乙女ゲーの隠れキャラだけどできれば隠れたままでいたい

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攻略対象全員集合

第45話

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 私は今日に至るまでの経緯を余すところなく吐露するべく、再び書庫の床の上へ座り込みます。
 ほんの少し前と全く同じシチュエーションにも関わらず、話す内容と相手が違うとこんなにも殺伐とした雰囲気になってしまうのかとしみじみ感心してしまいました。

「なるほど……。かねてより預言者の正体については、ソウジ家が自らの一族を神格化するべく流布した虚言という説から、ソウジ国から興った宗教ないし秘密結社の総帥などという荒唐無稽なものまで、あらゆる推論が飛び交っておりましたが……よもや異世界の記憶を持つお方とは、考えも及びませんでした」

 傍らに腰を下ろしたラヴィが、得心の行った様子で深く頷きます。今や脅威と成り果てた昔馴染みが口を開くたび、こちらは気が気ではありません。
 しかし、自分の落ち度とはいえ、ミツとの間で共有していた秘密どころか、私自身の個人的な事情まで暴かれてしまったのです。こうまで徹底的にやり込められ、加えて精神的にも捻じ伏せられてしまうようではあまりに情けなく、ご先祖に申し訳が立ちません。
 一寸の虫にも五分の魂とばかりに半ば意地になっていた私は、精一杯虚勢を張り平静を保っている風を装いました。

「それにしても、よく気がつきましたね。いつから目をつけていたのですか」
「ミュゲ様とシモン様の身辺には特に気を配るよう、ルヴィ様より仰せつかっておりましたので。ミツコ様に限らず、お二人と接触を図る人物については、常に注意を払っておりました」

 つまりは、外交のいろはもわからぬ田舎者が、万に一つも自国に不利益をもたらす情報を垂れ流すことがないよう監視していたということです。
 あるいは、純粋に身を案じていた可能性もないとは言い切れません。何しろ、ミツは諜報技術を武器にのし上がってきた国の次期領主です。そんな相手と突然接触をはかり、あまつさえ懇意にしているとあらば、体よく利用されているのではと勘繰るのも仕方がないのかもしれません。
 いずれにせよ、友人に監視されていたとあればいい気はしませんが、そもそも一身上の都合から友人同士を恋仲に仕立て上げようとしている私が言えた義理ではありませんでした。
 
「……このような考え方は、ミツコ様へ対する礼を欠くと重々承知しております。それでも、やはり気がかりだったのです。お二人が彼女の手玉に取られた挙句、それと知らず我々と敵対するようなことがあれば、同盟も破棄せざるを得ません。長らく共に歩んできた盟友を、このような形で失うのはあまりにも心苦しく……。しかし、意図せぬこととはいえ、本来なら私が知るべきではなかったあなたの秘密にまで踏み込んでしまったこと、心よりお詫び申し上げます」

 彼の発言がどこまで本心か定かではありません。しかし、接近した相手がミツだったのも、彼の警戒心を煽る要因として働いたことに違いはないでしょう。私は深々と頭を下げるラヴィの肩を支え、強引に彼の顔を上げさせました。

「どうか謝らないでください。あなたはあなたの義務を忠実に果たしただけのことです。私自身の問題も、できれば秘匿しておきたかったのは事実ですが、あなたなら無闇に吹聴することはないと信じています」

 絶交でもされると思っていたのでしょうか、いつになく沈んだ表情で俯いていたラヴィに向かって、あえて語気を強めて宣言すると、彼はようやく弱々しいながらも笑顔を見せてくれました。

 「言われてみれば、シモン様が男性か女性かということについて、深く考えたことはありませんでした。いつも泥まみれだったり、狐を追ったりなさっていたので、そういうものとばかり……」
 
 ついでに軽口を叩けるくらい気を許してもらえたことには一応安堵したものの、私もまた意外な事実を知ってしまいました。どうやら性別に言及する以前に、野生児か蛮族のように思われていたようです。

「……もう一つだけ、伺ってもよろしいですか?」

 てっきり尋問は終わったものと思い込んでいた私は、またもや厳しく詰め寄られるのかと、反射的に身構えます。

「以前、私がルヴィ様から恋慕の情を寄せられたらという話をなさいましたね。……もしも、ミュゲ様があなたに恋情を抱いていたとしたら、あなたはそれを受け入れるのか、訊いてみたいと思っていたのです」

 予想に反し詰問するような調子ではなかったものの、その質問にどのような意図があるのかは不明です。単なる好奇心かもしれません。私は背もたれがわりの書架にだらしなく体を預けたまましばらく考えた後、要領を得ないながらもぽつぽつと答え始めました。
 
「基本的にはあなたと同じように、受け入れるつもりはありません。ただ、恋仲になってくれなければ死んでしまうとまで言われたら、見せかけでも彼女の望む役割に甘んじてしまうかもしれませんね」

 主人と従者が結ばれるのは、実はそれほど珍しいことではありません。とはいえ、そこに確かな愛情が存在したとしても、従者と通じる行為自体が、主人の名誉を傷つけるという事実に変わりはなく、手放しで祝福できるかと問われると難しい状況です。

「……それは、ミュゲ様の魂が、あなたの知らぬ世界のどなたかであったとしても?」

 私の導き出した答えに納得が行かなかったのでしょうか、ラヴィはさらなる質問を重ねます。

「そうですね……。確かに、依代としての彼女は、私が忠誠を誓った彼女と全く同じではないのかもしれません。ただ、私は彼女が何者になろうと、彼女を愛さずにはいられないのだと思います」

 改めて口にしてみると、自分でも意外に思うような言葉がするすると出てきます。従者として正しい心構えか否かという観点はさておき、これが今の私の偽らざる心情のようです。傍らで耳を傾けていたラヴィは、同意するでも反駁するでもなく、微笑みながらこちらを見守るばかりでした。

「……やはり、あなたは私の思った通りの人だ」
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