優しい時間

ouka

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天界の生活って???

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(ハナが自分の名前を高嶺咲良と自覚し天界での生活が始まりましたので第三者視点では呼び方をハナからサクラと変させていただきました。ややこしくて済みません)
     ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー     
 ひゃ~
 クスクス   
 えっ???と、思う間もなくあたりの景気が一変したせいか気持ちも切り替わった。  

 「サクラ。目を開けてみて。僕はこのあたりから眺める璃波宮が好きなんだけど。君はどうかな?」
 言われて恐々目を開けると眼下に広がる景色の中に陽光を乱反射する宮殿が見える。
 パラシュートを付けずにセスナ機から急降下するような感覚を覚えた体は、高度がスカイツリーのてっぺんあたりからユラユラと浮遊するように高度を下げ始める。
 白砂塵で覆われた原野の中にあるマッチ箱を幾つも連ねたような高さのない宮殿はとてもシンプルで可愛らしい印象だが高級感が半端ない。
 サクラを抱っこしていてもヨンハは景色を細部まで楽しめるように自分の意志で高度を調節しながら降下することが出来らしい。
 信じられない!混乱する!呆然とする!現実とは思えない!心にあった疑問なんかすっかり忘れて感嘆の声がでた。
 「キレイー!!」
 サクラが零した感嘆の声を聞いたヨンハがここ一番の顔で笑う。
 白いマッチ箱の宮殿をくっきりと浮かんだ白砂の波紋が取り囲んでいる光景は名画のようで胸が震えるほど優美で壮大だった。
 「お城が白い波間に浮かんでいて夢の世界のようにきれい。だから璃波宮?」
 「そう。僕もここに来る時にいつも眺めるけど、サクラと見る今日が一番きれいに見える」
 愛する人が自分がきれいだと思うものを同じようにきれいだと言ってくれることがこんなにも嬉しくて幸せな時間を連れてくる。
  
 ゆっくりと大気の中を漂うように高度を下げていくヨンハにお姫様抱っこされて着地した先は映画でしかお目にかからない歴史を遥かに遡った世界でだった。

 ここは何時代?
 女性は引き詰め髪を後ろでまとめ踝まであるロングスカートに編み上げ靴を履いた貴族の侍女スタイルで。  
 男性は短髪か肩まで伸びた髪を一つに括っていて、白シャツに釣りズボンを履いていた明治維新の書生さんだった。
 まるで産業革命かルネッサンスを思わせる出で立ちでピシリと整列している。
 そこに並ぶ幾つもの眼差しが予想外のものを捉えたようにピクリと揺れたが、彼らは何事も無かったように精密なロボットのごとく一糸乱れぬ所作で頭を下げた。
 そんな中、近世の映画によく登場する執事風の壮年の男性が顔を上げ、まず自己紹介をした。
 「私は祇家の家令のギバテ・ギーツと申します」
 銀縁メガネの奥から覗く神経質そうな目がサクラを直視し、視線だけで、あんたはどなたですか?と問うているが町娘風情に答えられる空気じゃない。 
 鋭い視線を向けられて萎縮する彼女の反応にヨンハは怒気を垂れ流した。
 「僕がサクラ以外の女をここに連れてくるとでも?」
 だがそれくらいでは動じないギバテも負けじと言い返す。
 「ですが御髪の色や瞳の色が私どもの記憶にあるサクラ様とは違います」
 「僕がサクラの声を聞き違えるとでも?」
 サクラがこの璃波宮から突然消えた時のヨンハの憔悴した顔や、その後必死で捜索する姿を知っているだけに、この璃波宮の住人は一日も早い彼女の帰還を願うと同時に、その思いが強すぎて似た女で手を打ちはしないかと危惧もしていたのだ。
 特に、サクラがミセイエルの妻に納まっているらしいと聞いたときは自暴自棄になりはしないかと心配もした。
 そのヨンハが間違いなくサクラの声だという。
 ヨンハの持つ絶対音感は声紋のレベルで音の質までもを聞き分けることを祇家の全員が承知していた。
 どんなに姿かたちを似せようと声紋まで同じにすることはゼウスの能力を持ってしても不可能だ。
 自分の主は本物を取り返した。
 ここに控える彼ら全員がホッと息を吐き、絶対君主を仰ぎ見る。
 「彼女の望むことを最優先に考えよ。ここにいる者はそれを肝に銘じて行動せよ」
 強いカリスマを持つその声は逆らう者には容赦なしの残酷な中世の支配者階級の威圧感を纏って響く。
 家令のギバテが服従の意を乗せた静かな礼を返すと、後ろに控える者たちも頭を下げたまま声を揃えた。
 「御意」
 
 訳の分からないやり取りが終わりホッとする間もなく、ヨンハは頭を下げて集う人達を二つに割いてできた道を抜け、広いエントランスホールを後に長い廊下をサクラをお姫様抱っこしたまま進む。
 ちょっと~。やめて~。下ろしてくださ~い。
 私には2本の立派な足があります。ヒールを脱いだら十分使えますから。
 喉の奥で固まって出ない心の叫びを、モゾモゾと身じろぎすることで拘束の主に伝えてみるが返って来たのは。
 「だ~め。カワイイお尻と足のラインが丸出しの格好でここを歩くだなんて許可できない」
 トロ甘な声でサラリと言ってサクラを黙らせて、着いた先は古めかしいながらも高級感あふれるアンティーク家具の置かれた20畳ほどあるリビング。
 淡いピンクの大理石の壁にはアラベスク模様のリネンのカーテンが引かれ、ピカピカに磨かれた白大理石の床には緻密な模様が施された光沢のある毛足の長い絨毯が敷かれている。
 「この部屋総額おいくらですか?」
 もはや脈絡のない質問をするサクラの隣に腰を下ろしたヨンハは思わず噴き出した。
 それから彼女の頭を自分の頭にグイっと引っ張って視線を合わせる。
 「僕と初めて会った時サクラは僕の着ていた服の値段を尋ねたんだ。その瞬間に僕は恋に落ちた」
  額どうしをくっ付けてフフフとそれはそれは幸せそうに笑うヨンハの目からラヴ光線が降り注ぐ。
 「か、か、かわってますね」
 「僕のこの顔を初めて見て服の値段を聞く君の方が稀少種だと思うけど」
 綺麗な顔に迫られて甘い声で鼓膜を揺らされて、再び指一本動かせない身体停止状態になったサクラは現実逃避で一人ツッコミの世界にどっぷり浸かる。
 いったい何が起こってこうなった?
 だいたいここ何時代?家令ってなに?
 この近世の主従関係の様な雰囲気はまるで映画で見た産業革命直後のヨーロッパみたな?
 時代劇みたいにギョイって、返事してて、古城にタイムトラベルした感満載ですが。 
 なにより、目の前にある綺麗な顔に全然馴染めな~い!
 
 「お帰りなさいませ」
 
 掛けられた声に現実に引き戻されてキョロキョロと辺りを見る。
 やっぱり景色は変わらないどころか古代にまで遡った感がある。
 だって前にはエンパイヤスタイルと呼ばれる大きく開いた襟ぐりに小さなパフスリーブ、ハイウエストという細くて直線的なシルエットのドレスを着た女と、精白のトーガを着た男が膝を着き、頭を床に着くほど下げて跪拝していた。
 「直答を許す」
 隣に腰を下ろすヨンハが長い足を組み替えて威厳に満ちた声で一言のたもうた。
 へ?
 チョクトウって・・・、言葉使いおかしいよ。
 それにそのドレスや髪形、頭を目いっぱい下げたその姿勢といい、近世どころか古代あたりに生きてませんか?
 サクラが訝しげに二人の後頭部とヨンハの顔を交互に見ていると彼女が人が口を開いた。
 「サクラ様。正体を隠して近づいたことをお許しください」
 聞き覚えのある声だった。 
 正体を隠してた?って。
 低い位置から掛けられた声と謙った言い方に違和感が募る。
 信じられない思いで急いでソファーから飛び降りて膝を着き、家臣の礼を取るように跪く姿勢で低頭している女の顔を覗き込む。
 「まさか、ナツさん?」 
 表情筋の一つも動かさないままナツが抑揚のない声で告げる。
 「家臣の私に敬称は不要です。どうかナツとお呼びください」
 カシン?違う、友達だよ。
 ほんの数時間前に嫌がる私に白ネコ衣装を着せてお化粧をしたのは目の前で跪いている人だ。
 姉御肌で、いつも上から目線で、落ち込む私をそのサッパリとした気性で笑い飛ばしたりもした。
 なのに、チョクトウヲユルスと言われて謙譲語で話だし、カシンだなんて時代劇でも始めようと言うの?
 訳がわからず顔を顰めたサクラの視界に低頭したままナツの隣で跪拝していた男が顔を上げた。
 トーガ纏った古代ギリシャ風の装いをしたこの男の顔には見覚えがある。
 「確かお月見の時ヨンハさんの隣にいた方ですよね。キリのチケットオークションでも会いましたよね?」
 「ナツの兄でヨンジュンと申します。私たちは祇家の参謀を務めておりますが、オウカ・オウカ様を優先順位一位としてにお仕えいたします」
 そう言って両腕を胸の前で組んで垂れ下がっている袖にしまい家臣の礼を取ると再度ナツと共に床に着きそうなほど深々と頭を下げた。
 「???いったい何の話ですか?仮装だけでは満足できなくて寸劇でも始めました?」
 「ここ天界には地上とは異なった決まりごとがいくつもございます。ここ璃波宮ではそれほど厳しくはございませんが皇宮ではこの装いが正装ですし、上位の者が声をかけるまで頭を上げることは許されません」
 なぜ?そこは私には関係かつ必要のない情報ですよね?
 首を傾げるサクラの隣でクスりと笑う声がする
 「ヨンジュン、ナツ、天界生活の予習は終わりにして着替えておいで。それから例のものをここへ」
 2人は軽く頭を下げると機敏な動きで隣室に消え、見慣れたスーツに着替えて戻って来た。

 大きなスーツケースを持ったヨンジュンがサクラの目の前にそれを突き出して真摯な顔で問う。
 「これに見覚えはありませんか?」
 もちろん、スッキリ、ハッキリ答えましたとも。
 
 「ありません!」
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