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【1巻】1章 聞いてないよぉ!!!!
p2.第一印象はだいたい覚えてない
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「わかって……いたのに」
満十五歳未満の女子ではないのはあきらかだった。
そう考えた瞬間、喉の奥がひくりと鳴る。視界の端が滲み、片目だけが熱を帯びる。涙は頬を伝うことなく、睫毛の先で一度止まり、そのまま床へ落ちた。膝が抜ける。畳に手をつくと、冷たさが遅れて伝わってくる。痛みはない。ただ、胸の奥で何かが静かに崩れていく。
「おわった」
自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。
「何言ってんだよ、和希」
兄の昌之が、呆れたように眉をしかめる。スーツの肩が小さく上下し、深いため息が落ちた。
「誰も妹ができるなんて言ってないだろ」
「ケッコン……カゾク……イモウト……」
昌之は俺から視線を外し、正面に並ぶ女性たちへと向き直る。一拍置いて、背筋を伸ばした。
「改めて紹介する。俺の婚約者」
そう言って、隣に立つ一人の女性の肩に、そっと手を添える。
「桜川亜紀さんだ」
「はじめまして。桜川亜紀です」
亜紀さんはそう言って、柔らかく会釈した。その動きに合わせて、ストレートのロングヘアが肩口を流れる。白いブラウスの襟元から覗く鎖骨に、照明が淡い影を落とした。
——ちゃんとした、大人の女性。そう思った次の瞬間だった。
「きっしょ」
さっき会った女性。短く、容赦のない声。なんか着替えてるし。
白いTシャツに青いジーンズ。腕を組んだ女性が、真っ直ぐこちらを睨んでいる。目つきが鋭い。獲物を見下ろす猛禽類のそれだ。
「真琴、言いすぎよ」
軽い笑い声が重なる。金髪ショートに派手なネイル。指先をひらひらと揺らしながら、彼女は楽しそうに言った。
「アハハ! 無理無理! 今の顔やばいって! 腹筋死ぬ!」
「千佳もやめなさい」
桜川千佳。一歩距離を詰めてくる。その動きだけで、腰のラインが否応なく視界に入った。
「……頭、おかしいですね」
「詩織もそうおもうよねー」
淡々とした声が、さらに刺さる。黒髪ボブに眼鏡、落ち着いたワンピース姿。桜川詩織は眼鏡の位置を直しただけだったが、その所作だけで場の空気が引き締まった。
「お兄ちゃんって、呼んでほしかったの?」
最後に、小さな声。パーカー姿でタブレットを抱えた少女が、首を傾げていた。袖から覗く手首が細い。仕草だけなら、一番近い。——だが、年上だ。
昌之が咳払いをする。
「……で。こちらが、亜紀の妹たちだ。真琴、千佳、詩織、美羽。五姉妹だな」
「はじめまして。桜川家の五姉妹です」
亜紀さんが、もう一度穏やかに微笑む。
「気軽に、お義姉ちゃんって呼んでくれていいからね」
その言葉で、俺の中の最後の期待が完全に折れた。妹どころか、姉が五人。しかも全員、強すぎる。なんだこのルッキズムの権化たちは。モデル事務所か? ここ。俺は思わず頭を抱える。そのとき、ポケットの中でスマホが震える。
『妹神@絶対領域:お兄ちゃん、今日もがんばってね♡』
画面に映る完璧な二次元。それが今は、現実の五人を前にして、ひどく遠く見えた。
「そういえば……さっき、駅にいなかったですか? まこ――ぶくっ」
言葉が、喉の奥で潰れる。ああ、違う。これは、口にした時点で終わるやつだ。
だから――
「しゃべるな」
低く、短い声。視線を上げた、その一瞬の衝撃で、思考が音を立てて途切れた。床が近づくより先に、意識が落ちる。真琴は怒っていない、軽蔑もしていない。
耳に残るは、全員の悲鳴。
なにこれ。推理アニメの、第一発見現場です、か……。
満十五歳未満の女子ではないのはあきらかだった。
そう考えた瞬間、喉の奥がひくりと鳴る。視界の端が滲み、片目だけが熱を帯びる。涙は頬を伝うことなく、睫毛の先で一度止まり、そのまま床へ落ちた。膝が抜ける。畳に手をつくと、冷たさが遅れて伝わってくる。痛みはない。ただ、胸の奥で何かが静かに崩れていく。
「おわった」
自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。
「何言ってんだよ、和希」
兄の昌之が、呆れたように眉をしかめる。スーツの肩が小さく上下し、深いため息が落ちた。
「誰も妹ができるなんて言ってないだろ」
「ケッコン……カゾク……イモウト……」
昌之は俺から視線を外し、正面に並ぶ女性たちへと向き直る。一拍置いて、背筋を伸ばした。
「改めて紹介する。俺の婚約者」
そう言って、隣に立つ一人の女性の肩に、そっと手を添える。
「桜川亜紀さんだ」
「はじめまして。桜川亜紀です」
亜紀さんはそう言って、柔らかく会釈した。その動きに合わせて、ストレートのロングヘアが肩口を流れる。白いブラウスの襟元から覗く鎖骨に、照明が淡い影を落とした。
——ちゃんとした、大人の女性。そう思った次の瞬間だった。
「きっしょ」
さっき会った女性。短く、容赦のない声。なんか着替えてるし。
白いTシャツに青いジーンズ。腕を組んだ女性が、真っ直ぐこちらを睨んでいる。目つきが鋭い。獲物を見下ろす猛禽類のそれだ。
「真琴、言いすぎよ」
軽い笑い声が重なる。金髪ショートに派手なネイル。指先をひらひらと揺らしながら、彼女は楽しそうに言った。
「アハハ! 無理無理! 今の顔やばいって! 腹筋死ぬ!」
「千佳もやめなさい」
桜川千佳。一歩距離を詰めてくる。その動きだけで、腰のラインが否応なく視界に入った。
「……頭、おかしいですね」
「詩織もそうおもうよねー」
淡々とした声が、さらに刺さる。黒髪ボブに眼鏡、落ち着いたワンピース姿。桜川詩織は眼鏡の位置を直しただけだったが、その所作だけで場の空気が引き締まった。
「お兄ちゃんって、呼んでほしかったの?」
最後に、小さな声。パーカー姿でタブレットを抱えた少女が、首を傾げていた。袖から覗く手首が細い。仕草だけなら、一番近い。——だが、年上だ。
昌之が咳払いをする。
「……で。こちらが、亜紀の妹たちだ。真琴、千佳、詩織、美羽。五姉妹だな」
「はじめまして。桜川家の五姉妹です」
亜紀さんが、もう一度穏やかに微笑む。
「気軽に、お義姉ちゃんって呼んでくれていいからね」
その言葉で、俺の中の最後の期待が完全に折れた。妹どころか、姉が五人。しかも全員、強すぎる。なんだこのルッキズムの権化たちは。モデル事務所か? ここ。俺は思わず頭を抱える。そのとき、ポケットの中でスマホが震える。
『妹神@絶対領域:お兄ちゃん、今日もがんばってね♡』
画面に映る完璧な二次元。それが今は、現実の五人を前にして、ひどく遠く見えた。
「そういえば……さっき、駅にいなかったですか? まこ――ぶくっ」
言葉が、喉の奥で潰れる。ああ、違う。これは、口にした時点で終わるやつだ。
だから――
「しゃべるな」
低く、短い声。視線を上げた、その一瞬の衝撃で、思考が音を立てて途切れた。床が近づくより先に、意識が落ちる。真琴は怒っていない、軽蔑もしていない。
耳に残るは、全員の悲鳴。
なにこれ。推理アニメの、第一発見現場です、か……。
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