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二人の王子と温室とお祭りの準備
第17話
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記念祭を三カ月後に控えたこの状況下で、皆を巻き込んでまで出し物を用意しようというのであれば、まずはそれを実現できるだけの根拠なり計画なりを示さなければいけません。意見だけを声高に主張しても、いたずらに彼らを困らせるだけで終わってしまうでしょう。
さて、どう説得するべきかと頭を悩ませているうちに、私は自分が思っていたよりも、記念祭を楽しみにしている事実に気がつきました。
もともとお祭りは好きだったものの、来賓として招かれることが多く、自分がお祭りのために何か準備をした経験はなかったのです。
「シモン様」
物思いに耽りつつ歩いているうちに、いつの間にか校舎の外へ出てしまったようです。耳慣れた声に呼び止められて、私はようやく足を止めました。
「ラヴィ。今日はありがとうございます。おかげさまで首尾よくルヴィと会えました」
「それはよかった。ただ、随分と難しいお顔をなさっていたので……。ルヴィ様と何かありましたか?」
私は先程ルヴィに話したこととほぼ同じ内容を、改めてラヴィに伝えました。
「なるほど……。確かに四人だけでは難しそうですね。早いと記念祭が終わった直後から来年の準備を始める団体もいますから、三カ月で出し物を用意するとなると、できることは限られてしまうと思います」
「やはりそうですか……。ジェイ王子も今年は何もしないつもりでいらしたようですし、やはり大人しく見学に徹したほうがよいのでしょうか」
意気消沈する私の肩先を、ラヴィが励ますように軽く叩いてくれます。
「そう落ち込まないでください。私にお手伝いできることがあれば、できる限り協力しますから。気軽に声をかけていただけるとうれしいです」
「本当ですか…? じゃあ、ひとまずお金で何とかなりそうな部分は片っぱしから解決できる程度の予算をください」
「それはちょっと……」
流石に予算は下りなかったものの、かわりに有用な情報を得ることができました。
まず、出店に必要な費用については、学校側から補助を受けられること。ただし、上限は決まっており、足が出た場合は自分たちで補填しなければならないこと。
机や椅子などの備品を使う場合は備品借用書を提出すること。何をどれだけ借りられるかは先着順に決まるため、現時点で使える備品は限られていること。
先生方は記念祭当日も業務があるため、協力を仰ぐのは難しいこと。
「基本的に先生方は授業以外で生徒に干渉することはありませんから。真っ先に実行委員会に相談したシモン様の判断は正しいと思います」
「なるほど……。ラヴィ、図々しいようですが、ちゃんとした計画が立てられるまで、相談に乗っていただくことはできますか」
「はい。私でお力になれるようでしたら、喜んで」
「すみません。あなたも実行委員の業務が忙しいのに」
「お気になさらないでください。我々は去年も実行委員だったので、要領は心得ています」
考えてみれば、記念祭に出店する方法などというものは授業で教えてもらえるはずもなく、参加したいのであれば自ら行動を起こさなければ始まりません。
それからしばらくの間、私は放課後になると園芸委員会と記念祭実行委員会を往復し、ラヴィから助言を受けながら出し物の計画を立てる日々が続きました。
「シモン、ちょっといいかな」
ある日の放課後、授業が終わると同時にミツから声をかけられました。
「ミツ、お元気でしたか。こうしてお話しするのは久し振りですね」
「もちろん、元気だよ。今日はミュゲちゃんと一緒じゃないの? 珍しいね」
「今日はミュゲのほうが早く授業が終わる日なんです。おそらく先に温室か、運動場に行っていると思います」
「そうなんだ。ねえ、シモンも記念祭に出店するって本当?」
「一応、そのつもりではいますが、まだ園芸委員会の皆さんにはお話しできていません」
「じゃあ、届け出もしてないんだね。私、今から本部に行くから、一緒においでよ。申込書だけでも持っておけば、いつでも手続きができるでしょう」
ミツに誘われるまま、私は彼女と連れ立って本部へ向かいます。
「それにしても、ミツが実行委員だったなんて。ルヴィに聞かされるまで知りませんでした」
「ああ、うん、そうなの。毎年一年生からも何人か選ばれるらしいんだよね。私はどこにも所属していなかったから、ちょうどいいかなって」
「残念です。あなたも園芸委員会に来てくださったら、きっと楽しかったのに」
私が大仰に肩を落として見せると、ミツはストールの前を合わせながら微かに肩を震わせて笑います。
「それで、ミュゲちゃんの縁結び作戦はうまくいってる?」
「あ」
そういえば、私はルヴィかラヴィのどちらかをミュゲの恋人にするために、何かこう、暗躍するつもりだったのです。多分。
「……うまくいってないの」
「というか、すっかり忘れていました。浮かれている場合じゃありませんね」
現状、ミュゲと仲よくしているのは、最初に「ない」と断言していたシャリマー王子とジェイ王子で、むしろ当初の思惑とは逆に事が運んでいるような気すらいたします。
「まあ、あの二人はゲームの中でもかなり序盤に登場するからね。キャラによって知り合う時期が違うし」
「そういうものですか……。困ったことに、こうして関わってみると二人ともすこぶるいい人で、うっかり同じ委員会まで入ってしまいました。今さら距離を置くなんて、できそうにありません」
「友だちとして付き合うだけなら、いいんじゃないかな。クリアまで三年もあるし、今から狙った相手のフラグを立てれば、エンディングには間に合うと思うよ」
盛大に溜め息を吐く私を元気づけようとするかのように、ミツはぽんぽんと優しく背中を撫でてくれます。
「せっかくですから、記念祭に乗じてルヴィたちとの距離を縮める方法はないものでしょうか」
「ああ、あったね。文化祭っぽいイベント。一緒にお祭りを見て回る相手を選択して、好感度を上げられたはず」
「いいですね、それでいきましょう」
こうして、私は記念祭の出し物と並行して、ミュゲの恋愛フラグなるものを立てる根回しまで行うことになりました。
さて、どう説得するべきかと頭を悩ませているうちに、私は自分が思っていたよりも、記念祭を楽しみにしている事実に気がつきました。
もともとお祭りは好きだったものの、来賓として招かれることが多く、自分がお祭りのために何か準備をした経験はなかったのです。
「シモン様」
物思いに耽りつつ歩いているうちに、いつの間にか校舎の外へ出てしまったようです。耳慣れた声に呼び止められて、私はようやく足を止めました。
「ラヴィ。今日はありがとうございます。おかげさまで首尾よくルヴィと会えました」
「それはよかった。ただ、随分と難しいお顔をなさっていたので……。ルヴィ様と何かありましたか?」
私は先程ルヴィに話したこととほぼ同じ内容を、改めてラヴィに伝えました。
「なるほど……。確かに四人だけでは難しそうですね。早いと記念祭が終わった直後から来年の準備を始める団体もいますから、三カ月で出し物を用意するとなると、できることは限られてしまうと思います」
「やはりそうですか……。ジェイ王子も今年は何もしないつもりでいらしたようですし、やはり大人しく見学に徹したほうがよいのでしょうか」
意気消沈する私の肩先を、ラヴィが励ますように軽く叩いてくれます。
「そう落ち込まないでください。私にお手伝いできることがあれば、できる限り協力しますから。気軽に声をかけていただけるとうれしいです」
「本当ですか…? じゃあ、ひとまずお金で何とかなりそうな部分は片っぱしから解決できる程度の予算をください」
「それはちょっと……」
流石に予算は下りなかったものの、かわりに有用な情報を得ることができました。
まず、出店に必要な費用については、学校側から補助を受けられること。ただし、上限は決まっており、足が出た場合は自分たちで補填しなければならないこと。
机や椅子などの備品を使う場合は備品借用書を提出すること。何をどれだけ借りられるかは先着順に決まるため、現時点で使える備品は限られていること。
先生方は記念祭当日も業務があるため、協力を仰ぐのは難しいこと。
「基本的に先生方は授業以外で生徒に干渉することはありませんから。真っ先に実行委員会に相談したシモン様の判断は正しいと思います」
「なるほど……。ラヴィ、図々しいようですが、ちゃんとした計画が立てられるまで、相談に乗っていただくことはできますか」
「はい。私でお力になれるようでしたら、喜んで」
「すみません。あなたも実行委員の業務が忙しいのに」
「お気になさらないでください。我々は去年も実行委員だったので、要領は心得ています」
考えてみれば、記念祭に出店する方法などというものは授業で教えてもらえるはずもなく、参加したいのであれば自ら行動を起こさなければ始まりません。
それからしばらくの間、私は放課後になると園芸委員会と記念祭実行委員会を往復し、ラヴィから助言を受けながら出し物の計画を立てる日々が続きました。
「シモン、ちょっといいかな」
ある日の放課後、授業が終わると同時にミツから声をかけられました。
「ミツ、お元気でしたか。こうしてお話しするのは久し振りですね」
「もちろん、元気だよ。今日はミュゲちゃんと一緒じゃないの? 珍しいね」
「今日はミュゲのほうが早く授業が終わる日なんです。おそらく先に温室か、運動場に行っていると思います」
「そうなんだ。ねえ、シモンも記念祭に出店するって本当?」
「一応、そのつもりではいますが、まだ園芸委員会の皆さんにはお話しできていません」
「じゃあ、届け出もしてないんだね。私、今から本部に行くから、一緒においでよ。申込書だけでも持っておけば、いつでも手続きができるでしょう」
ミツに誘われるまま、私は彼女と連れ立って本部へ向かいます。
「それにしても、ミツが実行委員だったなんて。ルヴィに聞かされるまで知りませんでした」
「ああ、うん、そうなの。毎年一年生からも何人か選ばれるらしいんだよね。私はどこにも所属していなかったから、ちょうどいいかなって」
「残念です。あなたも園芸委員会に来てくださったら、きっと楽しかったのに」
私が大仰に肩を落として見せると、ミツはストールの前を合わせながら微かに肩を震わせて笑います。
「それで、ミュゲちゃんの縁結び作戦はうまくいってる?」
「あ」
そういえば、私はルヴィかラヴィのどちらかをミュゲの恋人にするために、何かこう、暗躍するつもりだったのです。多分。
「……うまくいってないの」
「というか、すっかり忘れていました。浮かれている場合じゃありませんね」
現状、ミュゲと仲よくしているのは、最初に「ない」と断言していたシャリマー王子とジェイ王子で、むしろ当初の思惑とは逆に事が運んでいるような気すらいたします。
「まあ、あの二人はゲームの中でもかなり序盤に登場するからね。キャラによって知り合う時期が違うし」
「そういうものですか……。困ったことに、こうして関わってみると二人ともすこぶるいい人で、うっかり同じ委員会まで入ってしまいました。今さら距離を置くなんて、できそうにありません」
「友だちとして付き合うだけなら、いいんじゃないかな。クリアまで三年もあるし、今から狙った相手のフラグを立てれば、エンディングには間に合うと思うよ」
盛大に溜め息を吐く私を元気づけようとするかのように、ミツはぽんぽんと優しく背中を撫でてくれます。
「せっかくですから、記念祭に乗じてルヴィたちとの距離を縮める方法はないものでしょうか」
「ああ、あったね。文化祭っぽいイベント。一緒にお祭りを見て回る相手を選択して、好感度を上げられたはず」
「いいですね、それでいきましょう」
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