【完結】魔法令嬢に変身したら、氷の騎士団長サマがかまってくるのですが。

櫻野くるみ

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呆気なく正体がバレました

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ミルキーレナへの変身も片手では数え切れなくなってきた頃、私は夕食後のデザートのタイミングでお父様に話しかけられていた。

「レナ、最近調子はどうだい?」
「どうと仰いますと? 体は元気そのものですけれど」
「あなた、ずっと様子がおかしかったでしょう? みんな心配していたのよ?」

お母様が会話に加わり、私は両親の言いたいことをようやく理解した。
前世の記憶を取り戻して以降の、時折垣間見える令嬢らしからぬ言動と、カメと行動を共にする異常さについて言っているのだろう。
魔法令嬢として体を使う機会が増えたからか食欲も旺盛になり、今もあり得ない量の肉に齧り付いていたのだから、親として娘の未来を不安に思うのも当然かもしれなかった。


私は化粧品屋の事件の後も、たびたびミルキーレナに変身しては現場に駆けつけている。
クラレンスや、彼の部下の騎士たちとも毎回のように顔を合わせているせいか、すっかり『魔法令嬢』としての存在を認知されてしまった。
おかげでこの頃は街中を走っていても、視線を感じることが多くなってきた気がする。

魔法を知らないはずなのに、なぜかみんな私を怖がったり、気持ち悪がったりしないのよね。
この世界の人って大らかというか、危機管理がなってないというか……。
もちろん、私の魔法は正義の為だけに使用しているわけだけど。

最近では私の攻撃の邪魔にならないように、騎士たちが交通整理のようなことまで買って出てくれるようになってしまった。
被害者の救助や手当をささっと済ませると、「あとはやっちゃってください!」みたいなノリで私の見せ場を作ってくれるのだ。

って!
なんなのそれ?
まるでヒーローショーじゃないの。
攻撃が決まると拍手してくれるし。

そして敵を倒し終えると、騎士団長サマによるご褒美タイムが待っているのだ。
「よくやったな、ミルキーレナ! 今回も見事な戦いぶりで惚れ直した」などと満面の笑みで褒め、テへへとはにかむ私の頭を優しく撫でてくれるのである。
最高か!

団長は戦闘のサポートはもちろん、『ミルキーレナ』の情報規制もしてくれているのだからありがたい。
もはや目立ち過ぎている自覚はあるが、今のところ私の正体を暴こうとする者が現れていないのも、団長が常に睨みを利かせてくれているおかげだろう。

まあ、肝心の団長サマが一番私のプライベートを知りたそうではあるのだけど。

「でもきっと正体がバレたら、もう変身できなくなっちゃうんだよね」
「なんのことじゃ?」
「ああ、ペロペロ。いやね、私がミルキーレナだってバレたら、もう『魔法令嬢』に変身できなくなるんだろうなーって……」
「特にペナルティはないぞ?」
「……ないの?」
「ないのう」

ないんかい!

変身キャラはみんな正体を秘密にするものだと思っていたが、まさか勝手な思い込みだったとは。
さすが異世界、何でもアリだな――

ということがあり、私の身バレはあくまで私個人の問題に過ぎないと判明したところで、話は両親との会話に戻る。

「忘れてはいないだろうが、次回の夜会からはレナも出席するのだからな」
「十八になったのだし、あなたのデビュタントですもの。ドレスも用意してあるのよ?」

両親の言葉に、紅茶を詰まらせる私。

ゲホッ、そうでした。
私も成人を迎えたし、社交界デビューするんだったわ。
ミルキーレナのことで頭が一杯で、すっかり忘れていたけれど。

正確には、氷の騎士団長サマのことで頭が一杯だっただけである。

「ありがとうございます、お母様。デビュタント、楽しみですわ」

ウフフと上品に笑ってみせながらも、私の心の中は憂鬱だった。
万が一、クラレンスに出会ってしまったらと考えると、不安になったからだ。
ミルキーレナとは悪を退治する同志として親しくしてくれているクラレンスも、私が貴族令嬢だと知ったら今までのように気安く接してくれないに違いない。
そもそも正体不明の魔法令嬢という、もの珍しさに惹かれているだけで、彼は女性や地位に興味がないと有名なのだから。

でも王宮は近衛騎士の担当だし、団長様は賑やかな場はお好きではないらしいから顔を合わせることはないわよね。
うん、大丈夫!

気を取り直した私は、真っ白なドレスを身に纏い、意気揚々と初の夜会に出席したのだった――が。

「イレーナ・グラスミルキー伯爵令嬢!」

名を呼ばれ、国王様に拝謁した私は嫌でも気付いてしまった。
背中に刺さる強い視線を……。

見てる、絶対見てるわ、騎士団長サマ!
え、なんでいるの?
とりあえず隠れるしかないわね!

デビュタントの見せ場、初ダンスを父と無難に踊り終えた私は、速攻バルコニーへと身を隠した。
人込みに紛れるようにうまく移動した私には、気付かれていない自信があった。

ミルキーレナに変身するようになってから、機敏な行動ができるようになった気がするわ。
後は適当にここで時間を潰して……。

隅で息を潜めていた私だが、そんなことは全て無駄だったとすぐに悟った。
迷いも無くクラレンスが追いかけてきたからである。

「イレーナ嬢、あなたがミルキーレナだろう?」

開口一番で核心をつき、私を爛々とした目で覗き込む団長に、「誰かとお間違えでは?」なんて笑顔ですっとぼけてみたものの――
「確かに髪色は違うが、顔も声も彼女と同じなのに?」とキョトンと返されてしまった。

ペロペロ~!
認識阻害はどうなっとんねん!

呆気なく正体がバレた私は、諦めて大きな溜め息を吐いたのだった。




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