5 / 133
旅立ち
その5
しおりを挟む「あら?。あそこにいるのはシスターではありませんの?。ナタリーさんー?」
果物を選んでいたナタリーは後ろから名前を呼ばれて振り返る。
そこには昨日の夜に教会を訪れた少女の姿があった。
少女の背中の少し離れたところに黒衣の青年もいて、ゆっくりこちらへと歩いてきている。
「シスターは食事用の買い物ですの?」
少女はナタリーに疑問してきた。
横に置いてある鞄の中身が安い芋ばかりなので気恥ずかしのか、後ろ手で背後に隠している様に見える。
「えぇ、子供たちの分もありますし、結構な量を買うんですよ。今はおやつ用の果物を選んでます」
隣に来た少女にそう言いながら、店主に言ってリンゴを1カゴいただく。
代金を払い袋に詰めたリンゴを受け取るとナタリーは少女に声をかけてみた。
「今晩の宿は決まりましたか?。もしまだなら教会の方を使われてもかまいませんよ?」
掃除や草刈りのお礼…というわけではないが、駆け出しの冒険者はお金が当然ない。
宿代はそれなりにかかるものなので、多少寝辛くても教会での寝泊まりを求める冒険者もいる。
「ありがとうございます、シスター。でも…」
少女は後ろに来た青年の方に顔を向け、どうしようかと迷ってる感じであった。
「まぁいいんじゃないか?。代わりになにか手伝えることでもやればいいだろう?」
青年の言葉を受けて顔を明るくした少女は、こちらを向くとぺこりと頭を下げ言う。
「では、お世話になりますの」
そう言うとシスターの持っていたリンゴの袋を、少女が受け取る。
横を見ると、いつの間にか青年は、背に隠しておいたお芋の入った鞄を持ってくれていた。
二人のさりげないやさしさにシスターは「ありがとう」と言うと、一緒に教会への帰路につく事にした。
すると正面から2メートルはありそうな大男が数人引き連れてやって来る。
少女の持ったリンゴを見ると、横の果物店の店主に声をかけた。
「おう、俺にもリンゴをくれ」
ところが、さっきシスターに売った分で今日は売り切れだと店主が言うと、今度は少女の方を向く。
「嬢ちゃん、そのリンゴくれや?」
そう言いながら大男は、少女に顔を寄せてくる。
「これは教会で待ってる子供たちの分ですの。なので分けることは出来ませんの」
少女はおびえることもなく大男に告げると、言われた大男は少し不愉快そうな表情をした。
「いいからよこせって言ってるんだよ!」
大男はそう言うと、と少女から無理矢理リンゴの入った袋を奪い取った。
「ちょっと!それを返しますの!」
足元で少女がぴょんぴょん跳ねてるが、りんごの袋は大男の頭上まで持ち上げている袋に届くわけもない。
ニヤニヤしながら大男が袋からリンゴを一つ出して口に運ぼうとした瞬間だった。
「…ぐふっ!!?」
腹部に今まで味わったことのない衝撃が走り、そこで大男の意識は途切れた。
少女の後ろにいたはずの青年がいつの間にか横に来たと思うと、次の瞬間には彼の左拳は大男の腹部に刺さっていた。
あいた右手で大男が持っていたリンゴとリンゴの入った袋を取り返すと、右足で通路に向って蹴飛ばす。
突然飛んできた大男に、後ろでニヤニヤと笑っていたいた大男の取り巻き達は潰されて動けないでいる。
「教会に戻るんだろう?。いくぞ」
床に置いていた芋の入った鞄と先ほど取り返したリンゴの袋を両手に持ち、青年は何事もなかったように歩き出す。
「あ、シェイドさん、ちょっと待つですの!。ほら、シスター帰りますのよ?」
少女は慣れているのか驚きもせず、シナタリーの後ろに回り背中を押し、青年の後を追う。
ナタリーは何が起こったかよく理解しないまま、少女が背中を押すに任せて歩き出した。
「あの、さっきのは大丈夫だったんですか?」
ナタリーは心配そうに少女に声をかける。
「全然大丈夫ですの。シェイドさんはちゃんと手加減をして叩くので、命に別状はありませんの」
(…いや、私が心配しているのはそこじゃないんですよ?)
ナタリーは心配するが、当人達には全く響かないらしく、なんてことない雑談をしながら並んで歩いている。
「私の気にしすぎなんでしょうか…いい子達、なんですよね?」
ナタリーは小さく言葉を漏らし、自分で疑問するしかなかった。
少し歩くと正面から来た兵士風の男達3人とすれ違う。
大声を上げ指示をしているのがきっと隊長格なのであろう。
3人が気にも留めずに進んでいると、今度は後ろから野太い男性の声がした。
「ちょっとそこの黒衣の冒険者、少し止まってもらおうか!」
ナタリーが振り返るとそこには、さっきすれ違った隊長格の兵士がいた。
(…あれ?もしかして私、面倒に巻き込まれてませんか?)
シスターの額からは、ちょっとだけ冷たい汗がツツーっと流れていた。
30
あなたにおすすめの小説
(改定版)婚約破棄はいいですよ?ただ…貴方達に言いたいことがある方々がおられるみたいなので、それをしっかり聞いて下さいね?
水江 蓮
ファンタジー
「ここまでの悪事を働いたアリア・ウィンター公爵令嬢との婚約を破棄し、国外追放とする!!」
ここは裁判所。
今日は沢山の傍聴人が来てくださってます。
さて、罪状について私は全く関係しておりませんが折角なのでしっかり話し合いしましょう?
私はここに裁かれる為に来た訳ではないのです。
本当に裁かれるべき人達?
試してお待ちください…。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
この野菜は悪役令嬢がつくりました!
真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。
花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。
だけどレティシアの力には秘密があって……?
せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……!
レティシアの力を巡って動き出す陰謀……?
色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい!
毎日2〜3回更新予定
だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】初恋の彼が忘れられないまま王太子妃の最有力候補になっていた私は、今日もその彼に憎まれ嫌われています
Rohdea
恋愛
───私はかつてとっても大切で一生分とも思える恋をした。
その恋は、あの日……私のせいでボロボロに砕け壊れてしまったけれど。
だけど、あなたが私を憎みどんなに嫌っていても、それでも私はあなたの事が忘れられなかった──
公爵令嬢のエリーシャは、
この国の王太子、アラン殿下の婚約者となる未来の王太子妃の最有力候補と呼ばれていた。
エリーシャが婚約者候補の1人に選ばれてから、3年。
ようやく、ようやく殿下の婚約者……つまり未来の王太子妃が決定する時がやって来た。
(やっと、この日が……!)
待ちに待った発表の時!
あの日から長かった。でも、これで私は……やっと解放される。
憎まれ嫌われてしまったけれど、
これからは“彼”への想いを胸に秘めてひっそりと生きて行こう。
…………そう思っていたのに。
とある“冤罪”を着せられたせいで、
ひっそりどころか再び“彼”との関わりが増えていく事に──
魔法使いとして頑張りますわ!
まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。
そこからは家族ごっこの毎日。
私が継ぐはずだった伯爵家。
花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね?
これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。
2025年に改編しました。
いつも通り、ふんわり設定です。
ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m
Copyright©︎2020-まるねこ
婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです
藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。
家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。
その“褒賞”として押しつけられたのは――
魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。
けれど私は、絶望しなかった。
むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。
そして、予想外の出来事が起きる。
――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。
「君をひとりで行かせるわけがない」
そう言って微笑む勇者レオン。
村を守るため剣を抜く騎士。
魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。
物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。
彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。
気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き――
いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。
もう、誰にも振り回されない。
ここが私の新しい居場所。
そして、隣には――かつての仲間たちがいる。
捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。
これは、そんな私の第二の人生の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる