優しい時間

ouka

文字の大きさ
27 / 79

ヨンサンの見解と、レオンの見解

しおりを挟む
 時間をチョイと巻き戻してっと。 
 突然現れた強引男に気おされて、お弁当を作り始めたハナは置いといて。
 
 ヨンサンは空間移動でリークグループの本社に戻り、回復の兆しの見え始めた空を見上げて胸をなでおろす。
 これでレオンもバカなことは考えないだろう。
 ミセイエルの御前会議が終わるまで少し時間がある。
 ヨンサンは自分の執務室で今までに得た情報を整理し始めた。
 あの雨の日のデリカ空港で、ミセイエルがナンパに失敗した相手は間違いなく彼女のはずだ。
 あの日からヤツはハナ・コートに強烈に惹かれていたに違いない。
 強引な入籍はコウレイをけん制するためではなく、惹かれた女を手に入れるためだったと考えるとしっくりくる。
 タカネ・コートで見せた、あの何かが落ちてくるのを嬉しそうに待っていた顔にも納得がいく。
 彼女に会いに行くために秘書課泣かせなスケジュール調整をして、彼にとって鬼門と噂されるミハイル宮の使用人達に突然休暇を出して人払い?したのにも驚いたが、宮の桜がたった1日で散っていたのにはひっくり返りそうだったよ。
 気は確かか?となじられても涼しい顔で笑っていたっけ。
 大きな声では言えないが、今年こそはミハイル宮の桜庭の開放があるかもしれないと内心楽しみにしていた天界人達は随分ガッカリしたんだぞ。
 彼女だけに見せたかったのか?
 締め出された天界人がゼウスの‘桜家に係わるな‘という無言の圧力だと噂して、どれだけ桜家が迷惑したか。
 あの日の天界人の締め出しや僅か1日だけの桜の開花はすべて彼女のためか?
 そう考えれば、その頃に、ヤツに梅干し入りのおむすびを食べたことがあるか?と聞かれたことがあったが、あれはあちらの世界からやって来た彼女が作ってミセイエルに食べさせたに違いない。
 入れ込みようがハンパない。
 もしかしたら、昔から彼女の存在を知っていて、あちらの世界の住人かもしれないと思っていた?
 だから戴冠式のセレモニーでリオン様に、あちらの世界に姪はいないのかと、執拗に聞き、その住所に執着したのは、彼女がリオン様の姪だと考えた?からか?
 昔から思い続けた彼女の初恋相手がアサファ・オーツだと知っていたなら、桜家に冷徹なのも、アサファを見る目が憎々しいのも合点がいく。
 いやはや、彼女はどんだけ天界の麗人(冷人)達を悩ませているんだ?
 そこまで考えて、ヨンサンの胸に冷たいものが落ちる。
 ちょっと待て!本当に彼らだけか?
 確か彼女は5ヶ月前にこちらの世界に迷い込んだといわなかったか?
 そしてヨンハの婚約者も5ヵ月前にあちらの世界から来たのではなかったか?
 そのヨンハの婚約者のサクラ・タカミネは、今行方不明だ。
 天界から転がり落ちて、記憶がないまま、ミセイエルと結婚したなんて偶然はありえない! ・・・、はずだ。
 頼むからそんなキツイ冗談は言わないでくれ!

                  ***

 仲良く手をつないだ2人が退場したフロアーに佇んでいたレオンは、肩を叩かれても呆然自失だった。
 「よ。朝はすまなかったな」
 「ああ」
 「やっと回復の兆しが見えてきたな」
 「ああ」
 「嬉しくないのか?」
 「ああ」
 「おい!」
 「ああ」
 「・・・。」
 バチン
 背中で聞こえた派手な音と乾いた痛みに我に返った自分の横にはヨンサンがいた。
 「目ぇ、覚めたか?」
 「ああ」
 大きな図体を屈めて自分を覗く疑わしそうな顔に思わず苦笑いが漏れる。
 「よかったな天候が回復して。やっぱり力がどこかで滞っていて、効果が遅れたのか?」
 「・・・」
 明るい調子で振られたが依然気分は上昇しない。
 聞いた男もそれに気づいて質問を重ねる。
 「まだ心配か?」
 ・・・この男の見解を聞いてみるか?
 「私の危惧だったとも思えないが、今は様子を見るしかない。それより今から飯食いに行くのか?」
 難しい顔のまま話題を変えて、相手にこちらの意図を掴ませないまま話を振る。
 「ああ、コンソの弁当もいいが、朝のサボリでリーナの視線が痛すぎて居場所がない。仕方がないから外に行こうかと思って降りて来た」
 実際は彼女との接触がばれて、その様子をあれこれ追及されたくないために逃げて来たのではないのか?。
 「ちょうどいい。少し付き合ってもらおうか?」
 レオンはヨンサンが返事をする前に個室のある料亭に電話をいれた。
 突然の話題変更が功を奏し情報収集はうまくいきそうだ。
 嫌な予感がするのかヨンサンが顰め面になる。
 悪いがお前に拒否権はないよ。

                  ***
                   
 ヨンサンとレオンは口の堅い高級料亭の個室で向かい合っいる。
 「聞きたいことがあるんだが・・・嶺家の次期に」
 やっぱりか!で、何が知りたい?
 開口一番そう言った後、しばらく待ったが後が続かない。
 この重い空気は、もはやハナ・コートについてしかないか?
 やれやれ、リーナからの追及は逃れたが、炎家の当主に捕まったか。
 レオンがヨンサンをわざわざ嶺家の次期と呼んだ意味は、嘘や誤魔化しは許さないという無言の圧力だ。
 地上では年も近く、気心の知れた友人関係なのだが、天界での現当主と次期の上下関係ははっきりしている。
 彼に嶺家の次期当主と呼ばれたからには態度を改める必要があった。
 「レオン様は何をお聞きになりたいのでしょうか?」
 「ゼウス様の奥方は、何者だ?」
 「何者と、申されますと?」
 「どんな女にも心惹かれないのがゼウスの資質と言われているはずだ。それが先ほどの様子はもろに恋する男丸出しだった」
 誤魔化せないと分かっていて、言ってみる。
 「演技では?」
 そう答えたヨンサンをレオンが鼻で笑う。
 「フン。誤魔化しは無しだ。おまえだって家宝に認められた次期だ。真偽ぐらい見極めているだろ?。朝の野暮用は夫婦喧嘩の仲裁だったのか?」
 「どうして、そうお思いになるのですか?」
 「ここ1カ月のゼウス様の機嫌の悪さはこれまでにないほどで、周りはその冷気に当たらないように必死だっただろう。それが奥方が訪ねて来た途端春の日差しを纏ったんだ。バカでもわかる」
 ううっ。そこまで露骨な態度を見せたのか。あの色ボケは!
 うなるヨンサンに知的な光を宿したライトブルーの瞳が語り掛ける。
 「まだ18才とお若い奥方は気ままなお一人様生活をお望みだったから、ゼウス様も名前や素性を公表しなかったが、愛しい妻を目の前に我慢しきれずに半ば強制で同居に踏み切った。それがタカネ・コートでの真相ではないか?」
 全くそのとおりで・・・はぁ~
 さすが現当主。もはや反論の気力もない。
 「渋々同居に同意はしたが奥方の気分はふさぐ一方で、そんな奥方を見るにつけ、ゼウス様の心は落ち込み機嫌は悪化の一途をたどる。そこで仲裁に乗り出したのがオマエだったのだろ?」
 堅い表情でだんまりを決め込んだヨンサンをレオンは真摯な眼差しで睨み、密やかな声で秘密を打ち明けた。
 「そうかたくなるな。妹のシオンが気になることを言ったので、お前の見解を知りたいと思ってランチに誘ったのだ」
 「シオン様が?なにを?」
 「晴天を呼び込もうとして、イメージをすると、脳内にゼウス様の奥方が現れたと言うんだ」
 「ハナ様がですか?」
 レオンがしっかりと頷く。
 「ああ、彼女が、泣いていると・・・。シオンはタカネ・コートで奥方を見ている。無言で涙を流すのは間違いなくあの方だったと言うのだが」
 その言葉に窓の外を眺める少女が振り返った時の泣き顔が思い浮かんだ。
 「わたしは、この長雨は奥方に泣かれて落ち込んだゼウス様の心が生んだ無意識な干渉ではないかと推察したのだが。シオンの見解は少し違っている。で、おまえはどう思う?」
 「私には何とも・・・」
 真実を見極めるという意志に晒されて、ヨンサンの眉がハの字になるのを見て、彼を見つめる強い視線がふわりと緩んだ。
 ボソリと零れた言葉にヨンサンの心は塗りつぶされた。
 「・・・ハナ様は何者なのだろうな?」

 炎家当主の推測は当たらずとも遠からずだが、おそらく真実は少し違う。
 いや、もう一方の方は当たっているのか。
 ミセイエルか?それとも奥方か?
 レオンが、自分たちの力を封じ込めた人物を確かめるためにオレを食事に誘ったのだと今ならわかる。
 自分がミセイエルのペントハウスを出た時、すでに雨は上がったいた。
 その時刻にミセイエルの心はまだ落ち込んでいたはずで、彼の無意識の干渉で雨が続いたと仮説を立てるのには無理がある。
 それよりもハナの気持ちと同化した天候の変化だと考えた方がしっくりくる。
 カマをかけられてまんまと術中に嵌り、午前中の推測が浮かんで困惑したオレを見てあの男も天候に干渉したのは彼女だと結論づけたはずだ。
  自身が導き出した仮説にヨンサンは頭を抱えた。
 マジ、カンベン!!!!!
 ゼウスの心を動かし、自分の気持ちのままに5族当主の特殊能力に干渉できるそんな女の呼び名なんて一つしかないよ!
 まさかの・・・マジで・・・伝説のお姫様・・・?なんてのが存在しやがったのか?
  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...