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伏兵のささやかな報復 その1
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ハナ・コート。
最近、よく聞く名前が口の中で転がったとき、半裸の自分の顔が驚愕に歪んだあの光景を思い出した。
2年前、豪華なベッドで眠る色香漂う整った顔を幸せな思いで眺めていた。
なのに彼は、自分を抱いたベッドの上で見知らぬ女の名を呟いた。
ハナ、と。
テレビ局の廊下に忙しない足音と、苛立ったチーフプロデューサーの声がする。
「それでヨンハ・ギーツの要求したものは準備できたのか!」
「今大至急で取り寄せています」
「最近の彼はいつもにもまして妥協を許さないからな」
語尾にはもはや諦めの響きがある。
部屋の中で、通り過ぎていく音を追うように首を動かす大輪の百合が、その声に反応するように舌打ちの大きな音を出した。
堂々とした立ち姿と醸し出される威厳が白百合の女王といわれるカサブランカに例えられるテレビや映画で活躍する女優は。
スラリと伸びた手足に負けない漆黒の腰まである長い髪とアーモンド形の黒目が印象のジュベリ・オーツ。
桜家の長姫でリンの姉の彼女は、家宝のピアスが手元にあれば桜家の当主にきっと認められるに違いないと噂される人物だった。
「次期はまだ彼女の正体に気がつかないの?どんだけボンクラなのよ!」
顔をいじっていた専属のメークアーティストが女王様の舌打ちなどという珍しいものを目にして鳩豆の顔で驚いている。
あら、失礼。
それに気がついた白百合が楚々と笑い自分の下卑た所作とらしからぬ悪態を誤魔化した。
近くにいたマネージャーがコホンと咳をして、誤魔化されないぞとばかりに、苦言を呈す。
「もっと緊張感を持っていただかなければ。ヨンハ様の冷気に充てられてしまいますよ。手がかりのないフィアンセ様を心配されて、神経質でいらっしゃいますから」
神経質などと言葉を選ぶがはっきり言って超不機嫌なのだ。
全く、どいつもこいつも。
そんなマネージャーの言葉を赤い唇を尖らせて吐き捨てる。
「だから、ボンクラだと言うのよ。これからクランクインだと言うのに迷惑千万だわ」
そう言うと気持ちを切り替えるようにフゥーと大きな息を吐く。
吐いた途端、唇と目元に悪戯を楽しむようなニヤリとした少々意地悪な笑みを浮かべた。
お二人様、かき混ぜさせて頂きます。
綺麗な顔の中にあるアイスブルーの瞳が不満で満ち満ちている。
超人気のドラマ「運命の恋人」の映画版のクランクインを目前に、ジュベリにボンクラ呼ばわりされた男はテレビ局の控室で≪物≫に話しかけるという奇行を行なっていた。
目の前のピアスを眺め、まるで配下の者に言うように命令口調で言い放つ。
「 おい、お前も桜家の家宝ならさっさと主を呼び寄せるか、主の元に案内しろ」
このところいつも持ち歩いている豪華なピアスに無茶ぶりをするが、もちろんピアスが返事をするはずもなく。
もうすでに何度目にもなるため息を吐いた敏腕マネージャーが渋い顔で釘をさす。
「いいですか。今日の記者会見で、このところのような高飛車な態度で俳優ヨンハ・ギーツの爽やかな貴公子のイメージを壊したら芸能界から引退して頂きますからね」
彼女が見つかったらサッサと引退して生活の基盤を天界に移すさ。
「祇家はあなたが俳優をするのには反対だということをお忘れなく」
何度も聞いた耳だこのセリフなんて右から左に聞き流す。
俳優業以上に夢中になれるものを無くした喪失感はハンパなく、苛立ちとなってヨンハを埋め尽くす。
天界の璃波宮からハナがいなくなってからのヨンハはトレードマークともいえる天真爛漫さを消し、少しでも気に入らないことは絶対に受け入れないし、フラストレーションをぶつけるかのようにドラマの完成度に妥協しない。
舞台挨拶のリハーサルに立った彼は、立ち位置やカメラアングル、マスコミ対応の仕方にまで重箱の隅をつつくように事細かく注文を付ける。
「僕との身長差を考えると君はあと10センチ右に寄って。後ろの人は低すぎてバランス悪いから10センチの台に乗って」
「マスコミには映画のタイトルに合わせてコンソの一粒チョコレートを配ったらどうかな」
「ハート型のかわいいやつですか?映画のイメージにピッタリでインパクトありますよね」
女性陣から声が上がり、結果ADがまた走ることになる。
100%の完成度を求める彼は、何度もやり直しを要求し、周りの者は疲労困憊なのだ。
「全く、今のあなたは欲求不満丸出しの小姑ね。鬱陶しいったらないわ」
なかなか決まらない立ち位置に、隣に立つ予定のドラマのヒロインが呆れ半分で口を開いた。
このドラマ「運命の恋人」の主役で、ヨンハよりも4才年上ということもあり大人の余裕を見せ付けてやる。
と、ヨンハに無言でひじを掴まれて舞台の袖までエスコートされた。
そしてそこにある知人や業界から送られカサブランカを指で弾いた彼がニヤリと笑う。
「そんなに余裕の態度で隣に立たれると癪だね。あなたの方こそトンビに油揚げをさらわれた気分じゃないの?」
「油揚げに逃げられたのはあなたでしょ」
行方不明になっている次期ゼウスのフィアンセを油揚げに例える自分はなかなかの強者だ。
さすがのヨンハも口をへの字に曲げた。
「別に逃げられたわけじゃないよ」
「でも、手がかりさえ見つからないんでしょ?」
祇家の総力を挙げて捜索しているにも関わらず彼女が見つからないないのはリサーチ済みだ。
言い返すことの出来ないヨンハが仕方なく話題を戻す。
「本当のところはどうだったの?ゼウスが交際宣言を否定しなかった相手は唯一あなただけだからね。恋人付き合いだったんでしょ?」
ヨンハの投げられた意地悪な質問に、自然に伸びた長い睫を伏せ、赤い唇の端を少しだけ上げて静かに自嘲する。
「付き合っていたのは確かだけれども、私は彼の恋人ではなかったの」
「5家の長姫を相手に遊んでみたってこと?」
楚々とした綺麗な笑みを浮かべたつもりだが、きっと寂しい笑みだったに違いない。
「それを承知で付き合うことを請うたのは私だから」
とても信じられないという表情に、私もよ、と返した。
でも、あの時は・・・。
初対面の彼に、天界人を妻に迎える気はないが、それでも付き合いたいか?と聞かれた。
あの頃の自分は自惚れも相当なものだったから、ゼウスの彼を夢中にさせて見せると意気込んでいた。
それこそ一から十まで彼の好みに合わせて、そのうちきっと思いが届くことを願った。
ゼウスは≪彼女≫にしか恋をしないと知っていたのに。
何て間抜けな・・・
「彼にとっては皇家の長老たちから望まぬ結婚を押し付けられないための時間稼ぎでしかないと思い知らされることが起こったの」
「何?」
「内緒。でもあれは相当堪えたわ。ホントボロボロって感じ」
そう言えば、2年前に2人の破局が伝えられ時の自分の憔悴しきった顔を思い出したに違いない。
「長姫が一方的に振られても桜家には皇家に文句をねじ込む力もないしね」
同情を乗せた顔に、乾いた嗤いで応えた。
「それで、あっさり身を引いた?5族の長姫が?」
「身を引いたつもりはないわ。振ったのは私のプライド」
耳の穴をカッポジってよ~く聞きなさいといい、爆弾を落とした。
「いたのよ!恋する女が!」
その言葉にボンクラの瞳孔が開く。
「まさか?冷人ゼウスに恋人?そんな女がいたらとっくに正妃に納まっているだろう?鶴の一声で召し上げてしまえば済むことだ」
テンションを上げて興奮するヨンハを小ばかにしたように笑ってやる。
「フフフ。本当にわかってないのね」
なにをわかっていないと言うのか?
「一瞬であなたを恋に落としたあちらの世界からの訪問者、今あなたの離宮にいないじゃない。鶴の一声で召し上げられないから欲求不満の小姑やってるんでしょ?」
ひどい言われように思わず言い訳が口を吐く。
「サクラはあちらの世界の人で、特殊ケースだよ」
本当に特殊だと思う。
次期ゼウスの能力でサクラを探しても脳裏には璃波宮のベッドの上で眠り続ける彼女しか浮かばないのだから。
なぜ透視出来ないのか?どうやって天界から姿を消したのか?今どこにいるのか?本当に謎だらけなのだ。
どんなに手を尽くしても手がかり一つ掴めず、進展しない状況に焦燥感に追われ続けている。
「次期ゼウスのあなたにも見つけられない人はいる。ミセイエル様も同じだったんじゃないかしら。一目惚れした恋人を何年も探しているけど見つけられない。宣誓式から半年たった誓簾の間でのこと覚えている?彼がリオン公妃に、本当にあちらの世界に姪はいないのか、あちらの詳しい住所を教えろと、しつこく詰め寄ったでしょ」
もちろん忘れるはずがない。
何にも固執しないミセイエルのしつこい執着を天界人誰もが異様に思ったはずだ。
「ゼウスは自分の恋人があちらの世界の人間で、リオン様の姪だと考えていたってこと?」
「リオン様の元に身を寄せるハナ・コートと突然結婚した理由なんてそれ以外に無いでしょ」
「それは、考えすぎじゃないの?ハナ・コートは、ヨークシャー出身で父母の戸籍もしっかりしているこちらの人間だよ」
「あなた、ホントにわかっていないわね」
ジュベリが鮮やかに、晴れ晴れとそしてちょっぴり意地悪に微笑んだ。
「ミセイエル様が私を仮の恋人に選んだ理由は私の髪と目が思い続ける恋人と同じ黒髪黒目だったから。ハナ・コートもあなたの婚約者も同じ黒髪黒目なのよね。それに婚約時期もほぼ同じ。これがどういう意味を持つか考えてみて」
それって???
「ゼウスの資質を持つ男はどんな女にも恋をしない。なのにミセイエル様やあなたを一目惚れさせた女の正体を考えてみることね」
いわれたことにハッとした。
僕だけは信じていなければいけないお伽噺の中に住む存在。
ダイヤモンドオウカ
桜家の長姫には、顔色の変わったヨンハの心に浮かぶ単語が見えた。
踵を返して走り出したヨンハの背中に向けてジュベリが小さな声で呟く。
正解です。
どうやってあなたがミセイエル様の奥様であるハナ・コートを自分のフィアンセのサクラ・タカミネとして取り返すかお手並み拝見しますね。
ゼウスなんて生き物は全女性の敵ですから、江戸の敵を長崎で撃たせていただきますよ。
ミセイエル様、やっと手に入れた意中の玉を強者が奪いに来ますわよ。
当て馬にされた私のさ・さ・や・か、な報復いだと思って健闘してください。
あっ、あなたの大事な子ウサギちゃんを親友のシオンと一緒に少しばかりいじらせていただきますわ。
(いやぁ、美女は本当に怖いです。プライドを傷つけられては黙っていませんよ)
(まあ、しょうがないか、と諦めてしてしまうハナもどうかと思いますけどね)
(ミセイエルさん、最低です!!!!!!!!!!!!!!!!!!ouka)
最近、よく聞く名前が口の中で転がったとき、半裸の自分の顔が驚愕に歪んだあの光景を思い出した。
2年前、豪華なベッドで眠る色香漂う整った顔を幸せな思いで眺めていた。
なのに彼は、自分を抱いたベッドの上で見知らぬ女の名を呟いた。
ハナ、と。
テレビ局の廊下に忙しない足音と、苛立ったチーフプロデューサーの声がする。
「それでヨンハ・ギーツの要求したものは準備できたのか!」
「今大至急で取り寄せています」
「最近の彼はいつもにもまして妥協を許さないからな」
語尾にはもはや諦めの響きがある。
部屋の中で、通り過ぎていく音を追うように首を動かす大輪の百合が、その声に反応するように舌打ちの大きな音を出した。
堂々とした立ち姿と醸し出される威厳が白百合の女王といわれるカサブランカに例えられるテレビや映画で活躍する女優は。
スラリと伸びた手足に負けない漆黒の腰まである長い髪とアーモンド形の黒目が印象のジュベリ・オーツ。
桜家の長姫でリンの姉の彼女は、家宝のピアスが手元にあれば桜家の当主にきっと認められるに違いないと噂される人物だった。
「次期はまだ彼女の正体に気がつかないの?どんだけボンクラなのよ!」
顔をいじっていた専属のメークアーティストが女王様の舌打ちなどという珍しいものを目にして鳩豆の顔で驚いている。
あら、失礼。
それに気がついた白百合が楚々と笑い自分の下卑た所作とらしからぬ悪態を誤魔化した。
近くにいたマネージャーがコホンと咳をして、誤魔化されないぞとばかりに、苦言を呈す。
「もっと緊張感を持っていただかなければ。ヨンハ様の冷気に充てられてしまいますよ。手がかりのないフィアンセ様を心配されて、神経質でいらっしゃいますから」
神経質などと言葉を選ぶがはっきり言って超不機嫌なのだ。
全く、どいつもこいつも。
そんなマネージャーの言葉を赤い唇を尖らせて吐き捨てる。
「だから、ボンクラだと言うのよ。これからクランクインだと言うのに迷惑千万だわ」
そう言うと気持ちを切り替えるようにフゥーと大きな息を吐く。
吐いた途端、唇と目元に悪戯を楽しむようなニヤリとした少々意地悪な笑みを浮かべた。
お二人様、かき混ぜさせて頂きます。
綺麗な顔の中にあるアイスブルーの瞳が不満で満ち満ちている。
超人気のドラマ「運命の恋人」の映画版のクランクインを目前に、ジュベリにボンクラ呼ばわりされた男はテレビ局の控室で≪物≫に話しかけるという奇行を行なっていた。
目の前のピアスを眺め、まるで配下の者に言うように命令口調で言い放つ。
「 おい、お前も桜家の家宝ならさっさと主を呼び寄せるか、主の元に案内しろ」
このところいつも持ち歩いている豪華なピアスに無茶ぶりをするが、もちろんピアスが返事をするはずもなく。
もうすでに何度目にもなるため息を吐いた敏腕マネージャーが渋い顔で釘をさす。
「いいですか。今日の記者会見で、このところのような高飛車な態度で俳優ヨンハ・ギーツの爽やかな貴公子のイメージを壊したら芸能界から引退して頂きますからね」
彼女が見つかったらサッサと引退して生活の基盤を天界に移すさ。
「祇家はあなたが俳優をするのには反対だということをお忘れなく」
何度も聞いた耳だこのセリフなんて右から左に聞き流す。
俳優業以上に夢中になれるものを無くした喪失感はハンパなく、苛立ちとなってヨンハを埋め尽くす。
天界の璃波宮からハナがいなくなってからのヨンハはトレードマークともいえる天真爛漫さを消し、少しでも気に入らないことは絶対に受け入れないし、フラストレーションをぶつけるかのようにドラマの完成度に妥協しない。
舞台挨拶のリハーサルに立った彼は、立ち位置やカメラアングル、マスコミ対応の仕方にまで重箱の隅をつつくように事細かく注文を付ける。
「僕との身長差を考えると君はあと10センチ右に寄って。後ろの人は低すぎてバランス悪いから10センチの台に乗って」
「マスコミには映画のタイトルに合わせてコンソの一粒チョコレートを配ったらどうかな」
「ハート型のかわいいやつですか?映画のイメージにピッタリでインパクトありますよね」
女性陣から声が上がり、結果ADがまた走ることになる。
100%の完成度を求める彼は、何度もやり直しを要求し、周りの者は疲労困憊なのだ。
「全く、今のあなたは欲求不満丸出しの小姑ね。鬱陶しいったらないわ」
なかなか決まらない立ち位置に、隣に立つ予定のドラマのヒロインが呆れ半分で口を開いた。
このドラマ「運命の恋人」の主役で、ヨンハよりも4才年上ということもあり大人の余裕を見せ付けてやる。
と、ヨンハに無言でひじを掴まれて舞台の袖までエスコートされた。
そしてそこにある知人や業界から送られカサブランカを指で弾いた彼がニヤリと笑う。
「そんなに余裕の態度で隣に立たれると癪だね。あなたの方こそトンビに油揚げをさらわれた気分じゃないの?」
「油揚げに逃げられたのはあなたでしょ」
行方不明になっている次期ゼウスのフィアンセを油揚げに例える自分はなかなかの強者だ。
さすがのヨンハも口をへの字に曲げた。
「別に逃げられたわけじゃないよ」
「でも、手がかりさえ見つからないんでしょ?」
祇家の総力を挙げて捜索しているにも関わらず彼女が見つからないないのはリサーチ済みだ。
言い返すことの出来ないヨンハが仕方なく話題を戻す。
「本当のところはどうだったの?ゼウスが交際宣言を否定しなかった相手は唯一あなただけだからね。恋人付き合いだったんでしょ?」
ヨンハの投げられた意地悪な質問に、自然に伸びた長い睫を伏せ、赤い唇の端を少しだけ上げて静かに自嘲する。
「付き合っていたのは確かだけれども、私は彼の恋人ではなかったの」
「5家の長姫を相手に遊んでみたってこと?」
楚々とした綺麗な笑みを浮かべたつもりだが、きっと寂しい笑みだったに違いない。
「それを承知で付き合うことを請うたのは私だから」
とても信じられないという表情に、私もよ、と返した。
でも、あの時は・・・。
初対面の彼に、天界人を妻に迎える気はないが、それでも付き合いたいか?と聞かれた。
あの頃の自分は自惚れも相当なものだったから、ゼウスの彼を夢中にさせて見せると意気込んでいた。
それこそ一から十まで彼の好みに合わせて、そのうちきっと思いが届くことを願った。
ゼウスは≪彼女≫にしか恋をしないと知っていたのに。
何て間抜けな・・・
「彼にとっては皇家の長老たちから望まぬ結婚を押し付けられないための時間稼ぎでしかないと思い知らされることが起こったの」
「何?」
「内緒。でもあれは相当堪えたわ。ホントボロボロって感じ」
そう言えば、2年前に2人の破局が伝えられ時の自分の憔悴しきった顔を思い出したに違いない。
「長姫が一方的に振られても桜家には皇家に文句をねじ込む力もないしね」
同情を乗せた顔に、乾いた嗤いで応えた。
「それで、あっさり身を引いた?5族の長姫が?」
「身を引いたつもりはないわ。振ったのは私のプライド」
耳の穴をカッポジってよ~く聞きなさいといい、爆弾を落とした。
「いたのよ!恋する女が!」
その言葉にボンクラの瞳孔が開く。
「まさか?冷人ゼウスに恋人?そんな女がいたらとっくに正妃に納まっているだろう?鶴の一声で召し上げてしまえば済むことだ」
テンションを上げて興奮するヨンハを小ばかにしたように笑ってやる。
「フフフ。本当にわかってないのね」
なにをわかっていないと言うのか?
「一瞬であなたを恋に落としたあちらの世界からの訪問者、今あなたの離宮にいないじゃない。鶴の一声で召し上げられないから欲求不満の小姑やってるんでしょ?」
ひどい言われように思わず言い訳が口を吐く。
「サクラはあちらの世界の人で、特殊ケースだよ」
本当に特殊だと思う。
次期ゼウスの能力でサクラを探しても脳裏には璃波宮のベッドの上で眠り続ける彼女しか浮かばないのだから。
なぜ透視出来ないのか?どうやって天界から姿を消したのか?今どこにいるのか?本当に謎だらけなのだ。
どんなに手を尽くしても手がかり一つ掴めず、進展しない状況に焦燥感に追われ続けている。
「次期ゼウスのあなたにも見つけられない人はいる。ミセイエル様も同じだったんじゃないかしら。一目惚れした恋人を何年も探しているけど見つけられない。宣誓式から半年たった誓簾の間でのこと覚えている?彼がリオン公妃に、本当にあちらの世界に姪はいないのか、あちらの詳しい住所を教えろと、しつこく詰め寄ったでしょ」
もちろん忘れるはずがない。
何にも固執しないミセイエルのしつこい執着を天界人誰もが異様に思ったはずだ。
「ゼウスは自分の恋人があちらの世界の人間で、リオン様の姪だと考えていたってこと?」
「リオン様の元に身を寄せるハナ・コートと突然結婚した理由なんてそれ以外に無いでしょ」
「それは、考えすぎじゃないの?ハナ・コートは、ヨークシャー出身で父母の戸籍もしっかりしているこちらの人間だよ」
「あなた、ホントにわかっていないわね」
ジュベリが鮮やかに、晴れ晴れとそしてちょっぴり意地悪に微笑んだ。
「ミセイエル様が私を仮の恋人に選んだ理由は私の髪と目が思い続ける恋人と同じ黒髪黒目だったから。ハナ・コートもあなたの婚約者も同じ黒髪黒目なのよね。それに婚約時期もほぼ同じ。これがどういう意味を持つか考えてみて」
それって???
「ゼウスの資質を持つ男はどんな女にも恋をしない。なのにミセイエル様やあなたを一目惚れさせた女の正体を考えてみることね」
いわれたことにハッとした。
僕だけは信じていなければいけないお伽噺の中に住む存在。
ダイヤモンドオウカ
桜家の長姫には、顔色の変わったヨンハの心に浮かぶ単語が見えた。
踵を返して走り出したヨンハの背中に向けてジュベリが小さな声で呟く。
正解です。
どうやってあなたがミセイエル様の奥様であるハナ・コートを自分のフィアンセのサクラ・タカミネとして取り返すかお手並み拝見しますね。
ゼウスなんて生き物は全女性の敵ですから、江戸の敵を長崎で撃たせていただきますよ。
ミセイエル様、やっと手に入れた意中の玉を強者が奪いに来ますわよ。
当て馬にされた私のさ・さ・や・か、な報復いだと思って健闘してください。
あっ、あなたの大事な子ウサギちゃんを親友のシオンと一緒に少しばかりいじらせていただきますわ。
(いやぁ、美女は本当に怖いです。プライドを傷つけられては黙っていませんよ)
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