【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。

櫻野くるみ

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ペンタンを動かす者

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由美が小さな窓から外を覗くと、歩みを止めたペンタンが、レゴラスと中庭で対峙しているのが見えた。
レゴラスは相当怒っているのか、抜いた剣をペンタンに向け、鋭い眼光で睨みつけているようだった。

「シャロンさん、私達も行こう!」

廊下へ続いているであろう扉に由美が走り寄ろうとするのを、シャロンが止めた。

「ユミ様、確か庭へ続く出口がこちらに!!鍵もかかっていません!!」

シャロンを振り返ると、荷物に紛れて確かに扉があった。

ええーっ、なんて都合のいい展開!
まさか罠じゃないでしょうね?
でもここから出れば、すぐに二人のいる場所に辿り着けるじゃない。

「シャロンさん、グッジョブ!!」

意味の通じていないシャロンを急かし、二人で庭に飛び出したのだった。


◆◆◆


数分前。

城門の近くでレゴラスはフィーゴに呼び止められた。

「レゴラス様っ!やはり戻られたのですね。ユミ様達は、城門は出ていないそうですっ!」

駆けずり回っていたのか、フィーゴの息が切れている。

「まだ城の中のようだな。捜索はどうなっている?」

「残っていた兵達で足取りを探って・・・って、レゴラス様!!あれは!?」

驚愕の表情を見せるフィーゴに、つられてレゴラスもそちらに目をやると、ゆっくりと黒いものがこちらに近付いてくるのがわかった。

「あれは・・・ユミ様が入った、ペンタン様?」

フィーゴの呟きに、レゴラスも最初はそう思ったが、何かが圧倒的に違う。

あれは・・・ユミ様ではない。
ユミ様が入っている時と、ペンタン様の纏う空気が全く違う。
では、あれは誰だ?
ユミ様はどうしたのだ?

血が逆流する気がした。
怒りがレゴラスを包み、気付けば偽物のペンタンに剣を向けていた。

「お前は誰だ?」

低い声で問いかければ、くねくねとした変な動きをしながらペンタンが答えた。

「ペンタンですわ。」

明らかに由美の声ではない。
高飛車な、イライラさせる女の声・・・

「お前はペンタン様ではない!!ペンタン様の偽物め!ユミ様をどこへやった?」

剣を突き付けられている今の状況でも動じていないのか、偽物のペンタンは呑気に話している。
ペンタンの中にいる限り、斬られることはないと思っているのかもしれない。

「あら、あの女以外でも、この黒い塊を動かせるって証明しているのですわ。あの女は創造主などではないし、ただの卑しい、出自もわからない女ですのよ?あなたの妃にはもっとふさわしい女性がいるでしょう?私とか。」

「黙れ、アローラ。貴様、自分が何をしているのかわかっているのか?」

「フフッ、私だとお気付きでしたのね。やはり私には隠しきれない気品が漂ってしまうのかしら?ほら、私が入ると、この塊も高貴な愛らしさに変わるのではなくて?」

クルッと廻って見せるが、動きにキレがなく、気持ちが悪いだけだった。
身勝手に振る舞うアローラに、レゴラスの怒りが最高潮に達した。

「アローラ、斬られたくなければさっさと脱げ!ペンタン様が穢れる!!」

「はあっ!?」

抗議の声を無視し、レゴラスはフィーゴや臣下の者と、ペンタンを脱がしにかかる。
しかし、アローラは抵抗しながら叫んだ。

「私にそんなことをしていいと思ってらっしゃるの?あのインチキ詐欺女がどうなってもいいと!?」

「貴様、私のユミ様に何をした?」

アローラの言葉に彼らの手が止まり、レゴラスの剣を持つ手が震えた時だった。


「レゴラス様!!」

レゴラスがこの世で一番好きな、怒りを一瞬で霧散させる唯一の声が聞こえた。

「ユミ様!!」

顔を向けると、なぜか召喚された時の服装で駆けてくる由美が見えた。

「インチキ詐欺女!!なんでここにいるのよ?あいつら、しくじったわね?」

自分が仕組んだことだとバレバレな発言をするアローラから、ペンタンのパーツが剥がされていく。
元のドレス姿に戻ったアローラは、それでも余裕な態度を崩さなかった。

「アローラ、貴様は牢屋行きだ。」

「あら、牢屋に入るべきはそちらの詐欺師ではなくて?創造主だなんて嘘をついて、王子に取り入ったのですから。その黒い物体を私が動かしていたのをみんな見ていたでしょう?それは精霊などではなく、ただの入れ物ですわ。」

アローラを捕まえようとしていた臣下の手が止まる。
アローラによる由美の誘拐は大事件だが、由美が王子を偽っていたのなら、それも大事である。
大勢の目が由美に向けられたその時。

「あーっ、ユミ様!今日はペンタン様を動かす日だったんですね?その服、力を出すときに着る、あちらの世界の物じゃないですかー。」

フィーゴがわざとらしい大きな声を出し、シャロンに目で合図を送っている。
シャロンも気付き、話を合わせだした。

「ユミ様ってば、災難でしたよねー。ペンタン様に力を与えた直後に襲われてしまってー。眠らされていた間に、ペンタン様を乗っ取られてしまいましたけど、レゴラス様はすぐにお気付きになりましたよね?」

レゴラスにまで話を振っていく。

「ああ、もちろんだ。一目でユミ様の意思ではないと気付いた。オーラが全く違うからな。」

いやいや、その言い訳は苦しいんじゃないかな。
みんなの気持ちは嬉しいけど、茶番が過ぎるというか・・・
騙す気はなかったけど、結局訂正せずに創造主のままで、いい暮らしをさせてもらった私も悪いし。
牢屋は嫌だけど、仕方ないかも。

しかし、由美の予想外の事が起きた。

「確かにユミ様が召喚された時、あの服でペンタン様から現れたよな。」

「さっきのペンタン様、様子がおかしかったもんな。主以外の他の奴に乗っ取られて、嫌がっていたんじゃないか?」

「大体、あの王子が騙される訳がないんだよ。『氷の王子』だぞ?」

意見が纏まったらしく、兵がアローラだけを連行していった。

嘘でしょ!?
みんな信じちゃったの?
私、創造主続行!?

由美が呆然としている間にフィーゴとシャロンも立ち去り、中庭にはレゴラスと由美、そしてペンタンの抜け殻だけが残されていた。
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