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売り上げに協力します!
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ハナ達と出会う少し前、ノアはここ数日夏祭り会場の見回りを行っていた。
露店を出すにはかなり高い場所代を払わなければならない。
特に広場に近いほど地代は上がるため、しっかりと売り上げがある人気のものが中心に来る。
賑わっている夏祭りも中心から離れるほど人もまばらで、提灯の数も減ってくる。
このあたりから先は、夜になると益々訪れる人も少なくなりそうだから、防犯面も気にかかるな。
端まで歩いて来ると、案の定客足はまばらで、小さな店舗で自分より少し年下の女の子が一生懸命客引きをしていた。
「団子、餡団子、いかがですか?」
ユウの店はとうとうここまで来たか。
5年前に露店を誘致した時から店を出している古株で、3年前に父親が亡くなってユウという娘が後を継ぎ、細々と商売をしている。
ここの団子はうまいんだが夏には売り上げが伸びないからな。
売り上げが伸びなければ高い場所代が払えず、端へ端へと追いやられる。
気の毒だが来年はきっと出店できないだろうとノアは思う。
***
「ちょっとー、置いて行かないでー」
遠ざかる背中にすがるように叫ぶと、3人が回れ右で振り向いた。
「ハナ様、申し訳ありません」
「ハナちゃん、犠牲は最小限にするのが社会生活の基本です」
「ハナは、何度も来てるみたいだから今回は諦めて」
返事を返して、子猫のようにぶら下げられたハナを置いてその他3人が脱兎のごとく人ごみに消えて行く。
「あらあら、置いて行かれてしまいましたね」
呆然と佇むハナにニッコリと微笑むサユリさんと呼ばれたおばさま。
「ちょうどいい。紹介しょう。こちらはサユリ・コタニさんだ。あちらの世界から強制的に引っ張り込まれた人で、炎家のシオン様が後見人になっている。サユリさん、このネコはハナという」
強制的に引っ張り込まれた!?って?
「こんにちは。よろしくね。ハナさん」
先に頭を下げられて、ハナも慌てて頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
そうして右にサユリさんと左にノアさんにガッチリ挟まれて歩き出す。
サユリさんの浴衣姿に往来の人が振り返り、サユリ様だ、と幾つも声がかかる。
どうやら、サユリ様と呼ばれるこの人は有名人らしい。
ノアさんは天使の御曹司のネコを被っているので、キラキラハートを投げかける老いも若きもの女性達。
(ちょと~私のことを失礼にもネコ呼ばわりしたけど、ノア!あんたの方がよっぽどネコだわよ!!)
ハナの心の叫びを知らないノアが積極的になじみの露店商に声を掛けて行く。
「困ったことはない?」
「はい、今年は嶺家が珍しい花火を取り寄せたとかで話題になって、客足が伸びて有り難いことです」
「それはなによりです。今年もこの夏まつりを盛り上げて下さい」
また、露店商からも声がかかる。
「サユリ様、珍しいものを着ていらっしゃいますね。あちらの世界の物ですか。祭りの雰囲気に溶け込んでいて、いい感じです」
「そう、ありがとう。でもちょっぴり暑いのが難点ね。扇ぐものがあると助かるのだけれど」
「どうぞ」
即座に扇子が差し出され、それを受け取るためにサユリ様が腕を伸ばしたその時、そんな情景に水を差す輩が現れた。
「あーあ、炎州の住民なのに、あちら側の人間に媚びなんか売っちゃって情けないねぇ」
「まっ、仕方ないでしょ。あちら側の下等な地上人のお遊び発想でも、大家の御曹司の後ろ盾がくっ付いているからね。われわれ炎州の天界人にはどうしょうもないよ」
「格上の嶺家と、あちら側の下等な地上人にいいように回されて、双子当主様もお気の毒だ」
「まったく、こんな暑い時期にこんなところに引っ張り出されて、いい迷惑ですよねぇ。炎州の地上人の皆さん」
あちら側を強調し、相手を蔑み、自身を貶めるような卑屈な言葉を叩きつけるノアと同年齢ぐらいの少年4人組。
どうやら、彼らはそれほど格の高くない天界のお坊ちゃま達らしい。
思いやりを打ち据える心無い言葉に、差し出された扇子も、受け取ろうとした白い手もその手前で固まってかすかに震えている。
なにおぉ~
憤死の形相で睨みつける赤い目よりコンマ1秒の差で先に隣の空気が動いた。
ノアの視界の中に、丸い小さなものが現れたと思ったらそれが扇子を引き抜く。
ハナの手だと気がついたのは、掴んだ扇子が大きな弧を描いて少年たちの鼻先でピシリと止まり扇形にパラリと開いた時だった。
黒曜石の瞳が刺すように少年4人を絡め取るとその場の空気が動かなくなった。
ハナだけが動く事を許された世界にいるような感覚がその場を支配して、嶺家の能力者であるのにノアさえ微動だに出来ない。
そんな中、ハナが柔らかな声で開いた扇をユラユラ揺らして止まったままになっている手にそっと握らせた。
「本当に暑いですね。サユリ様、ハイどうぞ」
まるで暑気払いをするようにニッコリと満面の笑みを浮かべるハナの必殺微笑み返しで、そこにあった重い空気が雲散霧消し場の空気が動き出す。
「さあさあ、こんな子供の言うことなんか気にしてないで、私たちは商売、商売。そこのお兄さん、冷やしキュウリはいかがですか。暑さ対策にピッタリですよ」
「あ、ああ、一つ貰おうか」
「毎度あり~」
「あなた達も、くだらないことを言ってないで、団子の1つも売ったらどうなの?、きっと楽しいわよ」
キュウリを売ったおばちゃんが少年4人に声をかける。
「ナイスアイディア!ちょっとそこの少年たち、ユウの店の餡団子売ってよ。夏は暑くて売れ行きがイマイチなのよね。あそこ」
キュウリの露店の隣のおばちゃんがその迫力で少年4人を引き連れて移動する。
勢いを無くした少年達に、ハナがガンバレー!と声を掛けて、もう一人動かなくなったノア少年の背中を叩き先を歩く。
「次、行くわよ」
「今のは何だったんだ?」
「本物ですわね」
いつの間にか主従関係が逆転していた。
本物って何が?幼いころから神童と言われたノアの頭の中の疑問が更に増えた瞬間だ。
休憩を取るハナ達と17才の少年の体力は桁違いのようで、2人を置いて、ちょっとあちらも見てくると言って積極的に立ち歩く。
「張り切ってるわね~。恐るべし少年の体力」
「<フフ、私への罪滅ぼしかな>」
しみじみと日本語でいうサユリさんの顔を思わずガン見した後に思わず出た、日本語。
「<罪滅ぼしー?>」
「<彼なのよね、私の同意を得ずにこちらの世界に引き込んだの>」
ええ~
そういうと、サユリ様は自身がこちらに来た経緯を日本語で話してくれた。
「<5年前に故郷の長岡で行われていた花火大会を見に行った時の、一番大きな花火のドーンという音と、視野いっぱいに広がる色鮮やかな花火が、あちら側での最後の記憶ね。
そして気がついたらこちら側にいて、何と1ヵ月近く眠っていたと知らされた時には呆然としたわ>」
明るく話すサユリさんの姿が少々痛い。
「<ノアは言葉もわからず知り合いもいないこちらの世界で泣き暮らしていた私の側にずっと着いて謝り続け辛抱強く言葉を教えてくれた。
おかげで最初に覚えた言葉が『ごめんなさい』なんて笑えるでしょ。
花火が見たいというとここに連れてきて一緒に花火鑑賞して、祭りがないというとこの河川敷に今よりはずっと少ないけれど露店を集めてくれた。
不平不満ばかりを口にする55歳のおばさんに12歳の子供が出来る限りを尽くしてたの>」
5年前に12才ってことはノアは私よりも年下の17才ってことですかぁ?
ランさんもルチアさんもイマリさんもそうだけど、こちらの天界人さん達ってどんだけ、能力高いんですか!
「<ノアは当時から何でも出来て能力のとても高い子供だったと思うわよ>」
もしかしたら基礎能力はゼウス様より上かもしれないと呟く。
当時の嶺家のお家騒動にも敏感で、大人たちの思惑に深く傷つくお年頃だったようだ。
深く考えずに大人達の挑発に乗って嶺家の能力を使った結果、人間を取り寄せてしまったのだという。
「<お気づきかと思うけど取り寄せられたのが私よ>」
そう言って何とも言えない顔をするサユリさんに、思いついた質問をしてみた。
「<送り返してもらわなかったのですか。お取り寄せできる人は送り返す事も出来るって聞きますけど>」
「・・・」
しばらくの間を置いてサユリさんは答えた。
「<今のノアには意志を持った人間の異次元移動はできないみたい>」
そういうと、しみじみと長い息を一つ吐いた。
「<嶺家の当主様や次期は何度も、送りましょうと言って下さるけど、私はノアに送ってもらいたいから断ってるの。帰れずにもうすぐ6年が経とうとしている。今年こそはと思って兄たちまで呼んでみたけど、どうなるかしらね>」
サユリ様が、不安や期待や希望や懐かしさや色々なものが混ざった複雑な顔で止まった時間を眺めているようにみえた。
ハナはそんな彼女に寄り添うように並んで腰かける。
優しい時間が流れる中、心の中で呪文のように繰り返す。
『今年はきっと帰れますよ』
それから、ノアと合流して休みながらではあるが、夏祭り会場を一通り3人で見て回り気がついたことを口にした。
さっきのハナさんを見て思いついたんだけれど、初めて訪れる希望者には、ここの夏祭りを熟知した案内係を付けるというのはどうかしら。
そうですね。炎家のイケメンさんや、美人さんが浴衣なんか着て案内すると、話題にもなるし、今年の新規格の浴衣レンタルの歩く広告塔なると思いますよ。
聞けば例のボーイズ達は、カンバッテ!の一言でハナのパシリと化したらしい。
ということで、私も売り上げに協力させて頂きます!
ノアさん、あちらの世界から取り寄せてもらいたい物があるのでメモしておきました。
(ハナさん、後先考えず人助けする(自己満足的な)本領発揮ですか!?)
露店を出すにはかなり高い場所代を払わなければならない。
特に広場に近いほど地代は上がるため、しっかりと売り上げがある人気のものが中心に来る。
賑わっている夏祭りも中心から離れるほど人もまばらで、提灯の数も減ってくる。
このあたりから先は、夜になると益々訪れる人も少なくなりそうだから、防犯面も気にかかるな。
端まで歩いて来ると、案の定客足はまばらで、小さな店舗で自分より少し年下の女の子が一生懸命客引きをしていた。
「団子、餡団子、いかがですか?」
ユウの店はとうとうここまで来たか。
5年前に露店を誘致した時から店を出している古株で、3年前に父親が亡くなってユウという娘が後を継ぎ、細々と商売をしている。
ここの団子はうまいんだが夏には売り上げが伸びないからな。
売り上げが伸びなければ高い場所代が払えず、端へ端へと追いやられる。
気の毒だが来年はきっと出店できないだろうとノアは思う。
***
「ちょっとー、置いて行かないでー」
遠ざかる背中にすがるように叫ぶと、3人が回れ右で振り向いた。
「ハナ様、申し訳ありません」
「ハナちゃん、犠牲は最小限にするのが社会生活の基本です」
「ハナは、何度も来てるみたいだから今回は諦めて」
返事を返して、子猫のようにぶら下げられたハナを置いてその他3人が脱兎のごとく人ごみに消えて行く。
「あらあら、置いて行かれてしまいましたね」
呆然と佇むハナにニッコリと微笑むサユリさんと呼ばれたおばさま。
「ちょうどいい。紹介しょう。こちらはサユリ・コタニさんだ。あちらの世界から強制的に引っ張り込まれた人で、炎家のシオン様が後見人になっている。サユリさん、このネコはハナという」
強制的に引っ張り込まれた!?って?
「こんにちは。よろしくね。ハナさん」
先に頭を下げられて、ハナも慌てて頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
そうして右にサユリさんと左にノアさんにガッチリ挟まれて歩き出す。
サユリさんの浴衣姿に往来の人が振り返り、サユリ様だ、と幾つも声がかかる。
どうやら、サユリ様と呼ばれるこの人は有名人らしい。
ノアさんは天使の御曹司のネコを被っているので、キラキラハートを投げかける老いも若きもの女性達。
(ちょと~私のことを失礼にもネコ呼ばわりしたけど、ノア!あんたの方がよっぽどネコだわよ!!)
ハナの心の叫びを知らないノアが積極的になじみの露店商に声を掛けて行く。
「困ったことはない?」
「はい、今年は嶺家が珍しい花火を取り寄せたとかで話題になって、客足が伸びて有り難いことです」
「それはなによりです。今年もこの夏まつりを盛り上げて下さい」
また、露店商からも声がかかる。
「サユリ様、珍しいものを着ていらっしゃいますね。あちらの世界の物ですか。祭りの雰囲気に溶け込んでいて、いい感じです」
「そう、ありがとう。でもちょっぴり暑いのが難点ね。扇ぐものがあると助かるのだけれど」
「どうぞ」
即座に扇子が差し出され、それを受け取るためにサユリ様が腕を伸ばしたその時、そんな情景に水を差す輩が現れた。
「あーあ、炎州の住民なのに、あちら側の人間に媚びなんか売っちゃって情けないねぇ」
「まっ、仕方ないでしょ。あちら側の下等な地上人のお遊び発想でも、大家の御曹司の後ろ盾がくっ付いているからね。われわれ炎州の天界人にはどうしょうもないよ」
「格上の嶺家と、あちら側の下等な地上人にいいように回されて、双子当主様もお気の毒だ」
「まったく、こんな暑い時期にこんなところに引っ張り出されて、いい迷惑ですよねぇ。炎州の地上人の皆さん」
あちら側を強調し、相手を蔑み、自身を貶めるような卑屈な言葉を叩きつけるノアと同年齢ぐらいの少年4人組。
どうやら、彼らはそれほど格の高くない天界のお坊ちゃま達らしい。
思いやりを打ち据える心無い言葉に、差し出された扇子も、受け取ろうとした白い手もその手前で固まってかすかに震えている。
なにおぉ~
憤死の形相で睨みつける赤い目よりコンマ1秒の差で先に隣の空気が動いた。
ノアの視界の中に、丸い小さなものが現れたと思ったらそれが扇子を引き抜く。
ハナの手だと気がついたのは、掴んだ扇子が大きな弧を描いて少年たちの鼻先でピシリと止まり扇形にパラリと開いた時だった。
黒曜石の瞳が刺すように少年4人を絡め取るとその場の空気が動かなくなった。
ハナだけが動く事を許された世界にいるような感覚がその場を支配して、嶺家の能力者であるのにノアさえ微動だに出来ない。
そんな中、ハナが柔らかな声で開いた扇をユラユラ揺らして止まったままになっている手にそっと握らせた。
「本当に暑いですね。サユリ様、ハイどうぞ」
まるで暑気払いをするようにニッコリと満面の笑みを浮かべるハナの必殺微笑み返しで、そこにあった重い空気が雲散霧消し場の空気が動き出す。
「さあさあ、こんな子供の言うことなんか気にしてないで、私たちは商売、商売。そこのお兄さん、冷やしキュウリはいかがですか。暑さ対策にピッタリですよ」
「あ、ああ、一つ貰おうか」
「毎度あり~」
「あなた達も、くだらないことを言ってないで、団子の1つも売ったらどうなの?、きっと楽しいわよ」
キュウリを売ったおばちゃんが少年4人に声をかける。
「ナイスアイディア!ちょっとそこの少年たち、ユウの店の餡団子売ってよ。夏は暑くて売れ行きがイマイチなのよね。あそこ」
キュウリの露店の隣のおばちゃんがその迫力で少年4人を引き連れて移動する。
勢いを無くした少年達に、ハナがガンバレー!と声を掛けて、もう一人動かなくなったノア少年の背中を叩き先を歩く。
「次、行くわよ」
「今のは何だったんだ?」
「本物ですわね」
いつの間にか主従関係が逆転していた。
本物って何が?幼いころから神童と言われたノアの頭の中の疑問が更に増えた瞬間だ。
休憩を取るハナ達と17才の少年の体力は桁違いのようで、2人を置いて、ちょっとあちらも見てくると言って積極的に立ち歩く。
「張り切ってるわね~。恐るべし少年の体力」
「<フフ、私への罪滅ぼしかな>」
しみじみと日本語でいうサユリさんの顔を思わずガン見した後に思わず出た、日本語。
「<罪滅ぼしー?>」
「<彼なのよね、私の同意を得ずにこちらの世界に引き込んだの>」
ええ~
そういうと、サユリ様は自身がこちらに来た経緯を日本語で話してくれた。
「<5年前に故郷の長岡で行われていた花火大会を見に行った時の、一番大きな花火のドーンという音と、視野いっぱいに広がる色鮮やかな花火が、あちら側での最後の記憶ね。
そして気がついたらこちら側にいて、何と1ヵ月近く眠っていたと知らされた時には呆然としたわ>」
明るく話すサユリさんの姿が少々痛い。
「<ノアは言葉もわからず知り合いもいないこちらの世界で泣き暮らしていた私の側にずっと着いて謝り続け辛抱強く言葉を教えてくれた。
おかげで最初に覚えた言葉が『ごめんなさい』なんて笑えるでしょ。
花火が見たいというとここに連れてきて一緒に花火鑑賞して、祭りがないというとこの河川敷に今よりはずっと少ないけれど露店を集めてくれた。
不平不満ばかりを口にする55歳のおばさんに12歳の子供が出来る限りを尽くしてたの>」
5年前に12才ってことはノアは私よりも年下の17才ってことですかぁ?
ランさんもルチアさんもイマリさんもそうだけど、こちらの天界人さん達ってどんだけ、能力高いんですか!
「<ノアは当時から何でも出来て能力のとても高い子供だったと思うわよ>」
もしかしたら基礎能力はゼウス様より上かもしれないと呟く。
当時の嶺家のお家騒動にも敏感で、大人たちの思惑に深く傷つくお年頃だったようだ。
深く考えずに大人達の挑発に乗って嶺家の能力を使った結果、人間を取り寄せてしまったのだという。
「<お気づきかと思うけど取り寄せられたのが私よ>」
そう言って何とも言えない顔をするサユリさんに、思いついた質問をしてみた。
「<送り返してもらわなかったのですか。お取り寄せできる人は送り返す事も出来るって聞きますけど>」
「・・・」
しばらくの間を置いてサユリさんは答えた。
「<今のノアには意志を持った人間の異次元移動はできないみたい>」
そういうと、しみじみと長い息を一つ吐いた。
「<嶺家の当主様や次期は何度も、送りましょうと言って下さるけど、私はノアに送ってもらいたいから断ってるの。帰れずにもうすぐ6年が経とうとしている。今年こそはと思って兄たちまで呼んでみたけど、どうなるかしらね>」
サユリ様が、不安や期待や希望や懐かしさや色々なものが混ざった複雑な顔で止まった時間を眺めているようにみえた。
ハナはそんな彼女に寄り添うように並んで腰かける。
優しい時間が流れる中、心の中で呪文のように繰り返す。
『今年はきっと帰れますよ』
それから、ノアと合流して休みながらではあるが、夏祭り会場を一通り3人で見て回り気がついたことを口にした。
さっきのハナさんを見て思いついたんだけれど、初めて訪れる希望者には、ここの夏祭りを熟知した案内係を付けるというのはどうかしら。
そうですね。炎家のイケメンさんや、美人さんが浴衣なんか着て案内すると、話題にもなるし、今年の新規格の浴衣レンタルの歩く広告塔なると思いますよ。
聞けば例のボーイズ達は、カンバッテ!の一言でハナのパシリと化したらしい。
ということで、私も売り上げに協力させて頂きます!
ノアさん、あちらの世界から取り寄せてもらいたい物があるのでメモしておきました。
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