優しい時間

ouka

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ヨンサンの思考と推測

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 「あの、はなさんは替え玉です!」
 「!どういうことだ!」
 「報告は上げました!」
 ヨンサンをキッと睨みつけ、ふがいないと怒鳴りつけた。
 「?」
  訝しがるヨンサンが見えないのか、ガックリと肩を落としてこれ見よがしの盛大なため息を吐いた。
 ハァ~
 「まさか、ゼウス様が惑わされるなんて思ってもいませんでした」 
 悔しさの籠ったジト目を向けて、ナツさんが、ナツさんにどうたらと恨み節を垂れ流し。
 「サクラちゃんがヨンハ様の手を取ったから、今頃ナツさんは璃波宮でニンマリ祝勝会してるはずです」
 最後は怒りで締めくくる。
 「偽物ハナ様に惑わされてる間にヨンハ様にサクラ様を攫われるなんて。ミセイエル様の目は節穴ですか!それとも心変わりですか!」
 聞き捨てならぬとばかりにヨンハも言い返す。
 「イツキ、それ以上の悪態は許さないよ。ミセイエルはハナちゃんがダイヤモンドオウカの輝きを失っても側にいたいというほど一途なヤツなんだ。
 だいたいヨンハが白ネコを連れて行ったのがそんなに問題か?彼女はヨンハが先日の観月会で見初めた、あさお殿の客人だと報告を受けている。ハナちゃん探しとは無関係だろう」
 怒髪天を衝くとは、まさしく今のイツキのことだろう。
 「バカ~。あさお様はオークションの発案者で、きっとこの替え玉事件の首謀者に違いないんです」
 ミセイエルとの面会をはなさんにしてもらってはどうかと提案したのも、二人が出会わないようにオークションという手段でその時間帯のサクラちゃんを拘束したのもあさおなのだ。
 「あさお様には気をつけろと報告を上げたでしょ。それなのに彼の言うことを鵜呑みにするなんてどういう了見ですか! 
 地上人相手に皇家や、嶺家の諜報はいつから偽情報を掴まされるボンクラになったんですか!
 白ネコが本物のキリの娘のサクラちゃんで、私たちが探していたハナ様です!
 状況を見てください!
 あのヨンハ様がダイヤモンドオウカ様以外をあんなとろけそうな顔でエスコートするわけがないでしょ!」
  「あ~、ばか~!ほんとにもぉ~」
 イツキが心底悔しそうに嘆く。
 「お昼のオークションから、祇家はヨンジュン様まで投入して、何が何でも白ネコ狙いだったのに、当家ときたら簡単に競り負けておかしいと思ってたんです。何か特別な知略でもあるのかと思えば。ただの浅慮バカだったんですか! 
 あの映像後、止める間もなく、お二人そろって空間移動で璃波宮直行です。
 まさか璃波宮に踏み込むわけにもいかず、それを慌てて伝えにくれば、うちの次期様は理解力が皆無で話がかみ合わないし。あぁ~ほんとにバカ!
 ミセイエル様はダイヤモンドオウカ様をヨンハ様にお譲りするおつもりなんですかねぇ~」
 ヒートアップしてまくした最後を嫌味で締めくくったイツキをヨンハのドスの利いた冷ややかな声が一閃した。
 「おまえの報告は正確に上がってこなかった。おそらくイマリのもだ。だから当家や皇家の諜報部は白ネコスルーだった」
 え???
 一瞬で冷えたイツキが驚きに目を瞬かせる。
 しばらく考え込んだヨンサンがイツキに視線を戻す。
 「おまえの話に先ほどから登場するナツの情報をもう一度出せ」
 え、今さらそれを聞きますか。
 「彼女は祇家の末席の出だそうですが、命令口調で目の前の事案をハイスピードで捌いていく超実力派の切れ者です。」
 「お前の報告は凡庸だとあったが」
 冗談でしょ!そんな報告してない!
 「彼女は側に寄っただけでただ者ではないと思わせる人です」
 「そのただならぬ女は、着るものや化粧にこだわるモデル体型の美人か?」
 「そうですが、ヨンサンさん。お知り合いですか」
 イマリの返事にヨンサンの顔に人の悪い笑みがのる。
 「ああ、よ~く知ってる。ヨンジュンの妹で祇家の隠し玉と言われている女だ。祇家の有力者でお前の記憶ぐらいすぐに塗り替えられるだろうよ」
 さっきまでの立て板に水のごときの勢いは何処へやら顔色を無くし、切れ切れに声が出る。
 「それは、いったいどういう、こ、と、」
 虫の息で呟くイツキの肩をヨンサンがポンと叩く。
 「正確な報告が届かない理由がその辺にあるのか、なんてね」
 イツキは頭の中で言われたことをかみ砕く。
 「私の行った諜報参謀への報告は途中で記憶が塗り替えられて、正確ではなかったと。実際はしていない報告もあったということですか?」
 信じられない結論にたどり着いて震えるイツキをヨンハが凪いだ目で見る。
 「あくまで推測だ。だが、ミセイエルのハナちゃんが白ネコに扮するとは聞いていない。まあ祇家とは初から力の入れようが違う。あちらさんは春から婚約者殿を探していたからな。情報収集の段階から後れをとっていたんだろう。それにお前とナツでは特殊能力に雲泥の差がある。だからこの結果なんだ」
 「申し、わけ、あ、りま、ありません」
 嗚咽交じりの謝罪に、仕方ないさと彼は笑う。
 「キヌアにお前を登用したのはオレだからな。責任はオレにある。オレがお前に課した任務を覚えているだろう」
 「ハイ」
 イツキの任務はこの秋に突然現れたハナに似たキリの娘の正体を探り、細かな情報を上げる事だった。
 「結果を報告しろ」
 「チョコレート色の髪と目を持つサクラさんがダイヤモンドオウカ様で間違いありません」
 「その、根拠は」
 「一緒にいると、優しい時間が沢山もらえるんです。心地いいから離れがたくて、誰にも渡したくなくなるんす。今日のヨンハ様の幸せそうな様子を見て確信しました」
 「合格だ。ただしミセイエルには最後のフレーズは言うなよ。あいつはハナちゃんのことになると特に狭量だからな」
 
 ヨンサンは泣き笑いの顔を上げたイツキに、遅れは取り戻せばいいんだよ、と言葉をかけながら頭の中で首を捻る。
 イツキはともかく、イマリはミセイエルの隠し玉だ。ゼウスの息がかかった者の記憶をヤツに知られずに操作するのはナツでは力不足。
 ではなぜ皇家の超精鋭部隊が正確な情報を入手出来ずに後手に回ったんだろう?とじっくり考える暇もない。
 
 ヨンサンは高速で空間移動する。
 行き先はもちろんミセイエルの側。

                   ***
 
 ミセイエルの気配をたどって空間移動したヨンサンは、気配を消して部屋に入るとすぐにその隅に控えた。
 目の前には天界の重鎮達がズラリと並んでいて、ミセイエルは不機嫌な顔で彼らを見下ろしている。
 どうやらここはキヌアの主が用意した貴賓室のようだ。
 重厚なソファーの上に替え玉を降ろしたミセイエルに5族のトップ5が低い声で詰め寄り、ソファに横たわる意識の無いハナちゃんもどきに視線を当てたまま短い問答をしていた。
 「ミセイエル様。このようなところにハナ様を置いておいてはけません。大至急で皇宮の後宮にお部屋を用意いたしますので天界にお連れ下さい」
 「天界に囲えと?」
 「さよう。ハナ様は天界の華であらせられます。天界の皇宮の大広間にて帰還の祝賀会も開かねばなりますまい」
 「彼女が天界の華だという根拠は?」
 「炎家の花火大会で異能を使われる姿はまさに天女。あれを見せられては誰もハナ様の正体を疑う者はおりません」
 「私はそれを実際には見ていない」
 ミセイエル様、と呼び掛ける声の方へ視線を向けると宰相の柔和な顔が視界に入った。
 「息子もそうですが、ゼウスの資質が高い程、人にも物にも関心は薄い。ですがハナ様に対するあなたの執着心は強い。それこそが何よりの証拠でございましょう。いやぁリオ様の故郷の、異世界の住所が知りたいと詰め寄られた時の迫力は凄かったですからね」
 少しの嫌味を混ぜた笑みの浮かぶ顔は好々爺だが眼差しは鋭い。
 それに、と一呼吸おいて話題を変えると硬い執政者の顔に戻り先を続けた。
 「それに、ダイヤモンドオウカ様を見極められないと御しゃるなら真偽がわかるまで関わっていくしかありません。それをあなた一人に任せたりはしませんよ。そのために我々5族の当主がいるのですから」
 「・・・」
 「と、いうことで、こちらのハナ様には、しばらく皇宮にいて頂きましょう」
 こちらの?ハナ様?
 その言い方がどこか引っかかった。
 意識をそらされているうちに5家の当主達が、そうですそうですと畳みかける。
 「いかにゼウス様と言えどこれ以上ダイヤモンドオウカ様を秘することはおやめ下さい」
 「ハナ様の力は、天界全体で保護し管理されるべきものです」
 「ハナ様の笑みも平等に分けて頂かねば天界の均衡が崩壊いたします」
 「後ろ盾を持たないハナ様に付く侍女も天界の勢力図が偏らないように選定しなければなりません」
 「われら先に戻り部屋の準備だけでも整えてお待ちいたします」
  有無を言わさぬ勢いで立て板に水のごとく言いたいことをのたまうと、皆一斉に同じ所作で跪拝の礼を取るとあっという間に姿を消した。
 もちろん手段は空間移動。
 なんたって皆様天界の実力者ですから。
 
 残され空間に響いたのはミセイエルの長~いため息と、部屋の隅で控えるヨンサンの立ち上がる音。
 「いやぁ~すごかったね。当主様たちの勢い。お気に入りのペットと、触れ合いたい、癒されたい感が半端ないないなぁ。ありゃ事ある事に押しかけて来そうだ。気をつけろ」
 「気をつけるったって、天界で何をどう気をつけるんだ?第一、お前、居たんなら少しは援護射撃をしろ」
 若干気の抜けた声で恨み言を言われたヨンサンが乾いた声でハハハと笑う。
 「冗談言うな。5族当主に向けて発砲なんかしてみろ。即返り討ちにあう。なんたって俺はしがない嶺家の次期に過ぎないからな」
 確かになあ
 「みな知略に長けた海千山千の輩たちだ」
 うんうんと頷いたヨンサンは顔を引き締めると気になった事をミセイエルに振ってみた。
 「それはそうと、チカハ様のあの物言いって、なんか含みあったよな」
 「ああ、確かに、こちらのハナ様だなんて、まるでハナが複数いるような言い方だったな」
 やっぱり、こいつも気がついていたか。
 「それにしても、全く起きる気配がないな。こちらのハナ様は」
 チカハを真似た言い方をして娘をチラリと見たヨンサンが話を念話に切り替えた。
 『オレがたった今仕入れた情報によると、ダイヤモンドオウカの真偽は別にして、この娘はキリの娘の替え玉だそうだ』
 ミセイエルも即座に念話で切り返す。
 『替え玉とはどういうことだ』
 『ハナちゃんに似たキリの娘は、誰かの何らかの意図でハナちゃんにそっくりなこちらのハナ様と入れ替わったそうだ』
 『入れ替わった?』
 『本物は、ヨンハが祇家の天界別邸に連れて行ったようだ』
 『ハナを璃波宮に連れて行っただと?』
 ハナちゃんに似た娘とヨンハが接触したと聞いただけでその反応かよ。
 半ば呆れながらもヨンサンはミセイエルを宥める。
 『ちがうよ。落ち着け。ハナちゃんに似たキリの娘をだ。今回の入れ替わりにあさお殿も一枚噛んでいるらしい。どういう訳か偽情報に皇家の諜報員も踊らされて、対処が後手に回っている』
 途端ミセイエルのギリリと奥歯を噛む音がし、見れば握り込んだ拳も震えている。
 『何が目的かは知らないが、裏で糸を引く誰かがいるんだろうな。なんか天界全体が浮足立ってきな臭い』
 さっきまでの覇気のないヤツはどこへやら。
 怒りのエネルギーを抑えきれないミセイエルの表面をプラチナの粒子が舞う。
 ヨンサンが声を出してハハハと笑う。
 「ちょっとは元気が出て来たじゃないか。ということで、こちらのハナ様を連れてオレ達も一先ず天界に移動しようぜ。ウソつき野郎のあぶり出しはそれからだ」
 「許さないから」
 氷の彫刻仕様のミセイエルの口から出た声はその場空気を凍らせた。

                   
 
   (今回も、天界に移動できませんでした。ごめんなさい。でもようやく行けそうです)
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