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旅立ち
その6
しおりを挟む「ちょっとそこの黒衣の冒険者達、少し止まってもらおうか!」
兵士長が目の前を歩く3人組を呼び止める。
手前に居たシスター風の女性は振り返ったのだが、明らかに自分が呼ばれたと当然分かってるであろう冒険者達は歩みを止めなかった。
仕方ないので走って目の前に回り込み、左手を突き出し止まるように意思表示をした。
「ちょっとそこの黒衣の冒険者、少し止まってもらおうか!」
同じ事を二度言うのはなんかかっこ悪いなと思いながらも、兵士長はと再び言う。
黒衣に包まれて目元しか見えない冒険者の方の表情は分からないが、隣の神官風の少女は分かりやすく疑問詞を出している。
「先ほど後方の青果店にて、暴行を働いたのはお前だな!」
兵士長がそう言うと、怒ったような顔をして少女の方が文句を言ってくる。
「暴行とはなんですの!。こちらは物を盗まれそうになったんですの!。あれくらいは当然の罰ですの!。神様だって、きっと許してくれますの!」
(…神様は基本非暴力なんですよ?)
後ろにいたナタリーが半目で、少女に無言の突っ込みを入れた。
横で反論している少女の方を向いた黒衣の冒険者は、拳を逆の掌に軽くぶつけ、パンという乾いた音が響く。
「どうする?。邪魔なら、こいつも黙らすか?」
「なっ!?…何だと、貴様っ!」
あり得ないレベルの物騒なことを言い出した冒険者に、兵士長の顔には明らかな怒りが見て取れた。
「ストーーーっプ、ストップです!。二人とも!!」
後ろにいたナタリーが急いで目の前の二人の背中を引っ張る。
少女はあっけなくこちらにバランスを崩して来たが、青年の方はまるでそこに生えているかのようにビクともしなかった。
「えっと…こちらは正当防衛なのですし、とりあえずこの方の話を聞きましょう、ね?」
ナタリーはこちらを振り向いた二人をとりあえずなだめる。
「確かにそうですの…とりあえずお話を伺いますわ。一体、何のご用ですの?」
少女も一応冷静になってくれたようで、ナタリーはとりあえず一安心した。
(…頭のおかしいやつらかと思ったが、あのシスターだけは常識人だったようで一安心だな。バモス一味の方は兵士を二人送っているので、まぁ大丈夫だろう)
兵士長は安堵して強張った表情を少しだけ緩め、それから威厳を持って正面の3人に指示をした。
「とりあえず城の方で話を聞く、私の後ろから大人しく着いてこい」
兵士長は城に向って体を回すと、後ろの3人組に手で合図する。
振り返る瞬間に見えた少女の顔がまた険しくなっていたが、横のシスターがなだめてくれてたみたいなので大丈夫だろう…多分。
黒衣の方はこちらが危害を加えないなら気にしないのか、何も言わずについてくる。
城に着き門番に状況を説明すると、少し待つよう言われる。
その後城内から駆け足でやってきた兵士が言うには、3人を謁見の間に連れてくるようとの指示らしい。
なぜこんなどこの馬の骨か分からない冒険者を、連れていくのか納得いかないが命令は命令である。
兵士長は言われるままに3人を謁見の間まで連れて行く。
一段高いところにある玉座、そこから後ろの大扉まで赤い絨毯が敷かれている。
その絨毯の両側には兵士がずらりと並び、万が一の時に備えている様にも見えた。
玉座には既に王と思われる男性が座っており、その横に大臣と思われる人物が立っていた。
玉座の前まで進み連れてきた3人に止まるように大臣が指示を出すと、シスターはその場で膝をつき頭を下げる。
シスターがなんか嫌な気配を感じて後ろを見ると、神官の少女と黒衣の冒険者は立ったままだった。
慌てて小声で二人に「頭を下げて!」と言っているが、二人は全く従う様子はない。
「王の御前だぞ!頭を下げよ!」
頭を下げない冒険者2人に、大臣は怒りで声を荒げる。
絨毯横の兵士達は、命令があればすぐにでも飛び掛かれるよう、既に臨戦態勢の空気を醸し出す。
だが目の前の少女と黒衣の方は一向に従わない…それどころか一歩前に出ると、少女は王へ口を開いた。
「わたくし達はなんで、こんなところまで連れてこられましたのっ!」
明らかに怒りのこもった口調だ。
「先ほどこちらの兵隊さんにも伝えましたように、わたくし達は盗人から物を取り返しただけですの。連行なんかされる謂れは全くありませんの!」
少女は動じない、むしろ堂々としてすら見える。
少女のあまりに予想外の態度に、大臣すら判断に迷っている様子だ。
それでもまだ少女の怒りは収まらない。
「なのに、何の説明もなく連れてこられて、偉い人が居るから頭を下げろとか、あなた達の礼儀はどうなってますのっ!」
語気荒く言い放つと、なんと少女は王をキッと睨みつけた。
「…よく言った、女。お前とシスターの身は必ず俺が守ろう」
横にいた冒険者が少女の前に出ると、胸の前で左手の平に右拳をぶつけると、パンっと軽く乾いた音がした。
(・・・これ、連れてきた俺が悪いとかって、ないよな?)
兵士長の額からツツーと流れてきた汗が、妙に冷たく感じたのは気のせいじゃなかったのかもしれない。
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