テトテヲトッテ ~杖と拳と時々亜人~

更楽 茄子

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闘技大会

その8

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「なんかお土産も貰えましたし、子供達にはこれを渡せば大丈夫ですの」

少女は城から出る時に渡されたお菓子の袋を両手で持ち上げながら言う。

色々あったもののそこまでは遅くはならなかったので、急いで戻って夕食を準備すれば子供達もそこまでお腹を空かせることはない時間だった。



「ところでホントに大丈夫なんですか?」

ナタリーは横を歩く少女に尋ねる。

「…一体何が大丈夫、ですの?。貰ったお菓子はちゃんと持ってますのよ?」

(…いえ、大丈夫が掛かるのはそこじゃないんですよ?)

少女の答えに、ナタリーの目がちょっとだけ半目になった。


「そうじゃなくてですね。闘技大会って、強い人がたくさん参加するのですよね?」

少女は「あぁそっちですの」と言いながら、あまり気にはしてない様子で、

「シェイドさんはとても強いので、そこは心配してませんの。ただ…」

少女は青年の方を向き、青年の顔を見上げてそちらをを指さしながら言う。

「闘技大会なので、やり過ぎは絶対ダメなのですのよ?」

言われた青年は「そうだな」とぶっきらぼうに答えるだけだったが、少女は満足そうにこちらを振り返る。

(…二人ともが大丈夫と言うなら、とりあえず信じてみてもいいですかね?)

ナタリーはそう思いながら、二人を優しい目で見るのだった。



昨日のドタバタがウソのように、あっさり夜が明ける。

二人は朝早くこの宿舎の方へ毛布を返しに来て、訊くとそのまま城の方に向かうとの事だった。

ナタリーの見送った少女も青年もいつも通りという感じで、緊張などはしてない感じに見えた。

(…くれぐれも無事でいてください)

ナタリーは女神像の前、二人の無事を祈るのだった。



闘技場に着くと、既にたくさんの露店が開店の準備をしていた。

少女達は全く知らなかったが、この大会は観光資源に乏しいウィズ=ダムの国をあげた一大興業なのである。

半年に一度の周期で開催されており、ここ数回は同じ三国同盟の一国である『バース共和国』指定の選手が優勝をしている。

ウィズ=ダムとしては、主催国として優勝を取り戻すべく、強い選手を用意していたのだ。

ただその強いはずの選手は通りすがりの冒険者に倒されてしまい、急遽代理の選手に頼る羽目になったのだが。



「あ、トーナメント表が貼ってありますの」

参加者は全部で16人、第4試合の片方に『ウィズ=ダム指定枠』と書いてあるので、相方の青年の試合はそこらしい。

隣の第5試合の片方が『バース指定枠』と書いてあるので、そこが優勝候補の強い相手という事だろう。


他の枠には番号だけが振ってあり、事前に聞いていた説明によると、他は開始前に随時くじを引いて決めるということだった。

事前に襲い掛かったりする不正に対する対策なのだろう。


(…トーナメント表では隣ですが、ブロックは別なのですのね)

強い相手とすぐに当たるわけではないという事が分かり、少女は少しだけ安堵ている様だった。



「お、あんたらも出場者かい?。俺はルーク、後々世界一の剣士になる男だ!」

出場選手控室に着くと、16~18くらいの青年が話しかけてきた。

剣士というだけあって、腰には立派な剣を携えている。

『世界一』という言葉に反応した目つきの悪い男達が何人かが睨みつけてきたが、ルークは全く動じずさらに質問を続ける。


「…まさか二人とも出場者、ってわけじゃないよな?、あんた達」

尋ねられた二人のうち、少女の方が前に出てきて青年の質問に応じる。

「わたくしはマレット=リラシア、神官ですの。そしてこちらが出場者でもあるシェイドさんですの」

シェイドと呼ばれた隣にいた黒衣の青年は軽く頭を下げた。


ルークはシェイドと呼ばれた青年を見る。

全身黒衣で覆われており、目元くらいしか見えないので何とも言えないところだが、自分よりも痩せて見える体つきを見る限り、それほど筋力がありそうにも見えない。

(…ということは自分と同じ速さを活かすタイプの闘士だろうか?)

青年はさりげなく正面に立つ黒衣の青年の全身を見てみるが、見えている限りでは武器を携えてる感じはない。

ただ暗殺者《アサシン》みたいな格好だ、短剣などを隠し持ってる可能性は否定できない。


「ここはそうゆう場所だし答えたくないなら別にいいんだが、あんたの職業は何だい?」

別に聞いたからと言って何をするわけでもないのだが、興味本位でルークは青年に尋ねる。

青年は胸の前で右手の拳を握ると、「俺はこれだ」とだけ答えた。


(拳ってことは格闘家《モンク》か?)

武器使用が許されてる闘技大会で、武器を持たない格闘家《モンク》の不利は否めないし、出てもなかなか勝ちにくい。

動きを重視するために鎧もそれほど着込まないことも多く、相手の攻撃を捌ききれないまま倒されることも多い。

実際、自分も別の大会とはいえ何度も手合わせして倒しているので、格闘家《モンク》に対しての苦手意識はない。


「まぁお互い少しでも勝てるといいな、んじゃ」

それだけ言うと、ルークは自分たちの入ってきたドアから外へ出る。



控室を出たルークは通路に出てしばらく進み、貼ってあるトーナメント表の前に立つ。

そして第5戦の枠を見ながら、ぼそりと言葉を漏らした。

「…ま、本命はだけってとこかね」

 
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