騎士は碧眼と月夜に焦がされて

ベンジャミン・スミス

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第二章 欲を纏う仮面

第六話 月の夜に

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 満月の夜、背徳を照らす月光から逃げるようにあのパブで逢瀬を重ねる。
 新月の夜、闇に紛れて森の中でこっそりと逢瀬を重ねる。
 今日は新月、妻が深い寝息を立てるベッドを抜け出し、裏口からこっそり出る。さすがに妻の動向を探っているわけではないので、そろそろブライアンに金を握らせる必要があると思ったが、新月の暗闇に紛れていることもあり、見つかった事は一度もない。
しかし、馬の声を聞きつければ、馬小屋横に小屋を構える彼の父ダラムまで起こしかねない為、徒歩で森へ向かう。今日も今日とて仮面を着けて待つ男に

「名前は?」

と今更な事を尋ねる。

「……ザックあなたは?」
「……ヘルマンだ」

と、自分から聞いておいてルーカスは偽名を使う。それは自分が領主という身分でありながらこのようなことをしているという罪悪感がしっかりあったからだった。ザックのこちらを見つめる目が何となくルーカスの名を疑っているようにも見えたが、疑心暗鬼になりすぎだと振り払う。それに、燃え上がった熱は止められない。

「私の可愛い恋人」

新月の中、小さな蝋燭の入ったランタンだけが二人を照らす。そしてその蝋燭がなくなった時が二人の別れだ。木々が生い茂り外に漏れることない光が映し出す影がゆっくりと重なる。キスをして、ザックによる愛撫を受ける、そしてザックは愛撫をさせてはくれない。「あなたにはこんなもの」「汚れておりますので」など、卑下する言葉で断られる。その断りの言葉ですら興奮してしまうが、結局愛撫することは許されない。そして自分が愛撫され、欲を吐き出すと我にかえり、罪悪感が押し寄せ、彼を突き放そうとする。それを去り際のルーカスから感じ取っているのだろうか、ザックは「次は満月に」「新月が楽しみですね」と甘く危険な場所にルーカスを落としてから去っていく。その時自分がどんな顔をしているのかいまだに分からない。

「いけませんね」
「何が?」
「そんな誘惑するような瞳で帰られては奥様を落としてしまいますよ」

とクスリと笑われ、赤面してしまう。

「そんなことっ!」
「その瞳は次の満月まで隠しておいてください」

仮面の上から手を添えられ視界を塞がれる。そしてキスを一つ落とし、男が離れていく。

 そして満月の夜。
調査に出かけた振りをしてあのパブへ向かう。
既に屋敷で夫を待つカトリーヌも居る事だろう。案の定、それらしき女性を見かけたが、ルーカスは目もくれない。完璧にヘルマンになりすまし、一直線にザックの元へと向かう。ザックの隠れていない口元が、「さあ」と奥の部屋へと誘い込む。

「ああ、ザック」

確かめる様にルーカスはザックの背に腕を回した。

「寂しかったですか?今日もお美しい御髪だ」

色など分からない。しかし、ザックは感触で確かめてでもいるのかルーカスの髪を褒める。

「少し外にいる時間が長すぎた。あまり清潔ではない」

身を引くルーカス。
調査に出かけるという言い訳を実現するためには、遅くても朝には屋敷を出なければならない。
そこからずっと野に晒された身体は綺麗とは言い難かった。

「そのような事、気になりません」

離れて行ったルーカスをもう一度引き寄せるザック。

「俺が気になるのだ」
「何故?」
「……貴公に嫌われるなど、身を引き裂かれる様な思いはしたくない」

 ザックは、ルーカスの中で自分が特別な存在になり始めている事に気が付いた。
だが、素直には喜べなかった。何故なら……

「カトリーヌ」

隣の部屋からあの泣く様な声が聞こえ始め、ルーカスの眉間に皺が寄った。

「奥様……」

彼が既婚者であると言い聞かせる様に呟いたザック。
 そして先程まで臭いを気にしていた男が全身を預けてきた。それに応える為、ザックはルーカスの仮面を、頬をなぞり、顎を持ち上げキスを落とした。

「忘れさせてあげます」

 淡い気持ちを宿したルーカスの瞳から視線を逸らし、そして彼のベルトに手をかけた。





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