剣士アスカ・グリーンディの日記

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第3章 竜の涙

それが君の運命(for two days)

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僕が、腑抜けなままなら。




ディオガルーダは。




ウイプルの敵になる。





お前は、竜族だろう?





僕の事、伝わっていないのか。





何故、言ってくれなかったんだ。






自分も竜だと。











ウイプルの街中を歩いていたら、幼馴染のミスルタが、僕の姿があまりにも淋しそうだからと、涙を流して、僕を背中から抱きしめた。



戦に死に場所を探している時の様な、姿に見えたか。



今の僕は、そんなに弱くはない。



でも、君の温もりが僕の背中から伝わって、それを僕の心が拒絶するんだ。



心が敏感になれば、それは弱さに繋がる。



だから、僕に温もりは、必要ない。




思い出も、全て今は、邪魔なんだ。




ただ、一言、言うとしたら。





ミスルタ。




僕は、悔しい。






でも。






その感情さえも、不要なのかも知れない。







僕は、ウイプルの兵。






僕はもう。


しかばねみたいだ。






まだ、君の両親が帰って来ないのなら。

君は、

このウイプルを捨てろ。





邪教国に、目をつけられているのは、間違いない。




シュリエルの24日
                     自分の家にて

_______

ウイプルから遠く北へ向かうと、高い丘の上に栄えるペタ王国がある。

『7つの翼』という騎士団があり、その騎士団を中心にしたペタ王国が、小国の邪教国、ハンジャル王国の軍勢を退けた。


邪教国の目は今、ウイプルから逸れている可能性がある。



ウイプルは、この同盟は、この機を攻め時とするか。



邪教国を根絶やしにするには、受け身ではいられない。




でも、失敗すれば、ウイプルの民の多くは殺されるかも知れない。









ザンギント山の竜の祭壇の奥深く、僕とお母様、そして一部の者しか知らない場所。



僕が、貴覇竜ラリュナピュートを斬った、場所の、さらに先の場所。



天井から所々に光が差し込み、星々が輝いている様。



とても大きな空洞で。



ここで、もう一度。




僕は、竜になろう、と。





人間が嫌いになったのか。






このまま、竜になって飛び去ろうとするつもりだったのか。






心が空っぽに、なっていたんだ。






人間でいる事に、疲れたのかも知れない。




さあ、竜になろう、と。







その衝動を止めようとするかの様に、僕の後ろから威圧をかける者がいた。







何故、ここにいる?






もうこのウイプルから、去ったはずだ。






去ると言っただろう?






このウイプルを欺く卑怯者。







僕は、この男が信用ならなかった。






ディオガルーダ。




_______

ディオガルーダは、もうオーバーシルゾを倒す機は逸した。今のお前には、困難だろうと判断したからだ、と言ってきた。



元々、倒す必要がなかった、そうだろう。



そう思って、ウイプルに混乱、そしてを破滅を招く男が、お前だ、と伝えたんだ。




同じ竜でもある男だから、一度だけ許してやる、この場から消えろ。





そう思って、出て行く様に、僕は出口を指差した。





もう、このディオガルーダからは何も訊きたくはないと思ったから。



この大嘘つきが、と。





このウイプルは、滅びる。





それを防ぐ最後の機会を与えてやったのに、その死に損なった姿では、もはや何も成し遂げられない、とディオガルーダは言ったんだ。





オーバーシルゾの正体も、知らないほど無知ではないだろう、討伐すればウイプルは救われた、と。





救われた?

ジーダペンス王国からと言いたいのか、と。





ディオガルーダの目は、竜の獣としての瞳を露骨に見せてきた。僕に向けた視線が、まるで剣の切っ先の様に。





突き刺さる。





僕に、今まで以上に、脅威を感じさせる攻撃的な目を向けてきたんだ。





ウイプルは、お前には関係ないだろう、今すぐに出ていけばいい。



でも、




ディオガルーダの次の言葉を無視する事はできなかった。





初めて、僕に語った。






真実を知りたいのなら、教えてやると言ってきた。







このウイプルを狙っているのは、ジーダペンスではない。









ここから遥か東の国、竜が支配する国、ジゼベルガロフ。









天黄覇王竜アノメルガダイダロスゾーファルが王として君臨する国だ。






そして、ついに口にした。








お前も、俺も、人とは違った血が流れている事は、もはや語る必要もないだろう、とディオガルーダは言った。





竜だと、認めた。








ジゼベルガロフの竜は、覇王竜ダイダロスの無念を血肉で引き継ぎ、人間への復讐は、未だ途絶えてはいない。







そして、狙われたのは、ウイプルの人間達だ、と。





元々、ゾーファルは、竜と人間が共存して、支え合って生きているのが気に入らなかった。



竜の人間への復讐、そして支配権の奪還を目論んでいるから。



しかし、今は多くの竜が去り、ウイプルの戦力は激減していると判断し、ウイプルへの憎しみと人間への見せしめのため、標的にされた。







そのウイプルに、もう貴覇竜スカリテラスという竜はいないのに、人間側に立つお前の様な竜の血を持つ男が腑抜けであったため、ウイプルは死ぬ、と。










全ての罪は、お前が受けろと、ディオガルーダは言った。






そして。








ディオガルーダは、鞘から剣を引き抜いたんだ。








ディオガルーダは、僕を殺す気なのか。


けど。


その時吐いた言葉が、さらに僕を戸惑わせたんだ。







貴覇竜、その後、何と言った?








このウイプルでの通り名じゃない名前を、言ったな。









スカリテラスと。


お母様の本名を。









何故、知っている?









ダルレアス自治領のザシンが知っていた?

いや、紫雷刀身竜ゲボルトベルザスドラゴン








圧倒的な我が国の攻撃に晒され、お前は、ウイプルの民と共に死ぬ、と。



それが、お前の運命だと、ディオガルーダは言い、剣を構えた。






我が父、ゾーファルに手をかけられる前に、せめてこの手で葬ってやる、と。






ゾーファルが父?






竜の国ジゼベルガロフがお前の国、そしてダイダロスの名前の入った竜族、お前は覇王竜ダイダロス直系の竜族か。





ディオガルーダのただならない威圧感は、天黄覇王竜アノメルガダイダロスのものだった。





僕を殺そうとしている中、語るそれは、真実だろう。




そして。






ディオガルーダは、お前の運命、そう言ったな。







『それが、君の運命』








その言葉、その言い方、やっぱり。











僕が幼い頃、家のベッドで見ていた、お母様と戸口で向かい合うその子供、

そしてその数年後の印象が変わったその子供、

そして、今から数年前に再び現れた男。













お前なんだな、ディオガルーダ。







止めろ、ディオガルーダ、と言っても。








彼の殺気は、僕に近づくにつれ、高まるばかりだった。






ベルベッタが、死んだんだ。






ディオガルーダ。







お前がウイプルにいた時、断片的な記憶だけど、僕とお前は、一緒にいた時もあったのに。






どうしてだ。






何で、竜の血を持つ者同士が殺し合わないといけないんだ。






この戦いに何の意味がある?







無駄じゃないか。








彼は止まらなかった。







そして、あの言葉を、ディオガルーダは吐いたんだ。









お前は、ドラゴンバスターと呼ばれているのだから、何を躊躇う必要がある、と。









そうだよ。








お母様も、





ブルーシーズも、






ベルベッタさえ、僕が見殺したと、同じ。







僕は、竜の敵だと、言いたいんだね。









僕を、殺せるものなら、殺して見せて。








感情はまだ残っていたんだ。








悲しみの感情。








頬を伝う涙は、温かかった。






悲しみも全て、







終わりにしよう。








ディオガルーダは、一瞬の動作で僕との距離を詰め、剣を振りかぶる。








一撃必殺の構え。











僕は覚悟を決め、鞘から竜剣ジオグリシェルを引き抜いた。


_______
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