産後は、領地と王都、半年ずつ暮らすことになっている。
両方それぞれにリリーの帰りを待つ人が多いからだ。


「ハルト様、幸せですね。」

リリーがお腹を撫でながら言った。

「ああ、幸せだ。愛してるよ、リリー。」

ラインハルトもリリーの手に自分の手を重ねた。


こうして田舎育ちのリリーは、田舎でも都会でも愛され、何より王子様に溺愛されたのだった。




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感想 8

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みんなの感想(8件)

せち
2023.08.06 せち

天然で可愛い😍
癒されました😭✨

解除
いっちゃん
2023.07.20 いっちゃん

めちゃくちゃ可愛い❤️お話でした。
素敵です☺️

解除
にゃあん
2023.01.10 にゃあん

一気読みでした。面白かったです。

腹黒ですよね😄王子様。

そして2人とも意味は違えど、天然で最強!その2人から産まれてくる子供は…❣️
想像するのも怖いかも!


読ませていただきありがとうございます😊

2023.01.12 櫻野くるみ

一気読み、ありがとうございました。
なんだか書いているうちに、どんどん腹黒&強メンタルになっていきました…。

子供、色々最強だと思います!
こちらこそ嬉しいご感想をありがとうございます。
最近は感想欄を設けていなかったので、久しぶりの生の声にドキドキしてしまいました。
またお目に留まるものが描けるように精進します!
ありがとうございました。

解除

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