優しい時間

ouka

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あま~い?デート後半戦

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 突然始まったミセイエルとのデープキスは、後頭部をガッツリ押さえ込まれて顔を振っても腕を突っ張ても唇が離れることはなく、息を継ごうと口を開けると今度は舌を入れられて、口の中を嘗め回された。
  息は続かず唇を緩めると口角から唾液が零れ落ちて顎を伝う。
 それを追うようにミセイエルの唇が移動し、最後にハナの顎をぺろりと舐めた。
   離れた顔を一発殴ろうと振り上げた右手は難なく空中で捉えられた。
 睨み上げて猛抗議しようにも頭を胸にギュッと押し付けられて今度は首がちっとも動かない。
 優しい手つきだが、力を入れられてはとても敵わない。
 はあはあと息を切らしながらも何とか出す声が、切れ切れのかすれた声が弱々しくて腹立たしい。
 「なんてこと、するんですか!私には、好きな人がいるんです。好きでもない人と、こんな事したくありません」
 ハァハァと文句を言うハナに彼が尖った声で異議を唱えてきた。
 「君の好きなヤツなんて関係ないね。僕は夫の権利を行使したまでだ。言っておくが舌を出して誘ってきたのは君だからね」
 「私にそんなつもりはなかったわ」
 ハアァ~自覚なしか。
 ミセイエルが頭の上で呆れたようなため息を吐く。
 「ハナ、ちょっと、考えてみてよ。僕は、何度も言ったよね。キスもしたいしSEXもしたいって。その僕の腕の中でかわいい顔で妻がキスしてくださいとばかりに舌を出して来たんだよ。こういう流れになるのは当然だ。そんなつもりはなかったと言ったって男には通用しない」
 理路整然と説明されると、自分にも油断はあったし甘い空気に流された部分もあったと反省もする。
 今回は、あれだ。犬にかまれた。そうだ、こいつはポチだった。人間の思考回路を持ち合わせていない、本能で行動する犬だ。それを失念していた自分も悪かった。
 と、ブツブツと何やら呟いて、自分の気持ちに折り合いをつける行動に出る。
 力の抜けたミセイエルの胸を右腕でグッと押し、ドッグトレーナのごとく黒い瞳を睨みあげて右手を出して叫んだ。
 「ポチ、お手!」
 「はぁ?」
 「いいから、お手!」
 再度繰り返して命令を出し、上に向けた手のひらを上下に振って催促してみる。
 眉を顰めて首を傾げるミセイエルには何の事だかわからないのだろう。
 いやわかりたくないもかもしれないがそんなことは無視だ。
 気持ちのままに出した手をミセイエルに上から優しく握り込まれて満足したハナは彼の頭をワシワシとかき混ぜる。
 「よしよし、許す」
 ???
 ミセイエルにとっては全く理解できない行動だが、それでもハナがニコリと微笑んだのを見て、まあいいかと思う。
 ハナの笑顔につられてミセイエルも微笑み返す。
 「ミセイエルさん。お願いがあるんです」
 「何だい?僕にできることなら何でも聞くよ」
 ホントですか!
 期待を込めた面持ちで秘密を打ち明けた。
 「私はこちらの人間ではありません。5ヵ月前にこちらの世界に迷い込んだあちらの人間です」
 「うん」
 うん?あれ?
 「叔母は、あなたのお母さまと色々あった前ゼウス様の公妃だったリオンです」
 「知っている。それで?」
 コウレイには色々な事に無知だと随分なじられたのだが、特に驚いた様子もなく涼しい顔で先を促された。
 「そんな私がこちらにいては誰も幸せになれません。だから、あなたの力で私を元いた場所に飛ばしてください」
 瞬間、それまで余裕を見せていたミセイエルの視線が凍ったことに気づけないままハナはさらに続ける。 
 「お願いします。あなたになら出来るんでしょ?」
 ミセイエルから零れた言葉は相手を突き刺すほどの強い意志を持っていた。
 「断る!」
 その強さに一瞬怯んだが引き下がることはできない。
 「どうして!私がいなくなれば愛人騒動も起こらないし、ゴシップに傷つっかずにあなたもコウレイさんと結婚できます。それにアサオだって私とリンの板挟みになることもないんです」
 ミセイエルの思考はアサオというの名前が出たことで回りだす。
 君がいなくなれば皆幸せになる?僕は不幸のどん底だ!死んでも君を帰さない!
 「僕がコウレイと結婚?どういう事?」
 「桜家のゴッシップ記事やあなたへのバッシングでリークグループの経営不振報道が出る少し前にコウレイさんが訪ねて見えたの」
「え?コウレイが来た?」
 初めて聞かされる事実に驚きを隠せない。
 「ええ、とてもお綺麗で聡明な方ですね。天界のことも随分お詳しくて、ゼウス様の資質を持たれたあなたは女性を愛せない特性をお持ちだとか。愛情を期待した結婚など望んではいけないと言われました」
 淡々と語るハナにミセイエルが首を傾げる。
 「僕はゼウスの資質がないのかな?君を15年以上愛している」
 またそんないい加減なことを。
 「私たちが出会ったのは5ヵ月前ですよ」
 「君が幼すぎて覚えていないだけだ」
 真面目な顔でそう返されても全く記憶になかったのでスルーパス。
 「あなたの妻を名乗るには、ゼウスのパートナーとして天界での女性陣を統率できる能力が必要だと言われました」
 「僕は、10年前から君以外の妻を持つつもりはないけどね」
 何を言っているんだ?全くかみ合わないままに2人の間で会話が進んでいく。
 「あなたがいかに優秀でゴージャスで超大物かという事も教えられました」
 「僕が何者でも、僕が選んだ妻は君だよ」
 「あなた方は天界が認める婚約者同士なのに、私は本当に何も知らなくて、あなたのペントハウスにまで入り込んで、自分のお城まで作っちゃって、コウレイさんが激怒したのも仕方ないんです」
 「天界人の全員が何を言おうと、僕が承認しなければただの雑音でしかない」
 どんだけ唯我独尊なんだ!この男は!
 「君に余計な入知恵をしたコウレイもだが、あれほど詳細な報告を厳命してあったのにコウレイの訪問を報告しなかったランは懲罰の対象者だな」
 零度の眼差しと声には凄みがあって、ハナを青ざめさせる。
 「ごめんなさい。私がランさんに口止めしたんです。コウレイさんはものすごい剣幕で、お酒も少し入っていたようで言葉遣いもひどかったからランさんも正直に話せなかったんだと思います」
 眉を顰め言葉を濁すハナを見てミセイエルがその先を代弁する。
 「酒で正体を無くすほど酔っぱらっていた彼女は、僕に聞かせられないような言葉で君をバッシングしたんだね?プライドの高い彼女が君を呼びつけるのではなく出向いてきたということで相当な事をしたと想像できるよ」
 愛する女を傷つけられて怒りを抑えるのに必死なミセイエルとは対象にハナが彼女を援護する。
 「彼女の気持ちを考えると、とても責める気にはなれないの。ずうっと好きでこの人と結婚するんだと思って待っていたら、いつの間にかトンビに油あげをさらわれていたんですもの。トンビが憎らしくて追っ払うのは当然よ」
 そう聞いて、ミセイエルの顔が曇る。
 「じゃあ、君もリンのところに殴り込むのかい?」
 咄嗟に首をブンブンと横に振りながらハナの瞳が驚きに丸くなる。
 「リンは私の恩人よ。あなた私の好きな人が誰なのか知っていたの?」
 ミセイエルは淡々と答える。
 「ああ。それもゼウスの特技だからね。それで君はアサオを取り戻しに行くのかい?」 
 透視の能力は見たいモノは見れるが気に入らないからといってそれを止めることはできない。
 あの日、タカネ・コートの庭でアサファが君を抱きしめるのを止められなかったように。
  ミセイエルの表情は沈み、ハナは照れくさそうに笑う。
 「そうしたいけれど、アサファさんは納得して今の道を選んだのだから私に怒鳴り込む権利はないわ。それにあちらの妻は私より数段上のランクですもの。返り討ちにあっちゃうわ」
 ハナの言葉を腹立たしい思いで聞きながら、ミセイエルは何とか気持ちを切り替えた。
 「自分の妻に他の男を愛していると宣言される夫は僕ぐらいだろうね。でもずっと泣き暮らしている妻よりはいいかな」
 それはお互い様だとハナが笑う。
 「夫に婚約者がいる妻はいないでしょ。それにその人に怒鳴り込まれる体験をする妻も奇特だと思いますよ」
 力を抜いて何でもないことのように言うハナの二の腕を掴んで自分と向き合わせて、しっかりと視線を合わせたミセイエルが宣言する。
 「君が誤解しているようだから、はっきり言っておくけど、僕と彼女の関係は恋人でも婚約者でもないよ。むしろ迷惑な存在だ」
 ムキになったミセイエルをハナが軽くいなす。
 「あなたのペントハウスにある家具やインテリアや壁紙に至るまで全てがコウレイさんがおねだりしたもので構成されていると説明された上に、お二人の熱い夜を熱弁されて、オマケに彼女の寝たベッドの使い心地について質問を受けた後では説得力はないわね」
 「それって、僕のベッドで彼女が寝たってこと?」
 「そう聞こえましたけど。ミセイエルさんがモテるってことは十分聞かされましたから、教えられたようにあなたがどなたと浮名を流しても許して差し上げます」
 自分の吐いた嫌味に満足したハナがニコニコと嬉しそうに語る。
 ハナの受け答えにミセイエルはどうしょうもないと言うように首を横に振って大きなため息を吐いた。
 「予定変更だ。家へ帰る」

 (ちょっとちょっと、ハナさん、記念すべきファーストキスを犬に噛まれた事件として処理するなんて、それでも女子ですか!!!??? もっと女子力を上げなさい!)
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