【完結】運命の赤い糸が見えるようになりまして。

櫻野くるみ

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幼馴染の初恋

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現在十七歳のアリシアは、オベール伯爵家の長女である。
兄が一人いる為、いずれはどこかの家に嫁入りしなければならない。
世間では結婚適齢期と言われる年齢にさしかかり、同い年の友人の中にも結婚する令嬢が現れ始めた。
しかし、婚約者も恋人もいまだにいないアリシア。
両親にせき立てられ、同じく伯爵令嬢のジェシカ、ミシェルと共に、頻繁に夜会に出席していた。
二人はアリシアの幼馴染だが、彼女たちにも決まったお相手はまだいない。
『結婚をするなら恋愛結婚がいいわ!』と言いながら、三人とも結婚にまだまだ現実味がなかったのだ。

偶然にも、憧れはあるものの、恋愛に積極的ではないという共通点を持つ三人。
夜会のたびに色気より食い気とばかりに、供される珍しい料理に舌鼓を打ってばかりいたら、いつの間にか「食道楽トリオ」というあだ名が付けられていた。
うら若き令嬢にとって不名誉な名ではあるが、自業自得であることも理解していた。
婚約者探しを目的に、夜会に出席している他の令嬢の中では、彼女たちは明らかに浮いた存在だったからである。
——が!

今夜の夜会の開始早々、いつものように「この鴨は最高だわ!」「こちらの真鯛もなかなか」などと、アリシアが食事を堪能していたら。

「私、実は気になる殿方ができちゃったの……」

なんと、ジェシカが頬を染めながら爆弾発言をしたではないか——好物の海老を頬張りながら。

それは唐突な告白だった。
まさに青天の霹靂である。
アリシアとミシェルが、思わず握っていたフォークを落としてしまったほどに……。

「え、今なんて言ったの?」
「気になる殿方って……それって好きな人ができたってことですわよね?」

驚いたアリシアとミシェルは、ジェシカを人気のないホールの隅っこまで引っ張っていった。
もう食事を楽しむどころではなくなっていたのだ。

「で、お相手はどこの誰なの?」
「わたくしたちに隠し事はなしよ?」

二人で問い詰めれば、「フレデリク様よ。子爵令息の」と、照れたようにジェシカが小声で教えてくれる。
赤く染まった頬が初々しい。

フレデリク様か……うん、悪い話は聞かないし、反対する理由はないわね。

茶髪の中肉中背、大人しい雰囲気のフレデリクは、オドラン子爵家の長男である。
性格も温厚で、アリシアも何度か話したことがあるが、感じのいい青年だった。
ジェシカも、以前酔っ払いに絡まれた時に、ビクビクしながらも助けに入ってくれた誠実な人柄に惹かれたそうだ。

アリシアは、ジェシカの小さな手を握りしめた。

「わかった、ジェシカの初恋だもの。私も応援するわ!」

すると、手に感じた何かの違和感……。
確かめるように視線を落とせば、ジェシカの小指から糸が垂れていたのだった——。

以上、回想終わり。
結局、赤い糸が見えるようになったきっかけはよくわからなかったので、今は糸を辿ることに専念しよう。
アリシアが赤い糸が延びている先を目で追いかけていると、ジェシカとミシェルが不思議そうに尋ねてきた。

「アリシア、さっきからどうしたの?」
「何か落とし物でも? でしたらわたくしたちも一緒に探しますわよ?」

親切で優しい幼馴染たちに視線を戻す。
小柄でピンクがかった茶髪をツインテールにし、オレンジ色のフリルたっぷりのドレスを着たジェシカは、今夜も文句なしに可愛らしい。
一方、背中まであるストレートの銀髪をポニーテールにし、紺色のワンショルダーのドレスを纏ったミシェルは凛として美しかった。
二人ともアリシアの大切な幼馴染であり、自慢の親友である。

こうしてせっかく赤い糸が見えるようになったのだもの。
ジェシカとミシェルの幸せの為なら、この妙な能力だって使いこなしてみせるわ!

首を傾げる二人にしっかりと頷くと、アリシアは本格的に糸を辿ることにした。
ジェシカの人生がかかっているのだ!
——多分。
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