君と刻む永久の砂時計

尾松傘

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君と積み上げた時間

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 距離を縮めるのに時間はかからなかった。
 読書家同士で話が合ったためか、あるいは私が彼女の気を引こうと躍起になった甲斐があってか、兎も角、私と彼女は恋仲になった。

 彼女と出会ってからは、自分の寿命の短ささえも幸運に思えた。
 短い命だからこそ、私は自分の人生の全てを彼女のために使うことができる。そして彼女亡き余生は短くて済む。

 ありきたりな言葉だが、彼女との出会いは運命だと感じた。
 天上の意思によって私と彼女の出会いは仕組まれたのではないか。そうでなければ、私が何故こうも彼女に惹かれるのかを説明出来ない。私自身、全く不思議だったのだ。それまで誰かに強く惹かれることのなかったのに何故彼女だけは別なのか。
 彼女のために生きる。理由は分からないが、それ以外の選択肢など私には考えられなかった。そのために生まれたようにすら思えた。

 私は彼女と同じ大学に行くため、必死で勉強して授業をサボっていた分の遅れを取り返した。
 良い男として見てもらうため、髪を切り、服装にも気を使うようになった。
 稼げる男になろうとして、就活では納得のいく結果を得るまで、50社以上の選考を受けた。

 楽な生き方ではなかった。思春期という大事な時期を死んだように過ごした私には、まともに生きることは難しかった。
 それでも彼女がいつも横にいたから、私は苦難を乗り越え、この日を迎えることができた。

 私は彼女の薬指に指輪をはめ、永久の愛を誓った。


 ♢♢♢


 式の後、二人きりになれた時間が少しあり、彼女がぽつりと呟いた。
 
「今日、この瞬間が、永遠に続けば良いのに。今がきっと人生で一番幸せだから。」

 彼女の潤んだ瞳は美しく輝いていた。

「いや、僕がこれから先も君を幸せにしてみせるよ。」

 私は精一杯の見栄を張った。

「図書室であった日が昨日のように感じるの。幸せな時間はあっという間に流れてしまうと言うじゃない。だから私は少し怖いの。気付いたらもうお婆ちゃんになってるんじゃないかって。」

 そんな日は永遠に訪れないことを私は知っていたが、口には出さなかった。それを伝えて今の幸せを壊す必要はない。
 そこで私は、残酷な真実を突きつける代わりに、私だけが知る美しい真理を彼女に教えた。
 
「知ってる?時間っていうのは、流れるものじゃなくて、積もるものなんだ。」

「積もる?」

「僕らが過ごした一分一秒は、砂粒みたいになって積もるんだ。だから、流れたりなんてしない。消えたりなんてしない。一緒に過ごした時間は永遠に残るんだ。」

 図書室で出会った日、初めてデートに行った日、想いを伝えた日、初めて口づけをした日、初めて身体を重ねた日、プロポーズをした日、そして今日——全ての日、全ての瞬間が砂になって、二人の砂時計に積もっている——そこに永遠がある。

 彼女は「急に詩人みたいなことを言って」と笑った。笑って、少しして「でも素敵ね」と呟いた。

 彼女の微笑んだ顔が美しかった。

 だが、その笑顔の上に浮かぶ砂時計は現実を突きつけてきた——彼女の余命は5年だ。
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