439 / 548
第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い
その315
しおりを挟む
メベヘは、多分、俺の左胸の下辺りを刺した。
痛い…。
脈を打つと、その傷口が膨らんで破裂でもするかの様に、やたら疼いてくる。
だけど、まだ何とか呼吸はできるな。
傷口の深さはどうなんだ…?
とっさにかわす動きをしたから、実際はそこまで深く刺されてはいない気がする。
もう一つの傷口は、左太股の端の方だ。神経もやられていなそうだし、こっちはそこまで戦いが支障がない様にも思える。
だけど、時間が経てば経つほど、戦いに不利にもなるだろうな。
もちろん、そのまま放置したら、俺は死んでしまう。
本来は。
でも、そこからさらに大きく痛みが広がっていかないのは、俺に力を貸してくれた東角猫族が記憶の景色の中で、大人になっていた事も関係している。
頭の中に浮かんでいた東角猫族の技が進化して、そして増えている。
俺は多分、さっきよりも強くなっているんじゃないのか?
きっと、俺を試していたんだ。
東角猫族は。
だから、この街に入ってから、紫色の炎が手首に留ったままで、様子を見ていた。
様子を…見ていた?
そう言えば、俺の事、様子を見ていた奴が、何処かでいたな…。
何処だったか?
でも、俺に力を宿してくれた東角猫族が俺をもう少し認めてくれたおかげで、その中にある治癒の魔法?を使う事ができたんだ。
だから、今の状態がこれ以上悪くはなっていない。
東角猫族の、治癒…回療。
口に出す事なく、決まり文句をただ心で唱え続けるだけで、傷が少しずつ回復していく。
傷がもっと深手だったら、回復が間に合わなかっただろうな。
本当に綱渡り状態だ。
どうなるかはわからないけど、ただ今言える事は、俺の体の状態は悪い。
今すぐに戦うのはムリだ。
今は回療を続けて、もう少し体を回復させないと。
時間を稼ぎたい…。
メベヘが得意げな顔をして、俺の表情を眺めてやがる。
相変わらず性格の悪そうな奴だ。
傲慢そうな目をしている。
それが、今はありがたい。
「強いな…」
「アンタの、その力があれば、もしかして、あの《冬枯れの牙》とも、まともに、戦える…んじゃないのか?」
さあ、頼むよ。
自惚れたひと言をさ。
「《冬枯れの牙》だと?あんな下衆どもと一緒にするとは、小僧、お前は本当に見る目がないな」
「あの下衆集団は、実力が足らんから、余所者を取り込んでいるのだ。もう昔の鬼眼鴉族だけで名乗りを上げる事はない…」
よそ者の集まり?
残虐な奴らで、プライドも高いのかと思ったけど、色々な種族取り込んで、仲良く手を繋ぎながら、よろしくやってるって事か?
まあ、俺から言わせれば、お前ら古球磨族も同じ様なもんだけどな…。
「小僧、思ったより顔色が良いな…?」
「カカカッ!もうちぃっと、上か下か、ずれていれば、お前はもがき苦しんで、口も利けなかったに違いない。ただ、このままでは終わらん。それは、お前もわかっているはずだよな?」
メベヘの胸にある魔闘石から見える白い顔の男が、大きく笑っている。
あれは、何者なんだ…?
確か、ホルケンダが言ってた。
外来種族のデルアーガ族って魔族がいて。そいつらからオーロフ族が盗んだのが、あの魔闘石。
魔族って聞くだけでも得体が知らないのに、そいつらから物を盗もうとするなんて。
他で手に入れた魔力を、魔闘石をつけた事で、体に流してくれて、力を上げられるのかも知れないけど、その魔闘石自体も育って、意思を持ってしまうって事なんだろうな。
もしかして、そのデルアーガ族は、敢えて魔闘石を盗ませたのか?
いや、そんな事はないか。
わざと盗ませるだなんて。
「メベヘ…」
「俺を倒せるのか…?」
「いや、もう俺を倒した気でいるんだろ?」
俺の中で2人の力が宿されている。
だけど、どちらかと言うと、ゼドケフラーの方が俺の中で影響力が強くなっている。
まるで、俺に力を宿してくれた東角猫族に、ゼドケフラーとしての自分の力を見せつけでもする様に。
俺の中には東角猫族とゼドケフラーがいるのは間違いない。
間違いないのに、まだ2人は俺の中でお互いの事、完全には気づいていないみたいだ。
ゼドケフラーは幼獣の印象だ。
やっぱり、お前は幼獣のまま死んだんだな。
東角猫族は大人になったのに。
難しいよな…ゼドケフラー。
大人への階段がやたら高くて、そこに上がるのが至難の業だなんて。
やってられないよな…?
悔しいよな?
本当の俺も、大人になれないで死んでるんだ…。
なあ…?
俺で良ければ。
一緒に、あいつを倒してやろう…。
痛い…。
脈を打つと、その傷口が膨らんで破裂でもするかの様に、やたら疼いてくる。
だけど、まだ何とか呼吸はできるな。
傷口の深さはどうなんだ…?
とっさにかわす動きをしたから、実際はそこまで深く刺されてはいない気がする。
もう一つの傷口は、左太股の端の方だ。神経もやられていなそうだし、こっちはそこまで戦いが支障がない様にも思える。
だけど、時間が経てば経つほど、戦いに不利にもなるだろうな。
もちろん、そのまま放置したら、俺は死んでしまう。
本来は。
でも、そこからさらに大きく痛みが広がっていかないのは、俺に力を貸してくれた東角猫族が記憶の景色の中で、大人になっていた事も関係している。
頭の中に浮かんでいた東角猫族の技が進化して、そして増えている。
俺は多分、さっきよりも強くなっているんじゃないのか?
きっと、俺を試していたんだ。
東角猫族は。
だから、この街に入ってから、紫色の炎が手首に留ったままで、様子を見ていた。
様子を…見ていた?
そう言えば、俺の事、様子を見ていた奴が、何処かでいたな…。
何処だったか?
でも、俺に力を宿してくれた東角猫族が俺をもう少し認めてくれたおかげで、その中にある治癒の魔法?を使う事ができたんだ。
だから、今の状態がこれ以上悪くはなっていない。
東角猫族の、治癒…回療。
口に出す事なく、決まり文句をただ心で唱え続けるだけで、傷が少しずつ回復していく。
傷がもっと深手だったら、回復が間に合わなかっただろうな。
本当に綱渡り状態だ。
どうなるかはわからないけど、ただ今言える事は、俺の体の状態は悪い。
今すぐに戦うのはムリだ。
今は回療を続けて、もう少し体を回復させないと。
時間を稼ぎたい…。
メベヘが得意げな顔をして、俺の表情を眺めてやがる。
相変わらず性格の悪そうな奴だ。
傲慢そうな目をしている。
それが、今はありがたい。
「強いな…」
「アンタの、その力があれば、もしかして、あの《冬枯れの牙》とも、まともに、戦える…んじゃないのか?」
さあ、頼むよ。
自惚れたひと言をさ。
「《冬枯れの牙》だと?あんな下衆どもと一緒にするとは、小僧、お前は本当に見る目がないな」
「あの下衆集団は、実力が足らんから、余所者を取り込んでいるのだ。もう昔の鬼眼鴉族だけで名乗りを上げる事はない…」
よそ者の集まり?
残虐な奴らで、プライドも高いのかと思ったけど、色々な種族取り込んで、仲良く手を繋ぎながら、よろしくやってるって事か?
まあ、俺から言わせれば、お前ら古球磨族も同じ様なもんだけどな…。
「小僧、思ったより顔色が良いな…?」
「カカカッ!もうちぃっと、上か下か、ずれていれば、お前はもがき苦しんで、口も利けなかったに違いない。ただ、このままでは終わらん。それは、お前もわかっているはずだよな?」
メベヘの胸にある魔闘石から見える白い顔の男が、大きく笑っている。
あれは、何者なんだ…?
確か、ホルケンダが言ってた。
外来種族のデルアーガ族って魔族がいて。そいつらからオーロフ族が盗んだのが、あの魔闘石。
魔族って聞くだけでも得体が知らないのに、そいつらから物を盗もうとするなんて。
他で手に入れた魔力を、魔闘石をつけた事で、体に流してくれて、力を上げられるのかも知れないけど、その魔闘石自体も育って、意思を持ってしまうって事なんだろうな。
もしかして、そのデルアーガ族は、敢えて魔闘石を盗ませたのか?
いや、そんな事はないか。
わざと盗ませるだなんて。
「メベヘ…」
「俺を倒せるのか…?」
「いや、もう俺を倒した気でいるんだろ?」
俺の中で2人の力が宿されている。
だけど、どちらかと言うと、ゼドケフラーの方が俺の中で影響力が強くなっている。
まるで、俺に力を宿してくれた東角猫族に、ゼドケフラーとしての自分の力を見せつけでもする様に。
俺の中には東角猫族とゼドケフラーがいるのは間違いない。
間違いないのに、まだ2人は俺の中でお互いの事、完全には気づいていないみたいだ。
ゼドケフラーは幼獣の印象だ。
やっぱり、お前は幼獣のまま死んだんだな。
東角猫族は大人になったのに。
難しいよな…ゼドケフラー。
大人への階段がやたら高くて、そこに上がるのが至難の業だなんて。
やってられないよな…?
悔しいよな?
本当の俺も、大人になれないで死んでるんだ…。
なあ…?
俺で良ければ。
一緒に、あいつを倒してやろう…。
0
あなたにおすすめの小説
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
【短編】子猫をもふもふしませんか?〜転生したら、子猫でした。私が国を救う!
碧井 汐桜香
ファンタジー
子猫の私は、おかあさんと兄弟たちと“かいぬし”に怯えながら、過ごしている。ところが、「柄が悪い」という理由で捨てられ、絶体絶命の大ピンチ。そんなときに、陛下と呼ばれる人間たちに助けられた。連れていかれた先は、王城だった!?
「伝わって! よく見てこれ! 後ろから攻められたら終わるでしょ!?」前世の知識を使って、私は国を救う。
そんなとき、“かいぬし”が猫グッズを売りにきた。絶対に許さないにゃ!
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
1つだけ何でも望んで良いと言われたので、即答で答えました
竹桜
ファンタジー
誰にでもある憧れを抱いていた男は最後にただ見捨てられないというだけで人助けをした。
その結果、男は神らしき存在に何でも1つだけ望んでから異世界に転生することになったのだ。
男は即答で答え、異世界で竜騎兵となる。
自らの憧れを叶える為に。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる