優しい時間

ouka

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天界での長い1日

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 主だった天界人達がこぞって炎家の夏祭りに行きたいと伺いを立ててきたのはハナがあちらの世界の茶会を開くと報告を受けた翌日だった。
 それも、1泊2日の長期滞在の申告。
 それは当然却下だろ、僕がハナの点前の客となり、今年の特別企画であるハナの故郷の花火を一緒に見るために必死でスケジュール調整をしているんだから。
 なのに、
 「ではミセイエル様は誰に居残りを言い渡されるつもりですか?」
 ランに聞かれて5家の当主達の顔を思い浮かべたが、こいつをとは決められず言葉に詰まる。
 「・・・」
 「いっそジャンケンでもさせるか」
 投げやりな気分で呟たミセイエルを完全無視の構えで冷静なランが意見を述べる。
 「ここで誰を残しましても後々遺恨を残します。ここはミセイエル様が残るべきかと」
 「居残りを決められないなら全員残す」
 出来ないとわかっていても本音が口から零れると、諌められた。
 「ミセイエル様、子供のように駄々を捏ねていても良知はあきません。あなたは天地界の覇者でいらっしゃいますが、重臣達の意向を無視しすることができないことはご存知でしょう」
 誰に諭されなくても分かっていたが、ハナに海千山千の天界人達の興味本位な視線を向けさせたくはない。
 それに例のピアスを餌に、ハナが近づくのを待っているヨンハがどう出るか、アサファの動向も気にかかる。
 「僕が天界から動けないとなると、ヤツらにつけこむ隙を与えてしまうことになる」 
 「でしたら、気にかかる天界人をすべて天界に足止めされればよいのです。重い義務の対価として絶大な権力もお持ちなのですから」
 名案だとばかりにランが胸を張る。
 「祇家はヨンハを、嶺家はヨンサンを、琉家はセシルを、桜家もアサファを天界に残すことを条件に出すという手もありますよ」 
 出さられた名前はどれも5族の直系で次期の権力者となる者ばかりだった。
 「しかし5家の当主は曲者揃いだし、側近たちまでぞろぞろと付いて行きたいと言っている」
 「仮にも家宝に選ばれた者達です。あなたの不興を買うほどバカではありませんし、その他の者は嶺家の赤目がいいようにあしらいます。そのための護衛ですから」
 ひとまずはそれで乗り切るしかないか。
 半分諦め半分ヤケクソで、炎家のレオンを足しておけと吐き捨てると、ランに呆れられた。
 「どれだけ嫉妬深いんですか。炎家は祭りの主催者ですからレオン様の足止めは無理です。それにそちらの対策には頼もしい目付け役が存在しますでしょ」
 確かに釘を刺してあるシオンの目を盗んで、などということはあり得ないだろう。
 考えている所にダメ押しの一言が飛んできた。
 「バカンスも残り2日、たった2日間の奥様のお披露目も我慢が出来ませんか。何と心が狭い」
 そういわれては致し方ない。
 ミセイエルはかくしてランに一晩かかって天界での待機を説得され天界での長い時間を過ごすことになる。

 天界の当主達がこぞって炎家の祭り見物に出かけた日、ミセイエルは親友ヨンサンを相手に天界で、愚痴を零しつつ多少のヤツあたりで憂さを晴らすことにした。
 少しぐらい嫌味を言ったところでかまうものか。
 大体ハナを1週間のパシリに使っているのはこいつの弟なのだから。
 話題を「ノア」にしたのがまずかった!
 憂さを晴らすつもりが、憂さをいや増しすることになって・・・

 「おい、お前の弟がオレの妻をパシリに使うとはどういう了見だ」
 「パシリだなんて、立場はすぐに逆転して使われてるのはノアだと報告を受けているけど」
  それは、それでムカつくのだが。
 「昨日だってイベント会場でハナちゃんの相手役を務めるからって、散々あちらの茶会の練習に付き合わされた」
 「相手役ってなんだ?」
 「あれ、ランさんあたりから報告がなかったか?ノアがハナちゃんの客になって2人で会場を盛り上げる予定だと聞いているが」
 「2人だとは聞いてない」
 渋い顔で吐き捨てるミセイエルを見てヨンサンが笑う。
 「オマエがそんな顔をするから報告できなかったんだよ。まあ邪魔の1人や2人、いやそこここで客を替われと責められて、2人を満喫できるとは思わないがな」
 「ああ、妻の茶会に夫の僕が出席できないなんて。ゼウスのポジションなんて今すぐヨンハに押し付けたいよ」
 先ほどから、ボヤキと愚痴ばかりを聞かされるヨンサンが出来もしないことを言うなとばかりに言い返す。
 「ヨンハ以下祇家総動員で突き返されると思うけど。それともハナちゃんをサクラ・タカミネと認めて差し出して、祇家の子孫繁栄に協力するかい」
 どうしてそれを、と不審な顔を向けるミセイエルにヨンサンが呆れた顔で答えた。
 「相変わらずハナちゃんのこととなると視野欠損が起こるな。あのプレミアム試写会でオマエとヨンハが黒瞳黒髪の女を奪い合った話は天界を駆け巡っているんだ。天界人はヨンハの婚約者が黒瞳黒髪だと知っているし、同一人物だということを隠せるわけが無かろう」
 事実を突きつけられて呆然とするミセイエルにヨンサンが畳みかける。 
 「それに18才という年齢と、ゼウスの資質持ち2人を恋に突き落としたという事実に天界の年寄りは騒ぎ始めていたんだ。そこに予行演習で見せた奥方の艶姿の報告が入ったんだ。目のある天界人が動くのは当たり前だろう」
 「どういうことだ?」
 「オイオイここまで言ってもまだ分からないってか?オマエどんだけ色ボケしてるんだ?!」
 色ボケって・・・そこまでではないと思うが。 
 「炎家の花火大会に行きたいと騒ぎだした5族の当主を筆頭とする主だった天界人の目的はオマエの奥方見物だろうが」
 「ハナの?見物?」
 「まさか、天界人がこぞって炎家の祭りに物見遊山で行くとでも思っていたのか?」
 「それは無いが、よくもこれだけの天界人がゾロゾロととは思っていた」
 「オマエはどんだけ鈍いんだ。色ボケもそこまで来ると笑えないぞ!バカが!連中の目的はダイヤモンドオウカの是非の見極めだろうが」
 返って来た答えがあまりにも明後日の方を向いていて、苛立ちの余りバカ呼ばわりしたのに。
 「ダイヤモンドオウカ?なんだそれは?」
 冷静な声で疑問文を投げてくる。
 えっ・・・
 たまらず出た引き攣った声の後が続かない。
 「おまえまさか、19年前の入水騒ぎの経緯を知らないのか?」
 「オレが天界に来たのは17前だ。それ以前に起こった事は知らないこともある。とくに例の事件は天界ではタブーとされていたから誰かに聞く事も出来す、記録も残っていなかったからな。詳しくは知らない」
 そう返されてようやくミセイエルの反応に納得がいく。
 オウカ様入水事件はすぐに箝口令が敷かれたから、それにまつわる一連の噂はこいつの耳に入らずにいたらしい。
 「いいか、よく聞け。天界では19年間箝口令が敷かれて、公の場では誰も口にしなかった禁断の話をしてやる」
 ヨンサンは19年前にで始まるオウカ入水事件の真相について事細かく話して聞かせた。
 「じゃあオウカ様はその伝説のお姫様を妊娠して、お腹の子供の異能であちらの世界に飛んだというのか」
 「オレもそんなお伽噺は信じちゃいなかったんだが、18才のハナちゃんを見ていてその時の腹の子が彼女ではないかと思うようになった」
 「でも、ハナは特別な力を持っているようには思わないが」
 「オマエがそう思いたい気持ちもわかるが」
 ここで、一旦言葉を切ったヨンハンは真っ直ぐに親友のミセイエルを見据えた。
 「たぶん彼女は無自覚で特殊能力を使っている。例えば、こちらの世界に来たのだって彼女の意志だし、天界から地上に降りたのだってきっとそうだ。それに今年の長雨」
 「長雨?」
 「そう、あれはハナちゃんの心が呼んだ雨だ」
 「まさか。根拠はあるのか?」
 「シオン様が、天候に干渉できなくて原因を探ろうとしたらお前の奥方の泣き顔が見えたと。
当主の能力さえ封じ込める力の持ち主だということだろう?」
 「それは、お前の推測に過ぎない」
 「今は、な。でもそう考えると色々なパズルがピタリと嵌るんだよな。ゼウス様と次期ゼウス様をメロメロにしているという事実とかな」
 「そう思っているのはオレだけじゃない。ジュベリがプレミヤ試写会にハナちゃんを招待してそこにお前たちを呼んだのだって真偽を確かめるためだし、炎家が夏祭りに呼んだのだって何かしらの意図を感じるぞ」
 
 ヨンサンはその後を、独り言のようにつぶやく。

 「それに、ノアが他人とつるんで集団行動を取るなんてことは初めてなんだ。それも、誰かに命令されたことを素直に聞き入れるなんてにわかには信じられない」
 「どういうことだ?」
 「オレの弟は、な、・・・特別なんだ」
 そこで、一旦言葉を切ったヨンサンがその思いを周巡させると、思い切ったように次の言葉を吐いた。
 「俺たち家族でさえもこの上なく扱いにくい人間なんだ。それを一瞬でパシリに出来る人物なんて伝説のお姫様以外に考えられないよ」
 
 (ハナさん あなたを覆っていたベールが少しずつ剥がされています。お気をつけあそばせ) 
              
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