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これは初デート?
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「アリシア嬢? どうしたんだい?」
驚いた顔でエリオットが尋ねてくるが、アリシアには侍従しか目に入っていなかった。
正確に言えば、彼の右手の小指なのだが。
赤い糸を巻き付けている侍従——どう考えても彼がニコラスだろう。
「あの、もしかしてあなたはニコラスさんではないですか?」
「は、はい。僕がニコラスですが……」
「やっぱり!」
怪訝そうなニコラスに対し、アリシアは満面の笑みである。
まさか彼がエリオットの侍従で、こんなにタイミング良く会えるとは!
サリーの赤い糸はニコラスに繋がっていたのね!
良かったね、サリー!!
アリシアは歓喜のあまり、気付けばニコラスに身を乗り出して問い詰めていた。
「うちの侍女、サリーをご存知ですよね? 結婚するって本当? サリーのことはもういいのですか?」
「それは……」
「サリーが辛そうで見ていられないの。あなたの本心を聞かせてくれないかしら?」
「僕は彼女のことを……」
アリシアが矢継ぎ早に質問すれば、辛そうに顔を歪めるニコラス。
すると、状況を察したのか、エリオットが話に加わってきた。
「なるほどね。ニコラスには心に決めた女性がいたんだね」
「……はい」
ニコラスが頷くと、居てもたってもいられなくなったアリシアは、エリオットに懇願した。
「エリオット様、ニコラスさんに縁談を持ちかけたのはあなたですよね? 図々しいお願いだとはわかっていますが、どうかなかったことにはできませんか?」
サリーは、ニコラスの主が持ってきたお見合い話だと言っていた。
それはつまり、エリオットが持ちかけたということになる。
しかし——。
「いや、私ではないな。きっとクロエだろう。あの子はおせっかいというか、昔から世話を焼くのが好きなところがあるから」
「……はい、クロエ様がもったいなくも、私に縁談を持ちかけてくださったのです」
クーローエー、お前だったのか!
さすが、根っからの世話焼き令嬢だな!
「クロエ様の仕業……いえ、気遣いでしたか。腑に落ちました」
やれやれと肩を竦めるアリシアに、エリオットとニコラスは困ったように笑っている。
きっと、今までもクロエの暴走に苦労させられてきたに違いない。
「つまり、アリシア嬢はニコラスに会いにわざわざやってきたというわけか。君は侍女思いなんだな……妬ける」
「え?」
「いや、ニコラスのことなら心配いらない。私からクロエに話して聞かせておこう。ニコラスも、好きなようにするといい」
「エリオット様、ありがとうございます!」
ニコラスが顔を綻ばせ、エリオットにお礼を言っている。
これで彼が意に染まない縁談をする必要はなくなったし、サリーとの仲も進展するだろう。
細かったはずの赤い糸も、存在感が増している。
『よしよし、これにて一件落着!』などとニマニマしていたら、エリオットが「これで心置きなく食べられるな」と言ってきた。
あら?
本当にカフェに行くつもりかしら?
そうしているうちに、アリシアはエリオットにこじんまりとしたお洒落なカフェに連れられ、個室に案内されていた。
◆◆◆
どうしてこうなったのかしら?
アリシアは若い女性に人気だというカフェで、エリオットと対面していた。
しかも個室に二人きり。
ニコラスは馬車で待機しているらしく、アリシアが侯爵邸まで乗ってきた馬車は、もう伯爵家に帰されたらしい。
「アリシア嬢は何にする? この店は軽食も充実しているよ?」
「はい……。エリオット様は素敵なお店をご存知なのですね」
メニューに軽く目を通すが、デカデカと書かれた『スペシャルパンケーキ全部のせ』の文字に目が釘付けになり、あっさりと決まってしまった。
暇になって部屋を観察すれば、香り高い薔薇が数カ所に飾られ、壁紙はピンク色、テーブルクロスは可愛らしい花柄のパッチワークである。
なんとも乙女チックな個室だが、麗しいエリオットは部屋に負けていなかった。
さすがだ。
「ここは妹が気に入っていてね。『お兄様もデートの時に行ってみては?』と言われていたんだ」
「デート……」
注文を済ませたエリオットが、サラっと刺激的な言葉を口にした。
これはデートなのだろうか?
もしデートなのだとしたら、もう少しおめかししてきたというのに……。
「記念すべき、人生初デートがこんな格好なんて……」
「アリシア嬢はいつだって可愛いと思うけど? 気になるなら次はあらかじめ予定を立てようか。来週はどうかな?」
エリオットが積極的に誘ってくる意味がわからない。
昨夜、クロエに慰めろと頼まれたからだろうか。
「エリオット様は律義な方ですね。クロエ様に言われたからって、私に良くしてくださって」
「そうきたか! アリシア嬢は手強いな」
楽し気に笑ったエリオットは、アリシアの頼んだ『スペシャルパンケーキ全部のせ』が届いたのを見て、体を折り曲げて大笑いしている。
パンケーキのボリュームがツボに入ったらしい。
笑い続けるエリオットを無視し、アリシアがモグモグしていると、笑いが治まってきたのかエリオットが尋ねた。
「アリシア嬢はニコラスの顔を知らなかったんだよね?」
「そうですね。顔どころか、エリオット様の侍従だということも知りませんでした」
「そうなのかい? それでよくニコラスまで辿り着いたものだ」
「そりゃあ、赤い糸を辿って……ああっ!!」
パンケーキにすっかり夢中になっていたアリシアは、うっかり口を滑らせていた。
驚いた顔でエリオットが尋ねてくるが、アリシアには侍従しか目に入っていなかった。
正確に言えば、彼の右手の小指なのだが。
赤い糸を巻き付けている侍従——どう考えても彼がニコラスだろう。
「あの、もしかしてあなたはニコラスさんではないですか?」
「は、はい。僕がニコラスですが……」
「やっぱり!」
怪訝そうなニコラスに対し、アリシアは満面の笑みである。
まさか彼がエリオットの侍従で、こんなにタイミング良く会えるとは!
サリーの赤い糸はニコラスに繋がっていたのね!
良かったね、サリー!!
アリシアは歓喜のあまり、気付けばニコラスに身を乗り出して問い詰めていた。
「うちの侍女、サリーをご存知ですよね? 結婚するって本当? サリーのことはもういいのですか?」
「それは……」
「サリーが辛そうで見ていられないの。あなたの本心を聞かせてくれないかしら?」
「僕は彼女のことを……」
アリシアが矢継ぎ早に質問すれば、辛そうに顔を歪めるニコラス。
すると、状況を察したのか、エリオットが話に加わってきた。
「なるほどね。ニコラスには心に決めた女性がいたんだね」
「……はい」
ニコラスが頷くと、居てもたってもいられなくなったアリシアは、エリオットに懇願した。
「エリオット様、ニコラスさんに縁談を持ちかけたのはあなたですよね? 図々しいお願いだとはわかっていますが、どうかなかったことにはできませんか?」
サリーは、ニコラスの主が持ってきたお見合い話だと言っていた。
それはつまり、エリオットが持ちかけたということになる。
しかし——。
「いや、私ではないな。きっとクロエだろう。あの子はおせっかいというか、昔から世話を焼くのが好きなところがあるから」
「……はい、クロエ様がもったいなくも、私に縁談を持ちかけてくださったのです」
クーローエー、お前だったのか!
さすが、根っからの世話焼き令嬢だな!
「クロエ様の仕業……いえ、気遣いでしたか。腑に落ちました」
やれやれと肩を竦めるアリシアに、エリオットとニコラスは困ったように笑っている。
きっと、今までもクロエの暴走に苦労させられてきたに違いない。
「つまり、アリシア嬢はニコラスに会いにわざわざやってきたというわけか。君は侍女思いなんだな……妬ける」
「え?」
「いや、ニコラスのことなら心配いらない。私からクロエに話して聞かせておこう。ニコラスも、好きなようにするといい」
「エリオット様、ありがとうございます!」
ニコラスが顔を綻ばせ、エリオットにお礼を言っている。
これで彼が意に染まない縁談をする必要はなくなったし、サリーとの仲も進展するだろう。
細かったはずの赤い糸も、存在感が増している。
『よしよし、これにて一件落着!』などとニマニマしていたら、エリオットが「これで心置きなく食べられるな」と言ってきた。
あら?
本当にカフェに行くつもりかしら?
そうしているうちに、アリシアはエリオットにこじんまりとしたお洒落なカフェに連れられ、個室に案内されていた。
◆◆◆
どうしてこうなったのかしら?
アリシアは若い女性に人気だというカフェで、エリオットと対面していた。
しかも個室に二人きり。
ニコラスは馬車で待機しているらしく、アリシアが侯爵邸まで乗ってきた馬車は、もう伯爵家に帰されたらしい。
「アリシア嬢は何にする? この店は軽食も充実しているよ?」
「はい……。エリオット様は素敵なお店をご存知なのですね」
メニューに軽く目を通すが、デカデカと書かれた『スペシャルパンケーキ全部のせ』の文字に目が釘付けになり、あっさりと決まってしまった。
暇になって部屋を観察すれば、香り高い薔薇が数カ所に飾られ、壁紙はピンク色、テーブルクロスは可愛らしい花柄のパッチワークである。
なんとも乙女チックな個室だが、麗しいエリオットは部屋に負けていなかった。
さすがだ。
「ここは妹が気に入っていてね。『お兄様もデートの時に行ってみては?』と言われていたんだ」
「デート……」
注文を済ませたエリオットが、サラっと刺激的な言葉を口にした。
これはデートなのだろうか?
もしデートなのだとしたら、もう少しおめかししてきたというのに……。
「記念すべき、人生初デートがこんな格好なんて……」
「アリシア嬢はいつだって可愛いと思うけど? 気になるなら次はあらかじめ予定を立てようか。来週はどうかな?」
エリオットが積極的に誘ってくる意味がわからない。
昨夜、クロエに慰めろと頼まれたからだろうか。
「エリオット様は律義な方ですね。クロエ様に言われたからって、私に良くしてくださって」
「そうきたか! アリシア嬢は手強いな」
楽し気に笑ったエリオットは、アリシアの頼んだ『スペシャルパンケーキ全部のせ』が届いたのを見て、体を折り曲げて大笑いしている。
パンケーキのボリュームがツボに入ったらしい。
笑い続けるエリオットを無視し、アリシアがモグモグしていると、笑いが治まってきたのかエリオットが尋ねた。
「アリシア嬢はニコラスの顔を知らなかったんだよね?」
「そうですね。顔どころか、エリオット様の侍従だということも知りませんでした」
「そうなのかい? それでよくニコラスまで辿り着いたものだ」
「そりゃあ、赤い糸を辿って……ああっ!!」
パンケーキにすっかり夢中になっていたアリシアは、うっかり口を滑らせていた。
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