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闘技大会
その9
しおりを挟む─────ざわざわ
少女が控室内を改めて見渡してみると、個性的な面々が集っていた。
2メートルを超えてる大男、魔獣の剥いだ皮をフードのようにかぶってる男、見たこともない巨大な武器を携えた男、顔に大きな鉤跡の傷を持つ初老くらいの男性。
二人はしばらく控室に居たものの、室内に満ちたお互い牽制をしあうような無言で険悪な雰囲気に、息苦しくなったのか少女はドアを開け外へ出て、青年もその後を追う。
「なんか息が詰まりそうでしたの。みなさん強そうでしたの」
少女は誰に話すでもなくぽつりと漏らすと、通路を歩く。
「魔獣の皮を着てた人もいましたわね?。あと、変な形の大きな武器とかも…」
少女は後ろを歩く青年の方を振り返る。
「ところで、ホントに大丈夫なんですの?。あの人達、強そうでしたのよ?」
ナタリーに自信満々で言っていた時と違って少し不安な表情だった。
実際の空気を味わって初めて襲われた不安だったのかもしれない。
「ま、あそこにいた程度なら何とかなるだろう」
それにと言葉を繋ぎながら親指を自分の顔に向けた。
「ま、お前の前にいるのはこのオレだからな」
青年がぶっきらぼうに答えると、少女はニッと笑った。
「シェイドさんがそう言うなら大丈夫ですのね。わたくし、精いっぱい応援しますの。頑張って下さいですの!」
追いついてきた青年の横に並び、とりあえず通路を当てもなく二人並んで歩く。
しばらく歩くと一人の剣士がトーナメント表の前に居た。
さっき控室で出会ったルークという少年だ。
「お、あんた達も来たのかい」
軽く手を上げて歓迎するルーク、これから対峙するかもしれないという緊張感は感じられない。
「色々名の知れたやつらが参加してるみたいだけど、やっぱ本命はこいつだよな」
第5試合の『バース指定枠』を指さしながら、ルークは二人に話しかける。
少女は「なにがですの?」と首をかしげ、横の青年に動きはない。
「いや、バースの指定枠はあの『ドルガ』っていうじゃないか。いくら何でも知ってるだろう?」
首をかしげ続ける少女と相変わらず動きのない青年である。
(…あれ?。ホントに知らない…のか?)
ルークはどうしたものかと考えている様に見えた。
「ドルガ=ドルガ、暴嵐や不死討伐者のドルガって言えば、結構有名なやつだぜ?」
とりあえず話が進まないので、二人が知らない前提で説明することにした。
一瞬青年の方が何かに反応した気がしたが、何が気になったのだろうか。
「あら?。テンペストとかって通り名ですよね?。それをこの人は2つも持ってるんですの?」
少女が疑問してきた様に、確かに通り名が2つもあるのは少し引っかかるのかもしれない。
「元々激しい猛攻で目の前の敵を飲み込む、そんな戦い方がまさに嵐ってことで、暴嵐って呼ばれてたんだ」
ルークは二人の方を向き、軽く質問を投げかける。
「数年前に南の方の村に、不死軍団が現れたって話、聞いたことないかい?」
「ああ…そういえば、そんなことがありましたの…」
少女がなぜか言葉の切れ悪く返してきた。
もしかしたらあの時に何かしら巻き込まれたのかもしれない。
(…悪いことをしたか?。まあ、何も言われてないのに、ここで話を止める方がおかしいか)
ルークは気付かなかったふりをして、話を続ける事にする。
「でだ、その時にやってきた不死軍団長のデッドマスターを倒したのがヤツって話だ。だから不死討伐者ってことだな」
『ルーク様!。闘技会参加者のルーク選手。第一試合1番に選出されました。至急闘場までお越しください』
突然、会場全体に音響魔法によるアナウンスが響く。
「おっと、早速俺の出番か。出来たらあんたと当たらないといいけどな」
二人に手を振るとルークは闘場に向って走り出した。
「そんなことになってたんですのね…知りませんでしたの」
少女は青年の方を振り向くが、見たところ青年の方は全く変わりはなく見える。
「…少し確認したいこともあるし、そのドルガってのに話聞かないとだな」
青年は先ほど少年が消えた闘場の方に体を向けると「置いていくぞ」と少女に声をかけると歩き出した。
「ちょ、ちょっと、待つですの」
少女はドタバタと青年の背中を追って駆け出した。
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