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男装麗嬢の麗しき日常
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「ーーアイザック・バート・ユグドラ様、アレクサンドラ・ローズワイス様、ご入場」
夜会が行われる大広間の両開き扉から、アレクサンドラはアイザックにエスコートされ会場へと入場した。
広間に響き渡った声に、少ないくない数の視線が2人へと注がれる。その視線を気にすることもなく、広間の奥、王と王妃の下へと真っ直ぐに歩いていった。
王でありアイザックの父であるアルバート、王妃であり母であるドロシーの前にて静かに礼をとる。
「楽にせよ、2人とも。アレクサンドラ、娘がワガママを言ったようだな」
「いえ、ワガママなど……」
「お前が近衛の仕事に誇りを持っていることは知っている。しかし、私も娘を持つ身なれば、ドレス姿を見たくなる公爵夫人の気持ちも分かる。たまには着てやれ」
「そうよ、アレクサンドラ。アリアったら、会うたびに貴女のドレス姿が見たいと言っていたのよ? ふふ、そのドレス、とっても良く似合っているわ。早く見せてあげてね」
「はい」
王だけでなく王妃にまで言われてしまえば、アレクサンドラもたまにはドレス姿も母に見せようと決めた。
そして、息子であるアイザックに目を向けたアルバートは、チラリとアレクサンドラのドレスを見て、また息子に戻す。
「アイザック」
「言わないでください、わかってますから」
言外に「お前の趣味か?」と尋ねられたアイザックが、若干赤くなりながら目を泳がすのを、呆れた目を向ける父。
周囲から向けられる視線には、普段は騎士服や男装をしているアレクサンドラがちゃんとドレスを着ている姿に珍しそうにしているものだけでなく、彼女の健康的な色香を醸す肢体のラインに、下心のある視線を向けている者も多い。
それを理解していないのか、気にしていないのか、おそらく前者であろう当の本人はいつも通り堂々とした佇まいである。
「どうかいたしましたか?」
「い、いや、なんでもない。大丈夫だ」
「? はい」
何が大丈夫なのだろう、と首を傾げるアレクサンドラ。
頰を赤く染める息子の姿に、若いなぁ、と微笑ましく見守る王と王妃。
そんな彼らの元へ、次の入場者を告げる声が届く。
「ベアトリス・ドール・ユグドラ様、ユージーン・ローズワイス様、ご入場」
再び会場の視線が広間の扉へ向かった。
普段通り、神樹ユグドラの緑と白を基調とした近衛騎士服を身に纏い、スッと伸ばされた背筋で堂々と入場するユージーン。
その彼にエスコートされ、アレクサンドラより神樹ユグドラに近い緑を基調とした、フワリと広がりのあるドレスと、本物の神樹の枝を髪に挿したベアトリス。
先に見たアレクサンドラを彷彿させる装いに少ない数の貴族が騒ついたが、それを気にする様子もなく、ベアトリスは歩み寄った己の騎士に微笑んだ。
「こんばんわ、お父様、お母様」
「失礼いたします、アルバート王、ドロシー王妃」
まず王と王妃に臣下の礼をとった2人に、笑顔で頷くアルバート。
「あぁ。お前はユージーンをエスコートに選んでいたのだな」
「えぇ。アレックスーーいえ、今日はサンドラと呼んだ方が良いかしら。彼女はお兄様についておりますから」
「ねぇ、ベアトリス。貴女のドレスとアレクサンドラのドレスって……」
「うふふ、良いでしょう? サンドラがドレスを着てくれるなんて、早々ないですもの。今日の自慢ですわ」
「恐縮です」
驚いたように目を見開いて、そして少し照れたような笑みを浮かべるアレクサンドラに楽しげなベアトリス。
容姿は似たところのない2人だが、身にまとったドレスはまるで姉妹のようだった。
夜会が行われる大広間の両開き扉から、アレクサンドラはアイザックにエスコートされ会場へと入場した。
広間に響き渡った声に、少ないくない数の視線が2人へと注がれる。その視線を気にすることもなく、広間の奥、王と王妃の下へと真っ直ぐに歩いていった。
王でありアイザックの父であるアルバート、王妃であり母であるドロシーの前にて静かに礼をとる。
「楽にせよ、2人とも。アレクサンドラ、娘がワガママを言ったようだな」
「いえ、ワガママなど……」
「お前が近衛の仕事に誇りを持っていることは知っている。しかし、私も娘を持つ身なれば、ドレス姿を見たくなる公爵夫人の気持ちも分かる。たまには着てやれ」
「そうよ、アレクサンドラ。アリアったら、会うたびに貴女のドレス姿が見たいと言っていたのよ? ふふ、そのドレス、とっても良く似合っているわ。早く見せてあげてね」
「はい」
王だけでなく王妃にまで言われてしまえば、アレクサンドラもたまにはドレス姿も母に見せようと決めた。
そして、息子であるアイザックに目を向けたアルバートは、チラリとアレクサンドラのドレスを見て、また息子に戻す。
「アイザック」
「言わないでください、わかってますから」
言外に「お前の趣味か?」と尋ねられたアイザックが、若干赤くなりながら目を泳がすのを、呆れた目を向ける父。
周囲から向けられる視線には、普段は騎士服や男装をしているアレクサンドラがちゃんとドレスを着ている姿に珍しそうにしているものだけでなく、彼女の健康的な色香を醸す肢体のラインに、下心のある視線を向けている者も多い。
それを理解していないのか、気にしていないのか、おそらく前者であろう当の本人はいつも通り堂々とした佇まいである。
「どうかいたしましたか?」
「い、いや、なんでもない。大丈夫だ」
「? はい」
何が大丈夫なのだろう、と首を傾げるアレクサンドラ。
頰を赤く染める息子の姿に、若いなぁ、と微笑ましく見守る王と王妃。
そんな彼らの元へ、次の入場者を告げる声が届く。
「ベアトリス・ドール・ユグドラ様、ユージーン・ローズワイス様、ご入場」
再び会場の視線が広間の扉へ向かった。
普段通り、神樹ユグドラの緑と白を基調とした近衛騎士服を身に纏い、スッと伸ばされた背筋で堂々と入場するユージーン。
その彼にエスコートされ、アレクサンドラより神樹ユグドラに近い緑を基調とした、フワリと広がりのあるドレスと、本物の神樹の枝を髪に挿したベアトリス。
先に見たアレクサンドラを彷彿させる装いに少ない数の貴族が騒ついたが、それを気にする様子もなく、ベアトリスは歩み寄った己の騎士に微笑んだ。
「こんばんわ、お父様、お母様」
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まず王と王妃に臣下の礼をとった2人に、笑顔で頷くアルバート。
「あぁ。お前はユージーンをエスコートに選んでいたのだな」
「えぇ。アレックスーーいえ、今日はサンドラと呼んだ方が良いかしら。彼女はお兄様についておりますから」
「ねぇ、ベアトリス。貴女のドレスとアレクサンドラのドレスって……」
「うふふ、良いでしょう? サンドラがドレスを着てくれるなんて、早々ないですもの。今日の自慢ですわ」
「恐縮です」
驚いたように目を見開いて、そして少し照れたような笑みを浮かべるアレクサンドラに楽しげなベアトリス。
容姿は似たところのない2人だが、身にまとったドレスはまるで姉妹のようだった。
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