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アサファの思いとその他の認識
しおりを挟む今年のキヌアで行われる豊穣祭は天界人の渡航が許された。
ゼウスと次期がこの最終日の仮装パーティーに参加すると聞いた天界の重臣達はじっとしているのも落ち着かず、その高い特殊能力を使ってほんのわずかな時間でもとこの領主鄭の大広間に顔を揃えた。
当然その護衛や側近たちも忍びでやって来て、今この大広間に集まった参加者の中にはそこここに見知った顔がある。
この喧騒の空間にリンと2人で身を置いたアサファは、春に行われたカナン殿での命名式の光景を思い出した。
それは、周りの天界人も同じだったようで。
「やっと手元に戻られたんですもの。春にもまして、アツアツのお2人ですね」
「ゼウス様はいつどこにいても相変わらず完璧なエスコートぶりで。ハナ様もとても嬉しそうだわ」
初めはほんの小さな違和感が、映し出された映像を注視しているうちに、耳が周囲の声を拾うたびに少しずつ膨らんでいく。
ゼウス様の腕の中にいる女性以はホントウニ、ハナ?
誰も気づかない違和感が口から零れそうになって慌てて飲み桜模様の虹彩に隠す。
自分以外の男に微笑みかけた映像。
その女はハナじゃないと思うなんて自分はどれだけ諦めが悪いのだと自身に言い聞かせてみる。
彼女が自分以外の男の腕の中で笑うなんて認めたくなくて思わず苦笑いが漏れる。
でも確かめずにはいられない。
アサファは巨大スクリーンを睨みつけたまま、同じようにスクリーンを見つめる桜家一の能力者に呼び掛けると凪いだ声が返って来た。
「リン、頼みがある」
「何でしょう」
「あの女性がここに現れたらタカネコートで見たハナのオーラと同じかどうか見てくれないか」
そう言って顎をしゃくってみれば。
「それは私よりもアサファ様がなさった方が確実なのでは」
至極冷静な声で返されてアサファの眉尻が下がる。
「ここでは使えない。リンにはばれてしまったが、今は私がゼウスの資質持ちだと知られるわけにはいかないから」
祇家がヨンハをゼウスに押し上げたくないと思っているのは日頃のあの家を見ていればよくわかる。
だからもしヨンハの他にゼウスの能力持ちが現れたなら、その権力と財力でその者を次期ゼウスに据付け、ヨンハを飛び越えてゼウスに押し上げるだろう。
祇家に比べると桜家は何もかもが劣るゆえ否と唱えるのは難しい。
自分が皇家に召し上げられては桜家を支える屋台骨を失うことになるので桜家のごく一部の最重要機密として沈黙を守っていた。
そのためにハナを忘れるという苦しい決断をしたのだ。
「その秘密の継続は桜家のためですか?それとも、アサファ様の夢のためですか?」
凪いだ瞳で微笑みかけられて、意識して記憶の奥に沈めているハナの子供らしいあどけない声が浮上する。
『約束よ。絶対に私をアサオのお嫁さんにしてね。アサオの子供をポンポン生んで、アサオの家族を一杯作るの。私を優しいお嫁さん兼お母さんにしてね』
自分の中にある未練という隠した感情を読む彼女はやはり桜家一の能力者だと再認識する。
「・・・すまない」
言葉に詰まった末に出た謝罪の言葉を聞いてもアサファを見つめるリンの瞳は凪いでいた。
「謝らないでください。一途な思いを秘めたアサファ様だがら好きになったんです」
捨てられない未練が見せる、嫉妬や羨望に包まれた違和感を感じているとはとても言えなが、彼女にはそれも透けて見えているのだろう。
完璧な所作で大広間に顔を出したゼウスとその腕の中で満面の笑を浮かべた女性をリンと2人で穴の開くまで眺めると、やはり違和感は大きくなった。
自分の中に残るのもが未練だとすると、ゼウスの中にあるのは強い執着心。
カナン殿でのゼウスはハナを強引に他者から奪い取るほどの執着心とエネルギーを持っていたが、今の彼にはそれが微塵も感じ取れない。
ハナはハナであの時にあった意に添わぬものは跳ね返す強い光も、すべてを受け止めるたおやかな空気も纏ってはいない。
そんな彼女にはまるで心が動かない。
流れるようにスマートで洗練されたエスコートをするゼウスの態度にも納得がいかない。
自分なら、失ったハナが再び手の内に戻ったならあんなに冷静ではいられない。
自分なら、誰はばかることなく思いのたけを伝えるために抱きかかえて二人だけになれる場所に瞬間移動しただろう。
実際に、カナン殿でのゼウスはそうしたではないか。
しばらくするとゼウスが動いた。
えっ?!どういうこと?!
例え一瞬でもハナの側を離れて側近の下に行くだなんて考えられない。
そう思って、周りを見てみるが驚く顔は何処にもない。
居合わせた天界人達はこぞってゼウスが最愛の妻を手の中に取り戻したことに安堵の息を漏らしているようだ。
無理もないとも思う。
なにしろハナが姿を消したあの夏の日以来、ゼウスの纏う空気は真冬の夜よりも冷たく研ぎ澄まされて、側にいると凍りそうなのだ。
吐いた息が凍るほどの零下の空気の中で極度の緊張状態に追い込まれて辛いのだが、かといって彼の持つ強いカリスマのオーラに惹きつけられて自分からは離れられがたい。
とにかく周りにいる者はみな苦しいのだ。
これでやっとゼウスの纏う氷も少しは解けると誰もが胸を撫でおろしているのだろう。
そんな思いに捕らわれ初めた時にリンが口を開いた。
頭の中で色々と考えているとリンが固い声で結果報告をする。
「目の前のハナ様の色はカナン殿で見た時と同じ万色に見えます」
ああ、やはりこの違和感は自分の希望的観測に過ぎないのだ。
心変わりした思いの人が、不安そうなぎこちない笑みを浮かべてゼウスを見詰めているのが目に入ってアサファは泣きたくなった。
あんな顔をさせるために離れたわけじゃない。自分なら、絶対にハナにあんな顔はさせないのに。
「ーーー、---。」「ーーー、---。」「ーーー、---。」
「アサファ様」
こんな場所で叫ぶ事も出来ないリンに手をギュッと掴まれてアサファの耳はようやく自分を呼ぶ声を捉えた。
「何?」
アサファ様、ともう一度一声かけ、一呼吸おいて、ここからが肝心です、続けた。
「目の前のハナ様の色は春に比べると弱々しくて広がりもありません。夏の出来事で光を失ったのかかもしれません。ですが同じ色を透視してそれをコピーし彼女に張り付けた表面だけの光にも見えます」
「別人に彼女のオーラを張り付ける?そんなことが出来るのか?」
「ええ。ハナ様を完璧に透視できればそれもかのうです」
ですが、とリンは先を続ける。
「ゼウス様の透視能力で見極めたのならば間違いないでしょう」
リンはミセイエルが抱いている以上偽物はありえないと遠回しに言っている。
「そうだな」
その判断にアサファは静に肯定した。
そして、その判断から1時間と経たないうちに映し出された映像は、腕の中にいる白猫にとろける笑みを見せる次期の姿だった。
彼はその白ネコを‘‘サクラ‘‘と呼んだのだ。
え!!!???と思った瞬間に白ネコを抱いた次期が姿を消した。
あっという間の瞬間移動だ。
もの心のついた時から自分はダイヤモンドオウカ以外の女は要らないと豪語してはばからないヨンハがチョコレート色の瞳を持つ女をとろける顔で抱きしめて空間移動した?
それはアサファの考える愛する者を再び取り戻した時のゼウスの能力持ちの行動そのものだった。
次期がハナとは違う瞳を持つ新しい恋人を見つけた?
今更そんな事あり得る?次期にとって2才から思い続けた人なのに?
第一ゼウスの能力持ちがダイヤモンドオウカ以外に惹かれる事などあるのだろうか?
自分には無理だ。
ハナ以外をあんな目で見ることなんてできない。
隣に立つ女の正体を見極めかねている体のミセイエルに対して、ヨンハには迷いがない。
まさか?こっちが本物?
***
ミセイエルの下にそこここにたむろする天界の重鎮達が我先にと押し寄せる。
皆が深々と頭を下げ、声をそろえる。
「「「「「おかえりなさいませ。ダイヤモンドオウカ様。」」」」」
言われた本人はギョッとし、隣に立つミセイエルは眉間の皺を深めた。
「皆さま。いったい何の話ですか?」
棘のある声で答えるミセイエルなどまるで無視の海千山千の中年男たちが次々に顔を上げてニコリと微笑む。
「ハナ様、私は皇家で宰相を務めております祇家の当主のチカハ・ギーツと申します。夏に頂いた抹茶なるものの味はわすれておりませんよ」
「私は皇家で財務大臣を務めております嶺家当主でサンローラド・リョーツと申します。夏に頂いた団子が大好物でして、あの程よい甘さがたまりません。また今度当家で作っては下さいませんか?」
「ハナ様。お久しゅうございます。桜家のカルトマ・オーツでございます。春のカナン殿ではご尽力を賜りありがとうございました。姉のオウカによく似たその容姿を見れば桜家の血を感じずにはいられません。どうか家宝の行方を捜していただけませんか」
そんな中で、5m先から駆け込んできた燃えるような赤い髪をした男装の麗人に抱き込まれる。
彼女の顔は涙でクジャグジャだ。
「ハナ。ハナ。ハナ。無事に戻って来てくれてありがとう」
見れば5家の当主達が一重に、その周りを天界の重鎮達が二重三重に取り囲んでいた。
その顔ぶれにミセイエルは怒りで顔を赤くし、ハナ様と呼ばれた女の顔は青色を通り越して紙のように白い。
「お前たち、天界に残るものがいなとはどういうことだ」
「お言葉を返すようですが、ハナ様が戻られたと聞いて馳せ参じぬ5族の主などおりません。ダイヤモンドオウカ様は天界人を動かす華でございます。皆一言ご挨拶せねば収まりませぬ」
怒りを隠そうともしないゼウスに、だが年の功である5族の重鎮達はさらりと言い返し、再びはなを見てにこやかに微笑む。
同じ空気など吸ったこともない5族の重鎮達が自分に頭を下げ、にこやかに微笑みかける。
私は一体誰に成り代わろうとしたのだろう。
天界の重鎮達がこぞって頭を下げるダイヤモンドオウカ様?
そんな人のふりをした?
そんな大それたことをした?
事の重大さを思い知らされてもはや震える唇に笑みも色もない。
騙ったという事実と後悔の重みでそれはそれは小さな息の様な声を吐く。
「じ・じ・つは、頼まれてゼウス様の、つ・まだと、 」
何とか息に乗せた声は目の前に現れた、よく見知った若者に手を握られて遮られる。
「ハナ様、ゼウス様の下に戻ることが出来てよかったですね。ゼウス様も愛するあなたをもう二度とお放しにはなりませんから、安心してゼウス様の腕の中にお留まり下さい」
まるで中世の騎士のごとく彼のエメラルドグリーンの目が静かに語る。
一度上がった舞台は幕が下りるまではけして降りることを許さないと。
もはやはなは意識を保つこともままならずその場に崩れ落ちた。
(次から場所を天界に移して話が進みます。ハナは相変わらず普通のポジションが落ち着くようです)
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