優しい時間

ouka

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空港での出会い その2

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 異次元移動をした疑いをかけられたもう一人の地上での職業は俳優。
 祇家の主要人物は行政に携わる者が多いのだが、彼は周囲の反対を押し切って俳優を続けていた。
 出番待ちのスタジオ内で、今風にカットされた長めのプラチナブロンドに緩めのウエーブをかけられながら経済新聞の活字を追う瞳の色はアイスブルー。
 甘い造りの綺麗な顔が、側近に次の予定を聞かされて天を仰ぐ。
 「その仕事は断ってくれと、お願いしたよね!?」
 「これはお父様の絶対命令ですし、あなたが新妻とエリナデパートで買い物をしている映像をスポンサーは求めていますから」
 「納得できないな。どうしてエリナデパートのコマーシャルに、新婚映像が必要なの?」
 「新婚のあなたが愛する妻を優しく扱う映像が欲しいそうです。でも本音は降るような縁談をことごとく無視するあなたへの5族からの嫌がらせです。ですからどんなに嫌がってもこの仕事は受けてもらいます」
 いかなる反論も受け付けそうもない側近の顔を見て、諦めのため息が出る。
 「確かエリナデパートの経営者はあそこの家だよね?で、相手は?」
 「ええ、もちろん炎家のお嬢様です。炎家ではどんなに見合いの場をセッティングしても断られるので、このような形を取ってでも出会いの場を作りたいのでしょう。それにお父様もあなたの結婚には少なからず焦りを覚えておいでですから少々強引なのは仕方ありません」
 「セナ・エンね。最近出てきたやたらプライドの高い炎家のお姫様か。いやだね」
 「では誰ならOK何ですか。名前を上げてくれたらたらすぐに手配しますよ。この際あなたが興味を示す女性がいるなら、祇家は一気に結婚に持ち込みたいくらいの勢いです」
 「ダイヤモンド・オウカ。僕だけはその存在を信じなくちゃいけないからね」
 この即答に側近兼マネージャーのヨンジュウンはやれやれまたかという顔をした。
 ヨンハよりも5歳年上の彼は祇家の分家の長子でどんな記憶も塗り替えてしまう高い能力を持っていて、今は本家に養子に入ってヨンハの片腕として働くの義兄だ。
 「そんな女性は存在しません。前ゼウスが言ったことを何時まで根に持つつもりですか」
 すかさず否定してくる相手の声も、甘い笑顔でスルーする。
 「撮影の場所はセットではなく、ゲリラ撮影で。相手はその場で僕が決める。だから携帯ビデオはいつも持っていて」
 そんな行き当たりばったりの条件を出されてもうこれ以上は譲歩できないとばかりヨンジュンが詰め寄る。
 「いいですか、ヨンハ・ギーツさん。そこまでいうからには実態のある女性を相手に甘い新婚生活を演じていただきますよ。でないと俳優をやめて政治家をやっていただくことになります」
 とにかく少しでも気に入った女性が見つかれば次の手を打つことが出来る。なんたって結婚はおろか恋人も作ろうとしないのだから。
 こんな切り返しに次期ゼウスのヨンハ・ギーツという今人気絶頂の俳優は自信たっぷりな極上な笑みを浮かべた。
 
 地方ロケに向かうために空港の入り口に立ったところで、SP兼付き人にこれからの予定を確認しようと右に向いた時、顔にかかる髪が鬱陶しくてかき上げようと上げた左手ひじに軽い衝撃があった。
 無防備に立ったままで受ける横からの負荷に人は弱い。
 次に体全体を左横からドンと押されて見事にすっころんだ。
 気がついた時にはサングラスが飛んで、ずぶ濡れの女が自分に馬乗り状態でのっかている。
 その女が自分の上で濁った悲鳴を上げる。
 「うぎゃっ!」
  こんなに不様に転んだことも、意図せず押し倒されたことも、まして自分の上で品のない悲鳴を上げる女なんてどれもが初体験だ。
 「うぎゃあ?」
 怒りの混じる声で応じると、女がゆっくりと顔を上げる。
 呆然と、半ば放心状態の顔。
 自然と自分の顔に不愉快という三文字が刻まれていくのがわかる。
 「まったく、他人にぶつかった時にいう第一声は、可愛さの欠片もない、うぎゃじゃないだろう。おかげでこちらのシャツまでびしょ濡れだ」
 彼女を押しどけて落ちたサングラスを拾いながら、胸元を払う。
 低く抑えた怒りの声を出すと、彼女は慌てて立上がり姿勢を正し深々と頭を下げたままの静止状態になった。
 「ごめんなさい!本当にごめんなさい!。シャツとサングラスは弁償させていただきますから」
 慌てた声とそんな姿勢でひたすら謝られては、諦めるしかない。
 ハア~
 息を吐いて、怖々上げられた彼女の顔にあるものは驚愕。
 見慣れたものだった。
 自分の容姿を見た人間がまず最初に示す驚きだ。
 その後には賞賛や憧れが続き、少し遅れて染まっていく赤い顔に、はにかみが乗る。
 自分のオーラに充てられた女性は大概がポーとして我を忘れ口もきけなくなり、モジモジと恥ずかしそうにうつむく。
 そうなるだろうと疑いもしなかった目の前の女はしかし、強い意志を持つ視線を真っ直ぐに向けて開口一番こう言った。
 「そのシャツとサングラスおいくらですか?私あまりお金がなくて高いとお支払は分割になってしまいますが大丈夫でしょうか?」
 その反応に、その問いに思わずあんぐりと口を開けそうになる。
 第一の関心ポイントはそこ?!!僕じゃなくて?金?!!この顔をまじかに見てその反応?
 その後自分の世界に入ったのか何やらブツブツ言っている。
 僕のことなど完全無視。
 困り果てて少しハの字に下がった眉の可愛さと、予想もしない彼女の価値観に思わずしり上がりな口笛が出た。
 すると、彼女の表情がムッとするものに変化する。無防備な心がダダ漏れで顔に出るの素直さに好感が持てた。
 幼さの残る顔と小柄な背丈、加えて雨に濡れたスッピンの顔が若さを強調していて、年は15歳前後か?
 活き活きとした表情と、ノーメイクでも気にならないきめ細かな白い肌。よく見ると整った顔立ちに興味をもつ。
 「OK。弁償は免除するよ」
 彼女にほっとしたような、期待するような気持ちが見える。
 我ながら少々強引で突飛な誘いだと思うが、ヨンハ・ギーツに誘われて断る女はいない。
 「僕は今妻になってくれる人を探している」
 彼女は顔全体に?マークを山ほど乗せた。
 「あなたの言っていることが理解できません」
 まさか、僕のことを、この顔を知らない?
 「君、どこから来たの?まさか異世界人?」
 「・・・・・」
 彼女が僕を、不審人物か、かわいそうな人を見るような目で見る。
 慌てて胸の前で両手の指を開いてパアを作り左右に振って全否定。
 根拠なく異世界人かと疑うのは失礼だと思いなおす。
 「ごめん、冗談だ。とにかく僕は今妻になってくれる人を探していて、君をスカウトしているんだけれど、勿論OKだよね」
 説明の途中で、腑に落ちない、何を言っているんだろう、あ、マジかわいそうな人なんだ、と表情は動いていく。
 どう説明しようかと考えていると彼女が動いた。
 何かを仕掛けるように、まるで呪文でも唱えるように身構える。
 すると一瞬にして目の前の女が纏う空気が変わた。
 見たことのない金色の笑顔を作り、柔らかな声で歌うように言う。
 「弁償しなくていいなら助かります。私急いでいますので失礼しますね」
 ニコリと笑うと黒光する瞳がグニャリと三日月型になり、そこから金色の光が溢れ出た。
 その光に僕は絡め取られた。
  
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