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桜久良(サクラ)イタリアに飛ぶ
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ところ変わって、こちらは日本の某県、神の山町、人口わずか一万人余りでその7割が65歳以上の過疎山村。
主な産業は林業と細々とした柑橘類の出荷で、なぁんにもない。
あるのは世話好きなおばちゃん達のお節介とも取れる親切と、春になるとそれは見事に咲く桜。
町に続く街道の枝垂桜並木は途切れることがなく山の斜面はそこかしこが山桜で薄桃色に染まる。
そういえば、インターネットが発達した最近ではサテライトオフィスなんてものが出来たっけ。
彼女が生まれ育った場所は日本のどこにでもある山村で、「木を隠すなら森に!」がぴったりな場所だ。
たとえゼウスの透視能力がいかに優れていようと、この場所にはたどり着けないだろう。
この物語の主人公『高嶺桜久良』はこの3月に高校を卒業したばかりの17歳。
4月1日のエイプリルフールだなんてい・や・だ!と本人は自分の誕生日にかなりの不満を持っている。
身長156センチ、体重40キロ台後半、小顔だがその造りはいたって普通。
肩まであるストレートの黒髪と漆黒の大きな瞳はかなりのインパクトがある。
が、力を入れる優先順位を付けるとオシャレはベスト10から大きく転がり落ちた状態で、ティーンエージャーの女子としてはかなり残念な価値観の持ち主なのだ。
おまけに性格はのほほぉんとしたゆるキャラで、人を押しのけて上にあがろうという気はサラサラない。
おかげで評価はすべてが普通。
成績表で言うならすべてが『可』、少し努力すれば『優』ぐらいまではいけると言われても、興味ないので友達のアドバイスもすべてスルー。
唯一ここ一番で見せる笑顔だけは最強で、これで頼み事をされた相手は拒否権を失うほどの威力を発揮する。
この一瞬のみなら、少女向けコミックでよくあるバラとホシを背負った主役を張れるとマブダチ達は太鼓判を押す。
信じられな~い!私は普通!すべてが『可』のポジションですぅ~。
サクラの母親の桜花(オウカ)は彼女を生んですぐに亡くなっている。
写真で見る母は、時々里帰りする叔母の里桜(リオン)に似た儚げな印象の美しい人だ。
父親は元から存在しないし写真もない。
モブキャラの彼女だが、躾と称して礼儀作法だけは祖母と叔母にきっちり仕込まれた。
おかげ様で必要とあらば、お嬢様のネコぐらいは被れます!
サクラを育てた祖母、美桜(ミオ)は旧家のお嬢様育ちで、お茶やお花の師範免許持ち、教養も高く作法をきっちりと身に付けた所作の美しい村一番の美人さんだったから。
そんなの祖母が突然亡くなったのは半年前の夏だった。
まるで虫の知らせでもあったかのように通夜の席に駆け付けた叔母のリオンは、『嫁ぎ先でも困ったことが起きて、すぐに帰らなければならないの。しばらくは連絡が取れなくなるけれど心配はいらないわ。サクラは何もせずにここで待っていて。』と言い残して、飛ぶようにベネチアへ帰っていった。
叔母のリオンは嫁ぎ先が裕福だったことから、彼女を生んですぐに亡くなった母に代わって、時々帰郷しては自分と祖母の面倒を見てくれた。
もの心ついた頃より桜が咲くサクラの誕生日前に叔母の家から迎えが来て、ベネチアを訪ねるのが年中行事となっていた。
母との思い出はないが、叔母との思い出は数えきれない。
両親のいないサクラにとって叔母リオンは甘えることができ、優しい時間をくれる数少ない人だった。
祖母を亡くした悲しみも癒えていないのに、また大好きな叔母までが消えるかもしれない。
不安に押しつぶされそうな半年を過ごしたサクラは自から行動を起こした。
無理だよ~!待ってられないよ~!
連絡が取れなくなって半年が過ぎ、何度か連絡を取ったのだが、電話は通話拒否、郵便は所在不明で帰って来る。
お城のような豪邸で何人もの使用人に傅かれて暮らしていた叔母に何があったのか?
秋が過ぎて冬になり年が明けても叔母リオンからの連絡はない。
叔母の家へは何度も行ったことがあり、行き方はわかる。
春まで待って連絡が取れなければベネチアを訪ねてみよう。
『今度の18の誕生日にはオウカお姉さまの形見のピアスを付けてお祝いをしましょうね』、と去年の誕生日に微笑んでくれたではないか。
3月1日の卒業式を終えたサクラは、気のいい町内会のおばちゃん達やマブダチに送られてバスに乗る。
サクラちゃん、イタリアのチャラ男なんかに騙されるんじゃないよ。
あんたは桜花さんや里桜さんのような美人じゃないんだ。声をかけてくる男は本気じゃないこと忘れちゃいけないよ。
困った人を見るとほっとけないバカな性格ってことを自覚して、ちっとは損得勘定も頭に入れて行動するんだよ。
バカみたいにいつもいつも相手の心を覗いて、他人の幸せばかりを優先するんじゃないよ。
まったく他人の幸せが自分の幸せって顔で笑ってちゃ相手をつけあがらせるだけなんだってことを何時が来たら学習するんだい。ホント学習能力が無いんだから。
あんたはね、働き者で、明るくて、高嶺家のお嬢様なのに気取りがなくてバカみたいに人が良すぎるんだよ。お人よしにも程度ってもんがあるだろ。
でもあんたは、気持ちのいい空間と時間を周りの者にプレゼントできる類稀な人間なんだからね。
イタリアに行ってもあんたのそばにいたい人が一杯できるよ。
だから、しっかりおやり。
ダメだったら帰ってくればいい。あんた一人ぐらい町内会で何とかしてやるよ。
まるで、嫁に行く村の娘を送り出す近所や親せきのおばちゃんの餞別のごとく、嬉しくないような!嬉しくないような?暖かい言葉を一杯頂いた。
バカ、バカて何回いうの~!
サクラは、涙を拭きながら見送る町内会の皆様に手を振り返し、熱くなった胸に手を当てて首からか掛かるオウカの形見のピアスのペンダントを握りしめた。
でも、町内会の皆様、私、今回のイタリア旅行は1週間で帰国の予定です!
主な産業は林業と細々とした柑橘類の出荷で、なぁんにもない。
あるのは世話好きなおばちゃん達のお節介とも取れる親切と、春になるとそれは見事に咲く桜。
町に続く街道の枝垂桜並木は途切れることがなく山の斜面はそこかしこが山桜で薄桃色に染まる。
そういえば、インターネットが発達した最近ではサテライトオフィスなんてものが出来たっけ。
彼女が生まれ育った場所は日本のどこにでもある山村で、「木を隠すなら森に!」がぴったりな場所だ。
たとえゼウスの透視能力がいかに優れていようと、この場所にはたどり着けないだろう。
この物語の主人公『高嶺桜久良』はこの3月に高校を卒業したばかりの17歳。
4月1日のエイプリルフールだなんてい・や・だ!と本人は自分の誕生日にかなりの不満を持っている。
身長156センチ、体重40キロ台後半、小顔だがその造りはいたって普通。
肩まであるストレートの黒髪と漆黒の大きな瞳はかなりのインパクトがある。
が、力を入れる優先順位を付けるとオシャレはベスト10から大きく転がり落ちた状態で、ティーンエージャーの女子としてはかなり残念な価値観の持ち主なのだ。
おまけに性格はのほほぉんとしたゆるキャラで、人を押しのけて上にあがろうという気はサラサラない。
おかげで評価はすべてが普通。
成績表で言うならすべてが『可』、少し努力すれば『優』ぐらいまではいけると言われても、興味ないので友達のアドバイスもすべてスルー。
唯一ここ一番で見せる笑顔だけは最強で、これで頼み事をされた相手は拒否権を失うほどの威力を発揮する。
この一瞬のみなら、少女向けコミックでよくあるバラとホシを背負った主役を張れるとマブダチ達は太鼓判を押す。
信じられな~い!私は普通!すべてが『可』のポジションですぅ~。
サクラの母親の桜花(オウカ)は彼女を生んですぐに亡くなっている。
写真で見る母は、時々里帰りする叔母の里桜(リオン)に似た儚げな印象の美しい人だ。
父親は元から存在しないし写真もない。
モブキャラの彼女だが、躾と称して礼儀作法だけは祖母と叔母にきっちり仕込まれた。
おかげ様で必要とあらば、お嬢様のネコぐらいは被れます!
サクラを育てた祖母、美桜(ミオ)は旧家のお嬢様育ちで、お茶やお花の師範免許持ち、教養も高く作法をきっちりと身に付けた所作の美しい村一番の美人さんだったから。
そんなの祖母が突然亡くなったのは半年前の夏だった。
まるで虫の知らせでもあったかのように通夜の席に駆け付けた叔母のリオンは、『嫁ぎ先でも困ったことが起きて、すぐに帰らなければならないの。しばらくは連絡が取れなくなるけれど心配はいらないわ。サクラは何もせずにここで待っていて。』と言い残して、飛ぶようにベネチアへ帰っていった。
叔母のリオンは嫁ぎ先が裕福だったことから、彼女を生んですぐに亡くなった母に代わって、時々帰郷しては自分と祖母の面倒を見てくれた。
もの心ついた頃より桜が咲くサクラの誕生日前に叔母の家から迎えが来て、ベネチアを訪ねるのが年中行事となっていた。
母との思い出はないが、叔母との思い出は数えきれない。
両親のいないサクラにとって叔母リオンは甘えることができ、優しい時間をくれる数少ない人だった。
祖母を亡くした悲しみも癒えていないのに、また大好きな叔母までが消えるかもしれない。
不安に押しつぶされそうな半年を過ごしたサクラは自から行動を起こした。
無理だよ~!待ってられないよ~!
連絡が取れなくなって半年が過ぎ、何度か連絡を取ったのだが、電話は通話拒否、郵便は所在不明で帰って来る。
お城のような豪邸で何人もの使用人に傅かれて暮らしていた叔母に何があったのか?
秋が過ぎて冬になり年が明けても叔母リオンからの連絡はない。
叔母の家へは何度も行ったことがあり、行き方はわかる。
春まで待って連絡が取れなければベネチアを訪ねてみよう。
『今度の18の誕生日にはオウカお姉さまの形見のピアスを付けてお祝いをしましょうね』、と去年の誕生日に微笑んでくれたではないか。
3月1日の卒業式を終えたサクラは、気のいい町内会のおばちゃん達やマブダチに送られてバスに乗る。
サクラちゃん、イタリアのチャラ男なんかに騙されるんじゃないよ。
あんたは桜花さんや里桜さんのような美人じゃないんだ。声をかけてくる男は本気じゃないこと忘れちゃいけないよ。
困った人を見るとほっとけないバカな性格ってことを自覚して、ちっとは損得勘定も頭に入れて行動するんだよ。
バカみたいにいつもいつも相手の心を覗いて、他人の幸せばかりを優先するんじゃないよ。
まったく他人の幸せが自分の幸せって顔で笑ってちゃ相手をつけあがらせるだけなんだってことを何時が来たら学習するんだい。ホント学習能力が無いんだから。
あんたはね、働き者で、明るくて、高嶺家のお嬢様なのに気取りがなくてバカみたいに人が良すぎるんだよ。お人よしにも程度ってもんがあるだろ。
でもあんたは、気持ちのいい空間と時間を周りの者にプレゼントできる類稀な人間なんだからね。
イタリアに行ってもあんたのそばにいたい人が一杯できるよ。
だから、しっかりおやり。
ダメだったら帰ってくればいい。あんた一人ぐらい町内会で何とかしてやるよ。
まるで、嫁に行く村の娘を送り出す近所や親せきのおばちゃんの餞別のごとく、嬉しくないような!嬉しくないような?暖かい言葉を一杯頂いた。
バカ、バカて何回いうの~!
サクラは、涙を拭きながら見送る町内会の皆様に手を振り返し、熱くなった胸に手を当てて首からか掛かるオウカの形見のピアスのペンダントを握りしめた。
でも、町内会の皆様、私、今回のイタリア旅行は1週間で帰国の予定です!
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