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夏祭り中盤戦 その2
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ハナが見事なお点前を披露した日を超えた深夜、カジェライン、ツイード、セネガルド、オーラント達4ボーイズは密かにそれぞれの主に繋ぎをとった。
1人が瞬間移動した先は体格の良い壮年の男性が独特のサファイヤブルーの目を書類に落としていた部屋。
「あれの力の回復に進展はないか」
「は、サユリ様をあちらの世界に送られるために必要な予防線を張る様子は見られません」
「やはり今年も無理そうか」
「しかし、何の準備もなくあちらの世界から物を取り寄せることを瞬時に行えます。力は少しずつ戻ってきているかと」
1人は思念を飛ばし天界人の中でも格別の威厳をもつレジェンドと会話した。
「サクラ様の様子はどうだ?天界で過ごした記憶はまだ戻らないか?」
「夏祭りを楽しんでおいでです。残念ながら天界での記憶はまだ」
「やれやれ、当家に嫁を迎えるのはまだ先になりそうだな」
「はい。しかしながらあちらの世界での記憶に面白いものがあります。それを利用すれば新しい展開が見込めるかもしれません」
「その記憶とはどんな?」
「あちらの世界の花火大会のようすで、ちょうど次期と同じぐらいの男性と手を繋いで楽しそうでした」
こちらも念話で、超不機嫌男のと会話ではなく神経をすり減らす報告をする。
「ハナの様子はどうだ?」
「とても張り切っておいでです。新しい夏祭りイベントを企画されているようで、あちらの世界から道具を取り寄せて、変わったお茶会を開かれるようです」
ノア様と一緒に舞台に立たれるようですよ、とは怖すぎてとても口にできない。
「男が半径1メートル以内に近づかないように気を配れ。誰かに触らせたらお前を殺す」
ヴ~と心の中で変な悲鳴があがった。
ここだけが特殊能力を使わずに直に顔を突き合わせていた。
「嶺家の子せがれは花火の他に何を始めた?」
「落ちぶれた団子屋を助けるために、あちらの世界の茶会を紹介するようです」
「どんなものだ?祭りの目玉になりそうか?」
「よく分かりませんがホストのハナ殿が作り出すその場の空気の色がいいです」
「ハナ?どこかで聞いた名前だが?まあよい。引き続き洞察して報告せよ」
報告が不服とばかりに吐き捨てて踵を返した。
ほとんど抜け落ちた赤い髪がチラホラ残る頭を隠すように流行りの帽子を着た老齢の男の顔には年相応の皺と火傷後のシミがった。
これ以上炎家のイベントに口を出すことなど許さん。
ヤツがあちらの世界からあの女を連れ込んだばっかりに我が家の利権を奪われた。
おまけに今年は嶺家の当主までもが加担するだと!このままでは済ますものか。
報告を行ったのはパシリガールズも同じで彼女たちの報告はそれぞれの実家を通して支持母体である5家にも届く。
そのパシリズの誰もが最後に付け加えた報告が。
『ハナ様の開くお茶会はそれは素晴らしいものです。神々しい空気に絡めとられて動けなくなるほどのカルチャーショックを受けました。その後の爽快感は何度でも味わいたいと思ってしまうほど素晴らしく癖になりそうです』
彼らが報告から帰って来た朝からハナは次々と指示を飛ばしていた。
「カジェ、ボーイズ達と一緒に竹林の竹を10本切出して30センチに切りそろえて竹割器で6つに割って団扇の骨を作ってちょうだい」
「ルチアさん、ユウさんの団子屋の屋号を印刷して団扇に貼る紙を用意して欲しいんだけど出来るかな」
こんな風な、と作成過程と完成図の絵を描いて見せた。
「これを今日中に500本作るってこと?この人数じゃ間に合わないよ」
ここの使用人も巻き込んでしまおうという2人の意見の合致で嶺家の別荘は上や下への大騒ぎ。
「朝採った笹の葉を洗って箱に詰めてください」
「イマリさん、ユウさんがドテっと大きい餡団子を一口大の串に刺した形で作っていると思うから、遅れてるようなら手伝ってきて」
「サラ、明日のお茶会の準備とユウさんの店で使う陳列台のディスプレイを考えて~」
というわけで、忙しそうにしながらも楽しそうな声がそこここから聞こえてくる。
ノアは、甘い物は大丈夫かな?当日噴出されたら席がぶち壊しだと今さら気づく者1名。
僕の妻を貸すのは後2日だからなと、苦々しく嶺家の別荘を覗く者1名。
明後日の花火の夜のチャンスは絶対に逃さないから、とアイスブルーの目を細める者1名。
明日が楽しみだと口元をほころばせる美女2名
色々な思いを孕んだ茶会が開かれるのは12時間後。
***
明けて翌日茶会前
「見た目だけでも涼しそうでしょ。直前に陳列台の下に氷を敷いたらきっと飛ぶように売れると思うんだけど」
「うん。とってもかわいいし、串に刺したから歩きながら食べるのにぴったり。まさに夏祭り向けに仕上がったね」
ハナは笹の葉の上に乗せられた串刺しの小ぶりの餡団子を眺めて昨日ほぼ徹夜で仕上げた露店の屋号が書かれた団扇を浴衣の帯の背に挟む。
「これを餡団子を買われたお客様に、来年も来てくださいねと言って渡せば、きっといい宣伝になって、お客様にも喜んで頂けると思うわ」
ハナの着ている浴衣が気になってサラが訪ねてくる。
「ハナ、せっかく髪を上げ綺麗な簪挿してるのにおそろいの浴衣を着ないの」
「あれ、花火柄だから明日の花火大会の夜に取っておこうと思って」
「そっか。今日の水色の浴衣もとってもよく似合っているよ。特にその簪の花火は本当に綺麗。本物の黄色や緑色の花火が上がった空を見てみたいね」
「サラ?見た事ないの?」
「あんた、あるの?」
***
そして、ハナの茶会が開かれる正午近くになると、広場には続々と人が集まりだした。
舞台裏から会場を覗いたペントハウスの住人がヒソヒソ話をしている。
「なんだか急に人口密度が濃くなった気がしない」
「ちょっと、舞台の中央がよく見える席に座って陣地取しているのチカハ様の側近じゃない」
「そういえば、その宰相様の隣ってオタクのお家の当主様の側近?」
「ラン様、これって天界の主要人物の集まりみたいになっているんですけど・・・」
「それは、しかたがないわ。あなたたちだって一昨日のハナ様の茶会の報告をしたでしょ。きっとボーイズ達も同じ報告をしたはずだから、皆様の興味を引いてしまうのは当然ですよ。おかげてミセイエル様を宥めるのにほとんど徹夜させられましたから」
よく見れば、そこここに5族の興味深々で様子を伺う顔がある。
「ほんと5家で、最前列に当主クラスが見当たらないのは桜家と炎家ぐらいだわ」
それを聞いて、フフフとランが意味深に笑う。
「まあ、見てて御覧なさい。桜家も炎家も一筋縄ではいかない方達がおいでだから」
そしてノアが群衆に向くよう斜めに座りハナが舞台の上に現れて口上を述べると、「ちょっと、まったー」の声がかかる。
見れば、見事な柄の浴衣を着た見目麗しのカップルが舞台の袖で構えていた。
「ハナちゃん。お客は3人でもいいとサユリさんが言ってたわ。私と、シオンも客に混ぜてちょうだい」
カーキ色に大輪の百合を染め抜き赤い帯を締めたジュベリさん。
ニッコリ微笑む涼し気な銀地に抑えた海老茶色の細帯を腰で絞めて着流し風に浴衣を着た粋な男性が出した声に仰天する。
「よろしくね」
なんと鈴を振るような透明感のあるソプラノボイス!だった。
炎家の当主様だと後で紹介されたけど、この程度で驚いたまだまだ若い!
そのやり取りを聞いた舞台下の中央あたりがにわかに騒ぎ出す。
「それなら、私も混ぜてくれ」
「チカハ様が混ざるのなら私も大丈夫だろう」
「5家の当主がそろうなら私が入れないのは納得がいかない」
「あなたのところはすでに、ノア殿が混ざっておいでるじゃないか」
「なら、アイツを降ろせば私が優先順位第一位だな。おいノア私と替われ」
舞台の上と下で盛大な親子喧嘩が始まったのだが、予備知識が少しだけある息子の方が若干有利だった。
「皆様方は正座はお出来になりますか。それが出来なければこの茶会の品位は保てませんよ」
ノアがふんぞり返って舞台下で揉めている壮年の男性と、舞台袖にいる美男(?)美女を一睨みした。
(((((ウッ)))))
その様子にハナが呆れつつもカラカラと楽しそうに笑う。
「そうですね。せっかくノア様がお点前の所作を練習されたんですもの。その成果を見ていただきたいです」
ハナにそういわれれば、諦めるしかない。
いい年をした男性が肩を落とし、美女カップルがジト目でハナを睨む。
「・・・そうですね。でしたら一点前終わって、次の催しまでに時間があるようでしたら皆様をご招待いたします」
その言葉に炎家の双子の方割れが舞台上からよくとおる声でもう一人に声を掛ける。
「レオン、聞こえたわよね。この後の段取りを何とかしてちょうだい」
舞台下の人ごみに埋もれて状況を監視監督していたレオンに5家の人間から一斉に思念が送られてくる。
よろしくお願いします。
頼みましたよ。
もちろんできますよね。
できないとは言わせません。
ホントにどうなっているんだ?最近の天界は?
そして、ハナの茶会が始まった。
水色の浴衣に赤い金魚が泳ぐ可愛らしい柄は涼し気で楚々としたハナによく似合う。
ハナが歩くと、黒髪に挿した赤・黄・緑の花火が揺れ、それに合わせて空気も動く。
やがて釜の前で正座をして身ずまいを正すと、その凛と引き締まった姿勢が観客を魅了し、その声と動きを奪ってゆく。
しばらくすると誰もがハナから目が離せずに固唾をのんでいた。
流れるような手の動きや視線運びに絡め取られていく。
空気も動かぬシーンとした空間にハナの汲む水の音、釜の中の氷が揺れる音がカランと響く。
浅い夏茶碗の中でわずかに聞こえるはずの茶筅を動かすシャカシャカという音さえも広場に広がっていく。
「ノア様、冷たいうちに一福どうぞ」
ニッコリと笑って茶碗を差し出せば、赤い毛氈の上を膝で姿勢よくズズズと進んできた。
なかなか綺麗な動きである。
茶碗を持ち帰って元の位置で手をついて一礼し綺麗な姿勢で茶碗を回してごくりと飲んだ。
これは結構練習したね。
会場から、ないお茶が喉を通る音が複数聞こえたのも気のせいではないはずだ。
「結構なお点前でした」
「お粗末様でした」
ノアの言葉に応えるようにハナが会場にいる観客に向かって深く頭を下げた。
場内の止まった空気がドッと動く。
静まり返った会場が一泊置いて割れんばかりの拍手に包まれた。
「いやあ、気持ちのいい夢から覚めた気分ですなあ」
「本当に、体も軽くなってめきめき働けそうです」
ブラボーと歓声が上がる中、次は自分がと、5家のお偉方が舞台へ上がろうとすれば、すでに舞台袖にいた客が椅子を持って来て座った。
次は私たちよと澄ました顔で美女二人が言い、申し訳ありません、と椅子を持ったランが続く。
「この後はハナ様の配慮で皆様方にも楽しんで頂けるように立礼式(椅子で行う茶会)となります。試行段階なのでまずは私たちが」
結局その後パシリボーイズが椅子を占拠し5家のお偉いさんはその後。
その次を待っていた天界人さん達はあえなく時間切れでアウトを宣言されて肩を落とした。
大いに満足で帰った者、次はと期待して帰る者、色々だが。
チッ。当主様方を銜え込みくさっって!
憎々しい目で終始舞台を睨みつけ、群衆の中の男は盛大な舌打ちと下卑た言葉を吐いた。
帽子で少なくなった赤い髪を隠した顔にシミのある男だけがその場の空気から取り残されていた。
(バカンス最終日、花火大会までのカウントダウンが始まりました。
ハナは、ノアは、サユリ様は、どうなるの?!)
1人が瞬間移動した先は体格の良い壮年の男性が独特のサファイヤブルーの目を書類に落としていた部屋。
「あれの力の回復に進展はないか」
「は、サユリ様をあちらの世界に送られるために必要な予防線を張る様子は見られません」
「やはり今年も無理そうか」
「しかし、何の準備もなくあちらの世界から物を取り寄せることを瞬時に行えます。力は少しずつ戻ってきているかと」
1人は思念を飛ばし天界人の中でも格別の威厳をもつレジェンドと会話した。
「サクラ様の様子はどうだ?天界で過ごした記憶はまだ戻らないか?」
「夏祭りを楽しんでおいでです。残念ながら天界での記憶はまだ」
「やれやれ、当家に嫁を迎えるのはまだ先になりそうだな」
「はい。しかしながらあちらの世界での記憶に面白いものがあります。それを利用すれば新しい展開が見込めるかもしれません」
「その記憶とはどんな?」
「あちらの世界の花火大会のようすで、ちょうど次期と同じぐらいの男性と手を繋いで楽しそうでした」
こちらも念話で、超不機嫌男のと会話ではなく神経をすり減らす報告をする。
「ハナの様子はどうだ?」
「とても張り切っておいでです。新しい夏祭りイベントを企画されているようで、あちらの世界から道具を取り寄せて、変わったお茶会を開かれるようです」
ノア様と一緒に舞台に立たれるようですよ、とは怖すぎてとても口にできない。
「男が半径1メートル以内に近づかないように気を配れ。誰かに触らせたらお前を殺す」
ヴ~と心の中で変な悲鳴があがった。
ここだけが特殊能力を使わずに直に顔を突き合わせていた。
「嶺家の子せがれは花火の他に何を始めた?」
「落ちぶれた団子屋を助けるために、あちらの世界の茶会を紹介するようです」
「どんなものだ?祭りの目玉になりそうか?」
「よく分かりませんがホストのハナ殿が作り出すその場の空気の色がいいです」
「ハナ?どこかで聞いた名前だが?まあよい。引き続き洞察して報告せよ」
報告が不服とばかりに吐き捨てて踵を返した。
ほとんど抜け落ちた赤い髪がチラホラ残る頭を隠すように流行りの帽子を着た老齢の男の顔には年相応の皺と火傷後のシミがった。
これ以上炎家のイベントに口を出すことなど許さん。
ヤツがあちらの世界からあの女を連れ込んだばっかりに我が家の利権を奪われた。
おまけに今年は嶺家の当主までもが加担するだと!このままでは済ますものか。
報告を行ったのはパシリガールズも同じで彼女たちの報告はそれぞれの実家を通して支持母体である5家にも届く。
そのパシリズの誰もが最後に付け加えた報告が。
『ハナ様の開くお茶会はそれは素晴らしいものです。神々しい空気に絡めとられて動けなくなるほどのカルチャーショックを受けました。その後の爽快感は何度でも味わいたいと思ってしまうほど素晴らしく癖になりそうです』
彼らが報告から帰って来た朝からハナは次々と指示を飛ばしていた。
「カジェ、ボーイズ達と一緒に竹林の竹を10本切出して30センチに切りそろえて竹割器で6つに割って団扇の骨を作ってちょうだい」
「ルチアさん、ユウさんの団子屋の屋号を印刷して団扇に貼る紙を用意して欲しいんだけど出来るかな」
こんな風な、と作成過程と完成図の絵を描いて見せた。
「これを今日中に500本作るってこと?この人数じゃ間に合わないよ」
ここの使用人も巻き込んでしまおうという2人の意見の合致で嶺家の別荘は上や下への大騒ぎ。
「朝採った笹の葉を洗って箱に詰めてください」
「イマリさん、ユウさんがドテっと大きい餡団子を一口大の串に刺した形で作っていると思うから、遅れてるようなら手伝ってきて」
「サラ、明日のお茶会の準備とユウさんの店で使う陳列台のディスプレイを考えて~」
というわけで、忙しそうにしながらも楽しそうな声がそこここから聞こえてくる。
ノアは、甘い物は大丈夫かな?当日噴出されたら席がぶち壊しだと今さら気づく者1名。
僕の妻を貸すのは後2日だからなと、苦々しく嶺家の別荘を覗く者1名。
明後日の花火の夜のチャンスは絶対に逃さないから、とアイスブルーの目を細める者1名。
明日が楽しみだと口元をほころばせる美女2名
色々な思いを孕んだ茶会が開かれるのは12時間後。
***
明けて翌日茶会前
「見た目だけでも涼しそうでしょ。直前に陳列台の下に氷を敷いたらきっと飛ぶように売れると思うんだけど」
「うん。とってもかわいいし、串に刺したから歩きながら食べるのにぴったり。まさに夏祭り向けに仕上がったね」
ハナは笹の葉の上に乗せられた串刺しの小ぶりの餡団子を眺めて昨日ほぼ徹夜で仕上げた露店の屋号が書かれた団扇を浴衣の帯の背に挟む。
「これを餡団子を買われたお客様に、来年も来てくださいねと言って渡せば、きっといい宣伝になって、お客様にも喜んで頂けると思うわ」
ハナの着ている浴衣が気になってサラが訪ねてくる。
「ハナ、せっかく髪を上げ綺麗な簪挿してるのにおそろいの浴衣を着ないの」
「あれ、花火柄だから明日の花火大会の夜に取っておこうと思って」
「そっか。今日の水色の浴衣もとってもよく似合っているよ。特にその簪の花火は本当に綺麗。本物の黄色や緑色の花火が上がった空を見てみたいね」
「サラ?見た事ないの?」
「あんた、あるの?」
***
そして、ハナの茶会が開かれる正午近くになると、広場には続々と人が集まりだした。
舞台裏から会場を覗いたペントハウスの住人がヒソヒソ話をしている。
「なんだか急に人口密度が濃くなった気がしない」
「ちょっと、舞台の中央がよく見える席に座って陣地取しているのチカハ様の側近じゃない」
「そういえば、その宰相様の隣ってオタクのお家の当主様の側近?」
「ラン様、これって天界の主要人物の集まりみたいになっているんですけど・・・」
「それは、しかたがないわ。あなたたちだって一昨日のハナ様の茶会の報告をしたでしょ。きっとボーイズ達も同じ報告をしたはずだから、皆様の興味を引いてしまうのは当然ですよ。おかげてミセイエル様を宥めるのにほとんど徹夜させられましたから」
よく見れば、そこここに5族の興味深々で様子を伺う顔がある。
「ほんと5家で、最前列に当主クラスが見当たらないのは桜家と炎家ぐらいだわ」
それを聞いて、フフフとランが意味深に笑う。
「まあ、見てて御覧なさい。桜家も炎家も一筋縄ではいかない方達がおいでだから」
そしてノアが群衆に向くよう斜めに座りハナが舞台の上に現れて口上を述べると、「ちょっと、まったー」の声がかかる。
見れば、見事な柄の浴衣を着た見目麗しのカップルが舞台の袖で構えていた。
「ハナちゃん。お客は3人でもいいとサユリさんが言ってたわ。私と、シオンも客に混ぜてちょうだい」
カーキ色に大輪の百合を染め抜き赤い帯を締めたジュベリさん。
ニッコリ微笑む涼し気な銀地に抑えた海老茶色の細帯を腰で絞めて着流し風に浴衣を着た粋な男性が出した声に仰天する。
「よろしくね」
なんと鈴を振るような透明感のあるソプラノボイス!だった。
炎家の当主様だと後で紹介されたけど、この程度で驚いたまだまだ若い!
そのやり取りを聞いた舞台下の中央あたりがにわかに騒ぎ出す。
「それなら、私も混ぜてくれ」
「チカハ様が混ざるのなら私も大丈夫だろう」
「5家の当主がそろうなら私が入れないのは納得がいかない」
「あなたのところはすでに、ノア殿が混ざっておいでるじゃないか」
「なら、アイツを降ろせば私が優先順位第一位だな。おいノア私と替われ」
舞台の上と下で盛大な親子喧嘩が始まったのだが、予備知識が少しだけある息子の方が若干有利だった。
「皆様方は正座はお出来になりますか。それが出来なければこの茶会の品位は保てませんよ」
ノアがふんぞり返って舞台下で揉めている壮年の男性と、舞台袖にいる美男(?)美女を一睨みした。
(((((ウッ)))))
その様子にハナが呆れつつもカラカラと楽しそうに笑う。
「そうですね。せっかくノア様がお点前の所作を練習されたんですもの。その成果を見ていただきたいです」
ハナにそういわれれば、諦めるしかない。
いい年をした男性が肩を落とし、美女カップルがジト目でハナを睨む。
「・・・そうですね。でしたら一点前終わって、次の催しまでに時間があるようでしたら皆様をご招待いたします」
その言葉に炎家の双子の方割れが舞台上からよくとおる声でもう一人に声を掛ける。
「レオン、聞こえたわよね。この後の段取りを何とかしてちょうだい」
舞台下の人ごみに埋もれて状況を監視監督していたレオンに5家の人間から一斉に思念が送られてくる。
よろしくお願いします。
頼みましたよ。
もちろんできますよね。
できないとは言わせません。
ホントにどうなっているんだ?最近の天界は?
そして、ハナの茶会が始まった。
水色の浴衣に赤い金魚が泳ぐ可愛らしい柄は涼し気で楚々としたハナによく似合う。
ハナが歩くと、黒髪に挿した赤・黄・緑の花火が揺れ、それに合わせて空気も動く。
やがて釜の前で正座をして身ずまいを正すと、その凛と引き締まった姿勢が観客を魅了し、その声と動きを奪ってゆく。
しばらくすると誰もがハナから目が離せずに固唾をのんでいた。
流れるような手の動きや視線運びに絡め取られていく。
空気も動かぬシーンとした空間にハナの汲む水の音、釜の中の氷が揺れる音がカランと響く。
浅い夏茶碗の中でわずかに聞こえるはずの茶筅を動かすシャカシャカという音さえも広場に広がっていく。
「ノア様、冷たいうちに一福どうぞ」
ニッコリと笑って茶碗を差し出せば、赤い毛氈の上を膝で姿勢よくズズズと進んできた。
なかなか綺麗な動きである。
茶碗を持ち帰って元の位置で手をついて一礼し綺麗な姿勢で茶碗を回してごくりと飲んだ。
これは結構練習したね。
会場から、ないお茶が喉を通る音が複数聞こえたのも気のせいではないはずだ。
「結構なお点前でした」
「お粗末様でした」
ノアの言葉に応えるようにハナが会場にいる観客に向かって深く頭を下げた。
場内の止まった空気がドッと動く。
静まり返った会場が一泊置いて割れんばかりの拍手に包まれた。
「いやあ、気持ちのいい夢から覚めた気分ですなあ」
「本当に、体も軽くなってめきめき働けそうです」
ブラボーと歓声が上がる中、次は自分がと、5家のお偉方が舞台へ上がろうとすれば、すでに舞台袖にいた客が椅子を持って来て座った。
次は私たちよと澄ました顔で美女二人が言い、申し訳ありません、と椅子を持ったランが続く。
「この後はハナ様の配慮で皆様方にも楽しんで頂けるように立礼式(椅子で行う茶会)となります。試行段階なのでまずは私たちが」
結局その後パシリボーイズが椅子を占拠し5家のお偉いさんはその後。
その次を待っていた天界人さん達はあえなく時間切れでアウトを宣言されて肩を落とした。
大いに満足で帰った者、次はと期待して帰る者、色々だが。
チッ。当主様方を銜え込みくさっって!
憎々しい目で終始舞台を睨みつけ、群衆の中の男は盛大な舌打ちと下卑た言葉を吐いた。
帽子で少なくなった赤い髪を隠した顔にシミのある男だけがその場の空気から取り残されていた。
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