【完結】貧乏子爵令嬢は、王子のフェロモンに靡かない。

櫻野くるみ

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王太子とのダンス

「ナタリア・レンダー子爵令嬢!!」

遠くからナタリアを呼ぶ声が聴こえた気がした。

ん?
ナタリア・レンダーって私の名前よね?

いまだビュッフェコーナーから離れられず、一人でマカロンを堪能していたナタリアは、パッと頭を上げた。

「いないようだな」

「きっと救護室に運ばれたのでしょう。次の令嬢は・・・」

宰相らしき男性らが話しているのを聞き、慌てて声を発した。

「おります!ナタリア・レンダー、ここにおります!!」

フォークを握り締めたままの右手を挙げてナタリアが声を張り上げると、会場に残っている人々が一斉に彼女へ目を向けた。

「ナタリア嬢かね?」

「はいっ、ただいまそちらに参ります!!」

ナタリアが慌てて駆け寄ろうとすると、給仕の女性がナタリアからお皿とフォークを自然な動作で奪っていった。

あら、私ったらうっかり持ったままで。
それにしても、挨拶に呼ばれるの早くない?
お兄様もまだ戻っていないし。
さっきまでもっとたくさん人が居たはずなのに、みんなどこへ行ったのかしら?
白いドレスの子が全然見当たらないけれど、知らない内に別室に集められてたりしてないわよね?

まさか軒並み失神して運ばれたとは露にも思わず、料理に没頭していたナタリアには今の状況が把握出来ない。
不安を感じながら国王の方へ足早に進んでいると、入口の方から兄の声がした。

「ほえー、席をはずしてた間に大変なことになってるなぁ」

まさか自分の声が響いているとも思わない兄のクリスは、廊下で運ばれていく人を見ながら呑気な感想を述べている。

「お兄様!!」

ナタリアの呼び掛けでクリスが会場へと意識を向けると、自分が注目を浴びていることに気付き、一気に嫌な汗が吹き出した。

もうナタリアの番が来てたのか?
これはまずいぞ!!

腹痛がぶり返したが、それに構う余裕も無く、クリスはナタリアを強引にエスコートすると、国王の前へと進み出た。

「大変失礼致しました。レンダー子爵家長男クリス・レンダーと、妹ナタリア・レンダーでございます」

謝罪を口にした兄の横で、ナタリアもカーテシーを披露する。

「うむ。おめでとう」

短いながら、まさか国王からのお言葉をいただけるとは思ってもいなかったクリスは感動を隠せなかったが、なんてことはない。
ナタリアより上位の令嬢が皆運ばれてしまい、今まで誰にも言葉をかけることが出来なかっただけである。

兄が戻ってきたことで気が緩んだナタリアは、「顔を上げよ」という国王の言葉を鵜呑みにし、思いっきり顔を正面へ向けた。
そして、今度は王太子と思いっきり目が合ってしまった。

私のバカ!
今回は言い訳出来ないくらいに、バッチリ目を合わせちゃったわ。
どうしよう、謝るべき?

隣のクリスは教えの通り、目線を下げたままでいる為、ナタリアが顔を上げたことに気付いていない。
あんなに父の忠告に対していい返事をしていたナタリアが、まさかこんな簡単に約束を忘れるなんて思わなかったのである。

王太子が余りにも驚いた様子でナタリアの顔を凝視してくるので、ナタリアは一か八か微笑みかけてみることにした。
もう何が正解かわからなかったのである。

ニコッ

露骨に目を逸らすより、もう笑って誤魔化しちゃえ!
それにしても本当に綺麗な顔ね。
見ないなんて勿体無いわ。

ナタリアに微笑まれた王太子は、更に目を見開くと、おずおずと話しかけてきた。

「・・・ナタリア嬢?」

「はい!」

ナタリアが令嬢らしからぬハキハキとした口調で返事をすると、国王や王妃、宰相達がまるで化け物を見るような目でナタリアを見ている。

もしかしなくても、私やらかしたみたいね。

クリスもようやく異常な空気に気付いたらしい。

「ナタリア!何をしているんだ!!」

慌てて、王太子を見つめているナタリアの頭を力づくで下げようとするが、国王が威厳のある声で止めに入った。

「よい!そのままで!!」

「はっ!」

クリスの手はすぐに離れたが、ナタリアがどうしたらいいのか困っていると、今度はいつの間にか近付いていた王太子が手を差し伸べていた。

「ナタリア嬢、私は王太子のフェルゼン。どうかこの手をとり、あなたとダンスを踊る幸運を私に与えて下さいませんか?」

へ?
なんでただの子爵令嬢の私にそんな大役が?
私、ダンス苦手ですけど・・・

しかしフェルゼンの顔は必死で、心なしか手は震えて見える。

こんな素敵な王子様、絵本の挿絵でも見たことないわ。
平凡な私となんて申し訳がなさすぎるわね。
お断りしたいけれど・・・

クリスをチラッと見れば、青い顔で思いっきりコクコクと頷いている。
これは、絶対断るなという意味だろう。

「わたくしで良ければ喜んで」

ナタリアが仕方なく微笑みを作ってそっと手を乗せると、フェルゼンはナタリアの手が重ねられた自分の手を茫然と見ている。
するとフェルゼンの顔が突然クシャッと歪み、美しいエメラルドの瞳が潤み始めた。

「そうかそうか。この国にフェルゼンに触れられる令嬢がいたとはな。いや、いい夜だ!!」

「本当に。フェルゼン、良かったわね。ダンスを楽しんでいらっしゃい」

国王と王妃に見守られながら、ナタリアはフェルゼンにホールの中心へと誘われた。

国王様達は、何を仰っていたのかしら?
意味がよくわからなかったけれど。
あ、私、殿下と踊ったりしたら、後で令嬢に虐められちゃうんじゃないの?

さりげなく周りを確認したが、何故かそもそも令嬢の数が極端に少ない。
残っている数少ない令嬢は、みな感激したような表情でこちらをうっとりと見ている。

ナタリアは狐につままれたような心地で、踊り出しのステップを頭の中で確認していた。







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