優しい時間

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夏祭り後半戦 その1

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  炎州の一部の天界人が年々炎家の一大イベントになりつつある夏祭りをヤッカミの目で眺めていたのは確かだ。
 口を開けば。
 当家が炎州の観光開発に携わっていた時はこんなバカ騒ぎはしなかった。
 若い当主様は若者の意見ばかりを取り入れて、すぐに年寄りを蔑ろにする。
 当家が企画する霊山巡りだって昔から続く伝統行事なのに。
 と、すぐに愚痴が口を吐く。
 今年の観光予算の振り分けの会議の出来事を苦々しい思いで振り返る。
 嶺家の子せがれがクオンの河川敷にイベント会場を作り今時のシンガーや人気アーティストを呼んでライブを開きたい。
 それにサユリ様が夏祭りで着ている浴衣を売り込んではどうか。
 今年の花火は今まで以上に盛り上げて、1ヵ月以上続く炎家の夏祭りのなか日と最終日に誰も見たことのない盛大なものを上げてはどうか。
 嶺家の子せがれと、あちらから来た地上人が大きな顔をして当主にへばりつきあれこれと指図めいた意見を述べる。
 その度に当家の企画する霊山巡りの予算が削られていくのを止められず口惜しい。
 気がつけば、今年は、嶺家の当主と次期までもが乗り出してきてなにやら大掛かりな仕掛け花火を打ち上げることに決定して会議は終了した。
 まことに面白くない。
 ここ数年毎年のようにこうして彼らの企画がとおり、それがことごとく当たり、成果を上げている。
   何より上げる収益が当家の企画したものと比べるとその差がどんどん開いてゆくのが歯がゆいし腹立たしい。
 今年あたり失敗しないものかと。 
 
 だから、うちの花火師を一人貸してほしいと頼まれた時、愚図で要領が悪く腕のない者を送り込んでやった。
 あの男は花火のイロハも知らぬくせにすぐに、なぜ?、どうして?を繰り返しこちらの指示どうり動かないから、仕事がはかどらず本当に使えないのだ。
 何が起こっても私は知らぬ。
 毎年当家が担当する花火をどこの馬の骨ともわからぬ者に任せた当主様が悪いんだ。
 
                 ***

 ハナのお茶会も無事済んで、姦し4人娘にとっては夏のバカンス最終日。
 といっても炎家の夏祭りは1カ月あり今日がちょうど真ん中、なか日で夜には見たことのないような盛大な花火が上がるというのでクオン河川敷はすごい人出だ。
 舞台がある広場は色とりどりのパラソルが開き椅子が置かれて、近くの露店から色々な物を買ってきて食べたり飲んだり休憩したりとまさに夏のバカンスといった風情である。
 姦し4人娘とパシリボーイズ達は朝からクオン河川敷にずらりと並ぶ露店をお楽しみ中だ。
 しかし浴衣を流行させるというコンセプトのもと歩く広告塔の役割はしっかりと果たし後半戦に向けての浴衣販売とレンタル企画に貢献している。
 イケメンのカジェラインは天界の美女たちにせがまれてニヤニヤ顔で案内係として引っぱられて行った。
 器用なツイードはヨーヨー釣りの露店の前で子供たちに囲まれて釣り方のコツをレクチャーしながらドヤ顔で笑っている。
 反射神経と運動神経のよいオーラントは同じ年頃の少年たちと景品を賭けたダーツゲームに興じている。
 あれ、セネガルドはどこ行った?まあいいか。そのうち出てくるだろうと、まるで10円玉。
 一方女性陣はというと。
 ルチカは祇家のお嬢様方に頼まれて浴衣の着方を教えるといって舞台裏に引っ込んだ。
 ユウちゃんと仲良くなったイマリは団子屋の店番を手伝ってくるといって今はいない。
 サラはというとあれ?ナンパされてる?いやしている?・・・そっとしておこう。
 ということでハナはさっきから1人でプラプラと露店と少しだけ距離を取って巡っている。
 だって、露天商の人に話しかけると皇家のSPがやってきて、
 「置いてある物を全部くれ」なんていうから店の人にドン引きされる。
 そうして1人でプラプラ歩いて誰かに声を掛けられようものなら、さささと皇家のSPが寄って来て、
 「何か御用でしょうか」と能面顔と硬い声を向けるものだから満員電車なみに込み合っている河川敷がハナの周り1メートルだけがスカスカなのだ。
 ちょっとぉ、お祭りっていうのは一人で回ってもちっとも楽しくないんだからねぇ、誰かと一緒じゃないとつまらないんだから~
 不満たっぷり、プリプリ顔で歩いていると突然手を掴まれた。
 「何か文句ある?」
 見上げると、赤い目が前を見据えて意地悪な笑みを浮かべてた。
 このセリフはハナではなく彼女の周りに潜むSPに吐いたものだが。
 そうは思っていないハナは下から怒鳴上げる。
 「あるわ!」
 反り返って睨んでやると、覆いかぶさるように鼻先を押し付けて口移しでもするように言葉が返って来た。
 「おまえは今日までオレの第一パシリだろうが!」
 「・・・」
 思いもよらぬエロい?体位でそういわれては言い返すが出来ません。
  黙り込んだハナにフンと鼻で笑うノアは、SPどもに<ついて来て来るのは勝手だが、邪魔はするな>と思念を送ることも忘れない。
 横に立つのは仕方ない!が、しかし、
 「この手は何なの!この手は!」
 掴まれた手を思いっきり振り解いた。
 が、ガッチリとホールドされた手は解けなかった。
 
 「7年前も、オマエ男と手を繋いで夏祭りに行ってただろ。今日と同じ花火模様の浴衣着て、男にこの簪を挿して貰ってそれは嬉しそうに笑ってた」
 アイツはだれ?
 ハナの過去を覗いたあの日から心の中に潜む疑問。
 赤い目は相変わらず前を見据えたまま簪を弾くノア人差指が視界に映ると同時に低く抑えた声が耳から入り、脳内にアサオと行ったあの日の夏祭りの映像がハッキリと浮かぶ。
 今より幾分幼い自分が幸せいっぱいの顔で笑っている中々に切ない映像だ。
 「アサオは今でも、私だけの王子様よ」
 もういなくなちゃったけどね、と心の底で呟く。
 「ゲッ!オマエその王子様に振られたのかよ」
 すかさず蹴りを入れたハナにノアが首を傾げる。
 「イテエ~な。その反撃はどこからくる?オマエ、怖くないの?」
 「何が?」
 「オレとの会話に疑問や不信感はないのかよ」
 ボソリと呟いたノアに、ハナが意味不明ですの表情で3回瞬きをした。
 ???だから何が???
 もういいと吐き捨てた彼がふんぞり返った。
 「今日はオレが、代わりを務めてやるよ。同じだろ浴衣」
 言うと親指で自身を指さした。
 えっ!?
 よく見ると、ノアの着ている浴衣は7年前にアサオが着ていたのと同じ浅葱色で帯も同じ黒を締めている。
 そしていつもは青の混じるブルーブラックの髪がこの上なく黒に近い。
 上から下までを眺めまわすハナにノアが残念そうな声で笑う。
 「まあ、目の色だけは変えられなかったけどな」
 柔らかく笑うノアの内面にハナを慰めるような優しい色が見えて、感謝の言葉が思い浮かぶ。
 ありがとう。
 どういたしまして。
 穏やかな赤い目に促されて、泣き笑いの顔で、カラ元気を出しハナが歩き出す。
 「じゃあ、私の荷物持ちに任命してあげる。まずはあそこでお土産買うから」
 連れて行ったのは先日立ち寄ったハンドメイドの雑貨屋さん。
 お料理の好きなリオおばさまには真っ白な割烹着風のエプロンを、リュウオンにはシンプルでオリエンタルなビールグラスを選んだが、果たしてミセイエルには何を選べばいいのかさっぱりわからない。
 右へ動いてこのネクタイじゃ彼が付けたらピエロか?左へと動いてはこのカフスを付けたらモロ安物丸出しか?と頭の中で着せ替え人形遊びをするハナに痺れを切らしたノアがうんざり声でいう。
 「ピエロに、安物。ホント、ゼウスには似合ってないわ。その特大原色ドット柄ネクタイとガラス玉カフス。夏祭りの露店でゼウスへの土産を選ぼうだなんてどんな神経してんの?今度いっぺん神経の太さも覗かせてよ」
 ???えっ今、口に出しましたか?しゃべりましたか?私。
 <今頃か?やっと気づいたか?さっきからあんたの頭ン中覗いてる>
 ダイレクトに頭の中に響くノア声にビックリ仰天!
 目の前の天使様のような柔らかな顔をガン見するけど取澄ました表情で唇が動いていない。
 もしや、想像力と腹話術の天才ですか?
 <違うわ!あんたの頭ン中を覗いて、念話で話してんの!>
 すごい!すごい!すごい!ノアって天才!
 <あんたの方がすごいよ。普通自分の頭の中覗かれたら、気味悪がるだろ。>
 そこでなぜかハナが胸を張る。
 「覗かれて困るような邪念持ってないし、人を見る目は昔からあって、悪意を持った人はわかるから」
 「ああ、単純で、複雑な思考力を持ち合わせていないからなオマエ。さっきもオレが見た7年前の映像をお前の単純なおつむに流し込んでやったのに気付きもしないしな」
 なにお~と怒りながらも、すご~い、ノア、そんなことまで出来るの?
 興味深々お目目キラキラのハナにノアはしばらく絶句した後細い息を吐いた。
 「ああ、一応5族の力はすべて使える」
 「ノアは嶺家の直系でしょ。なのに色々な力が使えるなんてすごいね」
 純粋な尊敬の眼差しを向けられたのははじめてで、それが信じられずに否定する。
 「キモイだけだろ?」
 その言葉にハナの方が傷ついたように顔を顰めた。
 「どうして?あなたちゃんと考えて使ってるじゃない。私たちをパシリにした時だって、無理難題を押し付けたこと一度もないし。ちゃんと相手の能力を見極めて課題を出してたし、出来ない時はさりげなく助け船も出してた。例えばには対人関係を必要とする仕事をサラに。統括的のものをお姉さん気質なルチアに、炎州出身のイマリさんには地元の情報が必要な仕事を割り振ってた。今だって落ち込む私を慰めてくれて」
 流れるようなハナの言葉がノアを包み込む。
 ノアは優しいね。
 ハナの中にあるお日様色の感情が乾いた心に染み込んで来る。
 己を固く身構えさせる誹謗中傷や、自身の存在を否定する思考以外を受け取った事があっただろうか。
 ハナから自分に流れ込んでくる感情や言葉は春の日差しのように柔らかで温かい。
 5年前に生まれたばかりの幼くて弱い心に柔らかで温かい光を与えられたのは初めてだった。
 「よく見ているんだなハナは」
 しみじみ呟くと、何でもないようにガハハと笑う。
 「だから、言ってるでしょ。人を見る目はあるんだって!」
 癒される
 ハナの周りには優しい時間を作りだす独特の風が舞う。
 温もりも痛みも感じない無機質な自分には戻りたくないと強くおもう。
 
 (ほのぼのしている場合ではありませんよ。仕掛け花火現場では何かしらが進行中です) 
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