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赤い糸が見えるのですが
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アリシアは目をパチパチと瞬かせていた。
何やら、見えてはいけないものが見えている気がするのだ。
それは、幼馴染のジェシカの小指からびろーんと垂れる赤い糸で……。
ジェシカはいつこんなものを指に巻き付けたのだろうか?
——いや、そんな暇はなかったはず。
ジェシカの様子をチラッと観察してみるが、照れたようにはにかんではいるものの、おかしな素振りはない。
見慣れたいつもの可愛いジェシカだ。
もう一人の幼馴染、ミシェルの顔を見ても……大人びた美しい笑みを浮かべる彼女も、ジェシカ同様で。
二人にいつもと違った様子は見られない。
……とすると、この赤い糸は一体?
一人で頭を悩ませていたって、埒が明かないことは明白である。
アリシアはここは正攻法とばかりに、ジェシカに直接尋ねてみることにした。
「ねえ、ジェシカ。あなたの右手の小指なのだけれど……」
「まあ、さすがアリシアね!」
ジェシカが嬉しそうに食い付いてきた。
なんと、自覚があるらしい。
つまり、自分で糸を小指に結んだということなのだろう……え、何のために?
「ほら、わたくしが言った通りでしょう? アリシアなら絶対に気が付いて指摘してくるに違いないって」
ミシェルが切れ長の瞳を悪戯っぽく細めながら、ジェシカの肩に手を置いた。
「ええ、さすがアリシアだわ」と、ジェシカもはしゃいでいる。
うんうん、気付いちゃったから早く種明かしをしてちょうだいな。
この赤い糸の意図は? あら、ダジャレみたいになっちゃった。
しかし、続くミシェルの言葉は、アリシアの期待に応えるものではなく——。
「ジェシカったら、この前買ったピンキーリングを着けてくるのを忘れてしまったのですって。おっちょこちょいなのだから」
「だって遅刻しそうだったのだもの。次は絶対に忘れないわ!」
ウフフ、アハハと笑い合う幼馴染たち……。
ちがーーう、そうじゃない!
アリシアが気になっているのはそこではないのだ。
え、そっち!?
むしろ指輪を買ったことなんて忘れていたわよ。
そんなことより、私はこの赤い糸が気になっているだけで……。
でもこれでわかった。
どうやら二人とも赤い糸には気付いていないらしい——というより、アリシア以外には見えていないのだろう。
目立つ赤い糸だというのに、反応しているのはアリシアだけである。
赤い糸って言ったら、やっぱりアレよね?
運命の男女が結ばれているという、乙女の好きそうな言い伝え……。
そうなると、重要なのはジェシカの小指から垂れる糸の行方である。
言い伝え通りなら、この糸はジェシカの運命の相手と繋がっているはずなのだから。
アリシアは期待半分、不安半分で、糸の先をゆっくりと視線で辿るのだった。
◆◆◆
アリシアには前世の記憶がある。
と言っても、たまに何かを目にした際に、頭にこの世界以外の知識が流れ込んでくるだけで、丸々全てを覚えているわけではなかった。
前世の自分の名前や、家族すら思い出せない。
おかげで、どうやら前世は日本という文明が進んだ国で生きていたらしいのに、何も活かせることがないままここまできてしまった。
今まで思い出したことといえば、王宮内の大階段を下りていたら、シンデレラの靴が落ちている光景が思い浮かび、シンデレラのストーリーを思い出したこと。
または、国王の姿を遠くから眺めていたら、『裸の王様』の話を思い出したこと——などなど。
役に立たないにもほどがある。
これはきっと、前世の自分が貴族社会に関わりも興味もなかったせいで、似たようなこの世界に通じる知識を持ち合わせていなかったということなのだろう。
それこそ幼い頃に読んだらしい、西洋が舞台の物語くらいしか引き出しがないのだ。
……残念過ぎる。
そんな中、突然見えるようになった赤い糸。
これはどういうことなのだろうか。
『赤い糸』の意味は、糸を目にした瞬間に思い出した。
けれど、そもそも糸が見えること自体がおかしい。
もしかして、ファンタジー小説に出てきたチート能力ってやつなのかしら?
それにしては、今まで力が発揮されることがなかったのが不思議だ。
赤い糸が見えたのは、今夜が初めてなのである。
アリシアは遠くへと続いている糸の先を目で追いながらも、何がきっかけで見えるようになったのか頭を巡らせていた。
何やら、見えてはいけないものが見えている気がするのだ。
それは、幼馴染のジェシカの小指からびろーんと垂れる赤い糸で……。
ジェシカはいつこんなものを指に巻き付けたのだろうか?
——いや、そんな暇はなかったはず。
ジェシカの様子をチラッと観察してみるが、照れたようにはにかんではいるものの、おかしな素振りはない。
見慣れたいつもの可愛いジェシカだ。
もう一人の幼馴染、ミシェルの顔を見ても……大人びた美しい笑みを浮かべる彼女も、ジェシカ同様で。
二人にいつもと違った様子は見られない。
……とすると、この赤い糸は一体?
一人で頭を悩ませていたって、埒が明かないことは明白である。
アリシアはここは正攻法とばかりに、ジェシカに直接尋ねてみることにした。
「ねえ、ジェシカ。あなたの右手の小指なのだけれど……」
「まあ、さすがアリシアね!」
ジェシカが嬉しそうに食い付いてきた。
なんと、自覚があるらしい。
つまり、自分で糸を小指に結んだということなのだろう……え、何のために?
「ほら、わたくしが言った通りでしょう? アリシアなら絶対に気が付いて指摘してくるに違いないって」
ミシェルが切れ長の瞳を悪戯っぽく細めながら、ジェシカの肩に手を置いた。
「ええ、さすがアリシアだわ」と、ジェシカもはしゃいでいる。
うんうん、気付いちゃったから早く種明かしをしてちょうだいな。
この赤い糸の意図は? あら、ダジャレみたいになっちゃった。
しかし、続くミシェルの言葉は、アリシアの期待に応えるものではなく——。
「ジェシカったら、この前買ったピンキーリングを着けてくるのを忘れてしまったのですって。おっちょこちょいなのだから」
「だって遅刻しそうだったのだもの。次は絶対に忘れないわ!」
ウフフ、アハハと笑い合う幼馴染たち……。
ちがーーう、そうじゃない!
アリシアが気になっているのはそこではないのだ。
え、そっち!?
むしろ指輪を買ったことなんて忘れていたわよ。
そんなことより、私はこの赤い糸が気になっているだけで……。
でもこれでわかった。
どうやら二人とも赤い糸には気付いていないらしい——というより、アリシア以外には見えていないのだろう。
目立つ赤い糸だというのに、反応しているのはアリシアだけである。
赤い糸って言ったら、やっぱりアレよね?
運命の男女が結ばれているという、乙女の好きそうな言い伝え……。
そうなると、重要なのはジェシカの小指から垂れる糸の行方である。
言い伝え通りなら、この糸はジェシカの運命の相手と繋がっているはずなのだから。
アリシアは期待半分、不安半分で、糸の先をゆっくりと視線で辿るのだった。
◆◆◆
アリシアには前世の記憶がある。
と言っても、たまに何かを目にした際に、頭にこの世界以外の知識が流れ込んでくるだけで、丸々全てを覚えているわけではなかった。
前世の自分の名前や、家族すら思い出せない。
おかげで、どうやら前世は日本という文明が進んだ国で生きていたらしいのに、何も活かせることがないままここまできてしまった。
今まで思い出したことといえば、王宮内の大階段を下りていたら、シンデレラの靴が落ちている光景が思い浮かび、シンデレラのストーリーを思い出したこと。
または、国王の姿を遠くから眺めていたら、『裸の王様』の話を思い出したこと——などなど。
役に立たないにもほどがある。
これはきっと、前世の自分が貴族社会に関わりも興味もなかったせいで、似たようなこの世界に通じる知識を持ち合わせていなかったということなのだろう。
それこそ幼い頃に読んだらしい、西洋が舞台の物語くらいしか引き出しがないのだ。
……残念過ぎる。
そんな中、突然見えるようになった赤い糸。
これはどういうことなのだろうか。
『赤い糸』の意味は、糸を目にした瞬間に思い出した。
けれど、そもそも糸が見えること自体がおかしい。
もしかして、ファンタジー小説に出てきたチート能力ってやつなのかしら?
それにしては、今まで力が発揮されることがなかったのが不思議だ。
赤い糸が見えたのは、今夜が初めてなのである。
アリシアは遠くへと続いている糸の先を目で追いながらも、何がきっかけで見えるようになったのか頭を巡らせていた。
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