【完結】聖クロノア学院恋愛譚 ―君のすべてを知った日から―

るみ乃。

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5 交差する想い

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「……ぷっ、アルファも大変なんだな」

 思わず笑ってしまう。

 レオンがベッドに転がり、大げさにため息をつく。その様子があまりに滑稽で、笑いが止まらなかった。

「アルファ、アルファって……みんなうるさいんだよ、ほんと」

 不機嫌そうにぼやくその声には、疲れた本音がにじんでいる。

 彼が転入してくると聞いた時、正直なところ警戒しかなかった。
 アルファが、わざわざこの学院に?
 共学化されたとはいえ、ここは元々ベータとオメガだけの場所だった。
 そんな中に、わざわざアルファが来る理由なんて──

 しかし、少しずつ会話を重ねるうちに気づいた。
 レオン・ヴァルフォードは、よくある“アルファらしい”傲慢さとは少し違っていた。

「なあ、なんでお前はこの学校に来たんだ?」

 自然と、ずっと気になっていたことを口に出してしまう。

「君みたいなアルファが来る場所じゃないだろ?
 共学化だって、アルファたちは総じて反対してたって聞いたし」

 レオンは何か言いかけて、言葉を飲み込んだ。
 その一瞬の沈黙には、わずかな躊躇が感じられる。

 ──やっぱり、簡単には話せない事情があるんだろう。

「……お前は?」

 逆に問い返され、今度は俺が目を伏せる番だった。

「ただ、普通に学びたかっただけだよ。
 アルファとかベータとか、オメガとか──そんな分類で人生決められるなんて、まっぴらだ」

 言いながら、苦笑がこぼれた。

「でもな、現実はそんなに甘くなかった」

 天井を見上げる。
 ここは“平等”を掲げた学院だ。
 だが、実際には“アルファ不在”を前提に成立していた理想だった。
 俺たちは、自分たちだけの世界で、都合のいい平等を信じ込もうとしていたんだ。

「──でも、お前が来て、それが崩れた」

 静かに、事実だけを伝えるように言った。

「……俺のせいってことか?」

 レオンの声が少しだけ低くなった。

「違う。お前が悪いわけじゃない。
 むしろ俺たちが“都合のいい理想”を押し付けてただけかもしれない」

 理想に縋るあまり、現実を見ようとしなかった。
 それに気づかせてくれたのは、皮肉にも“異物”と呼ばれた存在だった。

 レオンは黙って俺を見つめていた。
 そのまっすぐな視線に、なぜか胸の奥がざわつく。

 ──こいつ、本当に不思議なやつだ。

 最初は拒絶してばかりだったのに、今はもう、視線を外せなくなっている。

「でもさ」

 言葉が自然と漏れた。

「……お前、自分の意志でここを選んだんだろ?」

 その一言に、レオンの瞳がかすかに揺れたのがわかった。

 ──やっぱり。

 確認するように、彼を見つめると、レオンは視線を逸らすことなく、少しの沈黙の後、ぽつりと答えた。

「……ああ。俺が、自分で選んだ」

 その答えを聞いた瞬間、胸の奥がふっと軽くなった。

「そっか」

 たったそれだけ。
 けれど、その一言が、俺の中で何かを変えた気がした。

 レオンはまだ何かを抱えているようだった。
 けれど、きっと俺も同じだ。

 この距離感。この空気。この沈黙さえも──
 何かが少しずつ、確かに変わり始めている。

 俺はそっと目を閉じた。
 今だけは、少しだけ未来に希望を持ってもいい気がした。
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