優しい時間

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伏兵のささやかな報復 その2

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 ダイヤモンドオウカという言葉さえ知らないセイエルは、ヨンハの婚約者が自分の妻だということに困惑しながらも、懐深くしまおうと悪戦苦闘し、ハナの正体を知ったヨンハが婚約者を取り戻そうとしのぎを削る戦いが始まりそうですが、自分の立場を知らないハナはいたって能天気です。

 「ハナ、久しぶり~ 里帰りしたヨークシャーで幼馴染にばったり会って結婚したなんて、結婚詐欺にあったのかと思って心配したのよ」 
 久しぶりにハノラナからやって来たサラがギュッとハナを抱きしめる。
 「ほんと、詐欺にあった気分だわ」
 げっそりするハナにサラが抗議の声を上げる。
 「そのセリフに指導!リークグループに努めてるバリバリのエリートでしかも男前だなんて譲ってほしいくらいよ。ちょっと神様に似てるしね。もしかして親戚?」
 メルタの地上人はゼウスのことを神様と呼ぶと最近知った。
 確かにあの写メでは、いつも能面ヅラで紙面を飾る神様と同一人物とは思うまい。
 ミセイエルと暮らし始めてすぐに、ハノラナに帰ってこないハナを心配したサラからラインがはいった。
 (^^ハナ、リークグループに努める人と結婚してデリカで暮らすことになったと聞いたけど、騙されているんじゃないの?)
 そのラインを、これを見ろ!とばかりにミセイエルに突きつけたら、顰めた顔で携帯を奪い取られた。
 取り返そうとするが片手で阻止され、ピピピと勝手に操作した手で整った顔の横に持っていく。
  『halo、サラさんですか?ハナの夫のミセルです。ハノラナでは妻がお世話になりました。僕の押切でやっと彼女と結婚することが出来て、甘い新婚生活を送っています。こちらにお出かけの際にはぜひ当家に遊びにお越しください』
 などとどこの御曹司かと思わせる口ぶりで、ついでとばかりにランさんに取らせたペントハウスで高級カウチに並んで座る写メを送りつけた。
 顔がだらしなく緩んでますよ、とランにあきれ顔で言われている。
 「あなたの名前はいつからミセルになったの?!」
 「子供の頃の愛称だよ。リークグループのCEOだと名乗ったら引かれると思うけどいい?」
 と反撃されては押し黙るしかない。
 今回の外出も危ないからランを連れて行けというミセイエルに、私は5才の子供じゃな~い。どこの世界にマブダチデートに保護者を連れて行く18才がいるの!と喚いた。
 それでも危ないと文句を垂れるので、サラはこちらに着いて初めてできた大事なお友達だ、あなたのせいでマブダチ関係が壊れたら一生許さないから!と言い捨てると、やっとお一人様お出かけの許可が下りた。
 「SPを何人か付けるから」
 「サラに気づかれたらここには帰ってきませんから」
 少々脅しの捨てセリフをプラスしてやった。
 「・・・」
 反論がないのは了承の意味ですね。
 という訳で、ルンルンでサラとデリカブラリを楽しんでいる。
 だってランさんとじゃテーマパークでのソフトクリームの食べ歩きや、ひやかしのウインドーショッピングなんてできないからね。

 「ね、どっか行きたいとこある?」
 久しぶりのファーストフード店でポテトを食べているとるとサラが聞いてくる。
 声に探るような気配があるのは気のせい?
 「特にないけど、どっか行きたいとこあるの?どこにでもお供しますよ」
   「実はね」の声にしてやったりの感があって、しまった!と思ってももう遅い。
   後悔先に立たずだった。
   「もうすぐ公開される『運命の恋人』のプレミア試写会のチケットが手に入ったの!」
   ハナの両手をキュッと握り込むサラの顔にあるのは期待膨らむウルウルキラキラの眼差だ。
   「それって、あなたの大好きな人が出てる恋愛ドラマ?」
   そんなにいいかね、あの綺麗な顔の変態さんが、とは口が裂けても言えない。
 加えて、ハナは恋愛映画がちょっぴり苦手。
 ラヴシーンは目のやり場に困るし、ハッピーエンドで終わるラストシーンには『そんなにうまくいくかい!恋は失恋してなんぼでしょ!』とツッコミを入れてしまう。
   そんな顔しないでよぉと、眉下がりの困り顔で眺められた時に勝敗は決まっていた。
 「じつは、今日の試写会は、上演後に出演者の何人かが舞台挨拶に立つホントのレアチケットなのよ。どうしてもハナと見なくちゃいけないの!お願い!付き合って!」
  手を合わせてこのとおり、と拝まれれば断る訳にもいくまい。
 「仕方ない。お供します」
 『どうしてもハナと見なくちゃいけない』という言葉に危機管理能力の高い者なら???となるはずだが・・・
 無論そんなレアなプレミアムチケットを一般庶民が手にするなどという偶然ははっきり言って皆無だ。
 リークホテルに宿泊した芸能関係者から『ハナさんを誘えるならこのチケットを差し上げます』と言われて渡されたペアチケットなのだ。
 拝み倒してでもハナを同伴しない訳にはいかない事情がサラにはあった。
 その事情を作ったのは大輪の百合。
 チケットがなければ館内には入れない。
 事情を知ったミセイエルがあわてて手配してもすぐには準備できないだろう。
 もしできたとしても席はかなり遠いはずで、隙を見てハナに着くSPを巻くことは十分可能だと踏んだ。
 ガードが固くてなかなかハナに接触できない『運命の恋人』のヒロインが考えた苦肉の策なのだ。
 
 「ねえ、ハナあなたヨンハ様に借金があるとか言ってなかった?」
 「借金というか空港でぶつかった時の弁償が出来てないの」
 「ねえ、それを理由に彼に声を掛けてお近づきになれないかな」
 「じゃあ、もし彼が舞台に出て来たら、大声で叫んでみるわ」
 口元に両手を当ててヤッホーを叫ぶ形をとったハナが小声で叫ぶふりをする。
 「サングラスの修理代とクリーニング代をお支払しまーす。おいくらですかー」
 開演ぎりぎりで目的地の映画館に着いたハナとサラが、冗談を言い合ってゲラゲラ笑いながら館内へ消えて行く。
 2人の目的地に気がついたSPは滂沱の冷汗をかきながらあわてふためいて思念を送った。
 <目的地は運命の恋人のプレミアム試写会のようです。今館内に入りました>
 受け取った思念にミセイエルは苛立った。
 あそこは確か彼女が舞台あいさつに立つはずで、正直ハナとは合わせたくない相手だった。
 タイムリミットは2時間。
 結果、要領を得ずもたつく新しい開発プロジェクトの報告者を怒鳴りつけるというらしからぬことをやらかして皆を怯えさせた上にその場を即退場という空間移動をした。
 え~またオレが後始末?か?
 後に残されたヨンサンにはその場の収集とフォローといういらぬ仕事が追加された。
 
 恋愛映画上映中の明りの落ちた館内で、あり得ないうら若き2人の乙女のボソボソ声
 中央最前列の指定席でハナは首が痛いと文句を垂れ、甘いシーンに関係なくポップコーンを頬張るのをサラが三角目で睨んでいる。
 「甘い雰囲気を堪能しに来たのにムードを壊さないで」
 「だって映画といえばポップコーンを食べながら笑うのが定番でしょう」
 「それは喜劇の時。どこの世界に恋愛映画見ながらコーン頬張る乙女がいるのよ」
 ここにいるとばかりに自分を指すハナにサラが頭を抱えた。
 「もう!あなたの女子力どうなってるの!?それでよくあの夫をゲットできたわね!」
 「ゲットしたんじゃないわ。されたの!」
 2人は同時にそれぞれの思惑の籠っため息を吐いた。
 ホント詐欺にあった気分よ。
 その中年女子みたいな価値観をなんとかしなさいよ。

 『君が何者であっても愛している』という決めゼリフと共にヒロインを抱きしめる感動のシーンで幕が下り館内に明かりがともる。
 静まり返った空間に雑音が混じるようになってハナとサラはトイレに立った。
 「ねえ、感想を同時に言い合わない?」
 サラの提案にハナが頷くと同時にせ~のと掛け声をかけ、同じ感想に大笑いする。
 「「あなたとは2度と恋愛映画は見ない!」」
 レストルームの入り口でサラを待っていると、自分を見ていた黒髪黒目の美しい顔がニッコリと微笑む。
 花が開く笑顔とはまさに彼女のことだろう。
 いや~背中に百合を背負っているよ!世の中にはあんなに綺麗な人がいるんだ!あれはもう別世界の人だなとひとしきり感嘆。
 レストルームで念入りの化粧直しを終えて出て来たサラに、あなたの負け、と声を掛けたら怒られた。
 ついゴメン、でも、だって。

 幕間が終わり明りの落ちた館内は舞台にのみライトが充てられている。
 その中を舞台衣装を着たキャスト達がほれぼれするウォーキングで入って来るとオオォというどよめきが起きた。
 もちろん中央にいるのは芸能界のカサブランカの異名をとるジュベリ・オーツその人だ。
 司会者に紹介された人がそれぞれ短い挨拶をしていく。
 舞台の上にヨンハの姿がないのに気がついたハナは、隣に座るサラに小声で囁いた。
 「彼、いなくて残念だね」
 「うん」
 一通りの挨拶の後、このプレミアムチケットの最大の売りである客とのやり取りコーナが始まった。
 ビンゴゲームの要領で司会者が座席番号を引き、当たった者が舞台上の俳優や女優に質問や、要望を伝え、それに応えるというものだ。
 F-23番さんという司会者の声にスタッフが走り手に持ったマイクを翳す。
 「ジュベリさん。2年前に神様に失恋したっていう噂は本当ですか?」
 いつもならそんな質問には、すいませんプライベートな事ですのでとマネージャーが言葉を濁し、質問した記者を即出入り禁止にするのだが。
 今日のジュベリは待ってましたとばかりに相好を崩した。
 視線を移動させて最前列の中央に座る少女に向かって艶やかに微笑む。
 「ええ、ベッドの上で私じゃない女の名前を呟いたのよ、その男。信じられないぐらいデリカシーがないから、即お別れしたの」
 思いもよらぬ爆弾宣言に会場がどよめく。
 さらに、彼女の爆弾トークは止まらない。
 「腹が立つから、神様とその恋敵をここに呼ぼうかしら。あなた舞台に上がって来てくれないかな」
 小首を傾けて吐くそれは彼女の中で何日も前から決まっていセリフだ。
 少々意地悪で魅力的な笑みを乗せた美しい顔がハナに向けられ、真っ直ぐに出した人差指は間違いなく彼女の顔を指していた。
 
 ???私ですか???
      
 それこそ鳩豆の顔でキョトンとするハナを司会者が舞台に上がるように急かし、マイクを持ったスタッフが彼女の腕を引っ張る。

 (ぎゃ~修羅場ですか?ここであの方とこの方の殴り合いが始まるんですか~?)  
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