とてもおいしいオレンジジュースから紡がれた転生冒険!そして婚約破棄はあるのか(仮)

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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その315

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メベヘは、多分、俺の左胸の下辺りを刺した。

痛い…。

脈を打つと、その傷口が膨らんで破裂でもするかの様に、やたら疼いてくる。

だけど、まだ何とか呼吸はできるな。

傷口の深さはどうなんだ…?

とっさにかわす動きをしたから、実際はそこまで深く刺されてはいない気がする。

もう一つの傷口は、左太股の端の方だ。神経もやられていなそうだし、こっちはそこまで戦いが支障がない様にも思える。

だけど、時間が経てば経つほど、戦いに不利にもなるだろうな。

もちろん、そのまま放置したら、俺は死んでしまう。

本来は。

でも、そこからさらに大きく痛みが広がっていかないのは、俺に力を貸してくれた東角猫トーニャ族が記憶の景色の中で、大人になっていた事も関係している。

頭の中に浮かんでいた東角猫族の技が進化して、そして増えている。

俺は多分、さっきよりも強くなっているんじゃないのか?

きっと、俺を試していたんだ。

東角猫族は。

だから、この街に入ってから、紫色の炎が手首に留ったままで、様子を見ていた。



様子を…見ていた?



そう言えば、俺の事、様子を見ていた奴が、何処かでいたな…。



何処だったか?



でも、俺に力を宿してくれた東角猫族が俺をもう少し認めてくれたおかげで、その中にある治癒の魔法?を使う事ができたんだ。

だから、今の状態がこれ以上悪くはなっていない。

東角猫族の、治癒…回療クーリョ

口に出す事なく、決まり文句をただ心で唱え続けるだけで、傷が少しずつ回復していく。

傷がもっと深手だったら、回復が間に合わなかっただろうな。

本当に綱渡り状態だ。

どうなるかはわからないけど、ただ今言える事は、俺の体の状態は悪い。

今すぐに戦うのはムリだ。

今は回療を続けて、もう少し体を回復させないと。

時間を稼ぎたい…。

メベヘが得意げな顔をして、俺の表情を眺めてやがる。

相変わらず性格の悪そうな奴だ。

傲慢そうな目をしている。

それが、今はありがたい。



「強いな…」



「アンタの、その力があれば、もしかして、あの《冬枯れの牙》とも、まともに、戦える…んじゃないのか?」



さあ、頼むよ。

自惚れたひと言をさ。



「《冬枯れの牙》だと?あんな下衆どもと一緒にするとは、小僧、お前は本当に見る目がないな」



「あの下衆集団は、実力が足らんから、余所者を取り込んでいるのだ。もう昔の鬼眼鴉キメア族だけで名乗りを上げる事はない…」



よそ者の集まり?

残虐な奴らで、プライドも高いのかと思ったけど、色々な種族取り込んで、仲良く手を繋ぎながら、よろしくやってるって事か?

まあ、俺から言わせれば、お前ら古球磨ごくま族も同じ様なもんだけどな…。



「小僧、思ったより顔色が良いな…?」



「カカカッ!もうちぃっと、上か下か、ずれていれば、お前はもがき苦しんで、口も利けなかったに違いない。ただ、このままでは終わらん。それは、お前もわかっているはずだよな?」 



メベヘの胸にある魔闘石から見える白い顔の男が、大きく笑っている。

あれは、何者なんだ…?

確か、ホルケンダが言ってた。

外来種族のデルアーガ族って魔族がいて。そいつらからオーロフ族が盗んだのが、あの魔闘石。

魔族って聞くだけでも得体が知らないのに、そいつらから物を盗もうとするなんて。

他で手に入れた魔力を、魔闘石をつけた事で、体に流してくれて、力を上げられるのかも知れないけど、その魔闘石自体も育って、意思を持ってしまうって事なんだろうな。

もしかして、そのデルアーガ族は、敢えて魔闘石を盗ませたのか?

いや、そんな事はないか。

わざと盗ませるだなんて。



「メベヘ…」



「俺を倒せるのか…?」



「いや、もう俺を倒した気でいるんだろ?」



俺の中で2人の力が宿されている。

だけど、どちらかと言うと、ゼドケフラーの方が俺の中で影響力が強くなっている。

まるで、俺に力を宿してくれた東角猫族に、ゼドケフラーとしての自分の力を見せつけでもする様に。

俺の中には東角猫族とゼドケフラーがいるのは間違いない。

間違いないのに、まだ2人は俺の中でお互いの事、完全には気づいていないみたいだ。

ゼドケフラーは幼獣の印象だ。

やっぱり、お前は幼獣のまま死んだんだな。

東角猫族は大人になったのに。

難しいよな…ゼドケフラー。

大人への階段がやたら高くて、そこに上がるのが至難の業だなんて。

やってられないよな…?

悔しいよな?

本当の俺も、大人になれないで死んでるんだ…。



なあ…?



俺で良ければ。



一緒に、あいつを倒してやろう…。



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