【完結】貧乏子爵令嬢は、王子のフェロモンに靡かない。

櫻野くるみ

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料理に没頭する子爵令嬢

ナタリアと兄のクリスは王城へとやって来た。
城は予想以上に大きく、その豪華な造りに思わず圧倒されてしまう。
会場には大勢の着飾った貴族達が集まっているが、彼らの放つオーラと、鮮やかな色合いや香りは圧巻で、普段質素倹約がモットーの修道院に入り浸りのナタリアは、思わずクラクラしてしまった。
まあ、ナタリアのレンダー家の方が、修道院より更に慎ましい生活を送っているのだが。

「お兄様、私って浮いてます?」

到着時から周囲の視線を感じていたナタリアは、隣の兄に尋ねてみるが、何故かクリスはそわそわと落ち着かない。

「え?ああ、知らない顔だから興味があるんじゃないかな。ナタリアは『幻の令嬢』だから」

そうだったわ・・・
私、もっと病弱っぽく振る舞うべき?

ナタリアが悩んでいると、先程から様子のおかしかったクリスが切羽詰まったように告げてきた。

「ごめん、ナタリア!僕、お腹が痛くなった。ちょっとはずすけど、大人しくしてるんだよ?」

病弱説のあるナタリアよりも青い顔をしながら、クリスはナタリアを置いて足早に会場から姿を消してしまった。
彼は緊張すると、すぐお腹にきてしまうのだ。

お兄様、お父様から代理を急に頼まれて、ストレスが溜まってるのね。
可哀想に。

兄の背中を静かに見送った後、一人になってしまったナタリアは改めて会場を見渡した。

うん、とりあえず視線は感じるけれど、今のところ絡んでくる怖い令嬢はいないみたい。
ドレスもシンプルだけど、そこまで見劣りはしていないようだし。
あとできちんとシスター達にはお礼をしないとね。

少し余裕が出てきたナタリアだったが、話し相手も居ない為、手持ち無沙汰だった。
ふと会場の一画に、整然と料理が並んでいるのが目に入った。

うわ~っ、あんな美味しそうな料理、見たことないわ!
数えられないほどの種類だし、食材もなんて豪華なの!!

ナタリアは、気付けば長テーブルのすぐ近くに立っていた。
料理の誘惑に勝てなかったのである。

「よろしければお取りしますよ?」

チラチラと目線をやっていると、給仕の女性が声をかけてくれた。

あ、そう?
せっかく取ってくれるっていうんだから、断っちゃ悪いわよね?

ナタリアは都合のいいように解釈し、笑顔でお願いした。

「じゃあこのお肉と、その横のサーモンと、そちらのサラダも。あ、あとそこの赤いソースのも」

「え?あ、はいっ。こちらと、あとこちらと・・・お皿一枚に色々乗せてしまいましたが、よろしかったですか?」

不安そうに尋ねられたが、もちろんナタリアは気にしない。

「全然大丈夫です!あ、ありがとうございます」

女性から差し出された山盛りのお皿を嬉しそうに受けとると、すでに手にしていたフォークを持ち直す。
準備万端だ。

なんていい香りなの。
こんな大きなお肉の塊、久々だわ~!!

ちなみに、普通の貴族は夜会でこんな量を食べたりはしない。
あくまで会話を楽しみつつ、少々つまむ程度である。
しかも、夜会が始まったばかりのこのタイミングで食べる者などおらず、ナタリアの周囲は閑散としていた。
特に白いドレスを纏った社交界経験の浅い令嬢達は、とても何か食べるような心の余裕は無く、国王への挨拶のことで頭が一杯のはずだった。
ナタリア以外は。

「こちらの鴨もオススメですよ」

「それもお願いします!」

ガッツリと、もはや食事を楽しんでいたナタリアだったが、ふと我に返る。

あれ?
なんだか人が減ってる気が・・・
あ!いつの間にか王族の方がいらしてるじゃない。
まずいわ、料理に意識をとられて、全然気付かなかったわ。
でも何かバタバタしてるような。
何かあったのかしら?

ナタリアがひたすらモグモグしている間に、国王らと共に王太子のフェルゼンが入場し、そのフェロモンで多くの人が失神、連れ出されている最中だった。
そんな衝撃的な場面に気付きもしないナタリアと、いまだ戻ってこないクリスは、ポンコツ兄妹である。

ナタリアが何が起こったか理解出来ず、やたら出入りが激しい人の流れを見ていると、国王の側に立っている男性と目が合ってしまった。

わあっ、遠目で見ても綺麗な男性ね。
・・・って!!
あれって王太子殿下!?
いけないっ、顔を見ちゃったわ。
お父様、ごめんなさい!!

目が合った途端、王太子が焦ったような顔をしたのがわかり、ナタリアは静かに目礼をすると、視線をはずした。

大丈夫よね?
うっかり見てしまったけれど、今のは事故みたいなもので、誘惑なんてしていないし。

父との約束を破ってしまったことは申し訳ないと思ったが、ナタリアは気を取り直してデザートを食べることにした。
食い意地が張っているのだ。

こんなに距離があるし、さっき目が合ったと思ったのも気のせいかも。
あ、このケーキ美味しい・・・

自分と目が合ったにも関わらず、へっちゃらな様子のナタリアに、王太子が勝手に運命を感じていることにも気付かず、ナタリアは呑気にケーキを頬張っていた。




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