【完結】貧乏子爵令嬢は、王子のフェロモンに靡かない。

櫻野くるみ

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王太子の胸の高鳴り

夜会の開始時間を僅かに過ぎた頃。
王太子フェルゼンの端正な顔は青白く、傍から見てもわかるほどに気落ちしていた。
身支度も完璧で、どこから見ても完全無敵なキラキラ王太子そのものだったが、今から夜会の会場へと向かう彼には、さきほどショックな出来事が起こったばかりなのである。

時は一時間ほど前に遡る。

フェルゼンには同い年、19歳の従姉がいる。
現国王の姉が侯爵家に降嫁し、生まれた侯爵令嬢で、名前はアメリという。
アメリはフェルゼンとは幼い頃より共に育った為、徐々に彼のフェロモンにも免疫がつき、フェルゼンとのダンスに耐えられるまでに至った数少ない貴重な女性であった。

稀有な存在なので、周囲はもちろん将来の王太子妃にと望んだが、本人達には面白いほどその意志が無かった。
「友達ならいいけれど、結婚なんてとても考えられない」というやつである。
程無くしてアメリは隣国の王子と婚約を結び、二人の仲はすこぶる好調だった。
本当は今すぐにでも結婚したいとお互い思っているが、アメリの王子妃教育と、何よりフェルゼンのダンス相手が必要ということで、もう暫くシュナール王国に留まる予定になっていた。
夜会では、王族であるフェルゼンが最初に踊り出すという慣習がある為、アメリの存在は必要不可欠なのである。

「ちょっと、フェルゼン!私はいつまでもあなたのお相手をしてあげられないんですからね?早く素敵な方を見つけてちょうだい!!」

アメリは毎回、ダンスのパートナーをつとめる度にフェルゼンに文句を言っていた。
早くお嫁にいきたいのだから当然だ。

そんなこと言われてもな。
私だって好きでこんな体質なわけでもないし・・・

フェルゼンが困った顔をすると、いつも言い過ぎたと反省するアメリは、彼を優しく慰めた。

「辛いのはフェルゼンなのに悪かったわ。大丈夫、いつかあなたの全てを受け止めてくれる人が現れるはずよ」

肩に手を置きながらアメリに微笑まれると、フェルゼンにもまだ希望がある気がして嬉しくなるのだった。


そんなアメリは、結婚の事前準備という名目で、2ヶ月ほど前から隣国に滞在していた。
アメリ自体こんなに長期に渡って国を離れたのは初めてだったが、それはつまり、フェルゼンとも会わずにいた時間が長かったということで・・・

デビュタント当日、フェルゼンのパートナーとして出席する為に帰国したアメリだったが、フェルゼンを前にした途端、久々のフェロモンにやられて意識を手放した。

「アメリ!?大丈夫か?誰か、アメリをベッドへ!!」

2ヶ月でアメリの免疫はすっかり消え去ったらしい。
フェルゼンはもちろんショックを受けたが、国王を始めとする周囲の人間にも大きなショックを与えた。

まさかアメリ嬢でも駄目だとは。
今夜のデビュタントのダンスはどうなる?

皆の共通の思いであり、アメリの復活に淡い期待を抱いていたのだが・・・

いまだアメリは目を覚まさない。
フェルゼンは、一番気心しれていたアメリに拒絶されたように感じ、すっかり落ち込んでいた。
しかし夜会に顔を出さない訳にもいかず、俯き加減で会場へと入っていった。

数刻後、会場は予想以上に悲惨な状況に陥っていた。
アンニュイなフェルゼンのフェロモンは通常より威力が高く、想定以上にバッタバッタと参加者が気を失ってしまったのである。
本日の主役である白いドレスの令嬢達はもとより、令息、付き添いまでがドミノ倒しのように倒れ、救護室へと運ばれていく。
その非常事態を、フェルゼンは悲しい瞳で見ていた。

と、その時。
人が減り、見晴らしが良くなったせいか、遠くのビュッフェコーナーに一人の令嬢が立っているのに気付いた。

珍しいな。
こんな早い時間に、しかもあんなに熱心に食べている令嬢など初めて見た。
白いドレスということは、デビュタントの令嬢らしいが、パートナーはどうしたのだろう?
いや、それより何故この酷い状況の中、あんな笑顔で食べていられるのだ?

興味を惹かれてじっと見つめていると、その令嬢もようやく周囲の異変に気付いたのか、辺りを見渡し、キョトンとしている。

え?
本気で今まで騒動に気付かずにいたのか?
なんて鈍感な令嬢なんだ。
王族への関心や、私への恐怖心、興味が全く無いとみえる。
そんな貴族の娘がいるなんて信じられない。

益々興が乗って見ていると、初めて令嬢と目が合った。

まずい!
また新たな被害者を増やしてしまう!!

フェルゼンは焦ったが、彼女は少しの動揺を見せただけで、失神することもなく、静かに目礼をすると視線をはずした。

なに!?
視線が合ったのに、初対面で倒れない女性がいるとは。
しかも体調も崩さずに、デザートまで食べ始めたぞ!!

フェルゼンの胸は高鳴り、もうその令嬢のことしか考えられなかった。

ああ、名前を知りたい。
もっと近くで見つめてみたいし、見つめて欲しい。

フェルゼンは、生まれて初めての高揚感に包まれていた。

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