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どうなる?特製弁当?
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男はリークビルの45階にある、リゾート開発室長室からいまだに止まない雨を恨めしそうに眺めた。
夕焼けのような赤い髪と、夏の雨粒を連想させるライトブルーの瞳を持つ炎家の当主の片割れは窓の外のいまだに止まない雨に深いため息を吐く。
全く、誰かが泣いているようなこのシトシト雨はいったい何時まで続く気だ?
泣きたいのはこっち方だ!と。
男はまた何度目かの深いため息を吐いた。
天界の5族の当主は家宝に選ばれてその座につく。
炎家もそれは同じだ。
だが炎家が他家と異なるのは、現当主が2人いることだった。
彼らは男女の2卵生双生児で、家宝が2人を同時に当主と認めた類稀なケースだ。
2人は異なる性別ながら、同じ体格で同じ髪や瞳で同じの顔を持っていて、声を聴かなければ識別も難しかった。
兄妹仲よく天候干渉の特殊能力は均衡しており、天界では家宝が1人に決めかねて2人で当主の責務をこなせという事なのだろうという話になっている。
朝に、ヨンサンに天候干渉の相談をしたのは兄のレオン・エーツで、先日のタカネ・コートの式典に参加したのが妹のシオン・エーツだ。
例年通り梅雨に入り降水量にも問題はなかったのだが、そろそろ梅雨明けという頃になっても一向に晴れ間が見られない。
さらにそれから1ヶ月以上が経っても一瞬とて日が差すことのない天候が続き、日照不足による影響がポツポツ出始めて、皇家から本格的な干渉を指示された。
雨降りの合間に晴天を呼び込むには、頭の中に晴天をイメージするだけでよい。
先の巨大台風を消滅させるとか、地震災害を抑えるために余震を防ぐなどといった時に必要とされる壮大かつ緻密な力加減は必要ない。
いつもなら簡単にできる作業で、炎家の能力持ちなら子供がやっても雲が切れて太陽が顔を出すのだが。
今回に限っては妹のシオンと2人でいくらやっても梅雨の雨は止まなかった。
まるで誰かが雨を呼び込んで2人の干渉を邪魔しているみたいな抵抗感があるのだ。
今はまだ大した被害ではないし、水害が起こりそうな降水量でもないから様子を見ているのだが楽観視も出来ない。
まさか誰かの嫌がらせ?か?
そんなことが出来るのはゼウス様か?
と考えて彼の右腕と称されるヨンサンに探りを入れたのだ。
リークの重役たちが集まる御前会議の終了を待って自室に帰って来た彼を捕まえて、天候に干渉できないことを内々に打ち明けた。
彼は一瞬意味が分からないと言ったように?をこちらに飛ばした。
ゼウスの関与を示唆すると、それはないとキッパリ言い切られたが・・・。
では、いったいどういう事なのか。
もう少し踏み込んで話をしようとしたがテレビ電話の向こうでヨンサンが片手を上げて、ゴメンのポーズをとった。
「悪い、ちょっとした野暮用があって、急いでいるんだ」
そういうと、嶺家の特殊能力を使って、どこかに空間移動してしまった。
さて、どうしたものか?
とりあえずPCを起動して、書類の山に目を通し、承認・不承認・検討に分け、問題点や改良点の指示を出す。
そうして何とか午前中の仕事をこなし昼となり、空を見上げると薄日が差していた。
え?今頃?干渉効果が遅れて現れた?
信じられない思いで外を覗くレオンに秘書の声がかかる。
「室長、ランチはいかがされますか?本日はコンソのランチの配達も頼んでありますが」
コンソのランチには惹かれるものがあるが。
「いや、いい。僕の分は君たちで分けてくれ。僕は少し日差しに当たりたいから外に出ることにする」
そう言いおいて1階まで降りると何やら受付の前で揉めているような?
当社の代表女子2人は既定の笑みを張り付け、黒髪の夢見る少女?が何やら言い募りお願いしている。
そこにCEOの秘書が加わって事情を聴き説明をし始めた。
どうらやあの方に弁当を持ってきたから渡して欲しいと言っているようだ。
花柄のワンピースにお下げ髪の少女は、このビルの中ではまるで不釣り合いな容姿で、異質な存在に映る。
いくら一途にあの方に恋をしたって、それは無理というもの。
お嬢ちゃん、どこから来たの?どんなに憧れて思いを告げてもあの方は、顔の筋肉一つ動かさないし、そんな弁当なんか見向きもしないよ。
そう声を掛けたくなるピュアな幼さがあった。
そうこうしているうちに秘書はエレベーター前にたどり着き、念のために彼女の名前を聞いた。
小女は最近よく聞く名前を名乗った。
ああ、やっぱりか。
ゼウス様の奥方は黒髪黒目だったと妹がいっていたから色は合っているが、あまりにも子供過ぎて、その名を騙るには無理があるよ。
何より、あのタカネ・コートの大広間で天界人相手に完璧な所作を披露し、悪意ある言葉を真っ向から跳ね返したと聞いている。
やはりいつもの『奥様を騙る』というやつだろう。
同じ判断をしたのだろう。
営業スマイルを張り付けた秘書はそのままエレベーターのドアを閉め、受付の2人はまたかという顔をした。
当然の反応だ。
それでも、彼女に諦める気配がない。
思わず、頑張れ!と声を掛けたくなるほどに一生懸命な様子を、漠然と眺めていたのだが。
少女が受付嬢2人に向かって軽い会釈をした途端に彼女たちの対応が一変した。
いったい何が起こった???
僕は彼女の一挙一投足から目が離せなくなった。
***
何とか持参した弁当を届けたいと、ハナは引き続き悪戦苦闘中。
確か、あの人もリークグループの人だったはず。
うまくいけば会えるかも!?
「思い出しました!」
「は!?何をですか?」
「私、ヨンサン・リーツさんに言われてきたんです。彼を、彼を呼んで頂けませんか」
「今度は常務、ですかぁ?」
応対する受付嬢の笑顔が引き攣っていている。
「お願いします」
必死に言い募るが、彼らの反応は鈍い。
しかしここで引き下がるわけにはいかない。
あの手を使ってみようか。
ハナは姿勢を正し目力を強めて受付嬢に向き直ると少しだけ小首を傾げたまま羽のように軽く頭を下げた。
「お願いします」
できるだけ柔らかな声を出し、ピンク色の口角を少し上げて丸く大きな瞳をグシャリと三日月型にしてふわりと微笑む。
笑みをくらった当人に言わせると、ハナの纏う空気が一変し七色に輝くように見えるそうだ。
ハナのマブダチいわく秘儀の”必殺微笑み返し”だそうだ。
これを使われた人間、いや犬や猫でさえも、これでお願いされると嫌といは言えなくなるそうで、必殺スマイルを向けられた受付嬢がパチパチと瞬きをしている。
彼女達が言うには、まるで場違いの下町中学生が一瞬で最高位のお嬢様に見えて、脳内に絶対服従の文字が浮かんだという。
「すぐ連絡をお取ります」
緩んだ顔が引き締まり背筋を伸ばして内線電話を取る。
緊張した声で、彼の秘書に連絡を入れたようだ。
こちらの要件を伝えると、一言二言返事を返されて肩をおとす。
「常務は、只今CEOとセッション中とのことです。その後も経営会議が入っておりまして本日の面会は無理のようだと第一秘書が申しております。ご希望に添えず申し訳ありません」
「そうですか」
仕方がない。彼女たちはベストを尽くしてくれた。
いくらハナが必殺お願い攻撃を繰り出しても、見ていない人には届くはずもない。
俯いた顔を再度あげてハナが第2交渉に臨む。
「でしたら、これをミセイエルさんに渡していただけませんか?」
言いながら、ハナが左手の薬指から指輪を抜き去り、持参した包の上に置く。
「ですから、先ほども申し上げたように、当社はアポのない方からの個人的な贈り物は受け取らない規約になっておりまして・・・」
困り顔の2人を前に、それでもハナは粘る。
「これはミセイエルさんから頂いたものをお返しするだけですから、贈り物にはなりません」
その時、エレベータ前から空気を揺らす声が飛んだ。
「それを、受け取ったら君たちはクビだ!」
突然登場したCEOの冷声に一斉に振り返った人物が凍り付く。
絶対的な自信から生まれる金色のオーラ全開で周り人間を威圧した顔がハナを見て緩む。
驚いて固ったハナにゆっくりと歩み寄ったミセイエルがさも自分の物だと言うように彼女をぎゅっと抱きしめて、宣言する。
「たとえ君がそれを外しても、僕は離婚には応じない」
そして見たこともないような蜜色の笑みを浮かべ、誘惑のフェロモンダダ漏状態で甘く囁く。
「愛してるから」
こんなゼウスは見たことがない。
周りの方がギョッとして注目しているのにミセイエルは余裕で笑、ハナは首まで真っ赤になった。
「こんなところで、何言って、何するんですか!」
「公衆の面前で愛を伝えられる夫の権利を行使したまでさ。でないと他の誰かに誘惑されてしまいそうだ」
そういって、近くの赤毛の男性を睨む。
「私のことからかってるんですか?」
「いや、第6感てやつ。それより持ってきた弁当って、あれ?」
ミセイエルの視線を追ってハナが頷くと、受付嬢が慌ててその包を捧げ持ってきた。
「ありがとう」
完璧な営業スマイルを返しハナに向き直るとその手を取って弁当包の上に乗った指輪を掴む。
それを元の左手薬指に戻すとその指先にキスを落し満足げに微笑んだ。
それから取った手を恋人繋ぎに握り変えて引く。
この流れるような動作にハナはドン引きだったが、周りの人には花や星が見えたようだ。
「お弁当を持ってピクニックに行きたいんだけれど、どうかな?」
どうかな?首を傾げるハナにミセイエルは言い募る。
「君には命令が通用しないことはすでに学習済みだからね。お伺いをすることにした」
お伺い?
「まあ、拒否は認めないけどね」
やっぱり唯我独尊傲慢男は健在ですね。
「でも・・・、お仕事大丈夫ですか?突然に予定を変えたら周りの人が困るでしょ?」
どうにかなると笑うミセイエルと、困り顔のハナに、受付嬢が顔を向ける。
「大丈夫ですわ。CEOの下す決定に弊社の社員は誰も拒否権を持ち合わせておりませんから、各自が何とか致します」
そういうと2人そろって頭を下げた。
「いってらっしゃいませ」
赤毛男を含むその場に残された人間はしばらく呆然自失で佇んでいた。
(声を掛けなくてよかったね。レオンさん。あの場で声掛けしてたら、あなたも天界謹慎間違いなしだよぉ)
夕焼けのような赤い髪と、夏の雨粒を連想させるライトブルーの瞳を持つ炎家の当主の片割れは窓の外のいまだに止まない雨に深いため息を吐く。
全く、誰かが泣いているようなこのシトシト雨はいったい何時まで続く気だ?
泣きたいのはこっち方だ!と。
男はまた何度目かの深いため息を吐いた。
天界の5族の当主は家宝に選ばれてその座につく。
炎家もそれは同じだ。
だが炎家が他家と異なるのは、現当主が2人いることだった。
彼らは男女の2卵生双生児で、家宝が2人を同時に当主と認めた類稀なケースだ。
2人は異なる性別ながら、同じ体格で同じ髪や瞳で同じの顔を持っていて、声を聴かなければ識別も難しかった。
兄妹仲よく天候干渉の特殊能力は均衡しており、天界では家宝が1人に決めかねて2人で当主の責務をこなせという事なのだろうという話になっている。
朝に、ヨンサンに天候干渉の相談をしたのは兄のレオン・エーツで、先日のタカネ・コートの式典に参加したのが妹のシオン・エーツだ。
例年通り梅雨に入り降水量にも問題はなかったのだが、そろそろ梅雨明けという頃になっても一向に晴れ間が見られない。
さらにそれから1ヶ月以上が経っても一瞬とて日が差すことのない天候が続き、日照不足による影響がポツポツ出始めて、皇家から本格的な干渉を指示された。
雨降りの合間に晴天を呼び込むには、頭の中に晴天をイメージするだけでよい。
先の巨大台風を消滅させるとか、地震災害を抑えるために余震を防ぐなどといった時に必要とされる壮大かつ緻密な力加減は必要ない。
いつもなら簡単にできる作業で、炎家の能力持ちなら子供がやっても雲が切れて太陽が顔を出すのだが。
今回に限っては妹のシオンと2人でいくらやっても梅雨の雨は止まなかった。
まるで誰かが雨を呼び込んで2人の干渉を邪魔しているみたいな抵抗感があるのだ。
今はまだ大した被害ではないし、水害が起こりそうな降水量でもないから様子を見ているのだが楽観視も出来ない。
まさか誰かの嫌がらせ?か?
そんなことが出来るのはゼウス様か?
と考えて彼の右腕と称されるヨンサンに探りを入れたのだ。
リークの重役たちが集まる御前会議の終了を待って自室に帰って来た彼を捕まえて、天候に干渉できないことを内々に打ち明けた。
彼は一瞬意味が分からないと言ったように?をこちらに飛ばした。
ゼウスの関与を示唆すると、それはないとキッパリ言い切られたが・・・。
では、いったいどういう事なのか。
もう少し踏み込んで話をしようとしたがテレビ電話の向こうでヨンサンが片手を上げて、ゴメンのポーズをとった。
「悪い、ちょっとした野暮用があって、急いでいるんだ」
そういうと、嶺家の特殊能力を使って、どこかに空間移動してしまった。
さて、どうしたものか?
とりあえずPCを起動して、書類の山に目を通し、承認・不承認・検討に分け、問題点や改良点の指示を出す。
そうして何とか午前中の仕事をこなし昼となり、空を見上げると薄日が差していた。
え?今頃?干渉効果が遅れて現れた?
信じられない思いで外を覗くレオンに秘書の声がかかる。
「室長、ランチはいかがされますか?本日はコンソのランチの配達も頼んでありますが」
コンソのランチには惹かれるものがあるが。
「いや、いい。僕の分は君たちで分けてくれ。僕は少し日差しに当たりたいから外に出ることにする」
そう言いおいて1階まで降りると何やら受付の前で揉めているような?
当社の代表女子2人は既定の笑みを張り付け、黒髪の夢見る少女?が何やら言い募りお願いしている。
そこにCEOの秘書が加わって事情を聴き説明をし始めた。
どうらやあの方に弁当を持ってきたから渡して欲しいと言っているようだ。
花柄のワンピースにお下げ髪の少女は、このビルの中ではまるで不釣り合いな容姿で、異質な存在に映る。
いくら一途にあの方に恋をしたって、それは無理というもの。
お嬢ちゃん、どこから来たの?どんなに憧れて思いを告げてもあの方は、顔の筋肉一つ動かさないし、そんな弁当なんか見向きもしないよ。
そう声を掛けたくなるピュアな幼さがあった。
そうこうしているうちに秘書はエレベーター前にたどり着き、念のために彼女の名前を聞いた。
小女は最近よく聞く名前を名乗った。
ああ、やっぱりか。
ゼウス様の奥方は黒髪黒目だったと妹がいっていたから色は合っているが、あまりにも子供過ぎて、その名を騙るには無理があるよ。
何より、あのタカネ・コートの大広間で天界人相手に完璧な所作を披露し、悪意ある言葉を真っ向から跳ね返したと聞いている。
やはりいつもの『奥様を騙る』というやつだろう。
同じ判断をしたのだろう。
営業スマイルを張り付けた秘書はそのままエレベーターのドアを閉め、受付の2人はまたかという顔をした。
当然の反応だ。
それでも、彼女に諦める気配がない。
思わず、頑張れ!と声を掛けたくなるほどに一生懸命な様子を、漠然と眺めていたのだが。
少女が受付嬢2人に向かって軽い会釈をした途端に彼女たちの対応が一変した。
いったい何が起こった???
僕は彼女の一挙一投足から目が離せなくなった。
***
何とか持参した弁当を届けたいと、ハナは引き続き悪戦苦闘中。
確か、あの人もリークグループの人だったはず。
うまくいけば会えるかも!?
「思い出しました!」
「は!?何をですか?」
「私、ヨンサン・リーツさんに言われてきたんです。彼を、彼を呼んで頂けませんか」
「今度は常務、ですかぁ?」
応対する受付嬢の笑顔が引き攣っていている。
「お願いします」
必死に言い募るが、彼らの反応は鈍い。
しかしここで引き下がるわけにはいかない。
あの手を使ってみようか。
ハナは姿勢を正し目力を強めて受付嬢に向き直ると少しだけ小首を傾げたまま羽のように軽く頭を下げた。
「お願いします」
できるだけ柔らかな声を出し、ピンク色の口角を少し上げて丸く大きな瞳をグシャリと三日月型にしてふわりと微笑む。
笑みをくらった当人に言わせると、ハナの纏う空気が一変し七色に輝くように見えるそうだ。
ハナのマブダチいわく秘儀の”必殺微笑み返し”だそうだ。
これを使われた人間、いや犬や猫でさえも、これでお願いされると嫌といは言えなくなるそうで、必殺スマイルを向けられた受付嬢がパチパチと瞬きをしている。
彼女達が言うには、まるで場違いの下町中学生が一瞬で最高位のお嬢様に見えて、脳内に絶対服従の文字が浮かんだという。
「すぐ連絡をお取ります」
緩んだ顔が引き締まり背筋を伸ばして内線電話を取る。
緊張した声で、彼の秘書に連絡を入れたようだ。
こちらの要件を伝えると、一言二言返事を返されて肩をおとす。
「常務は、只今CEOとセッション中とのことです。その後も経営会議が入っておりまして本日の面会は無理のようだと第一秘書が申しております。ご希望に添えず申し訳ありません」
「そうですか」
仕方がない。彼女たちはベストを尽くしてくれた。
いくらハナが必殺お願い攻撃を繰り出しても、見ていない人には届くはずもない。
俯いた顔を再度あげてハナが第2交渉に臨む。
「でしたら、これをミセイエルさんに渡していただけませんか?」
言いながら、ハナが左手の薬指から指輪を抜き去り、持参した包の上に置く。
「ですから、先ほども申し上げたように、当社はアポのない方からの個人的な贈り物は受け取らない規約になっておりまして・・・」
困り顔の2人を前に、それでもハナは粘る。
「これはミセイエルさんから頂いたものをお返しするだけですから、贈り物にはなりません」
その時、エレベータ前から空気を揺らす声が飛んだ。
「それを、受け取ったら君たちはクビだ!」
突然登場したCEOの冷声に一斉に振り返った人物が凍り付く。
絶対的な自信から生まれる金色のオーラ全開で周り人間を威圧した顔がハナを見て緩む。
驚いて固ったハナにゆっくりと歩み寄ったミセイエルがさも自分の物だと言うように彼女をぎゅっと抱きしめて、宣言する。
「たとえ君がそれを外しても、僕は離婚には応じない」
そして見たこともないような蜜色の笑みを浮かべ、誘惑のフェロモンダダ漏状態で甘く囁く。
「愛してるから」
こんなゼウスは見たことがない。
周りの方がギョッとして注目しているのにミセイエルは余裕で笑、ハナは首まで真っ赤になった。
「こんなところで、何言って、何するんですか!」
「公衆の面前で愛を伝えられる夫の権利を行使したまでさ。でないと他の誰かに誘惑されてしまいそうだ」
そういって、近くの赤毛の男性を睨む。
「私のことからかってるんですか?」
「いや、第6感てやつ。それより持ってきた弁当って、あれ?」
ミセイエルの視線を追ってハナが頷くと、受付嬢が慌ててその包を捧げ持ってきた。
「ありがとう」
完璧な営業スマイルを返しハナに向き直るとその手を取って弁当包の上に乗った指輪を掴む。
それを元の左手薬指に戻すとその指先にキスを落し満足げに微笑んだ。
それから取った手を恋人繋ぎに握り変えて引く。
この流れるような動作にハナはドン引きだったが、周りの人には花や星が見えたようだ。
「お弁当を持ってピクニックに行きたいんだけれど、どうかな?」
どうかな?首を傾げるハナにミセイエルは言い募る。
「君には命令が通用しないことはすでに学習済みだからね。お伺いをすることにした」
お伺い?
「まあ、拒否は認めないけどね」
やっぱり唯我独尊傲慢男は健在ですね。
「でも・・・、お仕事大丈夫ですか?突然に予定を変えたら周りの人が困るでしょ?」
どうにかなると笑うミセイエルと、困り顔のハナに、受付嬢が顔を向ける。
「大丈夫ですわ。CEOの下す決定に弊社の社員は誰も拒否権を持ち合わせておりませんから、各自が何とか致します」
そういうと2人そろって頭を下げた。
「いってらっしゃいませ」
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