16 / 55
二人の王子と温室とお祭りの準備
第16話
しおりを挟む
「記念祭? うん、園芸委員会では毎年、温室の展示をしているよ」
鉢植えの葉の裏側に水滴がかからないよう慎重に霧吹きを使いながら、ジェイ王子はにこやかに答えます。
「展示……それだけですか」
「うーん、そうだねぇ……。ただ、今年は先輩たちが忙しいし、研究室での展示もあるみたいだから、出し物はできないかも」
それを聞いた私は少々がっかりしたものの、記念祭への興味が潰えたわけではありませんでした。
「クライス・ティアの建国記念祭は、三日間かけて行う大規模なお祭りだと聞きました。去年はどんな様子だったのですか?」
私が投げかけた質問に、ジェイ王子は水を吹きかける手をとめ、暫し考え込みます。
「僕も去年、初めて生徒として参加したんだけど……。学生だけじゃなくて、よその国からもお祭りを見るためにたくさんの人が来るから、かなり賑やかになるよ。学生街にも露店がたくさん出て、雰囲気がいつもと全然違ったな。学校を見学しに来る人も多くて、いろんな学部や委員会が展示をしたり、有志の学生たちがお店を出したりするんだ」
私はクライス・ティアに入学するまで学校に通ったことがなく、当然学校で開かれるお祭りに参加した経験もないものの、想像するだに楽しそうです。
ルヴィは見学するだけでもいいと言っていましたが、自分でも何か出し物を用意できたら、よりお祭り気分を味わえるような気がします。
「テメェら、なに無駄口叩いてんだ! きりきり手動かせコラ!」
そのとき、温室のガラスがびりびりと震えるほどの怒声が響き渡りました。
シャリマー王子は我々に檄を飛ばす間も、小分けにした苗の中から植えつけられる大きさまで成長した個体を手早く選別していきます。
「ちなみにアリ王国では、どんなお祭りが開かれるんですか?」
「な、何だよ、急に……」
「いえ、何か参考になるかと思いまして」
「うちの国王は派手好きだからな。祭りも賑やかなのが多いぜ。たとえば、山ほど藁を積んだ手押し車に火をつけて、坂から落とすとか……」
「……それで、どうなるんですか」
「どうって……一番遠くまで走らせたやつには、国王から褒美が出るんだ」
確かに盛り上がるかもしれませんが、出し物として採用するのは難しそうです。
作業に戻ってからも、私の頭の中は相変わらず記念祭のことでいっぱいでした。鉢植え用の土をふるいにかけたり肥料を混ぜ込んだりしながらふと顔を上げると、南国を思わせる鮮やかな花や、人間の掌ほどもある大輪の花、二本の幹が編み込まれるように複雑に絡み合った木が視界に入ります。
「確かに珍しい植物も多いですが、展示するだけでは少しさみしい気もしますね」
「僕たちがいつもここでお茶してるように、ガーデンカフェみたいなお店が開けたら素敵なのにね」
ジェイ王子の何の気なしに零した一言に、私は思わず膝を打ちます。
「なるほど、その手がありましたか。ハーブもたくさん育っていますし、お茶くらいなら提供できるかもしれません」
「えっ、本当にやるの?」
彼が戸惑うのも当然の反応で、出し物を用意するにも四人でできることなどたかが知れています。
ともあれ、実現できるかを見極めるためには、まず情報を集めなければ始まりません。幸い、記念祭実行委員には伝手があるので、信憑性の高い情報を得られるでしょう。
「手作りの飲食物を販売するのは、規定により禁じられているよ」
翌日、ルヴィからにべもなく告げられたのは、そんな言葉でした。
「衛生上問題があるからね。少し考えればわかるだろう」
「恥ずかしながら、今の今まで気がつきませんでした。ということは、園芸委員会が育てた植物でまかなうのは無理がありますね……」
「そもそも、園芸委員会が世話をしていようが、校内にあるものはなべて学校側の所有物だ。温室の植物だって、研究に使用する前提で育てているものだろう。学業に支障がない範囲で使うならまだしも、記念祭の出し物にするなんて、それはもう園芸じゃなくて農業だよ」
ルヴィの言はいちいち正論で、詭弁を弄する余地もありません。
「で、そんなことを訊くために、わざわざ本部まで来たのかい」
「はい。今日の放課後はこちらにいらっしゃると、ラヴィに聞いて……」
一年生と二年生では授業を受ける棟が違ううえ、講義ごとに教室も変わるため、同じ学校に通っていても学年が違うだけで顔を合わせる機会はかなり少なくなってしまいます。
一層のことルヴィの寮まで直接足を運ぼうかとも思ったのですが、たまたま図書館で顔を合わせたラヴィから、記念祭実行委員本部の所在を教えてもらったのです。
「僕に聞かずとも、君の同級生……ミツコ・ソウジくんも実行委員だろう。懇意にしているそうじゃないか」
「えっ、そうなんですか。知りませんでした」
いわれてみれば、ここ何日か授業以外でミツと顔を合わせた記憶がありません。私とミュゲが園芸委員会に入ったせいでもありますが、ミツも実行委員会の活動で忙しくしていたのです。
「……ちなみに、製品として販売されている飲食物なら、取り扱っても問題はないよ。実際に、自国の伝統料理やお菓子を振る舞う生徒は多いからね」
さり気なく付け加えられたルヴィの言葉に、私はつい彼を抱きしめそうになってしまいましたが、普通に嫌がられたので思いとどまりました。
どうやら出し物自体は、実現の見込みがありそうです。あとは、私がいかに園芸委員会のメンバーを説得できるかに懸かっています。
鉢植えの葉の裏側に水滴がかからないよう慎重に霧吹きを使いながら、ジェイ王子はにこやかに答えます。
「展示……それだけですか」
「うーん、そうだねぇ……。ただ、今年は先輩たちが忙しいし、研究室での展示もあるみたいだから、出し物はできないかも」
それを聞いた私は少々がっかりしたものの、記念祭への興味が潰えたわけではありませんでした。
「クライス・ティアの建国記念祭は、三日間かけて行う大規模なお祭りだと聞きました。去年はどんな様子だったのですか?」
私が投げかけた質問に、ジェイ王子は水を吹きかける手をとめ、暫し考え込みます。
「僕も去年、初めて生徒として参加したんだけど……。学生だけじゃなくて、よその国からもお祭りを見るためにたくさんの人が来るから、かなり賑やかになるよ。学生街にも露店がたくさん出て、雰囲気がいつもと全然違ったな。学校を見学しに来る人も多くて、いろんな学部や委員会が展示をしたり、有志の学生たちがお店を出したりするんだ」
私はクライス・ティアに入学するまで学校に通ったことがなく、当然学校で開かれるお祭りに参加した経験もないものの、想像するだに楽しそうです。
ルヴィは見学するだけでもいいと言っていましたが、自分でも何か出し物を用意できたら、よりお祭り気分を味わえるような気がします。
「テメェら、なに無駄口叩いてんだ! きりきり手動かせコラ!」
そのとき、温室のガラスがびりびりと震えるほどの怒声が響き渡りました。
シャリマー王子は我々に檄を飛ばす間も、小分けにした苗の中から植えつけられる大きさまで成長した個体を手早く選別していきます。
「ちなみにアリ王国では、どんなお祭りが開かれるんですか?」
「な、何だよ、急に……」
「いえ、何か参考になるかと思いまして」
「うちの国王は派手好きだからな。祭りも賑やかなのが多いぜ。たとえば、山ほど藁を積んだ手押し車に火をつけて、坂から落とすとか……」
「……それで、どうなるんですか」
「どうって……一番遠くまで走らせたやつには、国王から褒美が出るんだ」
確かに盛り上がるかもしれませんが、出し物として採用するのは難しそうです。
作業に戻ってからも、私の頭の中は相変わらず記念祭のことでいっぱいでした。鉢植え用の土をふるいにかけたり肥料を混ぜ込んだりしながらふと顔を上げると、南国を思わせる鮮やかな花や、人間の掌ほどもある大輪の花、二本の幹が編み込まれるように複雑に絡み合った木が視界に入ります。
「確かに珍しい植物も多いですが、展示するだけでは少しさみしい気もしますね」
「僕たちがいつもここでお茶してるように、ガーデンカフェみたいなお店が開けたら素敵なのにね」
ジェイ王子の何の気なしに零した一言に、私は思わず膝を打ちます。
「なるほど、その手がありましたか。ハーブもたくさん育っていますし、お茶くらいなら提供できるかもしれません」
「えっ、本当にやるの?」
彼が戸惑うのも当然の反応で、出し物を用意するにも四人でできることなどたかが知れています。
ともあれ、実現できるかを見極めるためには、まず情報を集めなければ始まりません。幸い、記念祭実行委員には伝手があるので、信憑性の高い情報を得られるでしょう。
「手作りの飲食物を販売するのは、規定により禁じられているよ」
翌日、ルヴィからにべもなく告げられたのは、そんな言葉でした。
「衛生上問題があるからね。少し考えればわかるだろう」
「恥ずかしながら、今の今まで気がつきませんでした。ということは、園芸委員会が育てた植物でまかなうのは無理がありますね……」
「そもそも、園芸委員会が世話をしていようが、校内にあるものはなべて学校側の所有物だ。温室の植物だって、研究に使用する前提で育てているものだろう。学業に支障がない範囲で使うならまだしも、記念祭の出し物にするなんて、それはもう園芸じゃなくて農業だよ」
ルヴィの言はいちいち正論で、詭弁を弄する余地もありません。
「で、そんなことを訊くために、わざわざ本部まで来たのかい」
「はい。今日の放課後はこちらにいらっしゃると、ラヴィに聞いて……」
一年生と二年生では授業を受ける棟が違ううえ、講義ごとに教室も変わるため、同じ学校に通っていても学年が違うだけで顔を合わせる機会はかなり少なくなってしまいます。
一層のことルヴィの寮まで直接足を運ぼうかとも思ったのですが、たまたま図書館で顔を合わせたラヴィから、記念祭実行委員本部の所在を教えてもらったのです。
「僕に聞かずとも、君の同級生……ミツコ・ソウジくんも実行委員だろう。懇意にしているそうじゃないか」
「えっ、そうなんですか。知りませんでした」
いわれてみれば、ここ何日か授業以外でミツと顔を合わせた記憶がありません。私とミュゲが園芸委員会に入ったせいでもありますが、ミツも実行委員会の活動で忙しくしていたのです。
「……ちなみに、製品として販売されている飲食物なら、取り扱っても問題はないよ。実際に、自国の伝統料理やお菓子を振る舞う生徒は多いからね」
さり気なく付け加えられたルヴィの言葉に、私はつい彼を抱きしめそうになってしまいましたが、普通に嫌がられたので思いとどまりました。
どうやら出し物自体は、実現の見込みがありそうです。あとは、私がいかに園芸委員会のメンバーを説得できるかに懸かっています。
0
あなたにおすすめの小説
社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。
星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。
引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。
見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。
つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。
ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。
しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。
その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…?
果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!?
※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。
貧乏貴族の俺が貴族学園随一の麗しき公爵令嬢と偽装婚約したら、なぜか溺愛してくるようになった。
ななよ廻る
恋愛
貴族のみに門戸を開かれた王国きっての学園は、貧乏貴族の俺にとって居心地のいい場所ではなかった。
令息令嬢の社交場。
顔と身分のいい結婚相手を見つけるための場所というのが暗黙の了解とされており、勉強をしに来た俺は肩身が狭い。
それでも通い続けているのは、端的に言えば金のためだ。
王国一の学園卒業という箔を付けて、よりよい仕事に就く。
家族を支えるため、強いては妹に望まない結婚をさせないため、俺には嫌でも学園に通う理由があった。
ただ、どれだけ強い決意があっても、時には1人になりたくなる。
静かな場所を求めて広大な学園の敷地を歩いていたら、薔薇の庭園に辿り着く。
そこで銀髪碧眼の美しい令嬢と出会い、予想もしなかった提案をされる。
「それなら、私と“偽装婚約”をしないかい?」
互いの利益のため偽装婚約を受け入れたが、彼女が学園唯一の公爵令嬢であるユーリアナ・アルローズと知ったのは後になってからだ。
しかも、ユーリアナは偽装婚約という関係を思いの外楽しみ始めて――
「ふふ、君は私の旦那様なのだから、もっと甘えてもいいんだよ?」
偽装婚約、だよな……?
※この作品は『カクヨム』『小説家になろう』『アルファポリス』に掲載しております※
※ななよ廻る文庫(個人電子書籍出版)にて第1巻発売中!※
ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です
山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」
ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。
リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした。今度こそ幸せになります!!〜
ゆずき
恋愛
公爵家の御令嬢クレハは、18歳の誕生日に何者かに殺害されてしまう。そんなクレハを救ったのは、神を自称する青年(長身イケメン)だった。
イケメン神様の力で10年前の世界に戻されてしまったクレハ。そこから運命の軌道修正を図る。犯人を返り討ちにできるくらい、強くなればいいじゃないか!! そう思ったクレハは、神様からは魔法を、クレハに一目惚れした王太子からは武術の手ほどきを受ける。クレハの強化トレーニングが始まった。
8歳の子供の姿に戻ってしまった少女と、お人好しな神様。そんな2人が主人公の異世界恋愛ファンタジー小説です。
※メインではありませんが、ストーリーにBL的要素が含まれます。少しでもそのような描写が苦手な方はご注意下さい。
転生メイドは貞操の危機!
早桃 氷魚(さもも ひお)
恋愛
クララは乙女ゲームの世界に転生した、モブのメイド。
最推しキャラの公爵令息、ロルフのメイドとして、不幸フラグを折りながら、天使のように愛らしい推しを守ってきた。
ロルフはクララに懐き、魔法学園に入学するときも、離ればなれになるのを嫌がるほど。
「帰ってきたら、ずっと一緒だからね?」
ロルフとそう約束してから三年後。
魔法学園を卒業したロルフが、ついに屋敷へ戻ってきた!
だが、クララの前に現れたのは、
かつての天使ではなく、超イケメンの男だった!
「クララ、愛している」
え!? あの天使はどこへ行ったの!?
そして推し!! いま何て言った!?
混乱するクララを、ロルフはベッドに押し倒してきて……!?
-----
Kindle配信のTL小説
『転生メイドは推しを甘やかしまくった結果、貞操の危機です!』
こちらは番外編です!
本編よりずっと前の、推しがまだ天使だった頃のお話です。
本編を知らなくても読めます。
転生したら4人のヤンデレ彼氏に溺愛される日々が待っていた。
aika
恋愛
主人公まゆは冴えないOL。
ある日ちょっとした事故で命を落とし転生したら・・・
4人のイケメン俳優たちと同棲するという神展開が待っていた。
それぞれタイプの違うイケメンたちに囲まれながら、
生活することになったまゆだが、彼らはまゆを溺愛するあまり
どんどんヤンデレ男になっていき・・・・
ヤンデレ、溺愛、執着、取り合い・・・♡
何でもありのドタバタ恋愛逆ハーレムコメディです。
悪役令息の婚約者になりまして
どくりんご
恋愛
婚約者に出逢って一秒。
前世の記憶を思い出した。それと同時にこの世界が小説の中だということに気づいた。
その中で、目の前のこの人は悪役、つまり悪役令息だということも同時にわかった。
彼がヒロインに恋をしてしまうことを知っていても思いは止められない。
この思い、どうすれば良いの?
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる