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第二章 欲を纏う仮面
第五話 叙曲の序章 ※
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マントで仮面を擦り少しでも綺麗にしてから、店じまいしているパブに入る。
「あんたも物好きだな」
仮面を確認した男を含め、運営者にはこの仮面の男は男と寝室へ消えたと専らの噂になっているだろう。あの金に口止め料は入っていないし、入っていたとしても酒の肴になっているはずだ。愛想よく笑い舞踏会を壁際から眺める。相変わらず煙たい店内で、優雅に踊る男女。腕を組み眺めていたが、マントの裾を引っ張られ勢いよく横を向く。そこには真っ白に鷹の羽で飾った仮面を着けた夫人が立っていて、細く息を吐く。女は、誘ってくれというように裾を引っ張り、組んでいる腕に手を絡めだす。
「……」
さすがに何もしないのも怪しまれる。手を差し出すと、滑らかな白い手が重なる。そのままエスコートし、腰に手をあてユラユラ揺れながら、視線も揺らす。
(……カトリーヌか)
二組奥に妻を認めるが、視線をすぐに移動させる。ちょうどダンスが終わり、曲が変わろうという間にカトリーヌは今日の相手とどこかへ消えた。そして消えた奥の扉から壁際を一周見渡せば
「あっ」
「?」
「すまない、マドモアゼル」
とダンスが始まったばかりの舞踏会の真ん中に婦人を置いて、ルーカスは暗い壁際に消える。
そして、今度はルーカスがエスコートされる番だった。
銀貨一枚を払い、開いている部屋に連れ込まれる。蝋燭の火は点けず、この前より明るい月明りが差し込む部屋で、男を見つめる。片目の隠れていない仮面に、碧眼。その下の唇は、先日、ルーカスに不可思議な熱を与えたもの。
「今日は何をしにいらっしゃったのですか?」
年上の男は今日も丁寧に話しかけながら、頬を誘惑まがいに撫でる。
「……」
その触れる指に目を閉じる。
あの翌日、朝の食事の席で視察に行く話をした時、カトリーヌ以上にルーカスの方が浮き足立っていた。もうあの時から既に今日のこの瞬間を望んでいた。女のように扱われ、プライドが傷つきあの場を後にしたはずなのに、気がつけば今日この日を楽しみにしていたのだ。
(あの火傷しそうな熱の正体を知りたい)
だが、ルーカスはそんな素振りを微塵も見せずに、仮面の男の言葉に噛み付く。
「貴公も物好きな男だ」
しかし濡れる瞳までは仮面で隠す事ができなかった。
「あなたもね」
と囁かれる。
伝わっている本心。恥ずべきふしだらな思いであるのに、相手に受け入れられたような満足感に満たされる。
放たれる熱を欲し、熟れた唇同士が重なる。掠れるだけの軽いキスはだんだんと激しくなり、糸を引く。
──ガタンッ
いつの間にか男を壁に追い込み、押し付けるようにルーカスはキスをしていた。
「今日は何とも男らしく、積極的ですね」
息継ぎの合間にそう言われルーカスは我に返った。ハッとなった瞬間今度は自分の背中が壁になる。
「それとも不慣れなのですか?」
ルーカスに優しく口づけをする男は、押し付けたりせず、綿花にでも触れているようだった。
結局この前同様に男に主導権を握られ、部屋に濡れた音を響かせる。
「はっ……あっ」
少しでも離れるそぶりを見せれば、寂しさが押し寄せて、ルーカスは男の後頭部を掴み離さない。そしてちらりとベッドに視線を移動させたのを見逃さなかった男に抱えられベッドに身を預ける。かび臭さが漂い、眉を顰める。だが覆い被さってきた男にそんなことはどうでもよくなっていた。
「んっ……んあっ」
激しさを増していくキスに下半身が反応を見せる。だが、残ったちんけなプライドがそれを許さなかった。それに男の下半身は、まとっているレザーのマントで影になりどうなっているかは分からない。
「艶めかしい声を出すお人だ」
その囁きに自分の身体がいかに正直なのか悟り、残されたプライドは消えていく。
「……もう……無理だ」
女のように意図も簡単に落ちていくルーカスはよほど純粋だったのかもしれない。優しく声をかけられただけでこんな状況に陥ってしまったのだから。これでは妻の二の舞だ。
「無理……とは?」
男の顔が離れていき、碧眼が揺れる。
「これ以上は……」
「……」
「我慢ができそうにない」
揺れた瞳が更に揺れ、熱を帯びていく。素早いのに優しい所作でマントをはぎ取られ、クタクタのベルトも抜かれ、下半身を丸出しにされる。天を向き震えるオスは逞しく、外に出たにもかかわらず、さらにまだ出たいと痙攣している。
「では、失礼して」
こんな時でも礼儀正しい男は、それとは真逆の事をしてくる。ルーカスのそれを咥え、激しくしゃぶっていく。
「くっ!」
想像以上の快楽に声が出ない。
身体を反り返らせることしかできず、射精感に襲われ腰が浮いてしまった。
睾丸まできれいにしゃぶられ、唾液が纏わりつく。男を知り尽くした同性による愛撫に白濁色の欲はあっという間に溢れてしまった。
「うっ……あっ!」
同時に男が喉を鳴らしながら、自分の奥へと欲を飲み込んでいく。全てを吸い尽くされ、キスを強請ろうと首に手を回したが、唇に手を当てられ、やんわりと断られる。
「やめておきましょう。あなたの口には合わない」
と、口の端の残りを舐める男。
「不味いのか?」
「味で言うなら……風邪薬の薬草の方が幾分かましかと」
「そうか……では俺も……」
と、今度は男の下半身に手を伸ばしたが、弾かれる。
「ご無礼をお許し下さい。このような物、あなたには不釣り合いです」
身体を起こし、剥ぎ取ったルーカスの服を丁寧に渡してくる。しかし、その気遣いは、逆に欲求に火を点けるだけだった。相手に尽くしたいのに、相手は自分を思い、それを避ける。優しくされて嬉しいのに、できないもどかしさがもっと彼に触れたいと欲求を駆り立てる。
「よくわかった。優しすぎるというのは、女を狂わせてしまうのだな」
優しい男と、昔の自分を重ねる。
「そうですね」
「気遣いですら、今は熱を燃やす質の良い木材になってしまう」
そして自分はその木材を放り込まれさらに燃えてしまった哀れな男だ。欲を吐き出し我に返ってしまう。
「もうここには来ない」
冴えた脳内がこれ以上は危険だ、本当に妻と同じ道を歩んでしまうと規制をかける。
着替えを済ませ、男に背を向ける。そしてその背に男の温もりを感じ、引きはがせない。自分の本心が分からない。悩むルーカスに囁き声が聞こえる。
「満月と新月の時だけ、私と恋をしませんか?」
女が簡単に落ちてしまうような──どこかの戯曲の台詞のようなそれ。
「……ああ」
もう落ちないと決めた筈なのに、まだ空高く昇る月の刻に、簡単に落ちてしまった。
「あんたも物好きだな」
仮面を確認した男を含め、運営者にはこの仮面の男は男と寝室へ消えたと専らの噂になっているだろう。あの金に口止め料は入っていないし、入っていたとしても酒の肴になっているはずだ。愛想よく笑い舞踏会を壁際から眺める。相変わらず煙たい店内で、優雅に踊る男女。腕を組み眺めていたが、マントの裾を引っ張られ勢いよく横を向く。そこには真っ白に鷹の羽で飾った仮面を着けた夫人が立っていて、細く息を吐く。女は、誘ってくれというように裾を引っ張り、組んでいる腕に手を絡めだす。
「……」
さすがに何もしないのも怪しまれる。手を差し出すと、滑らかな白い手が重なる。そのままエスコートし、腰に手をあてユラユラ揺れながら、視線も揺らす。
(……カトリーヌか)
二組奥に妻を認めるが、視線をすぐに移動させる。ちょうどダンスが終わり、曲が変わろうという間にカトリーヌは今日の相手とどこかへ消えた。そして消えた奥の扉から壁際を一周見渡せば
「あっ」
「?」
「すまない、マドモアゼル」
とダンスが始まったばかりの舞踏会の真ん中に婦人を置いて、ルーカスは暗い壁際に消える。
そして、今度はルーカスがエスコートされる番だった。
銀貨一枚を払い、開いている部屋に連れ込まれる。蝋燭の火は点けず、この前より明るい月明りが差し込む部屋で、男を見つめる。片目の隠れていない仮面に、碧眼。その下の唇は、先日、ルーカスに不可思議な熱を与えたもの。
「今日は何をしにいらっしゃったのですか?」
年上の男は今日も丁寧に話しかけながら、頬を誘惑まがいに撫でる。
「……」
その触れる指に目を閉じる。
あの翌日、朝の食事の席で視察に行く話をした時、カトリーヌ以上にルーカスの方が浮き足立っていた。もうあの時から既に今日のこの瞬間を望んでいた。女のように扱われ、プライドが傷つきあの場を後にしたはずなのに、気がつけば今日この日を楽しみにしていたのだ。
(あの火傷しそうな熱の正体を知りたい)
だが、ルーカスはそんな素振りを微塵も見せずに、仮面の男の言葉に噛み付く。
「貴公も物好きな男だ」
しかし濡れる瞳までは仮面で隠す事ができなかった。
「あなたもね」
と囁かれる。
伝わっている本心。恥ずべきふしだらな思いであるのに、相手に受け入れられたような満足感に満たされる。
放たれる熱を欲し、熟れた唇同士が重なる。掠れるだけの軽いキスはだんだんと激しくなり、糸を引く。
──ガタンッ
いつの間にか男を壁に追い込み、押し付けるようにルーカスはキスをしていた。
「今日は何とも男らしく、積極的ですね」
息継ぎの合間にそう言われルーカスは我に返った。ハッとなった瞬間今度は自分の背中が壁になる。
「それとも不慣れなのですか?」
ルーカスに優しく口づけをする男は、押し付けたりせず、綿花にでも触れているようだった。
結局この前同様に男に主導権を握られ、部屋に濡れた音を響かせる。
「はっ……あっ」
少しでも離れるそぶりを見せれば、寂しさが押し寄せて、ルーカスは男の後頭部を掴み離さない。そしてちらりとベッドに視線を移動させたのを見逃さなかった男に抱えられベッドに身を預ける。かび臭さが漂い、眉を顰める。だが覆い被さってきた男にそんなことはどうでもよくなっていた。
「んっ……んあっ」
激しさを増していくキスに下半身が反応を見せる。だが、残ったちんけなプライドがそれを許さなかった。それに男の下半身は、まとっているレザーのマントで影になりどうなっているかは分からない。
「艶めかしい声を出すお人だ」
その囁きに自分の身体がいかに正直なのか悟り、残されたプライドは消えていく。
「……もう……無理だ」
女のように意図も簡単に落ちていくルーカスはよほど純粋だったのかもしれない。優しく声をかけられただけでこんな状況に陥ってしまったのだから。これでは妻の二の舞だ。
「無理……とは?」
男の顔が離れていき、碧眼が揺れる。
「これ以上は……」
「……」
「我慢ができそうにない」
揺れた瞳が更に揺れ、熱を帯びていく。素早いのに優しい所作でマントをはぎ取られ、クタクタのベルトも抜かれ、下半身を丸出しにされる。天を向き震えるオスは逞しく、外に出たにもかかわらず、さらにまだ出たいと痙攣している。
「では、失礼して」
こんな時でも礼儀正しい男は、それとは真逆の事をしてくる。ルーカスのそれを咥え、激しくしゃぶっていく。
「くっ!」
想像以上の快楽に声が出ない。
身体を反り返らせることしかできず、射精感に襲われ腰が浮いてしまった。
睾丸まできれいにしゃぶられ、唾液が纏わりつく。男を知り尽くした同性による愛撫に白濁色の欲はあっという間に溢れてしまった。
「うっ……あっ!」
同時に男が喉を鳴らしながら、自分の奥へと欲を飲み込んでいく。全てを吸い尽くされ、キスを強請ろうと首に手を回したが、唇に手を当てられ、やんわりと断られる。
「やめておきましょう。あなたの口には合わない」
と、口の端の残りを舐める男。
「不味いのか?」
「味で言うなら……風邪薬の薬草の方が幾分かましかと」
「そうか……では俺も……」
と、今度は男の下半身に手を伸ばしたが、弾かれる。
「ご無礼をお許し下さい。このような物、あなたには不釣り合いです」
身体を起こし、剥ぎ取ったルーカスの服を丁寧に渡してくる。しかし、その気遣いは、逆に欲求に火を点けるだけだった。相手に尽くしたいのに、相手は自分を思い、それを避ける。優しくされて嬉しいのに、できないもどかしさがもっと彼に触れたいと欲求を駆り立てる。
「よくわかった。優しすぎるというのは、女を狂わせてしまうのだな」
優しい男と、昔の自分を重ねる。
「そうですね」
「気遣いですら、今は熱を燃やす質の良い木材になってしまう」
そして自分はその木材を放り込まれさらに燃えてしまった哀れな男だ。欲を吐き出し我に返ってしまう。
「もうここには来ない」
冴えた脳内がこれ以上は危険だ、本当に妻と同じ道を歩んでしまうと規制をかける。
着替えを済ませ、男に背を向ける。そしてその背に男の温もりを感じ、引きはがせない。自分の本心が分からない。悩むルーカスに囁き声が聞こえる。
「満月と新月の時だけ、私と恋をしませんか?」
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