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最終章 四日目、そして全て崩壊へ

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「さあ、最後は村上ね」

 もう彼のことなど、どうでも良いという、少し投げやりな感じで高遠さんが言う。これには、三輪さんも同意見なのだろう。故人への敬意に欠ける口調で話し始めた。

「あの人はだいぶ精神が参ってはった」
「そこをついた?」

 と高遠さんは首を傾げる。

「あの夜、トイレで吐いた彼を介抱するときに、言うたんや」
「何を?」
「うちの部屋の鍵は閉まってないと」
「え……?」

 再び僕は驚いて先輩の顔を振り向いた。三輪さんはチラっとこちらに視線を送るが、僕にはもう何も声をかけない。そしてまた高遠さんへ目を戻し、その夜の犯罪の手口を解説する。

「タイヤが切り裂かれたことを皆で確認したあと、俺は部屋の鍵を開けといたんや。そして疑心暗鬼になってはる村上さんの耳に囁いた。うちの部屋の鍵は開いてる。そっちへ入れと。あんた殺されるでってな」
「オドオド、ビクビクしてた彼は、それをすっかり信じたわけね?」

 さもおかしそうに高遠さんは言う。

「そうやな。あの人は俺のことを全く疑ってへんかったからな」
「そして彼が二階に上がる前の、あなたとの一悶着。あれは私たちにバレないための三文芝居だったってわけね」

 村上さんは、この二人に、すっかり軽んじられているようだ。

「あの夜、村上が二階に上がった後、鍵が開く音が聞こえず、ドアの開閉と鍵を締める音だけがした」

「そういうこと。そして鍵は俺が持ったままやから開けるのは簡単や。部屋に行った時、あの人は疲れでグッスリ眠ってはった」

「でも」

 僕は再び、反論に挑戦する。例えそれが無駄な戦いだとしても。

「でもあの夜はロビーに僕がいたし、高遠さんや飯畑さんが、あのまま階下にいても、おかしくはなかったですよね」

 そんな僕の質問に、三輪さんは冷めた顔で答えてくれた。

「あの時点で、もう一人の犯人として俺が疑ってたのが飯畑さんやった。そして彼女が犯人なら、絶対に自衛のため自室に籠ると自信があったんや。そしたらお前と高遠さんには、また例の薬を飲んでもらおうってな」

 先輩は昨夜、電話機の破壊とタイヤの切り裂きの話をし、殺人者の再来を強調していた。それを聞く、僕や飯畑さんは非常な不安を覚えていたものだ。

 そして案の定、飯畑さんは自室へ自分から戻って行った。僕はその時、飯畑さんをなんとか説得しようとした。しかし先輩は彼女を止めなかった。それは、その方が都合が良かったからだったのか。 

「そして僕はまた、酔い止め薬を飲まされたんですね」

 今日、何度目かの敵意を持った目で先輩を睨んだ。

「そういうことや。高遠さんが自分で部屋へ戻ったのは幸運やと思ったわ。あん時は」
「あの時点で、私はあなたが犯人だとすでに気づいていた。だから私は部屋に戻ったのよ。藤田くんのように、あなたに変な薬を飲まされ、そして殺されないようにね」

 展望台に立つ、僕たち3人の間を、一際強い風がザーッと吹き抜けた。いつしか台風の雨は止み、大きな波の音が辺りに響いていた。

「それにしても」と高遠さんの話は続く。

「村上は部屋で締め殺したんでしょ? そのあと死体を窓から、ロープを使って地面に降ろしたんでしょうけど、藤田くんの時と違って、ずいぶんと粗雑に投げ捨てたのね」

 そうだ。そこは変だと思う。村上さんを殺害した時刻には、まだ集落がダム湖の決壊で流されるのは、わからなかったはず。それなのに、あれではなんの隠蔽にもなっていない。
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