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旅立ち
その7
しおりを挟む「あなた達の礼儀はどうなってますの!!」
少女の言葉を玉座に座って聞いていた王は、おもむろに席を立ちあがる。
「…王、どうされました?」
大臣はおそるおそる尋ねるが、王からの返事はなかった。
大臣の横を抜け、段を下っていくと、王は少女の真正面に立つ。
そして少女に向って王は、深く頭を下げた。
「王、なにをなさってるんですかっ!!?」
大臣が慌てて王の横に走ってきた。
周りの兵士達もどうしたらいいか分からないまま戸惑っている。
「静まれ!。この少女の言う通りである。こちらの都合で無理やり連れてきているのだ。せめて礼儀で返すのは当然である!」
王は周囲を一喝すると、大臣も含めて、異議を唱えられるものは一人もいなかった。
はぁと一息吐いて、少女は仕方ないと言わんばかりに王に言う。
「ふぅ…わかりましたの。わたくしも子供ではありませんの」
横にいたシスターも王の横にいた大臣も、周囲の兵士さえも、何か言いたげに少女の方を一度見た。
(…なんで皆さんこちらを見てますの?)
集まる視線の先にいた少女は、軽く首を傾げた後、横に立つ国威の青年の方に顔を向けた。
「とりあえず、そちらの謝罪を受け入れますの。シェイドさん、礼儀には礼儀で返すものなんですのよ?」
少女はそう言うと膝を折り頭を下げると、横の冒険者も少女に従う。
そして顔をあげると、少女は王に言う。
「ところで要件は何ですの?。教会で子供達が夕食を待ってますの、なるべく早くお願いしますの」
どこまでも自分を曲げない少女であった。
王が玉座に戻り席に着くと、大臣に説明するように促す。
何が何やら分からなくなってた大臣だが王からの指示は指示、とりあえず状況を説明する。
「まず冒険者殿は、我が国で開催される闘技大会はご存じですか?」
少女は分かりやすく疑問詞を浮かべ、横の冒険者に尋ねているが首を横に振られる。
横にいたシスターが何か言いたそうだったが、王の前という事で言い出せないでいる。
「…知らないようなので説明させていただきます。明日の昼から城の広場にある闘技場を使い、我が国主催の闘技大会が開催されるのです」
分かってるのか怪しいが、とりあえず少女が頷いてくれているので話を進める。
「その闘技大会に、我が国の指定枠としてですね…」
ふと大臣は、少女の首にかけられた冒険者章に目が行く。
そこにあったものは明らかに木製…ランク1の冒険者章である。
まさかと思い横の冒険者の首を見ると…黒衣に隠れて分かり難いが、やはり木製の冒険者章を首から下げていた。
思わぬ状況に大臣は、慌てて王の方を見るが、王は右手を軽く上げ、進めよと指示をする。
「で、ですがランク1の冒険者を国の指定枠にするというのは、どうなのですか!?」
我慢できなくなった大臣は王に疑問を投げる。
なにか視線を感じて前を向くと、少女がこちらを睨んでいた。
今にも怒りの炎が再び吹き出しそうな感じである。
「いえ、決してあなた達に問題があるというわけではなくてですね…」
気圧された大臣は、遥かに年下の少女に言い淀んだ。
はぁ息を吐くと、王が後ろから言葉を繋いだ。
「大臣が失礼をした。だが、我が国を助けると思って、話を聞いてもらえないだろうか?」
少女は仕方ないといった感じで緊張を解くと、不機嫌そうな顔はそのままに大臣に向って話しかける。
「お話を続けてくださいですの。力になれるようでしたら考えますの」
そこから大臣は順を追って説明していく。
開催が明日の昼なので、今から探す暇がないということ。
ここ数回の大会、隣国指定枠の選手がずっと優勝しており、これを止めるために強い選手を探したということ。
そして青果店で倒した大男こそが、元々予定してあった指定枠の選手のバモスという者だったということ。
そのバモスの代わりに大会に出てほしいということ。
話を聞き終わった少女は隣の冒険者の方に目を向ける。
冒険者は少女に軽くうなずくと、手を上げて大臣に問う。
「これ、仮に負けると俺達に何かしらの罰則はあるのか?」
国の指定になるというのだ、当然の疑問である。
大臣としても想定していた質問なのか、間を置かずに答える。
「それはありません。国の指定という枠を背負って戦ってくだされば、それだけでいいです…」
ただ、と大臣は言葉を繋いだ。
「出来れば、少しでも多く勝っていただけると,国としての威信は保たれます…」
小さく頷き大臣の言葉を受け取ると、冒険者は再び問う。
「闘技大会というからには何かしらの賞品があるのだろう?。それはどうなる?」
え?と言わないばかりの顔で大臣は正面の冒険者を見る。
目元しか見えないので何とも言えないが、決して冗談で言ってるようには聞こえない。
(…ランク1の冒険者が、闘技大会で入賞する気でいる?)
大臣としては正直理解に苦しむところだが、これはバモスの時と変わらないのでそのまま告げる。
「賞品は普通に受け取っていただいて結構です。それと別に、依頼する以上国からも何かしらのお礼はさせていただきたいとは思ってます」
少し考えると冒険者は、大臣というか王というかに向って尋ねる。
「ちなみにそのお礼とやら、こちらからの希望も言ってもいいものなのか?」
その発言に、さすがの大臣も呆然と立ちすく半目気味に正面の冒険者達を見るしか出来なかった。
(…少女も少女ですけれど、さてはこの冒険者もかなりアレですね?)
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