【完結】運命の赤い糸が見えるようになりまして。

櫻野くるみ

文字の大きさ
4 / 10

二組目のカップル誕生

しおりを挟む
「まさか、ジェシカに想う方がいただなんて……。水くさいですわよね」
「私も驚いたわ。しかも、フレデリク様ともう婚約まで結んだらしいわよ? 目まぐるし過ぎてついていけないわ」

ミシェルに話しかけられ、頷くアリシア。
彼女たちが少し拗ねた顔で見つめる先には、幸せそうに笑い合うジェシカとフレデリクの姿があった。

前回の夜会でお互いの想いを確かめ合った二人は、あっという間に両家の承諾を得て、婚約を結んだらしい。
普段おっとりしている二人にしては、恐るべき行動の早さである。
そんなこんなで、三人の中でいつの間にか唯一の婚約者持ちになっていたジェシカは、フレデリクにエスコートをされて、今夜の夜会に現れたというわけだ。

いやいや、おめでたいけれども!
ついこの前までは、三人で仲良く過ごしていたのに……。

アリシアは寂しさを感じずにはいられなかった。
もちろん、赤い糸についても気になる点が多い。

結局、あの赤い糸は運命の人に繋がっていたってことになるのかしら。
まだ先のことはわからないにしても、とりあえず二人は幸せそうにしているし。
……ううん、まだ一組のカップルだけで結論を出すのは早いわ。
たまたまかもしれないもの。
もっと事例を集めないと。

アリシアはローストビーフを口に入れたが、なんだかあまり美味しくない。
ミシェルを見れば彼女も同じなのか、モソモソと口を動かしてはいるものの、目はどこか虚ろだ。
親友の恋が実ったのは喜ばしいことだが、ミシェルも寂しいのかもしれない。

ふいにミシェルがボソッと呟いた。

「ジェシカがうらやましいですわ。あの方はいつになったらわたくしを女性として見てくれるのかしら……」

んんっ!?
なんだか意味深なセリフが聞こえたのだけど?

「ミシェル、あの方って誰? もしかしてミシェルにも好きな人がいるの?」

アリシアが詰め寄ると、ミシェルは美しい弧を描く眉をへにょんと落とした。

ビンゴ!
ミシェル、お前もか!

アリシアが驚いて言葉を失くしていると、二人に近付く靴音があった。

「アリシア、なにしけた顔で肉食ってるんだよ」
「お兄様!」

声をかけてきたのはアリシアの兄、シルヴァンだった。
三つ年上で現在二十歳の彼は、騎士団員として働いている。
見た目は悪くないのだが、いかんせん口調と態度が貴族らしくなく、両親は頭を抱えている。
夜会ではアリシアのエスコート役のくせに、いつもフラフラとどこかへ消えていた。
まあ、食事がメインのアリシアは、兄が居なくても困ることはなかったのだが……。
つまり、ある意味似た者兄妹の二人だった。

「さては、ジェシカに婚約者ができて悔しいんだろ?」
「別に悔しくなんかないわよ。お兄様こそ、いつまでも独り身で可哀想ね」
「俺は別に……」

そこでシルヴァンはミシェルに視線をやった。

「よう、ミシェル。久しぶりだな」
「シルヴァンお兄様、お久しぶりですわ」

幼馴染のミシェルは、昔からシルヴァンを『お兄様』と呼んで慕っている。
さっきまで落ち込んでいたはずのミシェルが、どこか弾むような声で挨拶をしていることにアリシアは違和感を感じた。
落ち着かない様子で髪を触っているが、そんな態度も珍しい。
何かがおかしかった。

「お兄様、私たちは大事な話をしている途中なのです。邪魔をしないでもらえますか?」

そうよ、私はミシェルの好きな人を教えてもらって、恋を応援するところだったんだから!

アリシアがミシェルと腕を組んだその瞬間、目に入ってきたのはもちろん赤い糸で。

今度はミシェルに赤い糸が!
一体誰に繋がっているのかしら?

しかし、今回は行方を辿るまでもなかった。
だって、すでに見えているのだ。
ミシェルの赤い糸の先が、目の前に立っているシルヴァンの小指に結ばれているのを——。

なんてこと!
ミシェルの運命の相手はお兄様だというの?

驚愕している間に、アリシア抜きで二人の会話が続いていく。

「『お兄様』か…。ミシェルもすっかり綺麗になっちまって、これじゃあ妹だと思えなくなりそうだ」
「それは……本当ですか? でしたら、これからはわたくしを女性として見てくださいませ」
「ミシェル……」
「お兄……いえ、シルヴァン様……」

しばらく見つめ合った二人は、ダンスをする為にその場を離れていった。
アリシアを一人残して——。

マジか!
え、私一人ぼっちになっちゃった……。

こうして、立て続けに二組のカップルが生まれたのだった。










しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄イベントが壊れた!

秋月一花
恋愛
 学園の卒業パーティー。たった一人で姿を現した私、カリスタ。会場内はざわつき、私へと一斉に視線が集まる。  ――卒業パーティーで、私は婚約破棄を宣言される。長かった。とっても長かった。ヒロイン、頑張って王子様と一緒に国を持ち上げてね!  ……って思ったら、これ私の知っている婚約破棄イベントじゃない! 「カリスタ、どうして先に行ってしまったんだい?」  おかしい、おかしい。絶対におかしい!  国外追放されて平民として生きるつもりだったのに! このままだと私が王妃になってしまう! どうしてそうなった、ヒロイン王太子狙いだったじゃん! 2021/07/04 カクヨム様にも投稿しました。

モブの声がうるさい

ぴぴみ
恋愛
公爵令嬢ソフィアには、幼い頃より決まった婚約者がいる。 第一王子のリアムだ。 いつの頃からか、ソフィアは自身の感情を隠しがちになり、リアム王子は常に愛想笑い。 そんなとき、馬から落ちて、変な声が聞こえるようになってしまって…。

攻略対象の王子様は放置されました

蛇娥リコ
恋愛
……前回と違う。 お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。 今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。 小説家になろうにも投稿してます。

イベント無視して勉強ばかりしていたのに、恋愛のフラグが立っていた件について

くじら
恋愛
研究に力を入れるあまり、男性とのお付き合いを放置してきたアロセール。 ドレスもアクセサリーも、学園祭もコンサートも全部スルーしてきたが…。

ほら、誰もシナリオ通りに動かないから

蔵崎とら
恋愛
乙女ゲームの世界にモブとして転生したのでゲームの登場人物を観察していたらいつの間にか巻き込まれていた。 ただヒロインも悪役も攻略対象キャラクターさえも、皆シナリオを無視するから全てが斜め上へと向かっていってる気がするようなしないような……。 ※ちょっぴり百合要素があります※ 他サイトからの転載です。

【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!

たまこ
恋愛
 エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。  だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。

記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛

三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。 ​「……ここは?」 ​か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。 ​顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。 ​私は一体、誰なのだろう?

僕のお姫様~愛情のない両親と婚約者に愛想を尽かして婚約破棄したら平民落ち、そしたら目隠しをした本当の末姫に愛された~

うめまつ
恋愛
もう我が儘な婚約者にうんざりだ。大人しかった僕はとうとうブチキレてしまった。人前で、陛下の御前で、王家の姫君に対して大それたことを宣言する。 ※お気に入り、栞ありがとうございました。 ※婚約破棄の男視点→男に非がないパターン

処理中です...