乙女ゲーの隠れキャラだけどできれば隠れたままでいたい

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二人の王子と温室とお祭りの準備

第16話

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「記念祭? うん、園芸委員会では毎年、温室の展示をしているよ」

 鉢植えの葉の裏側に水滴がかからないよう慎重に霧吹きを使いながら、ジェイ王子はにこやかに答えます。

「展示……それだけですか」
「うーん、そうだねぇ……。ただ、今年は先輩たちが忙しいし、研究室での展示もあるみたいだから、出し物はできないかも」

 それを聞いた私は少々がっかりしたものの、記念祭への興味が潰えたわけではありませんでした。

「クライス・ティアの建国記念祭は、三日間かけて行う大規模なお祭りだと聞きました。去年はどんな様子だったのですか?」

 私が投げかけた質問に、ジェイ王子は水を吹きかける手をとめ、暫し考え込みます。

「僕も去年、初めて生徒として参加したんだけど……。学生だけじゃなくて、よその国からもお祭りを見るためにたくさんの人が来るから、かなり賑やかになるよ。学生街にも露店がたくさん出て、雰囲気がいつもと全然違ったな。学校を見学しに来る人も多くて、いろんな学部や委員会が展示をしたり、有志の学生たちがお店を出したりするんだ」

 私はクライス・ティアに入学するまで学校に通ったことがなく、当然学校で開かれるお祭りに参加した経験もないものの、想像するだに楽しそうです。
 ルヴィは見学するだけでもいいと言っていましたが、自分でも何か出し物を用意できたら、よりお祭り気分を味わえるような気がします。

「テメェら、なに無駄口叩いてんだ! きりきり手動かせコラ!」

 そのとき、温室のガラスがびりびりと震えるほどの怒声が響き渡りました。
 シャリマー王子は我々に檄を飛ばす間も、小分けにした苗の中から植えつけられる大きさまで成長した個体を手早く選別していきます。

「ちなみにアリ王国では、どんなお祭りが開かれるんですか?」
「な、何だよ、急に……」
「いえ、何か参考になるかと思いまして」
「うちの国王は派手好きだからな。祭りも賑やかなのが多いぜ。たとえば、山ほど藁を積んだ手押し車に火をつけて、坂から落とすとか……」
「……それで、どうなるんですか」
「どうって……一番遠くまで走らせたやつには、国王から褒美が出るんだ」

 確かに盛り上がるかもしれませんが、出し物として採用するのは難しそうです。
 作業に戻ってからも、私の頭の中は相変わらず記念祭のことでいっぱいでした。鉢植え用の土をふるいにかけたり肥料を混ぜ込んだりしながらふと顔を上げると、南国を思わせる鮮やかな花や、人間の掌ほどもある大輪の花、二本の幹が編み込まれるように複雑に絡み合った木が視界に入ります。

「確かに珍しい植物も多いですが、展示するだけでは少しさみしい気もしますね」
「僕たちがいつもここでお茶してるように、ガーデンカフェみたいなお店が開けたら素敵なのにね」

 ジェイ王子の何の気なしに零した一言に、私は思わず膝を打ちます。

「なるほど、その手がありましたか。ハーブもたくさん育っていますし、お茶くらいなら提供できるかもしれません」
「えっ、本当にやるの?」

 彼が戸惑うのも当然の反応で、出し物を用意するにも四人でできることなどたかが知れています。
 ともあれ、実現できるかを見極めるためには、まず情報を集めなければ始まりません。幸い、記念祭実行委員には伝手があるので、信憑性の高い情報を得られるでしょう。



「手作りの飲食物を販売するのは、規定により禁じられているよ」

 翌日、ルヴィからにべもなく告げられたのは、そんな言葉でした。

「衛生上問題があるからね。少し考えればわかるだろう」
「恥ずかしながら、今の今まで気がつきませんでした。ということは、園芸委員会が育てた植物でまかなうのは無理がありますね……」
「そもそも、園芸委員会が世話をしていようが、校内にあるものはなべて学校側の所有物だ。温室の植物だって、研究に使用する前提で育てているものだろう。学業に支障がない範囲で使うならまだしも、記念祭の出し物にするなんて、それはもう園芸じゃなくて農業だよ」

 ルヴィの言はいちいち正論で、詭弁を弄する余地もありません。

「で、そんなことを訊くために、わざわざ本部まで来たのかい」
「はい。今日の放課後はこちらにいらっしゃると、ラヴィに聞いて……」

 一年生と二年生では授業を受ける棟が違ううえ、講義ごとに教室も変わるため、同じ学校に通っていても学年が違うだけで顔を合わせる機会はかなり少なくなってしまいます。
 一層のことルヴィの寮まで直接足を運ぼうかとも思ったのですが、たまたま図書館で顔を合わせたラヴィから、記念祭実行委員本部の所在を教えてもらったのです。

「僕に聞かずとも、君の同級生……ミツコ・ソウジくんも実行委員だろう。懇意にしているそうじゃないか」
「えっ、そうなんですか。知りませんでした」

 いわれてみれば、ここ何日か授業以外でミツと顔を合わせた記憶がありません。私とミュゲが園芸委員会に入ったせいでもありますが、ミツも実行委員会の活動で忙しくしていたのです。

「……ちなみに、製品として販売されている飲食物なら、取り扱っても問題はないよ。実際に、自国の伝統料理やお菓子を振る舞う生徒は多いからね」

 さり気なく付け加えられたルヴィの言葉に、私はつい彼を抱きしめそうになってしまいましたが、普通に嫌がられたので思いとどまりました。
 どうやら出し物自体は、実現の見込みがありそうです。あとは、私がいかに園芸委員会のメンバーを説得できるかに懸かっています。
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