優しい時間

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夏祭り中盤戦 その1

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 ここは、夏祭りの企画構成棟となった嶺家の別荘の一コテージの一室。
 浴衣の着付けの出来る人間を3日後までに10人集めろと言う課題がクリアできていないサラのためにハナが姦し娘3人組に浴衣の着方を指導しているところに、ハナのパシリとなったボーイズ達がやって来た。
 名前を、カジェライン、ツイード、セネガルド、オーラントという天界人で、生家のレベルは色々らしく、セカンドネームの公表は勘弁して欲しいと言う。
 もちろん数日のお付き合いだから、快く了承。
 
 「オレ達目一杯声張り上げて客引きしてんだけど、売れ行きがパッとしないんだよな」
 「やっぱり、この時期に甘い団子を売るのはハードル高いよ」
 「見た目が暑苦しいし」
 「女の子に勧めたら、太るから、なんて渋られちゃって」
 よっぽど頑張ったのか、皆の声が枯れている。
 それでも、疲れた顔はしているものの達成感からか卑屈さはなく目が輝いている。
 ハナも、店に並ぶ餡団子を見たが、あれを夏に売るには苦しいものがあると思う。
 いくらイケメンが声を掛けても、あの大きさじゃ暑苦しいし、女の子は頭の中でカロリーを考えるからね。
 「わかった、主の私が一肌脱ごうじゃないの」
 「いやいや、ハナのカラダじゃ客は呼べない」
 ボソリと呟いたオーラントに教育的指導とばかりにサラの手拳が飛ぶ。
 一睨みしたハナが、メモ帳を取り出して必要なものを書いていく。
 抹茶、茶筅、茶杓、柄杓、茶釜、夏用の抹茶薄茶碗など茶会道具一式と、花火柄の浴衣と帯とそろいの簪。
 ○○町・○○県・日本、半年前までいたあちらの世界の住所を書いて。
 以上の品をここにある住所から取り寄せてください。協力よろしくお願い!の後にハートマークを書いてやった。
 最後の絵文字は余計だったかな?と思いながら作成したメモをペリィっと破ってカジェラインに渡す。
 「カジェ、これを、ノアに届けて。それから他に相談もあるから何時頃手が空くか聞いてきて」
 一斉にメモを覗き込んでそれぞれが思ったことを口に出すボーイズ達。 
 「何ですか?これ?」
 「この住所何処にあるんですか?」
 「あっ、もしかして、あちらの世界のものですか?」
 「こんな紙切れメモであちらの世界からの取り寄せを依頼するのはいかがなものかと・・・」
 ブツブツいう彼らを、『夏祭りを盛り上げるアイテムよ。売りたいんでしょ、餡団子』の一言で黙らせる。
 「承知しました」
 渋々という体で、どうしてハナさんがあちらの世界のことなんて知っているんだ?と言いながら首を傾げて出て行くカジェライン。
 うん、うんと頷く残されたパシリメンバーには、昼間サユリ様に相談したらアドバイスがもらえたと説明した。
 だって、本当のことは言えないもの。
 ウソついてゴメン。

 部屋に残った少年3人をモデルに姦し娘3人がワイワイ言いながら着付け練習をしているとカジェラインに先導さたノアが入ってきて嫌味をくれる。
 「第一パシリがオレの側を離れていったい何を始めた?」
 でもハナは負けていません。
 「あなた、正座は出来る?」
 「なんだ?それ?」
 「いいから、こんな風に座ってみてください」
 と、ハナがラグの敷かれた床の上に正座をする。
 言われたノアが難なく正座姿勢を取り、バカにしてるのかとご機嫌斜めの口調で宣う。
 「初めはとっても簡単なんですけど終わりが大変なんです」
 「終わりとは?」
 「そのまま綺麗に背筋を伸ばして30分ほどいてください」
 ハナはそう言い捨てて、着付け指導を始めてしまった。
 「サラ、オー(オーラント)で練習してみて」
 「オイ、そんなに絞めたら飯が食えない」
 「うるさいわね。着崩れて、だらしなくなりたいの!」
 ワイワイガヤガヤ言いながらも楽しそうな風景を眺めるだけで動けないノアはフラストレーションを溜める。
 それに20分ぐらい過ぎると足が痺れてきて結構辛い。
 モゾリと動くとハナから空かさず激が飛ぶ。
 「ノア様、見苦しいので姿勢を崩さないでください。もう少しですから頑張ってください」
 「・・・」
 忍の一字で足の痺れを我慢して30分を見事に耐え綺麗な姿勢でいたのだが。
 「ノア様もう結構ですよ。お立ち下さい」
 ハナの一言に、立とうとして見事にスッ転んだ。
 周りは笑うに笑えず、顔を赤青にして悶えている。
 立つに立てず胡坐をかいたノアが叫んだ。
 「オマエは、いったい何がしたい!第一お前は正座とやらが出来るのか?!」
 「ノア様があちらの世界からお願いしたものを取り寄せてくれたらご披露します」
 ニッコリと笑った顔に少々の意地悪が混じっていた。(だって、時々腹立つから)
 「くっそ。今すぐ取り寄せてやる!」
 そう言い切って、目力のある赤い釣り目を閉じて瞑想に入ったのか無表情になった。
 そして、待つこと数分、ノアの前の空気が蜃気楼を見るようにユラユラと揺れる。
 しばらくするとその揺れる空気の中に物の影が現れてその物体の輪郭がハッキリとしてくる。
 やがて、空気の揺れはおさまりノアの前には初めからあったように取り寄せられた物品が並んでいた。
 「取り寄せ物はこれで間違いないか」
 得意満面の顔で聞かれても、びっくりしすぎて言葉が出ない日本育ちのハナだったが、メルタ育ちの7名は異次元能力に免疫があるようで。
 すご~い、初めて見たわ!ナマお取り寄せ、やっぱりノア様は嶺家の直系だったのですね!と、ウルウル瞳の女性陣。
 うぅ、取り寄せ時間短すぎるだろう、やっぱりレベルが違う、只々脱帽です!と感心しきりの男性陣。
 目と口を開いてピクリとも動かないハナに痺れを切らしたノアが、おい!と細い肩を揺する。
 「え?」
 「え、じゃない。これで間違いないなら、何をするつもりなのか披露しろ」
 「あ、はい。準備しますので少しここで待ってください」

 ハナは姦し3人娘に手伝ってもらい準備をした。
 見慣れた茶道具を取り出してヒビや壊れがないかを確認し、茶釜に氷水を張り、棗に抹茶を移しいれる。
 道具の準備が終わると思い出の浴衣を着て、髪をゆるりと上げて浴衣とおそろいの簪を挿した。
 11才の時に着た浴衣はあれから少し背が伸びただけのハナには十分に着れるサイズだが、鏡に映った顔には少し幼すぎる柄に見えた。
 これを着るのは今年で最後にするね。
 鏡の中で少し寂しそうに笑うもう一人の自分に話しかけた。

 浴衣を着て茶道具を持ったハナが登場すると企画構成棟の空気が一変した。
 立ち姿のハナが入り口で膝をついて座り手をついて深々と頭を下げる。
 「本日はお暑い中ようこそ炎家の夏祭りにおいで下さいました。お気に入りの甘味を用意いたしましたので、茶など飲んで楽しんで行って下さいませ」
 リンとした声で見事な口上を述べ、粛々と茶席を進めて行く。
 流れるような手の動き、上品な足運び、触れたことのない厳かな空気に誰もが圧倒されていた。 
 「さ、冷たいお茶でもお召し上がりください。嶺家のノア様が特別に取り寄せられた物でございます」
 そういって、簡易なお菓子と氷水で点てた抹茶をノアの前に置いた。
 ピーンと張った空間では誰もが無言で身動きしない。
 いやできないのだが。
 ハナの作った空気に飲まれて動けずにいるノアにハナが空気の縛りを解くように再度声を掛ける。
 「ノア、餡団子にピッタリの飲み物だと思うのだけれど、どうかな?」
 首を傾げるハナに、ああ、と生ぬるい返事を返して茶を飲む。
 正直、茶の味などわからなかった。
 昼間味わった澄んだ空気に捕らわれて動けない感覚を再び体験した。
 そして、それが解けた時の憑き物が落ちたようにスッキリとして、パワーが充てんされたような感覚。
 ホントにいったい何なんだ?
 周りを見渡せば、その他7名も同じだったようで、新たに点てられた氷抹茶を飲みながら、ステキとか、シアワセとか、疲れがとれたなどと喚いている。

 それからハナは夏祭りを盛り上げるために考えたイベントをノア&パシリメンバーに話した。
 ここの庭にある竹を少し切りたいとか。
 ガラスの陳列台が欲しいとか。
 氷を手に入れてとか。
 明後日に広場中央にある舞台が借りれるように手配できますか?とか。
 もちろん手配してくださいの意味。
 極めつけに、ノアに命令した。
 「明後日までに正座で30分座った後、かっこよく立てるようにしてください。でないと出来る人と交代してもらいます」
 え、交代のチャンスあるの?オレ密かに練習しようかな?とパシリメンバー男性陣の心の声が聞こえたとか?
 
 (いよいよ、ハナが亭主の茶会が始まります。どんな茶会になるのやら)   
 
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