20 / 34
アンリが消えた村
しおりを挟むアンリが召喚され、国王ディランを始めとする人々に大切にされることで自信を取り戻し、生まれて初めての幸せを感じている頃。
アンリが元の世界で住んでいた村では、騒動が起きつつあった。
時は、アンリが召喚された直後に遡る。
「アンリが納屋に閉じ込められているんです!家族から虐待を受けているんじゃないかと薄々思っていましたが、こんなの酷すぎます!神父様、一緒に来てくれませんか?」
アンリの幼馴染みのマイクは、一度納屋を離れると、村の神父に助けを求めて教会に駆け付けた。
一番信頼できると思ったからである。
案の定、マイクが突然訪れたにも関わらず、神父はすぐに外出する準備を始めてくれた。
「アンリは素直でとても良い子ですが、いつも悲しげで、控えめな態度なのを心配していたんです。一度、ご家族と話した方がいいみたいですね。」
「お願いします、神父様!アンリは自分の魔法が弱いことを気に病んでいました。だから全部自分が悪いのだと、学校でもいつも辛そうにしていて。先生も見ぬふりだし、僕もどうしたらいいかわからなくて・・・」
「アンリは家庭だけでなく、学校でも辛い目にあっていた可能性があるということですね。よく話してくれました。あとはアンリ本人から話を聞きましょう。支度が出来ました。さぁ、行きましょう!」
マイクが神父と足早に通りを進んで行くと、アンリが親しくしている商店のおかみさんが顔を出した。
「マイク!こんな時間にどうしたんだい?神父様まで。」
「あ、おかみさん!アンリが大変なんだ。納屋に閉じ込められてるみたいで。」
「なんだって!?私は前からあそこの親はおかしいと思ってたんだよ!私も行くよ!!」
アンリを心配したおかみさんが加わろうとしたところに、おかみさんの夫が現れた。
「待て。あそこの夫婦はいい人達じゃないか。娘にそんなことをするはずがない。マイクの勘違いじゃないのか?」
アンリの両親は外面がいい為、ほとんどの村人が同じように思っていた。
「まあまあ、勘違いならそれで構わないですよ。念の為です。」
神父が取り成していると、話し声を聞いた近所の住人が何事かと徐々に増えていき、通りは日中のような人出になった。
普段平和極まりない村なので、滅多にない出来事に、心配する者、面白がる者が集まり出したのである。
俄に大所帯となった彼らは、アンリの家を目指し、数分後に門の前へ辿り着いた。
代表としてマイクと神父が納屋の様子を見に行くことになり、他の者はしばらくこの場で待機することになった。
アンリを普段学校でいじめている子供達が愉快そうに笑い、標的になるのが怖くて助けてあげられなかった子供達は、心配そうに成り行きを見つめていた。
「アンリ?助けに来たよ!返事をして!!」
マイクが納屋の入り口から声をかけるが、既にグランダースに召喚されてしまったアンリから、返事が返ってくることはない。
「おかしいですね。さきほどは返事があったのですよね?もうお仕置きが終わって、部屋に戻されたのでしょうか。」
二人が話していると、玄関が開き、アンリの両親が顔を出した。
「おや、神父様ではないですか。こんな時刻にどうされました?我が家に何か?」
いつもと同じ丁寧な口調とにこやかな笑顔を向け、アンリの父が問いかける。
アンリの母も、その後ろで微笑んでいた。
「突然すみませんね。いや、アンリに聞きたいことがありまして。アンリはいますか?」
神父が普段の調子で話しかけるが、マイクは二人を睨みつけていた。
「アンリなら、もう寝ていますよ。日を改めていただけますか?」
まるで何も後ろ暗いことはないとでもいうように、父親は答え、母親は頷く。
「そんなはずはない!僕はアンリが納屋で泣いている声を聞いたんだ!」
マイクが食ってかかる。
「納屋?そんな場所に居るはずがない。アンリは部屋で寝ているんだから。」
ハハハと両親が笑い、奥でアンリの兄がニヤニヤしているのが見えた。
「そうですか。では確認だけさせていただきますね。失礼します。」
いつもの神父らしくない、強引な態度で家に入ろうとすると、アンリの家族は慌て出し、神父を締め出そうとする。
「いくら神父様でも、若い娘の部屋にこんな時間に!非常識じゃないですか!」
揉めている間に、門の前で待っていたおかみさんが現れ、彼らの間をすり抜けて入っていく。
「私は女だからね、入らせてもらうよ!」
そのままアンリの部屋を探すが、すぐに見つかった。
というより、アンリの兄が不審な動作をした為、2階の隅の、薄汚れた扉の部屋だと気付いたのである。
「アンリちゃん?私だよ。悪いね、開けるよ?」
おかみさんが扉を開くと中は暗く、灯りをつけたが、もちろんアンリはそこに居なかった。
「納屋っていうのは、本当らしいね。しかも、この部屋・・・」
おかみさんが絶句するのも当然だった。
アンリの部屋は、若い女の子らしいものは何一つ無く、使い古され、色褪せた最低限の家具しかなかったのである。
11
あなたにおすすめの小説
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
冷遇された聖女の結末
菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。
本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。
カクヨムにも同じ作品を投稿しています。
【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました
成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。
天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。
学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。
聖女じゃなかったので、カフェで働きます
風音悠鈴
恋愛
光魔法が使えず「聖女失格」と追放された大学生・藍里。
聖女じゃないと城を追い出されたけど、実は闇属性+女神の加護持ちのチートだった⁉︎
望みはカフェでのスローライフだけ。
乙女ゲーム世界の歪みから大切な日常を守ります!
全30話予定
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる