乙女ゲーの隠れキャラだけどできれば隠れたままでいたい

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攻略対象全員集合

第41話

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 その発言から1週間後、ダンは宣言通りに人数分の衣装を仕立ててきました。
 てっきり既製品から制服になりそうなものを見繕ってくるものだと思っていたら、彼はオーダーメイドの衣装を一から仕立てる気満々だったのです。
 突然、美男美女が大挙して温室に押し寄せたときは何事かと思いましたが、どうやら彼らはわざわざヴィランシア国から呼び寄せられたテーラーらしく、我々の体に手際よくメジャーを当てると、軍隊のように統率のとれた動きで立ち去ってしまいました。
 斯様な次第で、彼自身が設けた納期に間に合うか否かという点はあまり心配していなかったものの、むしろ懸念は別のところにありました。

 何しろ彼の見立てということで、どんな華美華美はではでしい衣装をあてがわれるか戦々恐々としていたのです。
 ところが、いざ蓋を開けてみると、手渡されたそれは異様に上質な生地が使われていることを除けば奇をてらった様子もなく、よくあるお仕着せといった印象を受けました。
 殿方の衣装はスリーピース仕立てで、ジャケットは動きやすいようにするためか丈が短めに詰められていました。形は同じでも色はめいめいに異なり、シャリマーは彼らしい存在感と思慮深さを同時に演出する程よくくすんだ深紅、ジェイは熟成されたピノ・ノワールを彷彿とさせる深い赤紫色です。サンクは彼の故郷に広がる大海を思わせるような紺青、ダンは落ち着きを通り越して地味にもとれる古風な芥子色でした。
 ダンが自分自身のために選んだ色は、一見すると彼のパーソナリティとは付合しないようにも思われますが、思えば彼の存在自体が一等星、いやそんな比喩では生温い、網膜まで容赦なく焼き切るプロミネンスのようなものなので、多少質素なくらいでちょうど釣り合いが保てるのかもしれません。

 さて、私に割り当てられた衣装といえば、手渡された時点で薄々気付いていたのですが、明らかに使われている布量が違います。
 広げてみれば、それはミュゲと揃いで誂えられた別珍のワンピースでした。
 小振りなステンカラーには真っ白なサテン地、裾にはたっぷりと襞が寄るよう大量の布が使われているものの、デザインそのものは非常にシンプルで、蜉蝣かげろうはねよりあっさり破けそうなレースだの腸壁を連想させる幾重にも重なったフリルだのごてごてしいリボンだのという、機能性を著しく下げるようなディティールは見当たりません。
 装飾らしい装飾といえば、ワンピースの上から掛ける白いエプロンくらいです。一応、胸当ての上辺と裾には細かなブレードがあしらわれていたものの、あくまで作業着の範疇を超えない程度の慎ましやかな意匠でした。

 まずは試着してみてほしいと言われたので、私はミュゲを伴って理学研究棟へ向かい、空き教室で着替えを手伝います。
 実際に袖を通してみると、デザインはほぼ一致するものの、全くお揃いではないことがわかりました。体格とのバランスを考慮したのか、スカートの丈が調節されており、ミュゲのは膝下、私は脹脛に届く程度の長さです。
 何より、生地の色が違います。私の衣装は、角度によっては黒く沈んで見えるほど濃厚なフォレストグリーンです。一方、ミュゲの衣装はシーグリーンとでも呼ぶのでしょうか、珊瑚礁が息づく浅瀬のように澄んだ青緑色でした。

 着替えを終えた我々が温室へ戻ると、出迎えてくれた四人は褒めるでもけなすでもなく、只管奇異なものを見るような視線を向けてきました。というより、フリーズしていたのかもしれません。その証拠に、ジェイが何事か言おうとしたかのように口を開きかけたまま硬直しています。

「……あの、何か仰ってくださらないと、こちらとしてもこれでいいのか判断しかねるのですが」
「何か、っても……お前、その格好……」

 明らかに不自然なシャリマーの挙動に、私はようやく気付きました。おそらくは先刻までの私のように、彼らと同じ衣装を着るものだと思い込んでいたのです。

「やはり似合っていませんか」
「い、いや……似合ってないとか、そういうんじゃなくて……」

 いつになくしおらしいシャリマーの反応が新鮮で、あえて自分から詰め寄ってみたところ、彼は目を合わせようとはしないまでも律儀に応えてくれます。

「ミュゲちゃんもしーちゃんも、すっごく可愛い。お姫様みたいだよぉ」

 一方、ジェイの反応は全く対照的で、初孫を喜ぶ祖父の如くまなじりを下げながらミュゲの両手を握ると、踊るようにその場でくるくると回ります。
 そもそも、この格好はお姫様というより使用人寄りと思われるのですが、彼としては可愛らしく着飾ってさえいれば、その辺りの違いは気にならないのでしょうか。

「……シモン」

 じゃれ合う二人を微笑ましく思いながら見守っていると、突然寝起きのような掠れた声を耳元に触れ、思わず背筋が戦慄わななきました。いつの間にか背後に回ったサンクが私の腰に両腕を絡め、ぴったりと貼り付いています。

「可愛いね、シモン。可愛い……好き」

 後ろに立っている彼の表情は伺えないものの、声の調子から察するに、締まりのない顔をしているのでしょう。

「はいはい、ありがとうございます。過度な接触は感心しないとお話ししたばかりでしょう」
「駄目なの……?可愛いのに……」

 先頃の一件から、こういうときに厳しく叱責するのは逆効果と学んだ私は、あくまでも軽口の延長じみた調子でたしなめながら体を反転させます。すると、意外にも彼はあっさり腕を解いてくれました。
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