星間の旅人たち

阪口克

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2-4 邂逅4

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 目の前のシーナに動きは見えない。足に当たり続ける水の流れが鬱陶しかった。

(一苦労してマザーに戻ったのに、まだ死にたくはないよな)

 そんな考えが頭をよぎった瞬間、トントントンっとあまりにも無造作にシーナが三歩左へ動いた。その足元で軽やかに水飛沫が舞う。
 いつもの俺なら、その動きの起こりを捉えて一思いに間合いを詰めるのだが、シーナの隙のない眼差しと深い懐がそれを許してくれなかった。

(これは、ちょっとマズイかな)

 左手のガードポジションで、相手の動きを捉え続けるのが精一杯だ。
 手の内の汗が気になり、短棒のグリップを握る力を緩めた一瞬、シーナのロングナイフがスイッと伸び上がり、俺の面上を襲った。
 その動きにつられるように、俺は前足に体重を移し勢いよく伸びくるシーナのナイフに向けて、右手の短棒を擦り上げようとした。
 その刹那、

「下がれ!!」

 右手から鋭い叱声が聞こえた。
 俺は弾かれたように前足から後ろ足へ体重を戻す。その眼前をロングナイフが風を巻き上げ通り過ぎていった。
 シーナの踏み込んだ右の足にはまだ十分に余裕が見える。追撃が来ないことを祈りながら、おれは後ろへ一つ大きく飛んだ。
 先ほどまでの、どこか飄然とした言動に似つかないシーナの豪快な一撃。この攻撃に対し、もし俺があのまま軽量な携帯武器の短棒で合わせていたなら、一気に短棒ごと頭蓋を砕かれていただろう。
 シーナの動きに注意を払いつつ、俺は声の主の姿を探した。

「…!?」

 水の流れる通路の右に、一段高くなった場所がある。そこに一人、長身の女が立っていた。
 俺が目で礼を言うと、その女もゆっくり頷くのが見える。

「シスター、今のは良いアドバイスだったね」

 シーナが無防備に、その女の方を振り返り話しかけた。しかし残念ながら隙は見えない。

(今さら、やっぱりピノのナイフを拾わせてくれとは言えんよな……)

 俺は短棒のグリップを握り直し、息を一つ整える。

「シーナ、ここは一度、下がりなさい」
「それもアドバイスかな?」

 シスターと呼ばれた女と話す間も、シーナはジリジリ、ジリジリと間合いを詰めてくる。ここで俺が気の緩みを見せれば、一息にこの眉間を叩き切るつもりなのだろう。

「シーナさん、囲まれる気配が!」

 鼻から流れ出る血を両手で押さえながら、ピノがそう叫んだ。
 囲まれる気配……、そうそれは俺も感じていた。数名の武装した何者かが、このエリアを包囲しつつある。

「自治警察を呼んだのかい?」

 今度はしっかりとシーナがシスターの方を向き直り問いただす。しかし彼女は静かに首を横に振った。

「私じゃないわ。でも、結果は同じね」

 シスターは背面からロングソードを抜き出した。その動きに乗じて前に一歩踏み出す。しかし俺の眉間を捉えたシーナのナイフが、それ以上の接近を許してくれなかった。

「ふん、簡単には入れてもらえないか」
「ふふふ、楽しかったぞハイダ。次は、もう少しマシな武器を持って俺の前に出ることだ」
「もう、勘弁してほしいね」
「そう言うな。お前とは、また近いうちに会いそうな気がする」

 シーナはそう言ってニヤリと笑うと、俺の背後の娘をひと睨みし、水流の激しい通路を上流へ向け走り去っていった。そのあとを互いに庇い合いながらピノとチェスが追う。
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