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普通ポジションを望まない者
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初めて彼に抱かれたのは『ハナ様教育』も終盤に近づき、キヌアにダイヤモンドオウカに似た娘がいるという噂が流れた頃で、「はなは処女なんだよね?」とまるで食事の好みでも確認するように軽い調子で尋ねられた。
真っ赤になってあわあわする私を見て確信したようで、やっぱりねと言ってクスリと笑う。
「となると最後の仕上げが必要だね」
「最後の仕上げって何ですか?」
ハナ様教育でようやく身に付いた、ものを尋ねる時に何気なく出る首を傾げる癖を見て、いいねと笑む。
しかし答えはもらえずに、高位の天界人特有の圧倒的なオーラに加えてフェロモンダダ漏れの甘い眼差しで見つめられた。
「おいで」
柔らかな甘い声で誘われればその魅力に抗えない。
差し出された手を取って着いた先は豪華なベッドルームで、目に飛び込んだキングサイズのベッドに怯んで立ち止まった私の顔を覗き込んだ。
「ダメなんだよね。処女じゃ。だって彼女はミセイエル様の奥方なんだよ。処女なんてありえないから」
ここに来てようやく質問に答えた彼がサラリとダメを押す。
「いいよね。僕がはなの処女を貰っても」
甘い眼差しに気だるげな気配を混ぜた彼独特なオーラを纏わせて囁かれれば下位の自分はイチコロだった。
頷いた自分を優雅に抱き込んで花開くように優美な笑を見せ、感謝の言葉を口にする。
「ありがとう」
彼はその高い特殊能力で私は”普通”ではなく、何者にも代えがたい必要不可欠で特別な存在になれるんだと勘違いさせてくれる。
例えば、ハナ様を抱くときのゼウス様の快感はこんな感じなんだろうな、なんて失礼な言葉でも。
例えば、はなはダイヤモンドオウカ様になり替われるよと言う無理難題でも。
***
私の透視能力は現ゼウス様を超えている。だってそうだろう。ゼウス様ははなの手を取ったのだから。
わが一族は天界5族の中でも透視の特殊能力が高く、その力で情報を収取し管理することに長けていた。
なかでも自分の能力はかってないほど高いようで、ゼウスが掛けるシールドでさえも小さな風穴ぐらいは空けることはできる。
その高い透視能力でキヌアに突然現れたキリの娘を透視すると、一見何も持たないただの娘に映るのだが、透視能力を上げるにつけてその輪郭が歪み虹色の輪郭をもつ透明化した等身大のシャボン玉になる。
しばらくするとそれは弾けてしまい、彼女の思考や記憶などの実態が掴めない。
それは春にカナン殿で彼女を透視した時と同じだった。
ゼウスの秘密さえ覗ける透視能力を駆使しても片鱗も掴めない強力なシールドをかける能力の持ち主などこの世界には1人しかいない。
彼女は間違いなくダイヤモンドオウカ様だ。
それならばと彼女の周りの人間を透視し情報を集めた。
キリの娘に会うためにヨンハがキヌアを訪問することや、ミセイエルに仕える実力者のランが、直属の部下のイマリをその娘の下に送ったことをどこよりも早く掴んだ。
一番の成果は現ゼウスがエンゲージリングに度々魔力を流し込んでいることを知り得たことだ。 すぐさまその指輪を手に入れろと指令を出した。
現ゼウスはその高い特殊能力でハナ様が自分のものだということを忘れないように、他の男が彼女を誘惑しないように指輪を通して強い独占欲と執着心を彼女の中に流し込んでいる。
では、彼女が指輪を外したらどうなる?
彼女以外の女がその指輪を身に着けると現ゼウスの執着はその女に流れる?
など、知りたい事は山ほどある。
そこで彼女の周りにある欠片情報を収集整理し、かねてから準備を進めていた『2人のハナ様』という天界を揺さぶるだろう一手を投じて状況を見ながら、面白がるように呟く。
「ダイヤモンドオウカ様が2人になれば奪い合うこともないでしょう」
他の追随を許さない特殊能力持ちの上に、その笑顔一つで天界人を意のままに操ることの出来る彼女が誰を選ぶかはすぐさま天界の勢力図に反映するだろう。
もしかすると皇家が揺らぎ、5族の勢力図が入れ替わるかもしれない。
そんな事を考えながら、学友のあさおに招かれてキヌア領主鄭に滞在するセシルは巨大スクリーンを眺めた。
ゼウスの隣に立っているのはここ半年ほど自分の身近にいた女で、次期が抱き上げたのは直接話したことのない女だ。
透視能力の高い自分が見ても同じ顔をした2人は仕草や表情までが同じで一見一卵性双生児に見える。
完全なイミテーションの女の左手薬指にはゼウスの髪と同じプラチナで出来た指輪があり、この入れ替わりにゼウス様は、さて、どのような対応を?
過去の記憶を持たないハナ様はこの状況にどう反応する?
***
はなは一方的にステージの下から憧憬と羨望の眼差しを向けるその他大勢のポジションだった自分を特別な存在として扱ってくれるセシルの側に居たかった。
そのためにはまずここキヌアでヨンハの婚約者であるサクラに成り代わり、天界に場所を移せばダイヤモンドオウカ様に成り代わらなければならない。
不可能だとは分かっていても・・・
幼い頃から5家の高位に君臨する人たちへの憧れは強かった。
せめて、一目、一息、一時を同じ空間で過ごしたいと思い続けていた。
特殊能力も少く家柄も末端なはなが頂点にいる人たちに近づくためには天界侍女職に着くのが一番の近道である。
そのためには天界侍女養成学校を上位の成績で卒業しなければならない。
入学するにも高い偏差値と侍女としての適正を必要とするため、天界に生活基盤を置きたいモブ達は幼い頃からそこを目指して努力する。
天界侍女職について一度でいいからゼウス様を筆頭とする天界の実力者様たちと同じステージ空間に立つはなの目標は変わらず、10歳から受験できる入学試験に5回チャレンジし、15歳で合格した。
その後はハイスペックでなくともそこそこの特殊能力の持ち主と結婚できれば満足だった。
はなにかかわらずモブキャラが大体がこのパタ―ンでの養成所入学だ。
だが特例もある。
例えばゼウスのメイドについている同い年のイマリは一発合格し10才から養成所で侍女見習のための知識を習得しているし、ルチアは遅まきながら17才でランに憧れて天界侍女を目指し受験、主席合格の上成績優秀者に与えられる飛び級制度を利用し通常5年かかる卒業単位を2年で習得し現在は最高位の次席である准侍女長免許を獲得している。
彼らは天界侍女という職種につき各々の能力を生かしてキャリアを積み、例えばランのようにゼウスにでも物申すことの出来る侍女になり天界をけん引していく事だろう。
とにかく天界では中世の身分制度のごとく皇家侍女長を筆頭とする事細かい階級に分かれているのだ。
侍女養成所を卒業すると天界で重要ポストに就く高位天界人の皆様のお世話をする天界侍女職に就くためにまず天界5家のどこかに配属され地上侍女としての実践ノウハウを磨く。
はなが配属されたのは天界一の透視能力を持つ琉家だった。
次期当主との面とおしで、琉家の侍女長に連れられて頭を下げたまま彼の私室に入る。
「セシル様、本日より上級メイド見習いになったはなでございます」
「はなと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
俯いたままで既定の言葉を述べた私の頭上で甘いアルトの声が響く。
「顔を上げて自己紹介して」
え?これってセシル様の声だよね。高位天界人を直視することになるけど、いいの?
戸惑う私を隣に立つ侍女長が、セシル様の仰せのままにと指示を出す。
侍女長に促されて顔を上げると目の前に刺すような視線があった。
エメラルド色に煌くその眼は自分が小さい頃から可もなく不可もない普通ということにコンプレックスを持っていることを一目で透視しただろう。
憧れの高位特殊能力者との面会で舞い上がった私は、ついいつもの口癖が飛び出した。
「私、成績は真ん中、運動会の駆けっこは3番、生活発表会では主役を引き立てる友人Aよりも出番の少ない友人Cでした。だから上位で侍女養成学校を卒業できたことは奇跡に近いんです。特殊能力は微力ですが精一杯努めてまいります」
自己を卑下し否定し自信のない言葉で埋め尽くされる言動の端々にわずかな不満が潜んでいることもお見通しだったに違いない。
「ふ~ん。やっぱり名前だけじゃなく平凡な容姿までゼウス様の奥方と同じなんだね」
彼独特の甘い眼差しに気だるげな気配を混ぜたオーラを纏わせて囁かれれ、固まった視界の端で上品な口元が力を抜いてフッと花開く。
「天界の実力者との面会はこれが初めてか?」
柔らかい声だが威圧感が半端ない。
先に面通しした当主様や奥様とは比べ物にならないほどの存在感にクラクラした。
「はい」
ようやく声を出す自分に再び琉家の家宝と同じエメラルドの突き刺さるような視線が向けられる。
「それを変える気はない?」
言われた意味が分からない。
「どういう、こと、ですか?」
天界の実力者の覇気に充てられて出した声が震えた。
「誰に注目されることのないその他大勢のポジションを変えるってことだよ」
さっぱり意味が分からない。
「天界にはダイヤモンドオウカがもう一人必要ってこと」
緊張感のない声で答えたセシルは、目を見張る侍女長の視線を歯牙にもかけず何でもないことのように言葉を足す。
「はな、ハナ様になってよ」
この一言で『ハナ様教育』は始まった。
その類稀な特殊能力の高さでゼウス様の奥様であるハナ様の情報を集めまくっていたセシル様の要求は高い。
集められた映像を見て、言葉使いや表情はもちろん、立ち振る舞いや歩き方、視線の落とし方や笑い方に至るまでハナ様になるように体が覚えるまでしごかれ叩き込まれた。
そうして5ヵ月が過ぎて、はなってゼウス様の奥方に似てるわね、などと囁かれ知らないものが振り返る。
他大勢で誰からも注目を浴びない友人Cから、メインキャラの友人Aになったと自覚した頃。
軽い調子で何でもないことのように言われた。
「はなは処女なんでしょ。最後の仕上げが必要だね」
***
「はな、キヌアに着いたら件の娘の左手にある指輪を手に入れてね」
自分を抱いて横たわる半裸の男の呟きで意識が浮上してくる。
目を開けるとあの日と同じ光景が広がっている。
琉家の家宝と同じエメラルド色の瞳が15センチ先にあり、その顔は情事の後の気だるげな色気と賭けを楽しむ享楽家の傲慢さに溢れていた。
はなはその日の午後に、まずはヨンハを虜にする”サクラ”になりかわりれと言われキヌアの領主鄭に派遣された。
(はなが恋する相手は琉家のセシルです。捻じれに捻じれたこの組み合わせ!どうしょうかな?)
真っ赤になってあわあわする私を見て確信したようで、やっぱりねと言ってクスリと笑う。
「となると最後の仕上げが必要だね」
「最後の仕上げって何ですか?」
ハナ様教育でようやく身に付いた、ものを尋ねる時に何気なく出る首を傾げる癖を見て、いいねと笑む。
しかし答えはもらえずに、高位の天界人特有の圧倒的なオーラに加えてフェロモンダダ漏れの甘い眼差しで見つめられた。
「おいで」
柔らかな甘い声で誘われればその魅力に抗えない。
差し出された手を取って着いた先は豪華なベッドルームで、目に飛び込んだキングサイズのベッドに怯んで立ち止まった私の顔を覗き込んだ。
「ダメなんだよね。処女じゃ。だって彼女はミセイエル様の奥方なんだよ。処女なんてありえないから」
ここに来てようやく質問に答えた彼がサラリとダメを押す。
「いいよね。僕がはなの処女を貰っても」
甘い眼差しに気だるげな気配を混ぜた彼独特なオーラを纏わせて囁かれれば下位の自分はイチコロだった。
頷いた自分を優雅に抱き込んで花開くように優美な笑を見せ、感謝の言葉を口にする。
「ありがとう」
彼はその高い特殊能力で私は”普通”ではなく、何者にも代えがたい必要不可欠で特別な存在になれるんだと勘違いさせてくれる。
例えば、ハナ様を抱くときのゼウス様の快感はこんな感じなんだろうな、なんて失礼な言葉でも。
例えば、はなはダイヤモンドオウカ様になり替われるよと言う無理難題でも。
***
私の透視能力は現ゼウス様を超えている。だってそうだろう。ゼウス様ははなの手を取ったのだから。
わが一族は天界5族の中でも透視の特殊能力が高く、その力で情報を収取し管理することに長けていた。
なかでも自分の能力はかってないほど高いようで、ゼウスが掛けるシールドでさえも小さな風穴ぐらいは空けることはできる。
その高い透視能力でキヌアに突然現れたキリの娘を透視すると、一見何も持たないただの娘に映るのだが、透視能力を上げるにつけてその輪郭が歪み虹色の輪郭をもつ透明化した等身大のシャボン玉になる。
しばらくするとそれは弾けてしまい、彼女の思考や記憶などの実態が掴めない。
それは春にカナン殿で彼女を透視した時と同じだった。
ゼウスの秘密さえ覗ける透視能力を駆使しても片鱗も掴めない強力なシールドをかける能力の持ち主などこの世界には1人しかいない。
彼女は間違いなくダイヤモンドオウカ様だ。
それならばと彼女の周りの人間を透視し情報を集めた。
キリの娘に会うためにヨンハがキヌアを訪問することや、ミセイエルに仕える実力者のランが、直属の部下のイマリをその娘の下に送ったことをどこよりも早く掴んだ。
一番の成果は現ゼウスがエンゲージリングに度々魔力を流し込んでいることを知り得たことだ。 すぐさまその指輪を手に入れろと指令を出した。
現ゼウスはその高い特殊能力でハナ様が自分のものだということを忘れないように、他の男が彼女を誘惑しないように指輪を通して強い独占欲と執着心を彼女の中に流し込んでいる。
では、彼女が指輪を外したらどうなる?
彼女以外の女がその指輪を身に着けると現ゼウスの執着はその女に流れる?
など、知りたい事は山ほどある。
そこで彼女の周りにある欠片情報を収集整理し、かねてから準備を進めていた『2人のハナ様』という天界を揺さぶるだろう一手を投じて状況を見ながら、面白がるように呟く。
「ダイヤモンドオウカ様が2人になれば奪い合うこともないでしょう」
他の追随を許さない特殊能力持ちの上に、その笑顔一つで天界人を意のままに操ることの出来る彼女が誰を選ぶかはすぐさま天界の勢力図に反映するだろう。
もしかすると皇家が揺らぎ、5族の勢力図が入れ替わるかもしれない。
そんな事を考えながら、学友のあさおに招かれてキヌア領主鄭に滞在するセシルは巨大スクリーンを眺めた。
ゼウスの隣に立っているのはここ半年ほど自分の身近にいた女で、次期が抱き上げたのは直接話したことのない女だ。
透視能力の高い自分が見ても同じ顔をした2人は仕草や表情までが同じで一見一卵性双生児に見える。
完全なイミテーションの女の左手薬指にはゼウスの髪と同じプラチナで出来た指輪があり、この入れ替わりにゼウス様は、さて、どのような対応を?
過去の記憶を持たないハナ様はこの状況にどう反応する?
***
はなは一方的にステージの下から憧憬と羨望の眼差しを向けるその他大勢のポジションだった自分を特別な存在として扱ってくれるセシルの側に居たかった。
そのためにはまずここキヌアでヨンハの婚約者であるサクラに成り代わり、天界に場所を移せばダイヤモンドオウカ様に成り代わらなければならない。
不可能だとは分かっていても・・・
幼い頃から5家の高位に君臨する人たちへの憧れは強かった。
せめて、一目、一息、一時を同じ空間で過ごしたいと思い続けていた。
特殊能力も少く家柄も末端なはなが頂点にいる人たちに近づくためには天界侍女職に着くのが一番の近道である。
そのためには天界侍女養成学校を上位の成績で卒業しなければならない。
入学するにも高い偏差値と侍女としての適正を必要とするため、天界に生活基盤を置きたいモブ達は幼い頃からそこを目指して努力する。
天界侍女職について一度でいいからゼウス様を筆頭とする天界の実力者様たちと同じステージ空間に立つはなの目標は変わらず、10歳から受験できる入学試験に5回チャレンジし、15歳で合格した。
その後はハイスペックでなくともそこそこの特殊能力の持ち主と結婚できれば満足だった。
はなにかかわらずモブキャラが大体がこのパタ―ンでの養成所入学だ。
だが特例もある。
例えばゼウスのメイドについている同い年のイマリは一発合格し10才から養成所で侍女見習のための知識を習得しているし、ルチアは遅まきながら17才でランに憧れて天界侍女を目指し受験、主席合格の上成績優秀者に与えられる飛び級制度を利用し通常5年かかる卒業単位を2年で習得し現在は最高位の次席である准侍女長免許を獲得している。
彼らは天界侍女という職種につき各々の能力を生かしてキャリアを積み、例えばランのようにゼウスにでも物申すことの出来る侍女になり天界をけん引していく事だろう。
とにかく天界では中世の身分制度のごとく皇家侍女長を筆頭とする事細かい階級に分かれているのだ。
侍女養成所を卒業すると天界で重要ポストに就く高位天界人の皆様のお世話をする天界侍女職に就くためにまず天界5家のどこかに配属され地上侍女としての実践ノウハウを磨く。
はなが配属されたのは天界一の透視能力を持つ琉家だった。
次期当主との面とおしで、琉家の侍女長に連れられて頭を下げたまま彼の私室に入る。
「セシル様、本日より上級メイド見習いになったはなでございます」
「はなと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
俯いたままで既定の言葉を述べた私の頭上で甘いアルトの声が響く。
「顔を上げて自己紹介して」
え?これってセシル様の声だよね。高位天界人を直視することになるけど、いいの?
戸惑う私を隣に立つ侍女長が、セシル様の仰せのままにと指示を出す。
侍女長に促されて顔を上げると目の前に刺すような視線があった。
エメラルド色に煌くその眼は自分が小さい頃から可もなく不可もない普通ということにコンプレックスを持っていることを一目で透視しただろう。
憧れの高位特殊能力者との面会で舞い上がった私は、ついいつもの口癖が飛び出した。
「私、成績は真ん中、運動会の駆けっこは3番、生活発表会では主役を引き立てる友人Aよりも出番の少ない友人Cでした。だから上位で侍女養成学校を卒業できたことは奇跡に近いんです。特殊能力は微力ですが精一杯努めてまいります」
自己を卑下し否定し自信のない言葉で埋め尽くされる言動の端々にわずかな不満が潜んでいることもお見通しだったに違いない。
「ふ~ん。やっぱり名前だけじゃなく平凡な容姿までゼウス様の奥方と同じなんだね」
彼独特の甘い眼差しに気だるげな気配を混ぜたオーラを纏わせて囁かれれ、固まった視界の端で上品な口元が力を抜いてフッと花開く。
「天界の実力者との面会はこれが初めてか?」
柔らかい声だが威圧感が半端ない。
先に面通しした当主様や奥様とは比べ物にならないほどの存在感にクラクラした。
「はい」
ようやく声を出す自分に再び琉家の家宝と同じエメラルドの突き刺さるような視線が向けられる。
「それを変える気はない?」
言われた意味が分からない。
「どういう、こと、ですか?」
天界の実力者の覇気に充てられて出した声が震えた。
「誰に注目されることのないその他大勢のポジションを変えるってことだよ」
さっぱり意味が分からない。
「天界にはダイヤモンドオウカがもう一人必要ってこと」
緊張感のない声で答えたセシルは、目を見張る侍女長の視線を歯牙にもかけず何でもないことのように言葉を足す。
「はな、ハナ様になってよ」
この一言で『ハナ様教育』は始まった。
その類稀な特殊能力の高さでゼウス様の奥様であるハナ様の情報を集めまくっていたセシル様の要求は高い。
集められた映像を見て、言葉使いや表情はもちろん、立ち振る舞いや歩き方、視線の落とし方や笑い方に至るまでハナ様になるように体が覚えるまでしごかれ叩き込まれた。
そうして5ヵ月が過ぎて、はなってゼウス様の奥方に似てるわね、などと囁かれ知らないものが振り返る。
他大勢で誰からも注目を浴びない友人Cから、メインキャラの友人Aになったと自覚した頃。
軽い調子で何でもないことのように言われた。
「はなは処女なんでしょ。最後の仕上げが必要だね」
***
「はな、キヌアに着いたら件の娘の左手にある指輪を手に入れてね」
自分を抱いて横たわる半裸の男の呟きで意識が浮上してくる。
目を開けるとあの日と同じ光景が広がっている。
琉家の家宝と同じエメラルド色の瞳が15センチ先にあり、その顔は情事の後の気だるげな色気と賭けを楽しむ享楽家の傲慢さに溢れていた。
はなはその日の午後に、まずはヨンハを虜にする”サクラ”になりかわりれと言われキヌアの領主鄭に派遣された。
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