上 下
20 / 188
1章 王国編

19話

しおりを挟む
「はい、父に奪われたフロービス伯爵家の当主の座、更にその座を私と支えることが出来る騎士を望みます」

私がそう言うと、謁見の間に流れていた緊張は霧散した。
殆の人間、というよりも私以外の人間が一体何を言っているのだという顔をしている。
しかし、そんな中で国王は更に眉を潜めた。

「確かにフロービス家の現当主は入婿だろう。しかし、それはフロービス嬢が成人するまでの、いわば繋ぎだ。それを、何故奪われたと言うのだ?」

「はい、それは私と双子の妹だと思われている者は先代のフロービス伯爵家当主であった、私の母の子供ではなく、平民の愛人の子供。更にその愛人の子供に、フロービス伯爵家を継がせる準備をしているからです」

今度は謁見の間を深い沈黙が支配した。

貴族の子供を、家の子供だと言い張るには、少なくともその家の人間血が入っている子供であることが絶対条件となる。
もちろん、各家の中には分家などを持っている家もあるし、入婿や嫁入りした元々はその家の人間ではないに、愛人の子供を家の子だと認めさせようとしている愚か者も居ると聞いたことがある。

しかし、今回の問題はそれらではなく、私の双子の妹だと届けが出された人間が、実は双子では無いという部分。

そもそも私の母が亡くなったのが、今から5年前。
母は私を産んだときから体調を崩しがちになり、それでも無理をして当主として仕事を続けた結果亡くなった。
その時には母の父と母、つまり私の祖父と祖母も既に亡くなっており、フロービス伯爵家の分家であるいくつかの男爵家の人間達が乗っ取ろうとしてきたが、それを父が撃退した。

そこまでは私も父を見直していたのだが、それからすぐに愛人共を連れてきたから、これの為かと幻滅したのを、今でも鮮明に覚えている。

少し話が逸れたが、例えば私が廃嫡されたり、死んだりしても、双子の妹がフロービス伯爵家を継げば問題はない。
しかし、これが母の子ではないとすると、残りのフロービス伯爵家の継承権があるのは、ここ3代はフロービス伯爵家の血が入っていない人間しか残っていない。

更には、フロービス伯爵家は彼らが国である『モーグリペン』王国約1500年(今年で王国歴(建国した年を1年目としたときの年)は1492年)の歴史の中でも、建国後と同時に貴族となった貴族家を除き、一番初めに貴族になった貴族家として1490年の歴史がある古い家であり、悪意がある言い方をすれば『この国最古の新興貴族家』と言える。

因みに現状貴族家で1400年以上の歴史がある家は王族を抜いて、全貴族家354家の内で12家しかない。
しかも、何処かの家が没落したりすれば、この数は減る為、ここ百年ほどで元々1300年以上又はそれに近い歴史を持つ家が5家も消えている。

その為、現在のフロービス伯爵家の人間の発言力は低いが、時が経つにつれて古い家が少なくなってきている現状で、こんな下らないことで無くなって貰っては困る家なのだから、血が途絶えてもらっては困る筈だ。
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

何でも屋始めました!常にお金がないのでどんなご依頼でも引き受けます!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:17,410pt お気に入り:473

公爵家の末っ子娘は嘲笑う

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,377pt お気に入り:4,889

夫の愛人が訪ねてきました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:67,428pt お気に入り:743

処理中です...